動物密輸大国の日本。映画『アウトブレイク』も他人事じゃない!

新型コロナウイルスが世界中に猛威を振るう今、1995年に制作された映画『アウトブレイク』を思い出した方も多いのではないでしょうか。

『アウトブレイク』は、密輸動物から感染症が蔓延したというフィクションですが、この話、現在の日本でも他人事ではありません。
その理由は、日本が「動物密輸大国」だから。

エキゾチックペットの人気沸騰に乗じて、特にアジア地域からの動物の密輸が後を絶ちません。空港等での検疫をすり抜けてしまう密輸動物は、人間に感染する感染症を持っている恐れがあり大変危険です。

今回は、動物の密輸がもたらす感染症の危険性について、映画『アウトブレイク』と、日本における動物の密輸の実態を通して考えていきましょう。

映画『アウトブレイク』が描いたもの

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『アウトブレイク』のあらすじ

『アウトブレイク』は、1995年にウォルフガング・ペーターゼン監督の元で制作されたアメリカ映画です。
物語は、米国陸軍伝染病医学研究所の研究チームが、アフリカの小さな村で、未知のウイルスによって村人たちが次々と命を落とす様子を目の当たりにするところから始まります。

その後、カリフォルニア州の町で同じ症状の感染症が発生。未知の感染症はエボラ出血熱に似たもので、致死率100%という凄まじい破壊力を持ち、瞬く間に町中を恐怖の渦に陥れました。

しかし、アフリカの感染者が移動をしなかったにも関わらず、なぜウイルスはアメリカで発生してしまったのでしょうか?
その引き金となったのは、アフリカから密輸された1匹のサルでした。

ウイルスの宿主だったサルは、営利目的でアフリカからこっそり連れ出され、検疫をすり抜けてアメリカ国内に持ち込まれたのです。

『アウトブレイク』の着想は、ノンフィクション

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映画『アウトブレイク』はフィクション映画ですが、その制作は、『ホット・ゾーン』(リチャード・プレストン著)というノンフィクション小説に着想を得ています。

『ホット・ゾーン』は、1989年にヴァージニア州レストンで実際に起きた、サルのエボラウイルス感染症事件を描いたものです。
フィリピンから輸入されたカニクイザルが、次々と出血熱を発症して死亡し、検査の結果、「レストン型」のエボラ出血熱であることがわかりました。

研究者など、サルと接触のあった人たちは死の恐怖に陥れられますが、このレストン型のエボラ・ウイルスはアフリカで人々を死に追いやってきたエボラ出血熱とは違い、幸い人間に対しては病原性がないことが分かりました。

しかし、これが仮に人間に対しても致死力のあるウイルスであったとしたら、大惨事になっていたことは間違いないでしょう。
他国からやってきた動物による病気の感染症拡大は、現実的にあり得る話なのです。

動物の輸出入に関するルール

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さて、『アウトブレイク』と『ホット・ゾーン』は、いずれもアメリカが舞台でしたが、これらの話は現実の日本でも決して他人事ではありません。

日本は「動物密輸大国」と言われています。

日本には次にご紹介するような、動物の輸出入に関するルールがあります。しかし、それらが確実に守られていない、つまり、「密輸」が横行しているために、海外の動物から感染症が広まるリスクが高まってしまうのです。

輸入禁止動物

日本では、感染症法によって次の7種の輸入が禁止されています。

輸入禁止動物 懸念される感染症
サル エボラ出血熱、マールブルグ病
プレーリードッグ ペスト
イタチアナグマ、タヌキ、ハクビシン 重症急性呼吸器症候群(SARS)
コウモリ ニパウイルス感染症、リッサウイルス感染症等
ヤワゲネズミ ラッサ熱

参照: 『感染症の予防及び動物検疫所 感染症の患者に対する医療に関する法律』の解説

ただし、試験研究用または展示用のサルは、特定地域からの輸入に限り、検疫を徹底することで輸入しても良いことになっています。

検疫対象動物

また、輸出入の際、動物検疫所で検疫を受けなければならない動物は、以下の5種です。

検疫対象動物 懸念される感染症
犬、猫、あらいぐま、きつね、スカンク 狂犬病

参照: 動物検疫所 狂犬病予防法の解説

その他の動物は?

これらの動物以外の全ての陸生哺乳類、鳥類についても、海外から日本に持ち込むことは原則禁止とされていますが、輸出国政府発行の衛生証明書を入手した上で、動物検疫所に届出をした場合、持ち込めることもあります。

もし、衛生証明書がない動物を届け出を行わずに持ち込めば、動物からウェストナイル熱、オウム病、鳥インフルエンザなどの感染症が広がる可能性があります

「動物密輸大国」日本

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野生生物の取引を調査・モニターするNGO「TRAFFIC(https://www.trafficj.org/)」によると、2007年〜2018年の間に、日本の税関では1,161匹が、海外の税関では少なくとも1,207匹のエキゾチックペットが、日本への密輸動物として押収されました。日本の税関で差し止められた動物のほとんどは、東南アジアや東アジアからの密輸動物でした。

押収された動物は実際の密輸動物のほんの一握りに過ぎず、市場に出回ってしまった動物はもっとたくさんいると見られています。

そして、税関で押収された動物の中には、先ほどご紹介したような、人間に感染の危険性がある病気を持ち得る動物も多く含まれています。

密輸される動物の多くは、不衛生で過密な環境下で保管、輸送、販売されているため、感染症を持っている動物が一個体でもいれば、一気に広まってしまいかねません。これらの動物が、もしも監視をすり抜けて市場に出回ってしまえば、人間への感染症を広げてしまう可能性は十分にあります

まとめ

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今回は、映画『アウトブレイク』と共に、「動物密輸大国」日本で密輸動物から感染症が持ち込まれるリスクを考えました。

『アウトブレイク』は、海外から密輸されたサルが引き金となって、出血熱が人間に瞬く間に広まってしまったというお話。この映画はフィクションでしたが、着想を得た『ホット・ゾーン』はノンフィクションですし、科学的にも、似たようなことは今後十分にあり得る話だと言えるでしょう。

特に、検疫をすり抜け、申告もされることのない密輸動物が多く取引されている日本では、『アウトブレイク』の話も決して他人事ではありません。

「お金を儲けたい」「珍しいペットが欲しい」という、個々の自分勝手な気持ちが、日本中に「アウトブレイク」を引き起こしてしまう可能性があるということを忘れてはいけません。

動物の密輸の危険性を改めて知るためにも、映画『アウトブレイク』を今一度観てみるのも良いかもしれませんね。

【要注意】海外からの「エキゾチックペット」が持つ感染症の危険性

世界中を脅威にさらしている新型コロナウイルスの発端は、中国・武漢市の野生動物取引市場と見られています。以前、流行したSARSコロナウイルスも野生動物からヒトに感染したとされており、野生動物とヒトとの関わりを真剣に見直す動きが世界で広がっています。

「日本には関係ないでしょ。」そう思ったみなさん、ちょっと待ってください。野生動物取引、特に東南アジア・東アジアからの「エキゾチックペット」の輸入について、日本はとても深刻な状況にあることをご存知でしょうか?

日本固有の生態系だけでなく、私たち人間の健康も、後を絶たないエキゾチックペットの取引によって脅威に晒されています。
今後、新たなパンデミックが日本から発生することのないように、エキゾチックペットの取引について今一度、一緒に考えてみましょう。

公衆衛生を守るために輸入規制されている動物

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輸入が禁止されている動物

日本にはそもそも輸入が禁止されている動物がいます。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)の第54条で、輸入が禁止されている動物は次の7種です。

輸入禁止動物 懸念される感染症
サル エボラ出血熱、マールブルグ病
プレーリードッグ ペスト
イタチアナグマ、タヌキ、ハクビシン 重症急性呼吸器症候群(SARS)
コウモリ ニパウイルス感染症、リッサウイルス感染症等
ヤワゲネズミ ラッサ熱

参照: 『感染症の予防及び動物検疫所 感染症の患者に対する医療に関する法律』の解説

なお、試験研究用または展示用のサルに関しては、特定地域からの輸入に限り、検疫を徹底することで輸入しても良いことになっています。

輸出入の際検疫が必要な動物

狂犬病予防法にて、輸出入の際、動物検疫所で検疫を受けなければならない動物は、以下の5種です。

検疫対象動物 懸念される感染症
犬、猫、あらいぐま、きつね、スカンク 狂犬病

参照: 動物検疫所 狂犬病予防法の解説

狂犬病は、かかれば致死率ほぼ100%という恐ろしい病気です。ワクチン接種などを義務付けたことで、今でこそ日本国内での狂犬病感染は数十年確認されていませんが、海外での感染は未だに起きています。

海外に行く機会のある方はもちろんのこと、日本でも、検疫をすり抜けて動物が密輸されることがあれば、狂犬病感染が再び国内で起きてしまう可能性もあるのです。

その他の動物は届け出が必要

上記にあげた動物以外の全ての陸生哺乳類、鳥類についても、基本的に海外から日本に持ち込むことは禁止されていますが、輸出国政府発行の衛生証明書を入手した上で、動物検疫所にて届出手続を行えば、持ち込めることもあります。

もし、衛生証明書がない動物を届け出を行わずに持ち込めば、動物からウェストナイル熱、オウム病、鳥インフルエンザなどの感染症が広がる可能性があります

参照: 厚生労働省 動物の輸入届出制度

密輸が後を絶たないエキゾチックペット

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フクロウ、カメ、トカゲ、カワウソなどの動物は、ペットとして近頃日本でも人気が高まっています。街中に「フクロウカフェ」や「爬虫類カフェ」も見かけるようになりました。

しかし、こうした所謂「エキゾチックペット」と呼ばれる動物たちへの人気の高まりと同時に、密猟や密輸が加速してしまっている現状にも目を向けなければなりません。

エキゾチックペットの密輸の実態

日本のペット市場では、ワシントン条約によって絶滅危惧種に指定され、輸入が規制されている動物が、残念ながら多く取引されています。

人気が高く、希少性も高いため、監視をすり抜ければ高値で取引できるからです。

野生生物の取引を調査・モニターするNGO「TRAFFIC」の調査では、2007年〜2018年の間に、日本の税関では1,161匹が、海外の税関では少なくとも1,207匹のエキゾチックペットが、日本への密輸動物として押収されました

また、日本の税関で差し止められた動物のほとんどが、東南アジアや東アジアからの密輸動物でした。

押収された動物は密輸動物のほんの一部であり、押収されずに市場に出回ってしまった動物はもっと多いと見られています。

密輸された動物が感染症を持っている可能性

税関で押収された動物の中には、先ほどご紹介した「感染症法」や「狂犬病予防法」で輸入が規制されている動物も多く含まれています

密輸される動物の多くは、不衛生で過密な環境下で保管、輸送、販売されているため、感染症を持っている動物が一個体でもいれば、一気に広まってしまいかねません。これらの動物が、もしも監視をすり抜けて市場に出回ってしまえば、ヒトへの感染症を広げてしまう可能性も十分にあります

密輸業者の「お金が欲しい」気持ちと、消費者の「珍しいペットが欲しい」気持ち。こうした自分勝手な行動が、新たなパンデミックを引き起こしてしまうかもしれないのです。

WWFから消費者のみなさんへ

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WWF(World Wildlife Fund)は、政府に規制の強化等の提言をしたり、ペット販売業者には販売個体の入手合法性証明の開示をすることを強く勧めています。

消費者のみなさんに対しては、エキゾチックペットが持ち得る感染症の危険性や日本の闇取引の実態をまずはしっかり認識をし、合法性、安全性をよく確認してから購入することを呼びかけています。

また、すでにエキゾチックペットを飼っている場合は、衛生な飼育環境を保つことを心がけ、絶対に自然界に捨てたりせず、最後までしっかり世話するように求めています。

参照: WWF ファクトシート「感染症パンデミックを防ぐために、緊急に見直すべき野生生物取引の規制と管理」

まとめ

WWF エキゾチックペット 感染症

今回は、エキゾチックペットが感染症を持ち込む危険性と、密輸が後を絶たない日本のエキゾチックペットの取引の実態をご紹介しました。

エキゾチックペットの人気が高まる中で、「うちでも飼ってみたい」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、危険性を十分認識した上で、合法性や安全性が確認できない場合は、自分や周囲の安全を考え、購入を控えるようにしてください。

輸入規制がまだまだ十分でない状況ですが、消費者ひとりひとりの意識で、感染症を持った動物が日本に持ち込まれるのを抑止していきたいですね。