毎日やりたい「ノーズワーク」の効果と自宅で行える簡単な方法とは
「ノーズワーク」はここ数年日本でも流行り始め、実際に愛犬とやったことがある方や、気になっている方も多いのではないでしょうか。このノーズワークは手軽にできることに加え、犬にとって様々な良い効果があると言われています。
そこで今回は、ノーズワークによって得られる効果や、ご自宅でのやり方などをご紹介します。
ノーズワークとは
ノーズワークとは、鼻を使って決められたニオイやおやつを見つける仕事や遊びのことです。優れた嗅覚を使ってターゲットとなるニオイを見つける探知犬や救助犬などをイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。
愛犬の鼻がスンスン鳴っているのを聞いたことがあるかと思いますが、これはニオイを嗅ぎ分けている時に聞こえる音であり鼻を使っているサインです。
犬は嗅覚が優れていますが、意外と普段の生活では嗅覚は使わずに視覚をメインに使っていることが多いようです。その点、ノーズワークは嗅覚をしっかりと使うことができ、多くの良い効果を犬にもたらしてくれます。
ノーズワークの効果
ノーズワークは年齢や犬種に関わらず多くの犬ができ、自宅で手軽に行うことが可能です。そして、身体的にも精神的にもメリットがあり、シニアの子にも毎日一回は取り入れていただきたいワークのひとつでもあります。
それでは、具体的な効果をご紹介していきます。
①体力の消費
鼻で吸ってニオイを探すという行動は人が想像するよりも疲れます。試しに鼻で吸って吐いてを高速で繰り返してみてください。結構大変な動きではないでしょうか。犬はこれに加えニオイを嗅ぎ分けるため、かなりの体力が消費がされるでしょう。
②食べムラの改善
ごはんを変えても食欲が安定しない子も、ノーズワークで自分で食べ物を見つけて食べる行動を繰り返すことで、食べ物を得られる喜びを感じ、食欲が安定する可能性もあります。
③興奮の抑制
興奮をしていた犬がノーズワークをすることで、興奮が抑制される効果があるとも言われています。そのため、フリーで過ごして興奮した状態のままいきなりハウスに入ってもらうよりも、ハウスに入る前にノーズワークをすることでハウス内でも落ち着きやすくなるかもしれません。
④精神的充足
「どこにおやつがあるかな」という期待感や、見つけたときには達成感や充実感を味わうことができます。同時に、おやつなどのターゲットを見つけられたという自信にもつながります。
また、本来犬は獲物を自分で探して食べていましたが、多くの飼われている犬たちは食事を不自由なく与えられています。そのため、自分でエサ(おやつ)を見つけて食べるという本来の行動に近い形で食事をとれることは、良い刺激になります。
⑤脳の活性化
犬の脳は、嗅覚処理に使われる部分の割合が人間の40倍とも言われるほど、多くの割合を占めています。そのため、嗅覚を使うことで、脳の大部分が活性化されます。
この点からも、ノーズワークはシニア犬にもぜひ日常的に取り入れていただきたいワークと言えるでしょう。
⑥愛犬の新たな一面の発見
ノーズワークという新たなゲームを一緒に行うことで、飼い主も気付けていなかった愛犬の行動や変化が見られることもあります。それによって愛犬への愛情がさらに増すきっかけや、愛犬への接し方や過ごし方が変わるかもしれません。
ノーズワークに挑戦しよう
ノーズワークは競技として行われているものもありますが、手軽に自宅でも行うことができます。競技となると細かいルールややり方がありますが、まずはおやつを探して見つけることを楽しむことからはじめてみましょう。
空き箱でノーズワーク
空き箱や段ボールを使ってノーズワークをすることができます。以下の順序でやってみてください。
- 空き箱または段ボールを2つ~3つ用意する
- 愛犬にハウスやクレートで待機してもらい、空き箱内のわかりやすい場所におやつを4つほど置く
- 愛犬をフリーにして「探して」の合図を出す
- 特に声掛けはせずに、愛犬がおやつを見つけるのを待つ
- 2〜3分経過しても見つけられそうにない時は、おやつの方に飼い主が歩いて近づく
- 全て見つけられたら優しく褒めておやつをあげ、5分ほど休憩する
この流れを2、3回繰り返したものを1セットとして、日常的に取り入れてあげるのがおすすめです。
ノーズワークの注意点
ノーズワークをより効果的に行うためにも、以下の注意点を守りながら挑戦してみてください。
①教えない
愛犬がすぐに見つけられないと、つい「ここ!」と言葉や指差しで教えたくなってしまうかもしれません。しかし、嗅覚を使っておやつを探すことがノーズワークの目的です。愛犬を信じて、見つけるのを待ちましょう。
なかなか見つけられない時は前述のように、飼い主がおやつのそばに行き少しヒントをあげましょう。
②やりすぎない
愛犬が楽しそうにやってくれると何回もやってあげたくなってしまいますが、想像よりも鼻を使うと体力も使います。2、3回でいったん終了し、もっとやらせてあげたい場合には数時間後ほど間をあけて再度挑戦させてあげましょう。
③難しくしすぎない
愛犬が順調におやつを探せると、どんどん難しくしてしまいがちですが、見つけられないほど難易度をあげてしまうとノーズワークにならず達成感などの効果も得られなくなってしまいます。
愛犬が見つけられそうなレベルを見極め、難易度高めの場所や、確実に見つけられる場所などランダムにおやつを置くようにしましょう
④ノーズワーク中は静観
ヒントを出す時以外は人は動かず、声掛けもしないようにしましょう。ノーズワークはニオイを頼りにするため、風の流れも影響します。人がむやみやたらに動くと風の流れが変わり、ニオイをたどりにくくなってしまいます。
また、褒め言葉も含め声掛けなども刺激となって邪魔をしてしまう可能性もあります。ノーズワーク中の声掛けは我慢し、静観がベストでしょう。ノーズワークが終わったら、褒めたりスキンシップを取ってあげましょう。
まとめ
ノーズワークの効果や自宅での実践法をご理解いただけたでしょうか。多くの効果があり、パピーからシニアの子までどんな犬にも日常的に取り入れてもらいたいものです。
ノーズワークはエンリッチメントの観点からも、自分で食べ物を探して見つけて食べるという野生本来の行動に近いものとなり、愛犬のストレス度合を軽減させる効果もあるはずです。
体重の増加が気になる場合は、通常あげているごはんの一部を使っても大丈夫ですので、積極的に楽しく愛犬と取り組んでみてください。
ペットでも実践したい!注目の環境エンリッチメントとは?
自宅のペットが、普段の生活でどれくらい野生に近い行動を出せているか意識したことはありますか。また、「本来ペットがもつ動物らしい行動」と言われたら、具体的にどのような行動が思いつくでしょうか。
人に飼育されている動物たちにも、野生本来の行動を取れる環境設定が必要であり、それによりペットたちのストレス度合いや生活の豊かさが変わると考えられています。この野生本来の行動が取れる環境設定をすることを「環境エンリッチメント」といいます。
今回はこの環境エンリッチメントについて詳しく見ていき、愛犬、愛猫にも実践できるものをご紹介します。
環境エンリッチメントとは
環境エンリッチメントとは、人の飼育下で暮らす動物に対し、動物の福祉と健康の両面で「動物の幸せな暮らし」を実現するために、本能的な活動性や多様な行動を引き出し、望ましくない異常行動を減らせるような飼育環境を整えることを指します。
ここでいう飼育環境とは、ケージや檻などの物理的な環境だけではなく、人や同種の他の個体との関わりといった社会的な環境も含みます。
ペットだけでなく、動物園や水族館などの飼育動物たちが暮らす環境や飼育方法に変化を加え、自然界に近い刺激や選択肢を用意します。そして、その動物らしい行動や心の在り方を引き出せるような環境設定を行うことが、暮らしを豊かにするために必要であるといわれています。
5つのエンリッチメント
環境エンリッチメントは5種類に分類されます。
①採食エンリッチメント
食べ物に関するエンリッチメントです。
野生動物は一日の多くを、餌を探し、取り、食べることに費やしていますが、ペットはその時間がなく不自由なく食事を与えられるため、退屈に過ごすことが多くなります。
そのため、エサの種類や与え方を変えることで、時間をかけて苦労して食べ物にありつくという野生に近い採食行動を再現します。
②社会的エンリッチメント
他の動物とのかかわりに関するエンリッチメントです。人や同種固体、他種の動物など、他の動物との関わりを通して刺激を得たり、社会性を再現します。
動物園や水族館などでは、群れを作って暮らす動物は群れで飼育し、オスとメスの数や年齢の構成も野生に近付けるといった工夫が望ましいとされます。
③認知エンリッチメント
知性を刺激するエンリッチメントです。知能の高い動物にとっては頭を使うこともエンリッチメントになります。
複雑な操作を行わないとエサが食べられない装置や、複雑な動きをするおもちゃ、遊具を与えることで、飼育動物が思考できる環境を作ります。
④感覚エンリッチメント
視覚、嗅覚、聴覚を含む感覚に刺激を与えるエンリッチメントです。動物の五感が刺激されるよう、匂い、音、見た目といった環境を変化させます。
動物園などでは、見晴台を作る、新しい動物の匂いをつける、他の群れの声を流すといった工夫がされています。
⑤空間エンリッチメント
飼育環境の構造や設置物、遊具や床材などに関するエンリッチメントです。潜る、齧るなどその動物の行動特性を再現します。
高い所で暮らす動物には登ることができる場所を、水を使う動物には水場を提供するなど、動物の行動特性に配慮した空間作りを行います。平面的な広さだけではなく、ロープやハンモックを取り付けるなどして、立体的に利用できる空間作りも重要です。
環境エンリッチメントの影響
環境エンリッチメントが不足することで見られる影響と、環境エンリッチメントが充実している場合の効果について見ていきます。
環境エンリッチメントの不足による影響
エンリッチメントが不足することで現れる異常は大きく3つあります。
- 繁殖障害:繁殖行動や子育てができないなど
- 発育障害: 脳が正常に発育しない、正常な体重増加が見られないなど
- 異常行動:意味もなく同じ行動を繰り返す常同行動、糞を食べたり尿をなめる、食べたごはんを吐いてまた食べるなど
環境エンリッチメントによる効果
様々な研究によって、環境エンリッチメントがもたらす効果は多く証明されています。具体的な事例を紹介します。
- 飼育下のニホンザルにおける群れ内での攻撃行動が軽減された
- 飼育下のトラの常同歩行の抑制に効果があり、探索行動や捕食行動など多様な行動が引き出された
- 飼い犬において、コルチゾールというストレスホルモンの減少や精神的にタフになるといった効果も報告されている
動物の種類は異なりますが、環境エンリッチメントが充実することで、精神的にも身体的にも良い変化が見られることがわかっています。
環境エンリッチメントの評価測定
評価測定には飼育下の動物の行動を調査し、野生での行動と比較する方法がよく用いられます。
その中でも、その動物が何種類の行動を取るか行動のレパートリーとその行動を取る時間を計測し、各行動レパートリーの時間配分を野生下で得られた知見と比較する方法が用いられることが多いようです。
愛犬の生活にも取り入れたい環境エンリッチメント
愛犬の生活でも取り入れられる環境エンリッチメントを紹介します。
採食エンリッチメント
- フードを知育玩具やノーズワークマットを使って与えることで、頭や嗅覚を使い時間をかけて食べる機会を与える
- 犬が見ているところでフードを数粒投げて、それを犬が追いかけることで獲物を追う感覚を与える
社会的エンリッチメント
- 留守番は極力短くして、飼い主さんとの身体的触れ合いを毎日欠かさず行うことで、他の個体と交わりたいという欲求を満たす
- おもちゃの持ってこいや引っ張りっこを通して、狩猟本能を刺激すると同時に人との関係性を構築する
- 他の犬と安全に交流できる機会も設け、他の犬と交わりたいという欲求を満たす(犬が苦手な場合は除く)
感覚エンリッチメント
- 部屋や庭など様々な場所にフードを隠し、嗅覚を刺激する機会を与える
- 怖がらない範囲で他の犬や動物の鳴き声などの音を聞かせる聴覚を刺激する機会を与える
- コンクリートの上だけでなく、芝生、土、緩やかな川など様々な場所を歩く機会を与える
空間エンリッチメント
- 広い場所で自由に走り回れる機会を与える
- ケージ内も犬が自由に歩けるスペースを確保する
- 登り降りができるような台などを用意する
- 安心して眠れるベッドやクレートを用意する
- 齧れるものを与える
愛猫の生活にも取り入れたい環境エンリッチメント
愛猫の生活でも取り入れられる環境エンリッチメントを紹介します。
採食エンリッチメント
- フードを棚の上やテーブルの下などに隠して探す楽しみを与える
- 簡単には食べられない容器にフードを入れて、どうやったらフードが出てくるかを考える機会を与える
- 猫が見ているところでフードを数粒投げて、それを猫が追いかけることで獲物を追う感覚を与える
社会的エンリッチメント
- 過剰な猫や犬との多頭飼いは避け、その子が一匹で落ち着いて過ごせる空間を確保する
- 小さなお子さんがいる場合、むやみやたらに猫を触ることは避け、猫にストレスがかかりすぎないように配慮する
空間エンリッチメント
- キャットタワーなどを用意し、高い場所から生活空間を見下ろせるようにして安心感を与える
- 隠れ場所を用意し、狭くて暗い場所が好きな猫が落ち着けるようにする
- 1匹でもトイレを2箇所以上設置し、きれいなトイレで排泄ができるようにする
- 爪とぎを用意する
ペットの生活にエンリッチメントを取り入れる際の注意点
エンリッチメントを行う際に、同じことを何度も繰り返して動物がその環境や物、状況に慣れてしまわないよう注意が必要です。慣れすぎず、毎回良い刺激が得られるよう、エンリッチメントの種類やレベルを適宜変えてあげましょう。
まとめ
環境エンリッチメントという言葉だけではわかりづらいですが、具体的に見ていくとご自身のペットでも実践できるものが多くあったかと思います。
うさぎやモモンガ、鳥などの小動物にも環境エンリッチメントはとても重要です。ペットのより豊かな暮らしのためにも、ぜひエンリッチメントを実践してみてください。