【獣医師監修】ペットの肝臓疾患に必要な食事管理について
心臓や腎臓と同様に、肝臓や胆嚢の疾患でも食事管理が必要であることをご存じでしょうか?
もしかしたら、肝胆疾患と食事管理が結びつかない方もいるかもしれません。しかし、肝臓の働きや、肝機能低下によって体に起こる事柄を理解することで、いかに食事管理が重要な役割を担うかが分かるでしょう。
今回は肝胆疾患における食事管理について、獣医師が詳しく解説していきます。
肝胆疾患における食事管理の必要性
肝臓は、タンパク質の代謝によって発生する毒素の分解や、糖の代謝/貯蔵などの様々な役割を担っている臓器です。
肝臓の病気によってこれらの機能が低下すると、以下のようなことが起こります。
- タンパク質の代謝によって産生される毒素(アンモニア)の蓄積
- タンパク質(アルブミン)の産生低下による腹水や胸水の貯留
- 血液凝固因子産生の低下による血液凝固障害
- ビリルビン処理能低下による黄疸の発現
ここで注目したいのは一番上の項目、「タンパク質の代謝によって発生する毒素が蓄積」されていくことです。
食事の材料によってはタンパク質が含まれ、何も考えずに食事を続けていると大変なことになると想像がつきます。
また多量のタンパク質の摂取によって、弱っている肝臓に無理な処理を強いることにもなります。
食事を変更することで、肝臓に優しい生活にしていくことが必要なのです。
肝胆疾患における食事に求められること
では実際に、肝胆疾患における食事に必要なこととは何でしょうか。
タンパク質への配慮はもちろんですが、他にも気を付けたいことがあります。
1.タンパク質の選択
毒素の産生を抑制するためにも、与えるするタンパク質は良質なものを選択します。良質なタンパク質とは、アミノ酸がバランスよく含まれているタンパク質のことで、肉や魚などの動物性植物と大豆が当てはまります。
犬や猫での報告はありませんが、ヒトではBCAA(分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン)の添加が推奨されています。
2.銅の制限
銅は体内に微量に存在し、必要不可欠な必須微量元素です。銅は普段の食事から少しずつ体内に取り込まれ、肝臓から胆汁を経て便として排泄されます。
通常は異常に銅が体内に蓄積されることはありませんが、肝機能不全によって胆汁の合成能が低下すると銅が過剰になり銅中毒が引き起こされます。
3.カルニチンの添加
カルニチンは肝臓で生合成されるアミノ酸で、脂肪燃焼に関与しています。またヒトでは、カルニチンがアンモニアの分解を促進することが報告されており、肝不全における高アンモニア血症の治療に使用されています。
各メーカーの肝胆疾患療法食
肝胆疾患は薬物療法のみでは管理しきれない側面があり、自宅での補助療法も重要です。そのため、療法食も各メーカーで様々な工夫が凝らされています。
ロイヤルカナンの肝臓サポート
高消化性の植物性タンパク質の配合、銅の制限、カルニチンの添加、高エネルギーなど肝不全に必要な栄養のバランスが調整されています。
また、肝臓を回復させる成分として亜鉛の含有量が調整されています。
ヒルズのl/d
肝不全に必要な栄養分の調整や制限はもちろん、ビタミンEやオメガ3脂肪酸などの抗酸化成分を配合しています。
さらにBCAA(分岐鎖アミノ酸)も配合されています。
自作する際の注意点
自宅での管理が必要な分、食事を自作される方も多くいます。
しかし、カロリーが低いものや脂肪が低いものなどを適当に混ぜても、それは肝胆疾患に最適な食事とは言えません。
必要な栄養素と食材
たくさん摂取すれば良いという訳ではありませんが、食べさせる食材を選ぶ時の参考にしてください。
- 良質なタンパク質:ササミ、赤身の肉、魚など
- カルニチン:赤身の肉(鹿>>牛=馬>豚>鶏)、魚
ここで優先したいのはカルニチンの含有量よりも、脂肪分の少なさや消化のしやすさです。
その意味ではカルニチン含有量が最も多い鹿肉を常食とするよりも、脂肪の少ない鶏肉を常食として選択した方がいいかもしれません。他にも野菜や炭水化物などをバランスよく与えましょう。
控えるべき食べ物
手作り食を作る上で注意したい食材は以下の通りです。
- 粗タンパク質:ジャーキーなどのオヤツなど
- 脂肪:肉の脂身など
- 銅:イカ、タコ、牡蠣、エビなどの魚介類
絶対に与えたらダメというわけではありませんが、ぜひ意識してみてください。
食事で肝胆疾患を予防できる?
高コレステロール血症や肥満、糖尿病が胆嚢疾患(胆嚢粘液嚢腫や胆石症)のリスクとなることが知られています。
健康な状態でも脂肪分などには注意しましょう。
肝不全と散歩
食事とは関係ありませんが、肝不全に陥ってしまったら積極的に散歩をしましょう。
筋肉はアンモニア代謝も行っているため、肝機能不全によってアンモニア代謝能が落ちている時には筋肉量を維持すると良いです。
ただし過度の運動は逆にアンモニアの生成を促進するため、注意が必要です。
何事も程々にしておくのが良いみたいですね。
まとめ
肝臓の異常はなかなか表に出ることがないため、気付くのが遅れてしまうこともよくあります。そのためにも普段から健康に気をつけた生活を心がけましょう。
健康診断で肝臓や胆嚢に異常が見られた場合は、この記事で紹介したような肝臓に配慮した食事に変更してみてはいかがでしょうか。
ペットフードに鹿肉が話題!低カロリー、高たんぱく、低脂肪の天然ミネラルがたっぷりスーパーフードの魅力をご紹介
ラグビーワールドカップや東京オリンピック/パラリンピックの開催でアスリート食が話題になった影響で、高たんぱくな赤身肉を好んで食べるようになったという方、結構いらっしゃるのではないでしょうか。実はこの赤身肉、祖先がオオカミの仲間だった犬にとっては大好物な食べ物でもあります。
そして、ペット用食材の赤身肉で近頃注目されているのが、鹿のお肉です。
鹿肉は低カロリーで、高たんぱくで、低脂肪で、さらに天然のミネラルも豊富なスーパーフード。もちろん、飼い主も食べられますので、愛犬と一緒に美味しくて栄養価の高い鹿肉料理を楽しんでみてはいかがでしょうか。とは言え、鹿という野生動物の特徴から、絶対に生食してはいけない等、注意しなければいけないこともあります。
今記事では、鹿肉の持つ特徴や鹿肉を食べるメリット、そして鹿肉を食べる際の注意点に至るまで、このスーパーフードについてご紹介します。
食のトレンドと鹿肉人気
インターペットの鹿肉販売ブース
ペットフードとしての鹿肉
ペットごはんのトレンド食材として注目されている鹿肉。ペットホテルではペットを預ける際に鹿肉を持ち込む飼い主も増えているそうです。また、今年のインターペット(国際見本市)では鹿肉の冷凍肉やジャーキーを販売するブースが目立ち、ペットフードのエリアを席捲しているようでした。
市販のペットフードでも鹿肉を使ったプレミアム商品を多く見かけるようになり、乾燥原料を加熱・加圧調理した従来タイプに加えて、外国製では非加熱のフリーズドライ商品も販売されています。
犬はたんぱく質を消化するのが得意
人間の食事ではグルテンフリー食材や糖質制限食が定着し、穀類を食べずに良質な動物性たんぱく質である赤身肉を多く食べようとする人が増えています。一方で、ほとんどのペットフードは穀物由来の炭水化物に頼ったままです。
オオカミの仲間を祖先に持つ犬は唾液に炭水化物分解酵素がなく、口の構造も炭水化物を咀嚼するようには出来ていません。切り裂いた食物を強力な胃酸で溶かすために腸は短く、炭水化物の消化吸収が苦手です。未消化の炭水化物は体内に蓄積されるため、肥満を招きやすく、糖分の過剰摂取は腸内の病原菌を繁殖させ、吸収されると血糖値を上げるだけではなく、全身に運ばれて慢性炎症の原因になりかねません。
本来はお肉を食べていた動物ですから、食材として鹿肉に興味を持つ飼い主が増えるのは犬にとってもうれしいですね。
鹿肉の優れた栄養価とは
鹿肉が赤いのは鉄分が多いため
鹿肉は低カロリー・高たんぱく低脂肪で天然ミネラルたっぷり
ペット食材としてのお肉では、少し前まで馬肉が低カロリーで高たんぱくなスーパーフードとして注目されていましたが、今のトレンドは鹿肉です。馬も鹿も足の速い草食動物なので、全身が筋肉質で、ともに低カロリー高たんぱくかつ低脂肪の赤身肉です。しかし、馬は人間に飼われる動物、鹿は野生動物という点で異なります。
なお、鹿は家畜ではありません。鹿は自然界に住んでいるので、家畜のように安定した均質なお肉にはなりませんが、遺伝子組み換えされた輸入穀物や化石エネルギーに無縁だという安心感もあります。
そして、鹿は野草や木の実、樹木の皮を主食としています。このため、天然ミネラルを豊富に含んでいる鹿肉は、サプリメントミートと呼ばれることもあります。
栄養学の観点から見る鹿肉
食材 | カロリー Kcal |
たんぱく質 g |
脂肪分 g |
鉄分 mg |
コレステロール mg |
---|---|---|---|---|---|
ニホンジカ 赤身肉生 |
120 | 22.6 | 2.5 | 3.9 | 52 |
エゾジカ 赤身肉生 |
147 | 22.6 | 5.2 | 3.4 | 59 |
牛肉 和牛肩ロース生 |
411 | 13.8 | 37.4 | 0.7 | 89 |
ブタ肉 肩ロース生 |
253 | 17.1 | 19.2 | 0.6 | 69 |
トリもも肉 成鶏肉生 |
253 | 17.3 | 19.1 | 0.9 | 90 |
トリささみ 成鶏肉生 |
109 | 23.9 | 0.8 | 0.3 | 66 |
100gあたりの食品成分(日本食品標準成分表2015年度版より引用)
この比較を見ても、鹿肉は鶏ささみに匹敵する高たんぱく、低脂肪のお肉だと言うことがわかります。牛肉と比較するとカロリーが3分の1程度、たんぱく質が1.6倍、脂肪分が15分の1、鉄分は5倍も多く含まれています。
非常に多く含まれる鉄分についてですが、一般的な鉄分は、大きく以下の2種類に分けられます。
- 動物由来に多いヘム鉄
- 植物由来に多い非ヘム鉄
鹿肉にはミオグロビンという筋肉中の色素たんぱくが多く含まれており、ミオグロビンにはヘム鉄が豊富です。なお、ヘム鉄の特徴は以下の通りです。
- ヘム鉄はたんぱく質と結合して安定しているので吸収されやすい
- ヘム鉄の体内吸収性は非ヘム鉄の5倍〜10倍程度、不要なものは便によって出てしまうので食べ過ぎても問題なし
他にも鹿肉には、毛づやを良くする亜鉛や、骨や歯を丈夫にする働きがあるリンなども多く、脂肪燃焼を促進するL‐カルニチン、中性脂肪や悪玉コレステロールを減少させるDHA、リノール酸、α‐リノレン酸なども含んでいるのでダイエットやアンチエイジングにも有効です。
日本に住む鹿肉の種類
大自然に育まれるニホンジカ
エゾジカとニホンジカ
日本の鹿には7つの地域亜種がありますが、食肉市場では体格の違いや食味の違いにより、本州以南に住む鹿をまとめてニホンジカと呼び、北海道に住む鹿をエゾジカと呼ぶのが一般的です。
エゾジカは他のニホンジカに比べて2倍から3倍の大きさがあり100kgを超す個体も珍しくありません。オスでは170kgにも達します。体が大きいため肉質がどうしても硬めで大味になり、流通市場では別物扱いされているようです。また、獣臭もエゾジカの方が強めなので、けもの臭さが好きなワンちゃんには好まれるかもしれません。しかし、ニオイのきつい肉は体臭にも影響する点に留意しておきましょう。
生息数と流通量
環境省の推計によれば2016年末時点でエゾジカが50万頭ほど、ニホンジカが270万頭ほど生息していると考えられています。
食肉市場ではエゾジカの方が多く流通しているように感じますが、これは北海道では昔から鹿肉の消費が盛んだったことが関係しているのかもしれません。このところエゾジカの流通量がだぶつき気味のようで、一部に値引きされた商品もみられます。お得感はありますが、あまりにも安すぎる場合は、廃棄前に在庫処分していることも考えられますから注意してください。
狩猟期間は決められている
日本では狩猟期間を11月15日~2月15日と定めており、この時期に捕獲された鹿が主に冷凍保存されて流通しています。
しかし、自治体によっては害獣駆除を目的に捕獲制限が一部解除されることがあり、数は限られますが一年を通して生肉も手に入るようになっています。そのため、ニホンジカの食肉加工施設では通年営業しているところが少なくありません。エゾジカは美味しくなるのが秋以降である上に道庁の条例による縛りもあるので、ほとんどが冬季の狩猟期間に集中捕獲されています。
鹿肉利用で注意すること
鹿の生肉は厳禁!
鹿は家畜ではないため、人間が野生の鹿が食べるものをコントロールすることはできません。めったにありませんが、鹿の体には寄生虫やE型肝炎を起こすウィルスなどが潜伏している可能性があり、人間が食べる鹿肉については厚生労働省が生食しないよう指導しています。
同様に、日本獣医学会でも犬に鹿肉を生食させることは厳禁という見解を出しています。調理する際は、お肉の中心温度75度で1分間加熱するのと同等以上の加熱が必要とされており、ペットごはんに鹿肉を使用する場合も必ず加熱してあげてください。
人間用とペット用の規制レベルの違い
このようなことから、鹿の内臓も人間の食用にしないよう指導されており、狩猟時に内臓が破裂して汚染された肉や、解体時の内臓摘出で内臓に異常があった肉は廃棄されます。しかし、ペット用にはこのようなガイドラインが存在しません。そのため、人間用には提供しない内臓をペット用として加工販売している食肉加工場もあります。
また、放射能基準についても、人間の口に入る鹿肉を出荷している地域では、公的機関に依頼して国の定めた放射能物質の基準値を厳格に守っていますが、ペット用は検査されていない場合もあるようです。
このような規制や基準値に関する話は別に鹿肉に限ったことではなく、ペットフードなどの製造過程や使用されている原材料についても同様のことが言えます。動物愛護法の改正もありましたが、同様に、このような食品の規制に関する見直しも必要とされていることは間違いありません。
鹿肉のような野生の食材を与える場合には、ペット用食品の規制が人間の食品に比べて緩いというのは、飼い主にとっては特に気になるところでしょう。そのため、販売元や製造元に原材料について確認する等、気になる点はきちんと問い合わせをするのが一番安心です。
おわりに
栄養たっぷりで話題の鹿肉は、人間の食用としてもその価値が見直されてきているところです。しかし、人間が食べるものとペットが食べるものとでは規制レベルが異なるのも事実です。これからは、ペット用食品の規制レベルもより高いものに見直されていくべきでしょう。
鹿肉を食べる場合は、できればペット用だけを目的として鹿肉を加工出荷しているお店ではなく、人間が食用にする鹿肉を加工、販売しているところから購入した方が少しは安心できるでしょう。また、製造元や販売元にきちんと問い合わせをし、不安な点を解消しておくことも飼い主として必要です。
大きなスポーツイベントが目白押しで、アスリート食が話題になることも増えました。健康な身体づくりに、飼い主の皆様も愛犬も、栄養面に優れた鹿肉を料理して一緒に楽しまれていかがでしょうか。