準備はできてますか?春に忘れてはいけない犬の病気予防
春は何かと忙しくなる時期ですが、犬を飼っている方であればなおさらかもしれません。しかし、忙しいからと愛犬の病気予防を後回しにしてしまうのは良くありません。愛犬の健康のためにも病気予防は計画的に行いましょう。
今回は、この時期に忘れてはいけない狂犬病ワクチン、フィラリア症やノミ・ダニの予防について解説していきます。いろいろな方法を紹介していますので、ご自身や愛犬に合った方法を、ぜひ見つけて下さい。
狂犬病ワクチン接種
狂犬病ワクチンは飼い犬の所有者が毎年一回受けさせなければならないと、法律で定められています。多くの自治体では3月頃に狂犬病予防注射の案内ハガキが届き、集合会場の場所や日程などが記載されています。
対象は生後91日齢以上の全ての犬で、接種できる場所は次の2つがあります。
接種場所①集合会場
近隣の多くの犬が集まり、順番に接種していきます。
集合会場で接種するメリット
- 犬の登録や住所変更などが同時にできる
- 案内ハガキを紛失してしまった場合でも注射を受けられる
犬を飼い始めた時は自治体に犬の登録をしなければなりません。また、引っ越して住所を変更した場合も変更手続きをしなければなりませんが、こちらは忘れてしまう場合もあるでしょう。多くの自治体の接種会場で、こういった手続きを注射と同時に行えます。(犬の登録申請手数料は、注射とは別に3,000円程度かかります。)
集合会場で接種するデメリット
- 咬傷事故などのトラブル
- 多くの犬を見たり、鳴き声を聞いたりして、自分の犬が過度に興奮したり怯えたりすることがある
特に費用の支払いをしたり手続きをしたりしている間は、犬から注意がそれてしまいトラブルの元になる可能性があります。
他の犬と十分に間隔を空けて並ぶ、二人がかりで連れていき一人は犬のトラブルを防ぐことに専念するなど、他の犬と接触しないような対策を取りましょう。キャリーケースやドッグストリングを使った方が安全な場合もあります。
接種場所②動物病院
かかりつけの動物病院でも狂犬病ワクチンは接種可能です。
動物病院で接種するメリット
- 混合ワクチンの接種が終わっていない子犬の場合、獣医師と相談しながら進められる
- 持病や老齢で健康に不安がある場合、ワクチン接種が免除されることもある
- 集合会場の場合とは違い、日時の指定がない
子犬の場合は、「狂犬病ワクチン」とは別に、様々な病気を予防する「混合ワクチン」も短い期間で数回接種しなければなりません。(成犬になってからの混合ワクチンは年に一回です。)どちらを先に接種すればよいのか、ワクチンの間隔をどのくらいあけるのかなどは、かかりつけの獣医師に相談しながら進めていきましょう。
また、重度のアレルギーを持つ犬や重い病気を患っている犬、高齢のために体力や免疫力の低下が著しい場合などは、獣医師から「狂犬病予防注射猶予証明書」を発行してもらえる場合があり、狂犬病のワクチン接種を免除されます。健康に不安がある犬の場合は、動物病院で獣医師に相談した方が良いでしょう。
「狂犬病予防注射猶予証明書」の注意点として、一度発行されれば一生免除されるものではありません。毎年獣医師が健康状態を診察した上で発行しますので、忘れずに受診しましょう。また、ワクチン接種の免除を判断できるのは獣医師に限られています。自己判断でワクチンの接種をしていないと法律に反しますので絶対にやめましょう。
動物病院で接種するデメリット
- 狂犬病ワクチンの案内ハガキがない場合は接種できない
- 自治体が委託していない動物病院の場合、自ら届け出をする必要がある
自治体が委託している動物病院の場合、注射後にその場で狂犬病予防注射済票の交付が受けられます。この場合は市の窓口で手続きする必要はありません。狂犬病予防注射済票の交付手数料も、動物病院での支払いが可能です。
自治体が委託していない動物病院の場合は、獣医師から「狂犬病予防注射済証」が交付されます。この証明書と、自治体から送られてきた案内ハガキに加え、必要な手数料(1件550円)をあわせて、自治体の窓口に持参し、狂犬病予防注射済票の交付を受ける必要があります。
自治体によっては、ホームページに委託している動物病院が掲載されていることがありますが、記載がない所も多いため、動物病院に問い合わせした方が確実です。
フィラリア症、ノミ・ダニの予防
春はフィラリア症の元となる蚊が出始める季節であり、春から秋にかけてはノミやダニの活動が活発になります。愛犬の健康のためにはこれらを予防しなければなりません。フィラリア症やノミ・ダニの予防は次のような方法があります。
錠剤を飲ませる
食物アレルギーがある犬や、皮膚がデリケートな犬でも安心して使え、比較的安価というメリットがあります。一方で、味覚が鋭く薬を吐き出してしまう犬や、薬を飲ませるのが苦手な飼い主には難易度が高いかもしれません。
チュアブル錠を食べさせる
口の中で噛んでから飲み込む錠剤で、薬剤が練り込まれていますが、おやつのように嗜好性が高い薬です。喜んで食べてくれる犬が多くいます。ただし、食物アレルギーがある犬や食餌療法を行っている場合は注意が必要です。かかりつけの獣医師に相談しましょう。
滴下薬を塗布する
首の後ろあたりに駆虫成分が入った液体を塗布して使用するタイプの薬です。薬を飲むのが苦手な犬や食物アレルギーがある場合でも安心して使用できます。
デメリットは、臭いに敏感で神経質な犬の場合、塗られた場所を布などにこすりつけて成分を取ろうとします。また、多頭飼いでペット同士が舐め合うことがある環境では、薬を舐めると危険なため滴下薬は向いていません。
注射で予防する(フィラリア症のみ)
動物病院での皮下注射でもフィラリア予防ができます。効果が12ヶ月間続くものもあるので、薬の飲み忘れを防止できるのが最大のメリットです。ただし、注射する際の体重によって薬の量が決まるため、体重が大きく変化する成長期の犬に使うことはできません。
オールインワンタイプの飲み薬もある
フィラリア症とノミ・マダニの両方の予防効果を持つ薬もあります。それに加えて、体内寄生虫(回虫・小回虫・鉤虫・鞭虫など)をまとめて駆除できるオールインワンタイプの薬もあります。いろいろな予防が一度に行えて便利な半面、薬自体の値段は高くなります。
まとめ
春は寒暖差が大きく、飼い主の生活環境の変化も起きやすい季節のため、犬にとってはストレスが溜まりやすく、体調を崩しがちになることもあるでしょう。
また、ダブルコートの犬は大量の抜け毛に困らされたりと、犬にいろいろと手がかかる時期でもあります。
しかし、暖かくなり犬の散歩やお出かけが楽しくなる時期でもありますので、病気予防やお世話をしつつも、犬との暮らしを楽しんでいきましょう。
【寄生虫】犬糸状虫が引き起こす恐怖(フィラリア症)とその予防法
フィラリア症は、犬糸状虫が肺動脈や右心系に寄生することによって生じる、循環障害を主な症状とする疾患です。
現在は犬糸状虫に対する有効な予防薬があり、定期的な投薬によって確実な予防が可能ですが、それでもフィラリア症と診断される犬はゼロではありません。
本記事では犬におけるフィラリア症の症状や診断、治療、予防法を解説していきます。犬を飼っている人も、これから飼う人もぜひ最後まで読んでください。
犬糸状虫って何?
犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)は、乳白色の細長い寄生虫の一種で、蚊によって媒介されます。一般的には犬フィラリア症として知られる病気を引き起こします。
流行地では、予防処置をしないと70%が感染すると言われています。
日本ではヒトスジシマカやアカイエカなど、一般的によく見られる種類の蚊が媒介するため、日常生活の中で感染の機会が多いことも特徴です。
犬糸状虫の感染経路と生活環
犬糸状虫は蚊によって媒介され、犬の体内で成長と増殖を繰り返します。犬糸状虫の発育過程は以下の通りです。
- 蚊の吸血の際に皮膚に落下した幼虫(L3)は、吸血孔などから皮下に侵入する。
- その後、宿主の皮下、筋肉、脂肪組織などで約2ヵ月間発育し、第4期幼虫(L4)、第5期幼虫(L5)に発育する。
- 感染後3〜4ヵ月で心臓の右心室に移動し、感染6ヵ月後には完全な成熟虫になる。
- 成熟した犬糸状虫はミクロフィラリア(Mf)を産出する。
- ミクロフィラリアは全身の血流に乗り、蚊に吸血され、蚊の体内でL3に発育する。
蚊の体内で発育した幼虫(L3)は異なる犬の体内に侵入し、再び増殖を始めます。
犬糸状虫症の症状
犬が犬糸状虫に寄生されると、寄生部位、寄生数、宿主の肺動脈や肺の病変程度により、色々な症状を発症します。
①肺動脈寄生症
成虫が本来の寄生部位である肺動脈に寄生して起こる病態です。
軽症例では安静時に症状を示しませんが、運動しづらくなったり軽度の咳が見られたりします。進行すると、元気消失、食欲減退、貧血、呼吸困難、失神、腹水貯留などが現れます。
また、犬糸状虫の寄生によって肺動脈の内壁が硬くなることや、虫体の直接的な血流阻害により、肺高血圧が発生します。
②大静脈症候群
犬糸状虫成虫が肺動脈から心臓の右心房と右心室の間にある「三尖弁(さんせんべん)」というところの口部に移動し、三尖弁の機能を阻害するため、著しい循環不全と溶血性貧血を起こします。
症状は、衰弱、肺水腫による呼吸困難、貧血、血色素尿、黄疸などを突然発症し、ショック状態になります。これらの症状は急性の経過を取り、容態の急変を招きますので、できるだけ早く処置を行わないと命に関わります。
しかし、三尖弁口部に犬糸状虫が認められるにも関わらず、慢性の経過を取る場合もあり、軽度の元気消失、呼吸困難、腹水などを主な症状とする慢性例も見られます。
③奇異性塞栓症
生まれつき心臓の内腔を左右に隔てている壁に「短絡孔」と呼ばれる穴が空いている場合には、その短絡孔を犬糸状虫が通過して動脈に詰まることがあります。
塞栓を起こす部位は後肢が多く、起立不能、跛行(歩行に支障をきたす)、皮膚の温度低下などが見られます。
④糸球体腎炎
ミクロフィラリアや成虫の抗原に反応して形成された免疫複合体が腎臓の糸球体に沈着することで、糸球体腎炎が引き起こされます。
腎炎に起因する軽度の蛋白尿や多飲多尿が認められます。
⑤幼虫移行症
犬の体内を移行する犬糸状虫の幼虫が、臓器に迷入することによって起こる病態です。幼虫が脳や脊髄に迷入すると運動麻痺、痙攣、興奮、感覚障害が起こります。
また、眼に迷入すると角膜混濁や虹彩炎などが起こります。
⑥アレルギー性肺炎
多数のミクロフィラリアが何らかの理由で肺の毛細血管内で死滅すると、肺組織に好酸球が浸潤し、肺炎や肺水腫を併発して重度の呼吸困難を示します。
犬糸状虫症(犬フィラリア症)の診断
命に関わることもある犬糸状虫症の診断は、できるだけ迅速に行わなければなりません。体内にいる寄生虫をどのように検出するのか、見ていきましょう。
抗原検査
犬糸状虫の予防歴を聞き取り、循環器や呼吸器に症状が現れている場合には、まず抗原検査を行います。これは予防薬投与前にも行われますが、血液数滴で検査が可能です。
また、犬糸状虫の雌の子宮抗原を検出するため、雄のみの寄生や、体内のミクロフィラリアを検出することはできません。
血液検査
末梢血中のミクロフィラリアを検出できれば、それで診断が可能です。しかし、最近では雌雄の成熟した虫体が心臓に寄生しているのに、末梢血中にミクロフィラリアが検出されない「オカルト感染」が増えています。
また、ミクロフィラリアは蚊の活動時間である夜間に血液中に増えてくるという性質があるため、日中の検査では検出できないことも少なくありません。
画像検査
単純X線検査では、循環障害による右心系の拡大や、肺動脈の蛇行が見られます。
また超音波検査は病勢診断にも有効で、肺動脈や右心系への負荷の程度や、寄生する虫体の数から今後の治療方針を決定していきます。
犬糸状虫症(犬フィラリア症)の治療
心臓に寄生した犬糸状虫を除去することが根本的な治療となります。
薬剤による成虫の殺滅
ヒ素剤を投与することによって成虫を死滅させます。
この方法では、一度に大量の犬糸状虫成虫が死滅するため、その死骸によって肺動脈が塞栓するリスクが非常に高くなります。
日本ではヒ素剤の認可が出ていないため一般的ではありませんが、アメリカでは犬糸状虫治療のガイドラインに掲載されています。
ミクロフィラリア駆除
抗ミクロフィラリア薬や、ある種の抗菌薬の投与によって血液中のミクロフィラリアを駆虫します。
犬糸状虫成虫の寿命は5〜6年と言われていますが、その間新しい犬糸状虫の感染を防止しつつ、産生されるミクロフィラリアを殺していきます。
かなり長い期間の治療となりますが、犬への負担は少なくて済みます。
外科療法
頚静脈から長い鉗子を用いて肺動脈に寄生する虫体を摘出することもあります。
しかし、大量に寄生している場合などは摘出しきれないことも多くあります。また、心臓や腎臓の機能によっては麻酔のリスクが高いことにも注意が必要です。
対症療法
循環を改善する目的で、血管拡張薬や利尿薬を用いることもあります。
また、アレルギー性の発咳に対してはステロイドを使用することもあります。
犬糸状虫症(犬フィラリア症)の予防
蚊の発生時期における定期的な予防薬の投与が主流です。経口薬およびスポット剤は1ヵ月に1回、注射薬では6ヵ月~1年に1回の投与が必要です。
ヒトにおけるフィラリア症
余談ですが、少数ながら、ヒトの犬糸状虫症の報告もあります。
多くの場合は成虫まで発育することはありませんが、幼虫が肺、肝臓、眼、皮下や腹腔に寄生することで様々な害を及ぼします。なお、犬から直接感染するわけではありませんのでご安心ください。
まとめ
ノーベル賞を受賞された大村教授によるイベルメクチンの発見によって、犬糸状虫症は100%予防できる疾患となりました。
それにも関わらず、今でも犬糸状虫症の報告があるのは、動物医療従事者や飼い主が犬の健康を守る義務を怠っているということではないでしょうか。
犬糸状虫症の恐ろしさを改めて実感していただき、愛犬のためにも予防を徹底しましょう。