【獣医師監修】消化器疾患だけじゃない!猫の下痢で考えられる病気
猫と一緒に生活をする上で、毎日顔を合わせなければならないのが排泄物です。言葉を話せない猫において便や尿は、その子の健康状態をありのままに写す貴重なデータです。
もし、いつもより愛猫の便が柔らかい、あるいはもうほとんど形を有していないとしたら、あなたはどうしますか。もちろん、それは一時的な下痢かもしれません。しかし、そこには放置してはならない病気が隠れているかもしれないと、常に考えなくてはなりません。
今回は猫の下痢で考えられる疾患について解説します。
消化器などの内臓疾患
下痢という症状について、まず考えられるのは消化器など内臓の異常です。わかりやすいのは腸炎でしょうか。
では、その下痢は腸に原因があるのか、それとも他の箇所に原因があって結果的に腸に影響が出ているのかは見た目ではわかりません。そこはしっかりと検査を行う必要があります。
まずは代表的な疾患をいくつか紹介します。
炎症性腸疾患(IBD)
【症状】
3週間以上続くような慢性的な嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失など。低タンパク血症による腹水貯留が見られることもある。
【原因】
遺伝的素因、感染症、食物などによるアレルギー、腸内細菌の乱れ、免疫異常などが複合的に関与していると考えられるが、はっきりとした原因は不明。
【備考】
他の下痢を起こす疾患を鑑別・除外しながら、確定診断は内視鏡下での組織生検が必要となる。しかしこれには全身麻酔が必須であり、猫の状態などを慎重に見極める必要がある。
リンパ腫
【症状】
猫で多いとされる消化器型リンパ腫では嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失が見られる。他には発生部位によって症状は様々で、縦隔型では胸水貯留、鼻腔ではくしゃみ、鼻汁、鼻出血、顔面の変形、腎臓では多飲多尿や血尿、中枢神経では発作が認められる。
【原因】
直接的な原因は不明だが、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)の感染や受動喫煙、慢性炎症の関与が示されている。
【備考】
FeLV陽性猫では若齢(3歳齢前後)、FeLV陰性猫では高齢(13歳齢以上)でのリンパ腫の発生が多いとされている。
肝リピドーシス
【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、黄疸、脱水など。
【原因】
太った猫において、他疾患などによる食欲不振から体内で蛋白質の不足が起こり、その結果、脂質代謝異常で肝臓に脂肪が蓄積するケースが多い。他にも栄養障害、ホルモン異常、ストレスが関わっているとされている。
【備考】
適切な体重管理によって猫を肥満にさせないことが、肝リピドーシスの発生予防に繋がるかもしれない。
胆管肝炎
【症状】
嘔吐、下痢、発熱、脱水、腹痛、黄疸など。
【原因】
消化管からの細菌の逆行(化膿性胆管肝炎)、炎症性腸疾患や膵炎などの関連(非化膿性胆管肝炎)による。
【備考】
胆管肝炎は猫の慢性肝疾患では最も多く見られる。化膿性か非化膿性かで治療方針も異なるので鑑別は重要。
内分泌疾患
猫では内分泌系の疾患も比較的よく見られます。内分泌系とは、ホルモンを分泌する器官のことで、全身状態の維持に大きく関与しています。
何らかの原因でこの内分泌系に異常が起こると、下痢を始めとする様々な症状が現れます。
甲状腺機能亢進症
【症状】
嘔吐、下痢、食欲増加、体重減少、攻撃性増加、多飲多尿、脱毛など。
【原因】
頚部にある甲状腺の過形成や腫瘍によって、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることによって引き起こされる。
【備考】
シニア期(7歳齢以上)では、半年に一度くらいは健康診断として血液検査で甲状腺ホルモンを測定することが早期発見に繋がる。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、嘔吐、下痢、脱水、便秘、低体温、体重減少など。皮膚感染症、膀胱炎といった感染症や白内障を引き起こすこともある。
【原因】
猫は蛋白質からグルコースを産生する代謝系が活発で、容易に血糖値が上昇する。インスリン分泌も低く、肥満、ストレス、感染症などの血糖値を下げられない因子が関わると糖尿病状態になりやすい。
【備考】
雄は雌の1.5倍発症しやすい。過体重、老齢、膵炎、腫瘍、感染症も危険因子となる。
感染症
屋外に出ることのある猫は、他の猫から病原体をもらうこともあります。
以下の感染症は、日本でも注意するべきものです。中にはワクチンで予防できるものもあるので、生活環境によっては接種を検討してもいいかもしれません。
猫汎白血球減少症
【症状】
軽症例では軽度発熱、食欲不振。重症例では40℃以上の高熱、食欲廃絶、嘔吐、下痢。子猫での発症が多い。
【原因】
猫パルボウイルスの感染による。
【備考】
定期的なワクチンの接種によって予防する。アメリカのガイドラインでは3年に1回が推奨されている。
猫免疫不全ウイルス感染症
【症状】
感染後の時期によって症状は異なる。急性期では発熱、貧血、下痢など。その後症状がない時期が数カ月~数年続き、徐々に口内炎、歯肉炎、上部気道炎、皮膚症状、重度削痩、腫瘍(特にリンパ腫)、日和見感染などが現れる。
【原因】
猫免疫不全ウイルス(FIV)は、感染猫からの咬傷から感染する。
【備考】
外に出る習慣のある猫は感染のリスクを伴うので、室内飼いが推奨される。また多頭飼育の場合にも新しく猫を迎える際には、ウイルスを保持していないかを検査する必要がある。
トキソプラズマ症
【症状】
一般的には下痢を認め、成猫より子猫で見られる。これは原虫が腸管で発育することによるが、腸管外発育の場合には発熱、ぶどう膜炎、痙攣、黄疸、下痢、膵炎などを起こす。
【原因】
感染猫の糞便中のトキソプラズマ原虫を経口摂取することによって感染する。
【備考】
ヒトにも感染することがあり、特に妊娠中の女性は流産や胎児の視覚障害、脳障害なども起こるため注意が必要。
まとめ
一言で下痢と言っても、その原因は様々です。早い段階で原因を突き止め、適切な処置をしてあげることが愛猫にとって一番なのではないでしょうか。
そのためには糞便検査や、便を写真に撮るなども有効となることがあります。何か気になることがあれば、気軽に動物病院にご相談ください。
【獣医師監修】犬の下痢は病気のサイン?病気以外の原因も!
愛犬の便がゆるいという経験をしたことがありますか?おそらく、犬を飼っている多くの方が「はい」と答えるでしょう。
便がゆるい状態は、少し柔らかいくらいの軟便から、完全に水のような下痢の状態まで、程度は様々です。何日も軟便下痢が続くと心配ですよね。
今回は、犬の下痢について、考えられる病気を獣医師が詳しく解説します。
下痢の理由は様々
下痢は犬にとっても珍しい症状ではなく、その原因は様々です。
病気の中でも色々な可能性が考えられますし、病気ではない場合もあります。
今回の記事では、下痢の原因を以下の4つに分けて考えます。
- 腸の疾患
- 腸以外の内臓疾患
- 内分泌疾患
- 病気でない下痢
下痢の理由①腸の疾患
下痢を起こしている時にまず疑うのは、腸の異常です。
腸の疾患は糞便検査で診断できるものもあれば、内視鏡検査を行わないと確定診断できないものまで様々です。
来院の際には便を持参して頂けると診断がスムーズかもしれません。
細菌性腸炎
【症状】
発熱、下痢、脱水、腹痛など。原因となる細菌によって血様下痢や大腸性下痢を呈する。
【原因】
サルモネラ、カンピロバクター、クロストリジウム、大腸菌などの細菌。
【備考】
これらの細菌はヒトにも感染する可能性があるので、下痢便の取り扱いには注意したい。トイレ掃除の後は石鹸でしっかりと手を洗うこと。
ウイルス性腸炎
【症状】
原因となるウイルスによって様々だが、元気消失、食欲低下、嘔吐、下痢などが見られる。パルボウイルス感染症では血様下痢、犬ジステンパーでは呼吸器症状や神経症状も見られる。
【原因】
犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルス、犬コロナウイルスなど。
【備考】
上記ウイルスに対してはワクチンが存在する。子犬ではウイルス感染が致命的となることも多いため、しっかりとワクチン接種を行うことが推奨される。
寄生虫性腸炎
【症状】
元気消失、食欲減退、下痢、削痩など。回虫類の感染では肺炎を、犬鉤虫や犬鞭虫の感染では血便を呈することがある。
【原因】
犬回虫、犬小回虫、犬鉤虫、糞線虫、犬鞭虫といった線虫や、ジアルジア、マンソン裂頭条虫などの感染による。
【備考】
寄生虫によってはヒトに感染するものもあるため、糞便の扱いには注意が必要。
炎症性腸疾患
【症状】
慢性的な嘔吐、下痢、体重減少、食欲不振、腹鳴、腹痛など。
【原因】
小腸や大腸の粘膜に炎症細胞が浸潤することで引き起こされるが、その原因は不明。
【備考】
確定診断には腸の内視鏡下生検が必要であり、時間がかかることもある。
リンパ管拡張症(蛋白漏出性腸炎)
【症状】
下痢、軟便、腹水、体重減少、胸水とそれに伴う呼吸困難など。
【原因】
リンパ管が通過障害を起こし、腸管腔内に蛋白質などが大量に漏出した結果、下痢や腹水などの症状が現れる。原因としてはリンパ管閉塞、リンパ腫、心外膜炎などが考えられているが、ほとんどは特発性(原因不明)となっている。
【備考】
血液検査、画像検査、生検などの検査を組み合わせて診断を行う。
下痢の理由②腸以外の内臓疾患
もちろん腸の疾患以外でも下痢が見られることも多くあります。
これらの疾患では下痢以外の症状も呈することが多いため、愛犬の体調を説明できるように把握しておきましょう。
膵炎
【症状】
突然の激しい嘔吐、嘔吐、腹痛、下痢、黒色便、元気消失など。
【原因】
膵臓からの消化酵素の活性異常によって自己組織を消化することで強い炎症が起こる。誘発因子としては、高脂肪食の多給、膵臓の損傷、血管系の障害による膵臓の虚血などが挙げられる。
【備考】
膵炎が進行し重度になると、十二指腸や肝臓に合併症を引き起こし問題となる。また、全身性炎症反応症候群(SIRS)や播種性血管内凝固(DIC)も起こりやすく、危険である。
膵外分泌不全
【症状】
大量の正常便、軟便、水様便、激しい食欲亢進と体重減少が見られる。
【原因】
遺伝的、または成犬になってから膵腺房細胞の萎縮によって発生すると考えられている。
【備考】
膵臓からの消化酵素が不足することで消化吸収不良の症状が現れる。
下痢の理由③内分泌疾患
ホルモンのバランス異常による疾患でも下痢が見られることがあります。
これらも下痢以外の症状が見られることが多くあるので、日頃の体調チェックはしっかりと行ってくださいね。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)
【症状】
体重減少、食欲不振、嘔吐、下痢、多飲多尿、徐脈、低体温、震え、痙攣など。
【原因】
副腎から分泌されるホルモンの減少による。犬では特発性の副腎萎縮によるものがほとんどである。
【備考】
重度の副腎不全はアジソンクリーゼと呼ばれ、速やかに循環改善及びホルモン補充療法を行う必要がある。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、多食、体重減少、肥満、嘔吐、下痢、脱水、感染症、白内障など。
【原因】
犬ではインスリンの分泌低下によるものが多いと言われている。発症素因としては加齢、肥満、環境などが挙げられる。
【備考】
メスはオスと比較して2〜3倍発症が多いとされており、これは発情関連糖尿病によるものと考えられる。発情後の血糖値測定や早期の避妊手術によって発症リスクの低下や早期発見を目指す。
下痢の理由④病気ではない下痢
下痢の中には、病気ではない一時的なものもあります。
しかし、病気かそうでないかを見た目で判断することは困難です。
調子がおかしいなと感じたら動物病院の受診をオススメします。
消化不良
【原因】
食べ過ぎ、早食い、ゴミあさりなど。
【備考】
一時的な下痢で、全身状態は悪くない。下痢のみを主訴とする。
乳糖不耐性下痢
【原因】
牛乳の給与。
【備考】
乳頭分解不全による下痢で、摂食中止で良化する。
ストレス
【原因】
引っ越しなどによる環境の変化、留守番が長いなど、様々。
【備考】
犬が落ち着ける環境を整え、犬と適切にコミュニケーションをとることが重要。
まとめ
下痢を放置すると脱水や電解質異常(ミネラルバランスの異常)が起こる可能性があります。
愛犬自身にとっても下痢が続くことは不快なはずです。
体調不良を察知したら速やかに動物病院までご相談ください。
ハムスターのしっぽが短い理由。しっぽで気持ちや病気も分かる⁉︎
ハムスターのしっぽといえば、とても短くて丸っこいイメージがあるでしょう。
ハムスターの仲間であるネズミは長いしっぽを持っているのに、ハムスターのしっぽはなぜ短いのでしょうか?
今回の記事では、ハムスターのしっぽが短い理由や、短いしっぽの役割についてご紹介します。しっぽを立てているときのハムスターの気持ちや、しっぽが濡れているときの病気の危険性などについても解説しているので、ぜひ最後までご一読ください。
ハムスターのしっぽはなぜ短い?
ネズミのしっぽが長い理由
なぜハムスターの仲間であるネズミは長いしっぽを持っているのでしょうか?
それは、危険を察知したときなどに、高いところに登って行動することが多いからです。
長いしっぽでバランスをとりながら歩いたり、しっぽを木の枝などに巻きつけて落下を防いだりします。
この特徴はネズミ以外にも、木の上で行動することのあるリスなどの多くの動物に共通します。
ハムスターは高いところに登らない
ハムスターの生活圏は地表や地下にあり、高いところには登りません。外敵に襲われそうになったときには、木の上ではなく地下の巣穴に隠れます。
高いところでバランスをとりながら走り回ることはしないため、長いしっぽは必要なく、次第に退化していったと考えられています。
しっぽの長いハムスターもいる
ハムスターの中でも、チャイニーズ・ハムスターは木に登る習性があるため、他のハムスターに比べて長いしっぽを持っています。
上手に身体のバランスをとりながら、飼い主さんの腕によじ登ってくることも多いようです。
ハムスターのしっぽの役割
ハムスターには長いしっぽが必要ないから退化したわけですが、完全になくなったわけではありません。
短いしっぽにも、ちゃんと役割があるのです。
身体のバランスを保つ
ハムスターの短いしっぽにも、立ち上がるときや、走るとき、少しの段差を上り下りするときなどに、身体のバランスを保つ役割があります。
ハムスターをよく観察していると、お尻を振りながら歩いている様子が見られるでしょう。この際、お尻だけでなく、しっぽも微妙に動かして姿勢を保っています。
発情期のサイン(メスのみ)
メスのハムスターのみ、発情すると交尾受け入れのサインとして、しっぽをピンと立て、お尻を少し持ち上げる行動を取ります。
「ピンと立てる」と言っても、大型ハムスターのしっぽでも1cmほどしかないため、人間には少し分かりにくいかもしれません。
警戒するとしっぽが立つ!
先述した通り、メスのハムスターは発情のサインとしてしっぽをピンと立てることがあります。ただし、しっぽを立てているからと言って、必ずしも発情しているとは限りません。
周囲の音に集中している
オス・メスどちらとも、周囲を警戒した際にもしっぽをピンと立てる傾向にあります。このとき、後ろ足だけで立ち上がったり、しっぽだけでなく耳もピンと立ててフリーズしたりもします。
こうした行動は、周囲の音を集中して聞くためのもので、住環境が変わったときや、知らない人がきたとき、普段聞かない音がしたときなどによく見られます。
慢性的な場合は飼育環境の見直しを
しっぽを立てるなどの警戒行動が一時的である場合は、そっとしておけば元に戻るためあまり問題ありません。
しかし、常に警戒しているのなら、飼育環境は不適切であると考えられます。今一度、飼育環境を見直しましょう。
- ハムスターのケージの近くに、テレビやラジオなど音のでる機械を置かない。
- ハムスターのケージのそばで、大声で会話をしない。
- ケージのそばでなくても、急に大声を出したり、怒鳴ったりしない。
- ハムスター以外のペットを飼っている場合は、ハムスターの視界に入らないよう部屋を分ける。
- 木箱の巣穴など、ハムスターが隠れられる環境を整える。
しっぽが濡れていたら病気のサイン!
「ウェットテイル」は危険
水様性の下痢が続くと、下痢便や腸からの分泌物によって、肛門のあたりやしっぽが常に濡れた状態になります。この状態を、「ウェットテイル」といいます。
ハムスターではよくみられる病気のサインで、重篤化しやすく、命に関わることもあります。
しっぽが濡れていたら、すぐに動物病院へ
人間にとって下痢はそこまで大した症状でないように思えますが、ハムスターにとっては非常に深刻です。
下痢が続けば命を落とすことも珍しくないため、日頃から排便やしっぽの状態を観察し、下痢やウェットテイルを発見したらすぐに動物病院に連れて行きましょう。
まとめ
今回は、ハムスターのしっぽについて、短い理由や役割のほか、ピンと立っているときの気持ちや、ウェットテイルが病気のサインになることなどをご紹介しました。
あまり使わないために退化したしっぽですが、じっくりと観察をすることでいろいろな情報を得られます。
しっぽは触られて嬉しい部位ではないため、なるべく掴んだりいじったりせず、くれぐれも程よい距離で観察してあげてくださいね。
下痢や嘔吐の原因?ペットの消化器を休める食事管理とは
嘔吐や下痢といった消化器症状は、動物の体調不良の理由として一般的です。
これらの症状は肝臓や腎臓などの病気でも見られますが、基本的には消化管(胃、腸など)での異常が原因となります。
また消化管は食べ物が通過する道でもあり、消化管の機能が弱っている時には食事の内容にも気を使う必要があります。
そこで、今回は、消化器疾患における食事管理についてご紹介します。
消化器疾患における食事管理の必要性とは?
犬や猫に消化器症状が認められている場合、消化管の運動低下や消化吸収の機能低下が起こっていると考えられます。
そんな状態のところに、さらに脂っこいものや消化に悪いものが入って来たら、何となく大変だというイメージがありますよね。
弱っている消化管に鞭を打つような真似をすれば、病気はますます悪くなります。
また、消化器疾患には、症状として食欲不振が現れることも多くあります。
食欲が無くても食べたくなる、その上でお腹に優しい食事が必要となります。
消化器疾患における食事に求められること
では、実際に消化器疾患の時の食事に必要なこととは何でしょうか。
ここでは、特に注意したい項目を挙げてみます。
高消化性(消化に良いもの)
消化性に優れている食物は、消化管に対する負担が少なく、食事中の栄養素を十分に吸収できます。
また、未消化の食物は悪玉菌の餌となることもあるため、しっかりと消化することはとても大切です。
ここで言う高消化性の食べ物とは、良質なタンパク質や良質な脂肪分を含む食品のことです。
高エネルギー(少量でもエネルギーが得られるもの)
活動をするためにはエネルギーが必要です。
しかし、エネルギーを得るために食べ過ぎてしまうと、消化管への負担となります。
少量でもしっかりとエネルギーが得られる食事を選択しましょう。
高嗜好性(ペットの食欲をそそるもの)
食欲不振の症状が見られる場合に、食べる気力を起こさせることも大切です。
確かに食べ過ぎは消化管に負担をかけますが、食べないことには体力が落ちてしまいます。
病気に打ち勝つためにも、ペットには良いものを食べてもらいたいのです。
食物繊維のバランス
食物繊維と聞くと、何となくお腹に良いような印象がありませんか?
確かに食物繊維は消化管の運動を促進し、体内の毒素を排泄するのを助けるはたらきがあります。
しかし、一方で、食物繊維は消化に悪いため、食事に配合しすぎると消化器症状を悪化させることもあります。
消化管のどこに異常があるのか、現在の症状は何が現れているのかなどを評価した上で、適切な量の食物繊維量を考えていきましょう。
水分
嘔吐や下痢によって体内の水分は失われています。脱水状態は循環血液量を減少させ、各臓器に悪影響を及ぼします。
また、食欲不振のせいで水を飲むのも気持ち悪い状態であることも考えられます。
そんな時に食事と一緒に水分を摂れるよう、缶詰タイプの食事や、ぬるま湯でフードをふやかすなどの工夫が必要です。
食事の量
ここで言う食事量は、カロリーベースの食事量のことです。
嘔吐や下痢が見られているのに、普段と同じ量を与えても消化管に負担を与えるだけです。
消化管を休めるためにも、いつもより少ない量から徐々に普段の量に戻していくなどの工夫が求められます。
例えば1日で1,000kcal必要な動物に嘔吐が見られた時には、まずは1日200kcal、徐々に増やしていって3~5日かけて1,000kcalの量に戻していくなどです。「消化管に休みを与える」ことが最優先となり、食事量が少ない時にもしっかりと栄養が摂れる食事が必要となります。
各メーカーのペット用おすすめ消化器疾患療法食
消化器症状は、犬猫で最も一般的に見られる症状であると言っても過言ではありません。
そのため、各メーカーでも消化管に配慮した様々な療法食を販売しています。
ロイヤルカナンの消化器サポート
消化器疾患を呈しているペットや、栄養要求性が高まっている動物に向けての療法食です。
消化性の高い原材料を使用し、少ない食事量でも十分なカロリーや栄養を摂取できるように調整されています。
さらに、健康的な腸内細菌バランスに考慮し、可溶性食物繊維を配合しています。
また膵炎などの脂肪を制限したい疾患の時には低脂肪タイプのものもあります。
ヒルズのi/d
高消化性と消化ケアに適した栄養素性を実現しているフードです。
この高消化性は、自然由来の可溶性繊維と不溶性繊維の適切なバランス配合によります。
また、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸を配合することで、免疫系や皮膚被毛の健康も同時にサポートします。
ごはんを手作りする際の注意点
添加物や自然由来にこだわる方は、食事を自作するかもしれません。
そんな時に気になるのは、「お腹に優しいとは具体的にどういうことなのか」でしょう。
そこで、手作り食を与える際に注意したいことについてご紹介します。
必要な栄養素と食材
消化管に配慮するなら、以下のような食材をベースに食事を作ります。
- 良質なタンパク質:鶏ムネ肉、脂身の少ない肉、白身魚など
- 食物繊維:サツマイモ、キャベツ、オカラ、カボチャなど
食物繊維は、異常が大腸にあるか、胃や小腸にあるのかで配合すべき量が異なります。そのため例え下痢をしているとしても、自己判断で食事を変更するのはむしろ逆効果になることもあります。
消化器症状が見られている場合には一度動物病院を受診し、食事についても獣医師に指示を仰ぐとよいでしょう。
控えるべき食べ物
消化管に負担を与えるような食材はNGです。
- 脂っこいもの
- 大きくカットした野菜(野菜は細かく切りましょう)
基本的に消化しづらいものは与えないようにしましょう。
自分が気持ち悪い時に食べたくないものは、動物も食べたくありません。
まとめ
消化器疾患の治療には、内科療法と同時に食事の指導をすることがほとんどです。
求められる栄養やカロリーは、その子の年齢や体重、健康状態に左右されるために計算は複雑です。
わからないことがあれば、かかりつけの獣医師に相談してみることをおすすめします。
引越し・新生活を始める前に!環境の変化による犬のストレスの対処法
春の訪れと共に、愛犬と引っ越しや新生活を始める方もいる思います。
しかし、犬は環境の変化によって不安やストレスを感じてしまいやすい生き物です。
今回は、引越しによる環境の変化が犬に与えるストレスと、その対処法をご紹介します。
愛犬との新生活をより良くスタートするために、ぜひ参考にしてみてください。
環境の変化による犬のストレス
新しい家の環境に慣れるまで、犬には不安やストレスが襲いかかります。
匂いやルーティーンを大切にする犬にとって、環境の変化に対応することは時間が掛かるだけでなく、体調に影響する可能性もあります。
引越しは犬にとっても一大イベント
飼い主にとって、新居はワクワクするものですが、犬にとっては知らないものに囲まれた落ち着けない場所かもしれません。
その他にも、引越しの準備中や移動中、さらに同居する人間が変わるなど、ストレスの原因となることがたくさんあるため、引越しは犬にとっても一大イベントと言えるでしょう。
引越し後は特に愛犬の様子を観察し、心地よい環境を整えてあげることが大切ですね。
引越し後には要チェック!犬の5つのストレスサインとその対処法
引越し後に、愛犬に起こりやすいストレスサインと対処法を以下の5つに分けてご紹介します。
- 留守番に抵抗を示す、問題行動を起こす
- 落ち着きがなくなる・夜に寝ない
- 吠えることが増える・夜鳴きをする
- トイレができなくなる
- 下痢や嘔吐をする
1.留守番に抵抗を示す、問題行動を起こす
まだ家に慣れない状態での留守番です。見知らぬ場所で一人で待つことに強い不安を感じているのでしょう。
【対処法】
もう一度、留守番の練習をしましょう。
引越しをして間もない頃に長時間のお留守番をさせることは避けた方が良いでしょう。
その後、少しずつ飼い主が離れる時間を増やしながら、トレーニングをしていきましょう。
2.落ち着きがなくなる・夜に寝ない
少しの物音にも敏感に反応してしまうことがあります。
家の中を常に歩き回ったり、夜も眠らずに吠えられてしまうと、飼い主さんも困ってしまいますよね。
【対処法】
愛犬が落ち着ける場所を確保しましょう。
ケージやベットなどを、以前の家と同じような位置に置いたり、家の雰囲気を少し以前と似せたりしましょう。
犬が使い慣れている毛布やおもちゃ、イスなどもなるべく新調せずに同じものを使うことが理想です。
3.吠えることが増える・夜鳴きをする
外から聞こえるいつもとは違う物音に反応して、吠えることがあります。
刺激やストレスに過敏になってしまっていることが原因です。
【対処法】
物音が気になっているようなら、窓から離れた場所にベットを置いたり、テレビやラジオを流すことで改善を図りましょう。
人の動きなどが気になる場合は、ケージに布を被せて視界を遮るのも良いでしょう。
4.トイレができなくなる
間取りが分からず家に慣れない時期に、トイレをする場所を迷ってしまうことがあります。
【対処法】
改めて、新居でのトイレトレーニングをしてあげましょう。前の家と同じような場所においてあげると、覚えやすいでしょう。
失敗しても決して叱らずに、慣れるまで練習を繰り返しましょう。
また、可能であれば引越しの朝などに前の住居でトイレシーツにおしっこをさせ、それをそのまま新居に敷いてあげるとトイレの場所が分かりやすくなります。
5.下痢や嘔吐をする
ストレスや移動時の疲れから、引越し後に下痢や嘔吐をしてしまうことがあります。
環境の変化による一時的なものであれば、1日経てば治ることもあります。
しかし、元気がない、食欲がないなどの症状も合わせて見られる場合や、過去に病気をしたことがある犬、子犬・老犬などは悪化する可能性もあるので注意が必要です。
【対処法】
引越し後に下痢や嘔吐などの症状が見られたら、迷わず動物病院に相談しましょう。
また、嘔吐を防ぐため、引越しの移動直前にご飯をあげることは控えましょう。
ただ空腹の状態で長時間移動することも負担になるため、ご飯の時間と量は状況に応じて調節することが必要です。
犬の輸送方法と気をつけること
犬を新居へ移動させる方法は、車や公共交通機関で運ぶ方法と、ペットの引越し専門業者へ依頼する方法の2つがあります。
飼い主が自家用車で運ぶ
自分で運ぶ場合は、事前に練習をし、慣れさせておくことが必要です。
車の場合、最も一般的な運び方は、クレートを後部座席やトランクに固定し、そこに犬を入れることです。
長時間ドライブになる場合は、約2時間ごとに休憩をし、水分補給や外の空気を吸わせてあげましょう。
飼い主が公共交通機関で運ぶ
電車などの公共交通機関の場合、車内でキャリーバッグから顔を出すことはマナー違反です。
また、JR、私鉄、新幹線ごとに乗車できる犬の大きさが異なるため、調べておきましょう。
こちらも、事前に短い距離で練習しておきましょう。
ペット専門の引越し業者に依頼する
長距離の引越しや、自分で運ぶことが困難な場合には、ペット専門の引越し業者を利用できます。
飼い主がペットに付き添うことができたり、保険や保証があったりと、各業者によって様々な特色があります。自分と愛犬にベストな業者を選びましょう。
引越し後は、犬の登録変更も忘れずに
住所が変わった場合は、法令に基づいた犬の登録変更の届出が必要です。
引越し前に公布された鑑札、狂犬病注射済票を、引越し先の自治体に持っていきましょう。
同じ市区町村内での引越しは、転居届を提出する際に犬の登録変更手続きを行います。
犬の住所登録変更をきちんとしていないと、犬が迷子になった時に飼い主のもとに帰ってこられないことがあります。
まとめ
犬は大切な家族です。新しい環境に早く慣れて、いつも通りの生活を送ってもらいたいですよね。飼い主さんも、新生活・新居の片付けなどで忙しくなると思いますが、なるべく愛犬と一緒にいる時間を長くすることが大切です。
また、生活スタイル、犬周りの家具や食べ物は、なるべく以前と同じにする工夫をすることが、犬にとっての大きな安心材料になります。
この春から引越しや新生活をスタートさせる方は、愛犬を観察しストレスを軽減してあげましょう。
【獣医師監修】猫の下痢の原因は?チェックすべきポイントを徹底解説
愛猫が下痢をしたら、飼い主のみなさんは何を疑うでしょうか。「単にお腹の調子が悪かっただけだ」と思うかもしれません。
しかし、猫の下痢は重大な病気のサインである可能性もあります。猫の病気に対する正しい知識がなければ、大切な愛猫の病気のサインを見逃してしまうかもしれません。
今回は、猫に下痢が見られた際に考えられる疾患や飼い主さんができることを、獣医師が詳しく解説していきます。
そもそも下痢とは
下痢とは、水分を多く含んだ便のことで、その量は一般的に通常よりも多くなります。糞便量が多くなることで、トイレに行く回数も自然に増えます。
消化器系疾患において、下痢は嘔吐と並んでよく見られる症状であり、猫でも決して珍しいものではありません。
小腸性下痢と大腸性下痢
下痢は病変の部位によって「小腸性下痢」と「大腸性下痢」に分類され、それぞれ症状に特徴があります。
その臨床徴候を下表にまとめました。
小腸性下痢 | 大腸性下痢 | |
---|---|---|
糞便量 | 著名に増加 | 正常~軽度の増加 |
排便回数 | 正常~軽度の増加 | 増加 |
しぶり | 稀 | あり |
糞便中粘膜 | 稀 | あり |
未消化物 | あり | なし |
疼痛 | なし | 時々 |
糞便中血液 | 黒色便、タール便 | 鮮血便 |
しぶりとは、残便感があるのに排便がない状態のことです。腹痛や肛門の筋肉の痙攣が原因で、大腸性疾患の際に認められます。
内臓の出血と便
消化管内で出血があった際や、胃や小腸などの消化管上部での出血では腸内で血液が消化されることで、便が黒くなります。
一方で、大腸での出血の場合では、赤い血液の付着した鮮血便が認められます。
動物病院を受診する際に聞かれること
下痢を呈する疾患は様々で、どこに原因があるかによって治療法も変わってきます。そのため、正確で迅速な診断が求められます。
猫が下痢をして受診する際は、予め次のような問診の内容を把握しておけば、早期診断に繋がるかもしれません。
- いつから: 急性か慢性かなど
- 便の性状: 色、臭い、水分量(水様、泥状、軟便など)
- 他の症状: 嘔吐、黄疸、食欲不振など
- ゴミ箱を漁っていないか: 異物、毒物の可能性
猫の下痢で考えられる疾患
では、猫に下痢が見られた際にはどんな疾患が考えられるのでしょうか。
事前にしっかり把握しておくことで、猫の重大な病気にいち早く気づいてあげましょう。
猫汎白血球減少症
猫パルボウイルスの感染による感染症です。突然の下痢や嘔吐のために衰弱、脱水を起こします。
十分な免疫力を持っていない子猫に発生が多く、成猫ではワクチン接種による予防が可能です。
消化管内寄生虫症
種々の寄生虫による腸炎や消化吸収障害によって下痢が生じます。
駆虫薬による治療や予防が可能ですが、環境中の寄生虫を殲滅しない限り感染を繰り返すため、飼育環境を常に清潔に保つことが大切です。
炎症性腸疾患
リンパ球プラズマ細胞性腸炎や好酸球性腸炎に分類される、下痢を主徴とした炎症疾患です。長く続き、一般的な下痢に対する治療にも反応しない下痢や嘔吐の場合には本疾患を疑います。
しかし、確定診断には内視鏡下での組織生検が必要であり、猫に大きな負担をかけることになります。
消化管内腫瘍
猫における消化管内腫瘍は、消化器型リンパ腫が非常に多く見られます。高齢猫で嘔吐や下痢などの消化器症状を呈する場合にはリンパ腫を視野に入れて検査を行います。
一方で、消化器型リンパ腫は小腸に腫瘤(しゅりゅう)性病変を作らないパターンもあり、パッと見ただけでは腫瘍と気付かないこともあります。
肝リピドーシス
いわゆる脂肪肝のことで、肥満以外にも様々な原因で発生します。脂肪肝の原因は、代謝やホルモンの異常、栄養素の不均衡、毒性物質、先天性代謝異常などです。
他にも、2週間以上にわたる長期的な食欲不振でも肝リピドーシスが発生することがあります。そのため、猫で食欲の異常を見つけたら放置せずに、食欲不振の原因を除去する必要があります。
また、肝リピドーシスの治療では鼻からカテーテルを入れて強制給餌を行うこともあります。
胆管肝炎
猫の慢性肝疾患で最もよく見られるのが胆管炎・胆管肝炎です。胆管肝炎は細菌が関与し、炎症性腸疾患や膵炎などを引き起こす化膿性のものと、炎症が胆管にのみ限局する非化膿性のものに分けられます。
化膿性胆管肝炎では急性の経過を取ることが多く、早期発見・早期治療が重要です。
膵炎
猫での膵炎(すいえん)の発生は多いとされていますが症状は劇的ではなく、嘔吐や下痢が見られることもありますが、元気消失や食欲不振のみのこともあります。
猫で膵炎が重要視されるのは、膵炎の他に、胆管肝炎や肝リピドーシス、炎症性腸疾患を続発することが多いからです。また、膵炎が慢性化することも多く、消化器症状と長期的に付き合っていくことも少なくありません。
甲状腺機能亢進症
高齢の猫でよく見られる疾患です。ホルモンを分泌する甲状腺組織の過形成や腺腫によって、過剰に甲状腺ホルモンが分泌されることにより起こります。
下痢や嘔吐の他に、食欲亢進と体重減少が顕著であり、治療を行わないとどんどん衰弱していきます。食欲はあるのに痩せていく現象が見られたら、この疾患の可能性が高いです。
猫が下痢をしたとき注意すること
猫の下痢は痕跡が残るため、飼い主さんが最も気付きやすい症状の一つです。
下痢は単なるお腹の不調や食べ過ぎが原因とは限らないので、異変を感じたら早めに動物病院を受診しましょう。
動物病院に便を持参するとよい
居住空間を清潔に保つため、すぐに便を片づけてしまいがちですが、ちょっと待ってください。
「便には多くの情報が詰まっています」。
猫は言葉が話せない分、便などから健康に関する情報を得る必要があります。できるだけ排泄してから時間の経っていない便を持参すると、動物病院でスムーズに糞便検査を行えます。
まとめ
排便は、健康状態を表す重要なバロメーターです。日常的に便を観察することで、愛猫の健康管理を行うことができます。
人間側が猫の異常を感知し、すぐに対応することができると素晴らしいですね。