知っておきたい。ペットブームと売れ残った動物たちの行く末

皆さんはペットショップで子犬や子猫が売られているのを見て、ただ「可愛い」と思えるでしょうか。

確かに動物好きな人にとっては、犬や猫はとても可愛い存在ですが、「可愛い」の裏側には残酷な真実があるのも事実です。

今回は、人間が作り出したペットブームと、それに翻弄され、悲惨な運命を辿る動物たちがいることを、ご紹介していきます。

シベリアンハスキーの悲劇

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「ペットブームが来る度に、危機感を覚える」と、ある動物保護団体関係者は言います。その理由はブームで飼育頭数が増えることにより、捨てられる動物も増えるためです。

1990年前後、人気漫画の影響でシベリアンハスキーブームが起こりました。しかし、シベリアンハスキーは元来ソリ犬で非常に体力があるため、かなりの運動量が必要です。また、あまりトレーニング向けの犬種ではないため、しつけが難しいとされています。

運動不足のストレスや不十分なしつけにより、問題行動を起こす犬が増えていったことは想像に難くありません。

犬種の特徴を知らずに飼った人が飼育放棄し、当時の保健所には数多くのシベリアンハスキーがいたとも言われています。

ペット産業が危惧する猫ブーム

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2010年代、猫が駅長をしている姿が話題になり、空前の猫ブームが起こりました。2017年以降は猫の飼育頭数が犬を上回っています。

しかし、一部のペット産業は飼育頭数が猫の方が上回ったことに危機感を覚えているそうです。なぜなら「猫は犬よりお金にならない」からだと言われています。

一般社団法人「日本ペットフード協会」の2020年の調査によると、犬の飼い主が1ヶ月にかける費用は平均で約13,843円。それに対して、猫の飼い主が1ヶ月にかける費用は平均で約8,460円となっています。(どちらも一頭だけで飼っている場合。医療費を含む。)

また、ペットの入手先も犬の場合は「ペットショップ」が1位で50.9%に対し、猫の場合は「野良猫を拾った」が1位。「ペットショップ」での購入は3位で16.0%になります。

このような点から、猫ブームはペット産業が潤わない構造になっています。

参考:
令和2年 全国犬猫飼育実態調査|全国犬猫飼育実態調査|一般社団法人ペットフード協会

高齢者をターゲットに情報発信

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お金になる犬ブームを復活させたい一部のペット産業は、高齢者に向けて「犬を飼うことで健康寿命が伸びる」という情報を定期的に発信しています。確かに、犬を飼うことが高齢者の心身の健康に与える影響は大きいでしょう。

しかし、飼い主の高齢化による犬の飼育放棄という問題も一緒に考えられているのでしょうか。ある動物保護活動家は、犬猫の保護理由として「飼い主が高齢化し、飼えなくなった」が圧倒的に多いと言います。

売れ残ったペットたちはどこへ

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環境省が動物取扱業者に対象に行ったアンケート調査によると、ペットの売れ残り率は犬が4%、猫が7.1%とされています。売れ残った犬・猫の引き取り先として多いのは「生産業者(ブリーダー等)に譲渡・販売」、「動物業者(小売業者等)に譲渡・販売」で、全体の5割を超えています。

しかし、これらはアンケートの結果であって、実態調査ではありません。また、行き場のない犬・猫たちが業者間で何度も転用・転売され、最終的な行き先が不透明になっているという問題もあります。

参考:
動物愛護管理基本指針の点検(第4回)について

「引取り屋」という闇のビジネス

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「引取り屋」とはペットショップやブリーダーなどから金銭を受け取って、売れ残った動物たちの飼育をしていく業者です。実態としては劣悪な環境で、病気になってもケアされることもなく、生涯を終えるまで狭いゲージの中で動物たちは過ごします

ペットショップのように犬猫を販売する場合は「第一種動物取扱業(販売)」、ペットホテルのように金銭をもらって預かる場合は「第一種動物取扱業(保管)」の登録が必要ですが、引取り屋のように「単に動物を譲り受けるだけ」であれば、登録は必要がなく、法律の網の目をかいくぐることができ、行政が介入しづらいのが現状です。

参考:
「僕みたいな商売必要でしょう」ケージに糞尿が堆積、緑内障で眼球が突出…売れ残った犬猫を回収する“引き取り屋”の言い分 | 文春オンライン

多発した犬の大量遺棄事件

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2012年9月5日に公布された改正動物愛護管理法(2013年9月施行)では、自治体が業者から犬猫の引き取りを求められても、「相当の事由」がなければ拒否できると明文化されました。

しかし、その後の2014年~15年には犬の大量遺棄事件が頻発しています。
業者の中には「自治体に引き取りを拒否されたら捨てればいい」と考える人間もいるようです。また、不要な犬は安楽死させたり、庭に埋めたりする業者もいるとのこと。事件になったケースは氷山の一角といえるでしょう。

参考:
小型犬遺棄、全国で220匹 繁殖適さず不要に | 日本経済新聞

最後に

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動物を愛する人にとって、今回は辛い内容の記事だったかもしれません。ただ、こういった現実に対して私達が出来ることは、まず「知ること」なのではないでしょうか。

近年、ペットショップ側も「老犬ホームで終生飼育する」、「売れ残った動物の里親探しをする」、「大きくなった犬に基本的なトレーニングをし、販売する」など、売れ残った動物のために対策を取っている会社もあります。

そういった会社が出てきた理由には、人々がペット産業を知り、問題点を指摘し、動物愛護の世論を作ってきたことが、大きく貢献しているのではないでしょうか

国内ペット業界も少しずつ変わっている?CSRに着目して見てみよう

動物関連の業界は動物愛護の観点から批判を受けることが多く、ペット業界もその例外ではありません。読者のなかには「ペット業界は問題だらけ」と思われている方も多いでしょう。

特に生体販売を行うペットショップなどは、動物という生き物を取り扱う性質上、それは間違ってはいないのかもしれません。

しかし、中にはそうした世論を受け止めて、少しでもペット産業の改善に向けて考え方をシフトさせようと努力している企業もあります。

今回は、そのような企業にフォーカスして、ペット業界のあり方を変えていこうと行っている新しい取り組みを紹介します。

CSRとは

CSRとは企業の社会的責任

突然ですが、CSRという言葉を聞いたことはあるでしょうか?CSRは「Corporate Social Responsibility」の略称で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。

欧州委員会はCSRを、「社会への影響に対する企業の責任であり、株主、広くはその他ステークホルダーと社会の間で、共通価値の創造を最大化すること、企業の潜在的悪影響を特定、防止、軽減することを目的として、ステークホルダーとの密接な協働により、社会、環境、倫理、人権、そして消費者の懸念を企業活動と経営戦略の中核に統合していくこと」と定義しています。

なお、ステークホルダーとは、企業と利害関係を持つ者のことで、消費者、従業員、株主、地域社会などを指します。
簡単に言うと、「企業は利潤を追い求めるだけではなく、法律を遵守して、社会や環境にも配慮し、関係する人たちの利益も考えながら、長期的な視野で経営しましょう」という提言がCSRです。

繁殖引退犬を譲渡する取り組み

ペット産業のCSR事例、繁殖引退犬の譲渡を促進

一般社団法人ペットパーク協会は、全国14ヶ所でペットオークション会場を運営している業界団体です。

ペットオークションは悪評が多く、世間では良い印象を持たれていません。しかし、その一方で、ペットパーク協会はCSRの取り組みに力を入れている法人でもあります。特に、ペットパーク協会では、繁殖引退犬や販売に適さない犬を譲渡する活動に力を入れています。

ペットオークションのデメリット
日本ではペットショップに流通するペットの多くが、ペットオークションを経由していると言われています。ここで「競り」にかけられたペットは、ペットショップを経由して飼い主のもとに行くわけですが、このペットオークションという形態があることで、生産者の実態がわかりにくくなるというデメリットがあります。これにより、悪質なブリーダーであっても商売を行いやすい環境ができあがってしまったと批判の対象になっています。

動物愛護法では、犬の終生飼養が義務付けられていますが、ブリーダーが売れない幼犬や繁殖できない母犬を飼い続けることは大きな負担となり、飼育環境の悪化や赤字化を招きかねません。

ペットパーク協会は、ブリーダーにとって負担となるこの問題を動物愛護の観点から解決しようと、動物愛護団体や動物取扱業者と協力してペットシェルターを運営して、それらの犬を引き取り、譲渡を促すことにしました。これに、加えて、繁殖引退犬が譲渡されやすくなるように、母犬を繁殖に使用する年齢を6才までにするよう会員ブリーダーに呼びかけています。

マイクロチップ装着の普及促進

ペット産業のCSR事例、マイクロチップ無償装着活動

ペットショップを訪れたことがある方であれば、一度は目にしたことがあるかもしれないペッツファースト株式会社は、CSR推進に積極的な大手ペットショップチェーンです。実は、ペッツファーストでは、全国82店舗中の25店舗で保護犬譲渡専門ブースを設置しています。加えて、聴導犬育成プロジェクト、有料老犬ホーム運営、マイクロチップ無償装着の活動も行っています。

2019年6月12日に改正された動物愛護法では、犬・猫のマイクロチップ装着を動物取り扱い業者に義務付けることが新たに定められました。ペッツファーストでは法令に先駆けて、2006年3月から販売する全ての犬・猫にマイクロチップを装着しているばかりか、飼い主とペットが集まるイベントにも積極的に参加し、マイクロチップの普及活動を進めています。イベント会場でも、獣医師とともにマイクロチップの有効性を説明し、マイクロチップ装着を実演しています。

遺伝性疾患・感染性疾患への対策

ペット産業のCSR事例、ワクチン接種と遺伝子検査

先にも触れたとおり、多くのペットショップは仕入れの大部分をペットオークションに頼っていますが、ペットショップのペットプラスを運営する株式会社AHBは、トレーサビリティ向上のために、契約ブリーダーからしか販売する犬・猫を仕入れていません

契約ブリーダーのもとには年に一回AHBの獣医師が訪問し、繁殖犬に混合ワクチンと狂犬病ワクチンの接種を行っています。飼い主として考えると至って普通のことのように感じますが、悪質なブリーダーの場合はこれらは普通のことではありません。

それに加えて、犬ブルセラ病の予防とコントロールの方法を開発して、その普及にも努めています。また、遺伝性疾患については、基礎知識を普及するためにブリーディングシンポジウムを開催すると同時に、遺伝子検査も提供しています。こういった取り組みは既に欧米では当たり前のことですが、日本では進んでいる方だと考えられてしまうのが日本という国の動物に対する環境作りの遅れを感じさせます。

なお、感染症と遺伝病を予防し、販売できない幼犬の数を減らすことは、繁殖環境の改善にとどまらず、ブリーダー自身の経営とAHBの両方の経営にも良い影響を与えています。

社会化・しつけをしてから販売

ペット産業のCSR事例、販売前に社会化・しつけ

有限会社ハッピーベルは、千葉県を中心に14店舗を展開するペットショップチェーンで、2015年から社会化と基礎的なしつけを行ってから犬を販売する「ハッピードッグ」という取り組みをはじめています。

同じ月齢の犬を集団飼育することで犬同士での社会化を促し、訪れたお客さんからフードをもらうことで人との社会化も促しています。加えて、おすわり、あまがみ、無駄吠え、トイレのトレーニングをスタッフが行っており、その進捗状況はお客さんが見えるように掲示してあります。

犬の問題行動は社会化不足にその一因があるとも言われています。問題行動が原因で、飼い主が保健所に持ち込むケースもあるため、このような持ち込みを販売時点で予防できる画期的な取り組みと言えます。

まとめ

ペット産業のCSRに注目

今回は問題視されがちな生体販売に関わる企業の取り組みをご紹介しましたが、皆さんはどのように感じましたか?

確かに生体販売がなくなり、全てのペットを迎えたいと考える人が、保護犬や国によって認可されたブリーダーからしか購入できない世の中になったとしたら、現在抱えている問題のいくつかは解決するかもしれません。

現在の日本でも、そのような理想を目指して少しずつ前進してはいますが、実際にこれが達成されるまでには、ものすごく時間がかかるでしょう。しかし、その間も、悪徳な業者によって劣悪な環境にさらされてしまう動物たちが多く生まれています。

そして、こういった状況にあることを既に一部のペットオークションを行う団体やペットショップを運営する企業自らも問題視しており、少しでも改善するために前向きな取り組みも行っています。このような取り組みで全ての問題が解決するわけではありませんが、様々な立場にある人たちが知恵を出し合って、少しでもスピーディーに根本的な問題を解決するための方策が見つかることを期待しています。

私たちも、企業のこのような取り組みを知り、できるだけ悪質な業者が事業を行いにくくなる環境を作っていきたいですね。