【猫編】ワクチン・駆虫薬で予防できる病気と、その他の病気の予防法
猫にはヒトと同様に、さまざまなワクチンや予防薬があります。
犬であれば狂犬病ワクチンやフィラリア予防などが浮かびますが、猫の飼い主の皆さんはどんな病気の予防をしていますか?よくわからないし、今まで何もなかったから大丈夫という理由で放置していませんか?
この記事では、ワクチンや駆虫薬で予防できる猫の病気と、その他の病気の予防法についてまとめました。
ワクチンで予防できる病気
ワクチン接種が義務付けられている病気
猫には犬の狂犬病のように、ワクチン接種を義務付けられている病気はありません。そのため、猫はワクチンを接種しなくても問題ないと思うかもしれませんが、猫が安全に生きていくためにも、いくつかのワクチン接種が推奨されています。
ワクチン接種を推奨されている病気
以下に、同時に接種可能な混合ワクチンの種類を表にしました。
3種 | 4種 | 5種 | |
---|---|---|---|
猫ウイルス性鼻気管炎 | 〇 | 〇 | 〇 |
猫カリシウイルス感染症 | 〇 | 〇 | 〇 |
猫汎白血球減少症 | 〇 | 〇 | 〇 |
猫クラミジア | – | – | 〇 |
猫白血病 | – | 〇 | 〇 |
混合ワクチンには、「コアウイルス」と呼ばれる猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症の3つが最低限含まれています。
また、1種類の感染症を単体で予防できるワクチンもあります。特に猫エイズとも呼ばれる猫免疫不全ウイルス感染症は、猫同士の喧嘩やグルーミングによって簡単に感染するため、脱走時の保険のために屋内飼育の猫にも接種が推奨されています。
どの混合ワクチンを接種するべきかわからないという方は、かかりつけの動物病院で相談しましょう。
駆虫薬で予防できる病気
内部寄生虫
猫の体の中に寄生する寄生虫を「内部寄生虫」といいます。
ヒトにも感染する人獣共通感染症であるものも多く、猫の健康を守ることで、家族の健康も守ることができます。
- 猫回虫(人獣共通感染症)
- 猫鉤虫(人獣共通感染症)
- 猫条虫(人獣共通感染症)
- 瓜実条虫(人獣共通感染症)
- 多包条虫(人獣共通感染症)
- 犬糸状虫
多包条虫はエキノコックス、犬糸状虫はフィラリアとも呼ばれ、どちらも犬によく見られる寄生虫ですが、猫での寄生報告もあります。特にフィラリアは犬よりも少数の寄生虫で肺に障害を与えることがわかっているため、屋内・屋外問わず予防を徹底しましょう。
フィラリア予防は、蚊が出始める5月頃から蚊がいなくなってから1ヶ月後の12月頃まで、他の寄生虫は一年を通して月に1度投与する必要があります。
外部寄生虫
猫の体の表面に寄生する寄生虫を「外部寄生虫」といいます。
- ノミ
- マダニ
- ミミヒゼンダニ
- ハジラミ
ノミはノミアレルギーや猫ひっかき病などの病原菌を媒介します。また、マダニは、ヒトで死亡報告もある重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を媒介します。
どちらも屋内飼育の猫なら関係ないと考えるかもしれませんが、脱走してしまったり、飼い主が気づかないうちに家の中に持ち込んでしまうことも考えられますので、確実に予防する必要があります。
まとめて予防しよう
駆虫薬の中には、内部寄生虫と外部寄生虫をまとめて予防できるものもあります。その分、値段は張りますが、いくつも薬を与える必要がないのでオススメです。こちらもぜひかかりつけの動物病院で相談してみてください。
病気の予防と早期発見の6つのポイント
多くの病気は、予防をしていても100%防げるというわけではありません。しかし、普段のちょっとした習慣が、病気になりにくい体にしたり、早期発見につながったりすることがあります。
1. 体重管理
肥満は、糖尿病や心疾患、呼吸器疾患、骨関節疾患などさまざまな病気の原因であり、寿命を縮めてしまいます。太ったらダイエットするのではなく、太らないよう、食事量をしっかり管理し、毎日の散歩も欠かさずに行いましょう。
一方で、痩せすぎにも注意しなければいけません。体重が徐々に減少している場合、腫瘍や心疾患、腎疾患、肝疾患などが考えられます。また、糖尿病の末期には体重が減少するため、「ダイエットの成功」と勘違いしないように気をつけましょう。
2. 塩分の摂りすぎに注意
猫の死亡原因の上位を占める腎臓病。その原因のひとつとして、塩分の過剰摂取が知られています。一度味の濃いものを与えると、薄味のものを食べなくなってしまうこともあるので、普段から塩分の摂取量には気をつけましょう。
なお、チャオチュールの塩分濃度が高くて腎臓病になるというデマが流れたこともありましたが、1日の目安を守っている限りは特に問題ありません。
2. 定期的にブラッシングする
換毛期だけでなく、普段からブラッシングをしてあげましょう。
頻度は猫種によって、毎日ブラッシングが必要な場合と、数日に1回で良い場合があります。愛猫に適したブラッシングの頻度を知っておきましょう。
スキンシップになるのはもちろん、皮膚の異常やノミやダニの付着、しこりなどの体の異常にいち早く気づけるかもしれません。
3. 尿や便をチェックする
尿や便は猫の健康状態を見る上でとても重要です。毎日確認することで、血が混じっている、下痢気味、尿量が少ない、便に動くものがいるなどの異変に早く気づけるでしょう。
4. 誤食に気をつける
中毒症状の多くは、食品の放置による誤食や飼い主の無知が原因であることが多いです。
特に絶対に猫に与えてはいけないものは以下の通りです。
- ネギ類
- ぶどう
- チョコレート
- キシリトール
- アルコール
- 人間の薬
ぶどうが危険であると報告されたのは2001年と最近のため、知らないという人も多いかもしれません。しかし、急性腎不全になり死亡してしまう危険もあるため、猫に与えてはいけません。
猫が食べたら危険なものは猫の届かないところに管理し、誤って口にしないように気をつけましょう。
5. 飲水・食事量の確認
肥満や偏食を防ぐために食事を管理することももちろん重要ですが、猫が1日に食べたり飲んだりした量をきちんと把握しておくと、体調不良の際に異変に気づきやすいです。
飲水の量は意識しないとなかなか把握しづらいですが、例えば多飲多尿の場合は腎不全が疑われますし、少なすぎても脱水になってしまいます。
メモリのあるお皿を使い、毎日の飲水量を把握するよう習慣づけましょう。
6. 猫種の好発疾患を知る
かかりやすい病気は猫種によって異なるため、猫を飼うことを決めたら、まずはその猫の特性を調べ、どんな性格なのか、どんな病気になりやすいかなどをしっかり調べましょう。そうすることで、事前に対策をしたり、定期的に健康診断をしたりすることで、早期の発見が可能です。
特に、スコティッシュフォールドの折れ耳や、スコ座りと呼ばれるおじさんのような座り方は、骨軟骨異形成症という疾患の症状のひとつです。見た目だけで「かわいい」と思うのではなく、その理由を知ることも大切です。
まとめ
猫は室内で飼育することも多く、ワクチン接種も義務でないことから、あまり対策をしていないという方も多いかもしれません。
しかし、脱走や災害で外に出て感染してしまうこともありますし、時には飼い主自身が感染源となることもあるでしょう。また、ペットホテルを利用するときなども、ワクチンの接種が必要な場合がほとんどです。
愛する猫が健康で長生きできるよう、飼い主としてできる限りの対策をしてあげましょう。
【犬編】ワクチン・駆虫薬で予防できる病気と、その他の病気の予防法
犬はヒトと同様に、ワクチンを接種したり、予防薬を投与したりすることで、さまざまな病気を予防できます。
狂犬病やフィラリアといった最低限のものは予防しているかもしれませんが、他の病気の予防はいかがでしょうか?よくわからないし、今まで何もなかったから大丈夫という理由で放置していませんか?
この記事では、ワクチンや駆虫薬で予防できる犬の病気と、その他の病気の予防法についてまとめました。
ワクチンで予防できる病気
ワクチン接種が義務付けられている病気
日本では、狂犬病予防法により、全ての犬に狂犬病ワクチンの接種が義務付けられています。
毎年春頃になると、自治体から狂犬病ワクチン接種の連絡が届きますので、基本的には4月1日〜6月30日までの間に受けましょう。
なお、新型コロナウイルスの影響で2020年に引き続き2021年も、狂犬病ワクチンを12月31日までに接種すればよいと法改正されています。集団接種を中止している自治体もありますので、年内接種を忘れないようにしましょう。
ワクチン接種を推奨されている病気
ワクチンには、全ての犬がワクチン接種を行うべきと考えられている「コアワクチン」と、生活する環境によっては接種が推奨される「ノンコアワクチン」があります。
同時に接種可能な混合ワクチンの種類を表にしました。●はコアワクチンを意味します。
感染症 | 2種 | 4種 | 5種 | 6種 | 7種 | 8種 |
---|---|---|---|---|---|---|
●犬パルボウイルス感染症 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
●犬ジステンパー | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
●犬伝染性喉頭気管炎 | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
●犬伝染性肝炎 | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
犬パラインフルエンザ | – | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
犬コロナウイルス感染症 | – | – | – | 〇 | – | 〇 |
レプトスピラ感染症 | – | – | – | – | 〇 | 〇 |
イクテロヘモラジー型 | – | – | – | – | 〇 | 〇 |
カニコーラ型 | – | – | – | – | 〇 | 〇 |
最低限、コアワクチンの犬パルボウイルス感染症、犬ジステンパー、犬伝染性喉頭気管炎、犬伝染性肝炎は接種するようにしましょう。
どの混合ワクチンを接種するべきかわからないという方は、かかりつけの動物病院で相談しましょう。
駆虫薬で予防できる病気
ワクチンとは別に、寄生虫などに対しては、定期的な投薬が必要になります。寄生虫による感染症は、場合によってはヒトに感染して重篤な症状を引き起こすこともありますので、家族を守るためにも確実に予防しましょう。
フィラリア
フィラリアは蚊を媒介して犬の体内に侵入し、心臓に寄生するため、命に関わることも少なくありません。予防薬は、蚊が出始める5月頃から、蚊がいなくなってから1ヶ月後の12月頃まで、月に1度投与する必要があります
なお、血液中にフィラリアの幼虫がいる状態で薬と投与すると、犬がショック症状を引き起こし、死に至ることもあります。自分で判断せず、必ず動物病院で血液検査を行ってから投与するようにしましょう。
多包条虫
いわゆるエキノコックス症です。感染源であるエキノコックスの卵を経口摂取することで感染します。
犬やキツネが感染した場合は、軽度の下痢が見られる程度ですが、ヒトが感染してしまうと、肝臓、肺、脳などに寄生し障害を与えます。潜伏期間が長く、自覚症状がないため、気づいた頃にはかなり病状が進行していることが多いです。
予防薬は、毎月一度投与しましょう。
ノミ、ダニ
ノミやダニは、散歩で草むらなどを通ったときに寄生されてしまいます。特にマダニは、ヒトに感染する病原体も媒介するため、寄生されないよう予防することが大切です。
一年を通して月に一度、薬を投与し、確実に予防しましょう。
まとめて予防しよう
フィラリア駆虫薬の中には、犬鉤虫(こうちゅう)症、瓜実条虫症、犬鞭虫症、多包条虫症、犬回虫症、ノミ、ダニなどをまとめて予防できるものもあります。その分、お値段は張りますが、いくつも薬を与える必要がないのでオススメです。
病気の予防と早期発見の7つのポイント
多くの病気は、予防をしていても100%防げるというわけではありません。しかし、普段のちょっとした習慣が、病気になりにくい体にしたり、早期発見につながったりすることがあります。
1. 肥満に気をつける
肥満は、糖尿病や心疾患、呼吸器疾患、骨関節疾患などさまざまな病気の原因であり、寿命を縮めてしまいます。
太ったらダイエットするのではなく、太らないよう、食事量をしっかり管理し、毎日の散歩も欠かさずに行いましょう。
2. 室内の段差を減らす
椎間板ヘルニアや膝蓋骨脱臼(パテラ)は、遺伝的な要素も大きいですが、飼育環境を心がけることで予防も可能です。
大きな段差や滑りやすい床は足腰に負担がかかるため、ソファやベッドには犬用の階段をつけてあげ、床がフローリング素材の場合は、マットやカーペットを敷いて滑りにくい工夫をしましょう。
3. ブラッシングは定期的に
換毛期だけでなく、普段からブラッシングをしてあげましょう。
頻度は犬種によって、毎日ブラッシングが必要な場合と、数日に1回で良い場合があります。愛犬に適したブラッシングの頻度を知っておきましょう。
スキンシップになるのはもちろん、皮膚の異常やノミやダニの付着、しこりなどの体の異常にいち早く気づけるかもしれません。
4. 尿や便をチェックする
尿や便は犬の健康状態を見る上でとても重要です。毎日確認することで、血が混じっている、下痢気味、尿量が少ない、便に動くものがいるなどの異変に早く気づけるでしょう。
5. 誤食に気をつける
中毒症状の多くは、食品の放置による誤食や飼い主の無知が原因であることが多いです。
特に絶対に犬に与えてはいけないものは以下の通りです。
- ネギ類
- ぶどう
- チョコレート
- キシリトール
- アルコール
- 人間の薬
ぶどうが危険であると報告されたのは2001年と最近のため、知らないという人も多いかもしれません。しかし、急性腎不全になり死亡してしまう危険もあるため、犬に与えてはいけません。
犬が食べたら危険なものは犬の届かないところに管理し、誤って口にしないように気をつけましょう。
6. 飲水・食事量の確認
肥満や偏食を防ぐために食事を管理することももちろん重要ですが、犬が1日に食べたり飲んだりした量をきちんと把握しておくと、体調不良の際に異変に気づきやすいです。
特に、飲水の量は意識しないとなかなか把握しづらいですが、例えば多飲多尿の場合は腎不全が疑われますし、少なすぎても脱水になってしまいます。
メモリのあるお皿を使うと、どのくらい飲んだのかが分かりやすいのでおすすめです。
7. 犬種の好発疾患を知る
チワワは水頭症や膝蓋骨脱臼になりやすい、ダックスフンドは椎間板ヘルニアになりやすいなど、かかりやすい病気は犬種によって異なります。
犬を飼うことを決めたら、まずはその犬の特性を調べ、どんな性格なのか、どんな病気になりやすいかなどをしっかり調べましょう。そうすることで、事前に対策をしたり、定期的に健康診断をしたりすることで、早期の発見が可能です。
まとめ
今まで特に予防はしてこなかったけど、病気にはなっていないし、今更必要ないと考えていませんか?しかし、それはたまたま運が良かっただけで、いつどんな病気になるかは誰にもわかりません。
ペットを飼う以上はペットを幸せにする義務があります。そのために、飼い主としてできる限りの対策をしてあげましょう。
【獣医師監修】ヒトへの寄生が危険!エキノコックス症の恐怖とは?
多包条虫(たほうじょうちゅう)は、もともとイヌ科動物や猫に寄生しますが、ヒトにも大変重大な病害を及ぼす寄生虫です。エキノコックスという別名で、日本で感染者が出た場合には全国ニュースにもなりますが、一体なぜ、そんなに大騒ぎされる病気なのでしょうか?
本記事では、犬の多包条虫症、およびヒトのエキノコックス症について、獣医師が詳しく解説します。正確に理解し、しっかりと予防につなげて頂ければと思います。
多包条虫症・エキノコックス症って何?
多包条虫とは
多包条虫は、体長1.2~3.7ミリの小さな寄生虫で、犬、キツネ、オオカミ、猫の小腸に寄生して多包条虫症を引き起こしますが、その前にヒトを中間宿主に取り、包虫症(エキノコックス症)を引き起こします。
一般的に寄生虫は、終宿主(多包条虫の場合は犬やキツネなど)よりも中間宿主(多包条虫の場合はヒト)の方が感染した時に重篤な症状を示します。これは、寄生虫にとって終宿主が終の住家となるの対し中間宿主は仮宿であり、早く出ていくために宿主の身体を壊すからです。
エキノコックス症とは
エキノコックス症とは、ヒトなどの中間宿主の肝臓や脳に、「包虫」と呼ばれる袋(嚢腫)を形成し、重篤な病害を引き起こす寄生虫病です。分類学上、Echinococcus(エキノコックス)属の条虫によって引き起こされます。
ヒトに寄生するのは多包条虫の他に、単包条虫(山羊、羊、牛、豚、馬などに寄生)とフォーゲル条虫が知られています。日本では、多包条虫と単包条虫が分布していて、特に多包条虫の感染が北海道を中心に重要な問題とされています。
また、感染症法では「4類感染症全数把握疾患」に分類され、発生した場合には全例を報告することが義務付けられている疾病でもあります。
感染症全数把握疾患とは?
感染症の発生状況を把握・分析し、情報提供することにより、感染症の発生およびまん延を防止するために感染症発生動向調査が行われます。その中でも、発生数が希少、あるいは周囲への感染拡大防止を図ることが必要な疾患として定義されているものが、全数把握対象疾患です。
多包条虫の感染経路と生活環
多包条虫の虫卵は、犬やキツネの糞便中に排出されます。
その虫卵が中間宿主である野ネズミやヒトなどに摂取されると、小腸内で幼虫が孵化します。
幼虫は小腸壁に侵入し、リンパ流や血流に乗って肺や肝臓に運ばれ、包虫嚢と呼ばれる袋状の構造物を形成して定着・増殖します。
包虫嚢が形成されている中間宿主の内臓を、終宿主である犬やキツネが摂取することで、多包条虫の生活環が完了します。
多包条虫症・エキノコックス症の症状
多包条虫症の症状
犬やキツネの場合、少数寄生例ではほとんど症状を示さず、軽度の下痢が見られる程度です。
ただし、症状がない場合でも、虫卵は糞便中に大量に排出されるので、そこから感染が広がることが問題です。
ヒトのエキノコックス症の症状
犬よりももっと大きな問題となるのは、ヒトを含めた中間宿主動物が感染した場合です。
好発寄生部位は肝臓で、次いで肺、脳となり、それぞれに障害を与えます。
特徴となるのが長い潜伏期間で、大人で10~15年、小児で約5年もの間、自覚症状がありません。その間、多包条虫の幼虫は各臓器を蝕んでいきます。
肝臓寄生の場合は腹部膨満、腹痛、黄疸、肝機能障害、腹水貯留が見られ、他にも、肺寄生では咳や呼吸困難が、脳寄生では意識障害や痙攣発作などが認められます。
また、包虫嚢が破れて中身が腹腔や胸腔に出ると、強いアナフィラキシー(全身的なアレルギー反応)を引き起こします。病害は重く、治療を行わない場合、90%以上が命を落とすと言われています。
多包条虫症・エキノコックス症の診断
多包条虫症の診断
多包条虫症は、糞便中の虫卵を検出することで診断できます。
また、最近では、糞便中の虫体由来分泌抗原を検出する方法も実用化されています。
ヒトのエキノコックス症の診断
腹部や胸部のX線検査、超音波検査、CT検査やMRI検査にて包虫嚢の確認をします。また、臨床所見や血液検査で肝機能障害の程度を確認します。
さらに、流行地域での居住歴やキツネなどとの接触歴も診断の助けとなることがあります。
しかし、初期病変の検出は非常に困難と言われており、診断がついた頃にはかなり病状が進行していることが多いです。
多包条虫症・エキノコックス症の治療
多包条虫症の治療
多包条虫症は、プラジカンテルという駆虫薬の投与によって治療が可能です。
その治療効果はほぼ100%と言われています。
ヒトのエキノコックス症の治療
犬の多包条虫症と同じような駆虫薬の投与では治療できないことがあります。
確実な治療は病変部を外科的に切除することですが、患部が大きすぎたり、脳への寄生の場合には切除が困難です。
切除できない場合の死亡率は5年で70%、10年で94%に達するという報告もあります。
多包条虫症・エキノコックス症の予防
多包条虫症の予防
多包条虫症を予防するには、犬に、中間宿主であるネズミとの接触をさせないことが大切です。
散歩中などにネズミをくわえさせない、流行地では放し飼いにしないなどの行動が重要です。
飼い犬に多包条虫症の予防を行うことは、ヒトのエキノコックス症を予防することにもつながり、公衆衛生上、大変有意義です。
また、最近では予防薬が販売されており、フィラリア症の予防と一緒に行うことが可能です。流行地域で犬を飼っている場合は、検討すべきでしょう。
ヒトのエキノコックス症の予防
ヒトの場合、同じ中間宿主であるネズミからの感染はありません。人間から人間への感染もありません。
感染源である多包条虫の虫卵が口に入らないように、外出後は手をよく洗ったり、山菜や野山の果実を摂って食べるときは、よく洗うかしっかり加熱をしてから食べたりと、衛生管理にはくれぐれも気を付けましょう。
特に、北海道では多包条虫の汚染が深刻で、野生のキツネに触らない、触った後はよく手を洗うことが呼びかけられています。北海道出身の方にとっては、小さいことからよく耳にしているかもしれません。
まとめ
動物に関わる私たちのような人々にとって、エキノコックス症発生のニュースは非常に関心のあるトピックスです。
一方、一般の方にそのことを話すと、ニュースを知らなかったり、そもそもエキノコックス症について知らなかったりと、温度差を感じることが多々あります。
エキノコックス症は非常に怖い寄生虫疾患ですから、もっと多くの方にこの寄生虫疾患を知っていただき、発生状況にも興味を持って頂ければと思います。
【獣医師監修】愛犬の命をフィラリアの脅威から守ろう!
暖かくなり、フィラリア予防の季節になってきました。
犬を飼ったことのある方にとっては当たり前のフィラリア予防ですが、もしかしたら誤った自己判断で愛犬を命の危険にさらしてしまっているかもしれません。
本記事ではフィラリアの基本的な知識と、フィラリアの正しい予防方法をお伝えします。
フィラリア(犬糸状虫)とは
フィラリアは犬の肺動脈や右心系に寄生する寄生虫で、蚊によって媒介されます。一般的に、気温が15度を超えると蚊の吸血が始まると言われているので、春先頃に予防薬を投与し始める方も多いと思います。
フィラリアは心臓に寄生するため、感染が成立すると命に関わることも少なくありません。
治療にも時間を要するため、できる限り予防したい感染症の一つです。
フィラリアの体内での成長
蚊に刺されたときにフィラリアの子虫が犬の体内に侵入します。
体内に侵入したフィラリアの子虫は、犬の皮下織、筋肉、脂肪組織、漿膜下で2〜3ヵ月をかけて成長します。その後、静脈に入り、心臓に達します。
フィラリア薬ってどんな薬?
フィラリア薬が開発される数十年前までは、フィラリア感染症で亡くなる犬がたくさんいましたが、予防薬ができてからは犬の平均寿命が大幅に伸びました。
フィラリア薬を開発したのは日本の科学者である、大村智さん。2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことは、ご存知の方も多いかもしれません。ノーベル賞を受賞するほどですから、フィラリア薬がどんなに大切かお分りいただけるでしょう。
フィラリア薬の効果
フィラリアは蚊によって媒介されますので、蚊に刺されないことこそが最大の予防となります。しかし、これは現実的に不可能です。
そこで、フィラリア薬を用いて、蚊に刺されてもフィラリアに感染しないようにすることが必要不可欠です。
ここで注意したいのは、予防薬はフィラリアから体をバリアするものではないということ。あくまでも1ヵ月に1回投与することで、犬の体内に侵入してしまったフィラリアの子虫を駆虫することが目的です。
フィラリア薬の投与の仕方
各製薬会社で様々なフィラリア予防薬が販売されていますが、フィラリア予防薬は「要指示医薬品」ですので、動物病院で処方してもらいます。
血液の中にフィラリアの幼虫がいる状態でフィラリア薬を投与すると、犬がショックを起こして死に至る危険性もあるので、必ず動物病院で血液検査を行ってから投与をしましょう。
フィラリア薬は基本的に錠剤タイプですが、錠剤を嫌がる場合はチーズなどに包んで与えてみましょう。
フィラリア薬の投与期間
フィラリア薬は、フィラリアの生活環の子虫と呼ばれる段階にしか効果がありません。フィラリアの子虫が血管内に入る前に駆除する必要があるため、1ヵ月ごとにフィラリア薬を投与し、フィラリアの侵入を定期的にリセットしなければいけません。
つまり、フィラリア薬は蚊が出現する時期に投与を開始し、蚊が出現しなくなってから1ヵ月後まで続ける必要があるということです。
この+1ヵ月を忘れてしまうと、蚊のいない冬の時期にフィラリアが成長し、心臓に感染してしまいます。
フィラリア予防のよくある間違い
フィラリア予防について、間違った自己判断は愛犬の命取りになります。決して自分で判断をせず、動物病院で獣医師とよく相談しましょう。
フィラリア予防について、よくある質問についてまとめました。
マンションの高層階に住んでいるから蚊には刺されない?
外出した人の衣服に付いてくる、エレベーターに乗ってくるなどによって、高層階であっても蚊がいることは多くあります。
散歩の際に蚊に刺されることもあるので、居住環境に関わらずフィラリアの予防は必須です。
動物病院で検査を受けなくてもフィラリア薬の投与を始めてよい?
前述した通り、フィラリア薬の投与前には、成虫の感染がないか予め血液検査をする必要があります。
心臓にフィラリアの感染が成立している場合、成虫から生まれたフィラリアの幼虫が血中に存在する可能性があります。
このときにフィラリア薬を投与すると、幼虫の急激な死滅によってアナフィラキシーを起こす場合があり、非常に危険です。
去年の薬が余っているからと、検査をせずに投薬を開始するのは止めましょう。
飲み忘れの期間があるけど、投薬を再開して大丈夫?
蚊によって体内に侵入したフィラリアの子虫は早ければ2か月ほどで血管内に移動します。
こうなるとフィラリア薬は効きにくくなってしまいます。
前回の投薬から間隔が空いている場合は獣医師の指示を仰ぎ、定期的に検査をしながら慎重に投薬する必要があります。
まとめ
今回は、犬のフィラリア感染症について詳しくお伝えしました。
フィラリア感染症は命に関わることもありますが、感染の経緯や薬の効果を知ることで、正しく予防できます。
フィラリア予防薬の投与は、かかりつけの獣医師によく相談し、指示に従いながら、大切な愛犬の命を守りましょう。
知っておきたい!犬のワクチン接種と寄生虫の予防について。
犬が感染する重大な感染症や寄生虫には、ワクチン接種や予防薬、定期検診などで防ぐことができるものがあります。
中には人間に感染する病気もあるので、しっかり予防しておくことが重要となります。
今回は主な感染症や寄生虫の症状と、予防方法をご紹介します。
混合ワクチンで予防できる感染症
混合ワクチンは、複数の重大な感染症を一度に予防できるワクチンです。
対応している感染症の数によって、ワクチンの種類が異なります。地域ごとの感染症の発生状況などを考慮し、獣医師と相談しながら決めましょう。
まずは、それぞれの感染症の特徴を簡単にみていきましょう。
パラインフルエンザ
人間の風邪に似ていて、乾いたせき、鼻水、扁桃炎などの症状があります。ほかの感染症と一緒に感染すると症状が重症化します。
伝染性肝炎
症状はさまざまですが、発熱、食欲不振などの比較的軽い症状から、肝炎をともない死に至るものもあります。
パルボウイルス感染症
ひどい嘔吐、下痢が続く腸炎型と、突然死する心筋型があります。
ジステンパー感染症
発熱、食欲不振などの軽い症状からはじまり、重症化すると神経障害があらわれ死に至ることもあります。
1歳未満の子犬の発症率が高いといわれています。
アデノウイルスⅡ型感染症
発熱、せき、および肺炎や気管支炎などの呼吸疾患をおこします。ほかの感染症と一緒に感染すると症状が重症化します。
レプストピラ感染症
肝臓や腎臓の病気で、黄疸や下痢、歯茎の出血などの症状があらわれる黄疸出血型と、嘔吐や下痢をともなうカニコーラ型があります。レプストピラ感染症は、人と動物の間での感染の可能性がある感染症(人畜共通感染症)のひとつです。
コロナウイルス感染症
食欲不振、嘔吐、下痢などの症状があります。パルボウイルスと一緒に感染すると、死に至ることもあります。
ワクチン接種の時期と回数
混合ワクチンは通常、生後50日前後に1回、さらにその約20~30日後にもう1度受け、2歳以降は1年に1度受けます。
ただし、時期や回数はそれぞれの犬の年齢や体調によって異なるため、獣医師に相談し、指示をあおぎましょう。
料金の相場は、5種で5000円程度、8種で7000〜9000円程度といわれています。これも地域や病院によって異なり、中には診察代や初診料がかかる場合もあります。
狂犬病ワクチン
狂犬病は、感染した動物に噛まれることで感染する病気です。脳に至る中枢神経がおかされて凶暴化し、最終的には死に至ります。
人間を含むすべての哺乳類が感染し、その致死率はほぼ100%といわれています。世界では年間5万人以上の人が狂犬病によって命を落としています。
昭和25年に狂犬病予防法が制定され、犬の登録とワクチン接種が義務付けられて以来、日本国内での感染はほとんど報告されていませんが、動物の輸入などにより国外から狂犬病が国内に上陸する可能性はあります。
万が一、狂犬病が侵入したときでも、その蔓延を防ぐために、全ての犬が狂犬病ワクチンの接種を受けることが重要なのです。ワクチン接種は動物病院だけでなく自治体の集合会場でも受けることができます。
接種の時期としては生後3〜5ヶ月に1回、2歳以降は1年に1度受けます。一般的に、毎年春になると自治体やかかりつけの動物病院から通知がくることが多いです。
費用は、初回は畜犬登録料を含め6000〜7000円程度、2回目以降は3000〜4000円程度が相場です。
フィラリア症の予防
フィラリアは蚊を媒介して心臓や肺動脈に寄生する寄生虫で、増殖して進行すると心臓疾患を起こし、命を奪うことも少なくありません。
5〜11月頃の蚊が発生する期間に、月1回の予防薬を与えることで予防できます。薬のタイプは、飲み薬や皮膚におとすだけの滴下タイプなどがあります。
すでに感染していると予防薬で副作用を起こすこともあるので、動物病院で血液検査をおこなってから処方されます。
費用は1回1000〜3000円程度で、犬の体重によって異なります。
回虫、鉤虫、条虫の予防
回虫、鉤虫(こうちゅう)、条虫はどれも消化器官などに内部寄生虫で、下痢や貧血、血便や食欲不振などを引き起こします。
感染経路は犬の排泄物などから経口・経鼻感染することが多いが、母犬からの胎盤感染や母乳感染もあります。
症状が出ないこともありますが、寄生虫を持っているとさまざまな病気にかかりやすくなりますから、定期的に検便をしましょう。検便の費用は1回1000〜1500円程度で、寄生虫が確認された場合は駆虫薬を服用します。
また、散歩中にほかの犬の排泄物に口や鼻をつけないように注意することで感染のリスクを抑えることができます。
ノミ・ダニの予防
ノミやダニが皮膚、被毛、耳などに寄生すると、ひどいかゆみを引き起こします。
体をかきむしって傷ができると、細菌が入って皮膚炎になったり、大量に寄生すると貧血を起こしたりします。
1年を通して衛生的な生活環境に気を配り、4〜11月頃に薬を投与すると効果的です。薬のタイプは錠剤、滴下タイプ、スプレータイプなどさまざまで、持続期間も異なります。
市販のものもありますが、獣医師と相談して処方してもらうのがよいでしょう。
防げる病気は確実に防ごう
さまざまな重大な感染症や寄生虫は、ワクチンや予防薬、定期的な検診によって未然に防いだり、重症化を防ぐことができます。
費用はそれなりにかかりますが、しっかり予防しておかないと最悪の場合、死に至ることもあります。
また、犬は自分の不調を言葉で訴えることができませんから、人間よりも病気の早期発見が難しいのです。
獣医師と相談しながらそれぞれの犬にあった予防方法を考え、大切な犬の健康を守ってあげましょう。