日本固有の猫?対馬と西表島に生息する2種類のヤマネコをご紹介!
「野生の猫」と聞くと、どんな猫を想像しますか?ライオンやトラのようなネコ科の大型動物を思い浮かべるでしょうか。もしかしたら野良猫のことを想像する人もいるかもしれません。
日本においては、ライオンなどのネコ科の大型動物は野生に生息しておらず、ネコ科の動物といえば私達の身近にいるイエネコが主流です。しかし、日本でも限られた場所には野生の猫が存在しています。
そこで今回は、日本に生息する野生の猫ヤマネコについて解説していきます。
イエネコとヤマネコは違う生き物
イエネコもヤマネコも似たような見た目をしていますが、生物学的には異なる種として扱われます。これは、イエネコの祖先は砂漠に生息していたリビアヤマネコであるのに対し、ヤマネコはベンガルヤマネコなどを祖先にもつためです。
イエネコは人間の手によって本来の生息地から連れてこられた外来種であり、世界の「侵略的外来種ワースト100」にも選ばれています。一方で、日本にはツシマヤマネコとイリオモテヤマネコの2種類のヤマネコが生息していますが、これらは日本の在来種として扱われています。
また、性格にも違いがあり、イエネコは人に懐き、スキンシップを取ったり甘えたりすることもありますが、ヤマネコは警戒心が強く、人に懐くことはほとんどありません。
ツシマヤマネコとは
ツシマヤマネコは、長崎県北部に位置する対馬(つしま)のみに生息する日本固有のヤマネコです。島の住民からは「トラヤマ」などと呼ばれています。
ツシマヤマネコの歴史
ツシマヤマネコの記載があるもっとも古い文献は江戸時代に書かれたものだと考えられ、「山ねこ」と記されていました。明治の末頃には生息数も多く、毛皮の取引や食用にしていたという話も残っていますが、乱獲や外から連れてこられた猟犬の影響で徐々に個体数が減っていきました。
1971年に国の天然記念物に、1994年には種の保存法に基づき国内希少野生動植物種に指定されました。また、環境省のレッドリストでは、もっとも絶滅の危険性が高い「絶滅危惧ⅠA類」に指定されています。
ツシマヤマネコの特徴
体重は3〜5kg、体長は70〜80cm程度と、イエネコと同じくらいです。
耳の後ろの白い斑点が特徴で、胴長短足で、太くて長い尻尾をもちます。
性格は個体差がありますが、警戒心が強く、凶暴な一面もあります。基本的には日没から明け方にかけて活動しますが、ひと気のない場所であれば日中でも顔を見せることもあります。
ツシマヤマネコの現状
1960年代に行われた調査では、推定生息数が250〜300頭と報告されていましたが、生息に適した環境の減少や交通事故、感染症、犬による咬傷などで生息数が減少しており、環境省によると現在は100頭弱と推定されています。
ツシマヤマネコに会いに行こう!
飼育下繁殖の実施や飼育分散を目的に、いくつかの動物園でツシマヤマネコが飼育されています。時期によっては非公開になっている場合もありますので、事前によく調べてから行くようにしましょう。
- 那須どうぶつ王国(栃木県)
- 井の頭自然文化園(東京都武蔵野市)
- よこはま動物園ズーラシア(神奈川県横浜市)
- 富山市ファミリーパーク(富山県富山市)
- 東山動植物園(愛知県名古屋市)
- 京都市動物園(京都府京都市)
- 福岡市動物園(福岡県福岡市)
- 九十九島動植物園(長崎県佐世保市)
- 対馬野生生物保護センター(長崎県対馬市)
- ツシマヤマネコ野生順化ステーション(長崎県対馬市)
環境省ではツシマヤマネコの保護を目的に、飼育下による繁殖に取り組んでいます。
令和4年-5年ツシマヤマネコ飼育下繁殖計画の決定について
https://kyushu.env.go.jp/press_00018.html
イリオモテヤマネコとは
イリオモテヤマネコは、沖縄県の八重山列島に位置する西表島(いりおもてじま)のみに生息する日本固有のヤマネコです。
イリオモテヤマネコの歴史
西表島には以前から野生のネコがいることが知られていましたが、飼い猫が野生化したものだと考えられていました。野生のネコの噂を聞きつけた動物作家が他の研究者らと協力して調査した結果、1965年にイエネコとは異なる種であることが判明し、その発見は全国的に知られるようになりました。
1972年に国の天然記念物に、1977年には特別天然記念物に指定されました。また、ツシマヤマネコと同様に環境省のレッドリストにおいて、もっとも絶滅の危険性が高い「絶滅危惧ⅠA類」に指定されています。
イリオモテヤマネコの特徴
体重は3〜5kg、体長は50〜60cm程度です。ツシマヤマネコと同じく耳の後ろに白い斑点があり、胴長短足で、太くて長い尻尾をもちます。また、目の周りには白い模様があります。
イリオモテヤマネコは木登りが得意で、水の中に潜ってエサを捕ることもあります。また、西表島にはイリオモテヤマネコと競合するような肉食哺乳類が生息しておらず、居住エリアやエサなどの棲み分けが必要ないため、カエルや昆虫、カニなどさまざまな動物を捕食します。
イリオモテヤマネコの現状
1974年以降、10年おきを目処に生息数の調査が行われており、現在は100頭ほどが生息していると推測されています。生息数は減少傾向にあり、その要因としては、交通事故の増加や好適な生息環境の減少などが考えられます。そのため、西表野生生物保護センターのホームページでは、運転注意マップや連続無事故日数を掲示して注意喚起を行っています。
さらに、西表島は2021年に世界自然遺産に登録されました。観光客の増加も見込まれるため、どのように自然を守りつつ産業を発展させていくのかが課題となっています。
会いに行ける動物園
ツシマヤマネコとは異なり、イリオモテヤマネコの生態を展示している動物園はありません。西表島でも生体を展示している施設はなく、「運が良ければ道端で出会える可能性がある」程度です。
まとめ
日本固有の野生猫であるツシマヤマネコとイリオモテヤマネコは、絶滅の危機に直面しています。
私たちの普段の生活にとってはあまり影響がないと考えるかもしれませんが、種の絶滅により他のたくさんの生態系に影響を与えることは間違いありません。
まずは、絶滅しかけている動物が身近にいること、それらを必死で守っている人たちがいることを知り、広めていくことから始めてみてはいかがでしょうか。
サメも狩る!?野生の猫「ボブキャット」をご紹介
皆さんは、野生のオオヤマネコの一種である「ボブキャット」をご存知ですか?
極寒の地から砂漠地帯まで、様々なところに生息するボブキャットですが、ネズミなどの小動物の他にも、大きな動物や魚を狩ることもあります。2015年には、サメをくわえたボブキャットの写真が話題になりました。
今回の記事では、そんなボブキャットについて、特徴や生息地、日本で見られる動物園などをご紹介します。
ボブキャットの基本情報
引用:YouTube
“Bobcat Hunting in Winter | Planet Earth II | BBC Earth” by BBC Earth
https://youtu.be/z7TQSCkY6y4
「ボブキャット」は学名ではない
ボブキャットは、学名では「Lynx rufus(リンクス・ルフス)」と呼ばれます。
「Lynx」は「オオヤマネコ」という意味で、「rufus」はラテン語で「短い尻尾」という意味があります。
この短い尻尾のことを「ボブテイル」と呼ぶため、「bobcat(ボブキャット)」と呼ばれるようになりました。
さらに、英語名では「Red lynx」と呼ばれることもあり、このことから日本語でも「アカオオヤマネコ」と呼ぶこともあります。
ボブキャットの分類
ボブキャットは、ネコ科オオヤマネコ属の中型獣に分類されます。
同じ分類には、「スペインオオヤマネコ」「カナダオオヤマネコ」などがいます。
ペットの猫からしたら体つきが立派なボブキャットですが、オオヤマネコ属の中では体のサイズが小さめで、赤ちゃんの頃のボブキャットはイエネコとほとんど見分けがつきません。
生息地
ボブキャットは、カナダ南部からアメリカ、メキシコの北東部まで幅広く分布しています。
様々な環境に適応でき、森林や草原だけでなく、湿り気のある沼沢地から乾燥している半砂漠地帯まで、色々なところに生息しています。
狩りの習性
ボブキャットは、昼間は木の上で休み、夕方になると狩りを始めます。
ただし、秋から冬にかけての寒い季節には獲物が日中に活動するため、それに合わせてボブキャットも昼間に行動します。
ボブキャットのエサは住んでいる環境や季節によっても異なりますが、ネズミやウサギなどの哺乳類や、カモなどの鳥、鳥の卵などを食べます。
一般的に、猫は水が苦手な動物として知られていますが、ボブキャットは水辺で魚などを狩ることもあります。さらに、自分よりも体の大きな鹿や羊などを捕まえることもあり、幅広く狩りができる動物として知られています。
2015年には、フロリダ州の海辺で、サメをくわえたボブキャットの写真が撮影され、話題を呼びました。
引用:YouTube
“Bobcat on beach with shark” by WPTV News – FL Palm Beaches and Treasure Coast
https://youtu.be/VTGRx-_AptI
ボブキャットの身体的特徴
引用:YouTube
“Cat vs. Bobcat” by Joern Rohde
https://youtu.be/zsRrnZ4hYSw
大きさ
ボブキャットはオオヤマネコ属の中では小さめとはいえ、やはりイエネコよりは大きく、体長は約65〜105cm、体重は6〜15kg程度です。
「ボブキャット」という名前の由来にもなった短い尻尾(ボブテイル)は11〜20cmほどですから、体の大きさの割にやはり短いことが分かります。
被毛の色
また、「アカオオヤマネコ」とも呼ばれるように、被毛の色は赤みがかったグレーや茶色の褐色で、黒色の斑点模様が全身に入っています。さらに、季節や生息地によっても毛色が変わるのもボブキャットの特徴です。
模様や飾り毛
耳の先端には黒い飾り毛が生えていて、トラなどのネコ科の動物の耳の裏に特徴的に見られる「虎耳状斑(こじじょうはん)」と呼ばれる白い斑点があります。これは、同じネコ科でもイエネコには見られません。
また、頰から顎にかけて長くてふさふさの毛が生えているのも、オオヤマネコ特有の特徴です。
ボブキャットは飼える?
昔は条件を満たせば飼えないことはなかった
数年前までは、各都道府県の飼育許可を得れば、日本でもボブキャットを飼育することは不可能ではありませんでした。
ただし、大型のヘビなどと同様に、猛獣に分類されるボブキャットを飼育するには、脱走を防ぐ頑丈な飼育環境を整えなければなりませんし、餌代もかなりかかるので、飼うのは決して容易ではなかったでしょう。
改正動物愛護法で飼育禁止に
令和2年6月に動物愛護法の改正案が成立すると、一般の家庭でペットとしてボブキャットを飼うことはできなくなりました。
違反すると、6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金が課せられます。
神戸でボブキャットに会える!
日本でボブキャットに会えるのは、兵庫県神戸市の「王子動物園」のみです。
2014年にアメリカ・ミネソタ州で生まれたメスの「ソラ」を見ることができます。気になる方はぜひ行ってみてくださいね。
ボブキャットのソラ
かわいいお顔を見せてくれましたよ☺️「姿が見えないな」と思ったら放飼場の奥のほうにいることもありますので、探してみてくださいね。#ボブキャット#神戸市 #王子動物園 pic.twitter.com/2sanMbLZpM
— 神戸市立王子動物園(公式) (@kobeojizoo) August 10, 2020
まとめ
ボブキャットは、オオヤマネコの中では小柄な方ですが、それでもイエネコに比べれば大きく、時にはサメを狩ることもある凶暴な猫です。
日本で飼育することはできませんが、神戸市内の動物園で見ることができます。
興味のある方は、イエネコと一味違う野生の猫を見に行ってみてはいかがでしょうか。