本当に動物保護団体?保護ビジネスの実例と信頼できる支援先とは
近年、動物愛護の機運が高まり、動物保護団体も注目されるようになりました。
しかし、保護犬や保護猫を迎えようと考える人々が増える一方で、そのような人たちの善意を逆手に取る「保護ビジネス」が広まっている現実をご存じでしょうか。
そこで今回は、保護ビジネスの事例と、助けを求める保護団体と支援したい人々の架け橋となる「アニマル・ドネーション」の活動をご紹介します。
保護ビジネスの事例
「保護ビジネス」とは、犬猫たちを守る保護団体と見せかけて、お金儲けの道具に利用したり、悪徳な繁殖・販売業者に加担したりするビジネスのことを言います。
事例①ペットショップの保護犬、保護猫
近年の人々の動物福祉への意識の向上を鑑みて、ペットショップで子犬や子猫だけでなく、保護犬、保護猫の里親探しをしている店舗も存在します。
もちろん、本当に動物のためを思い活動している企業もありますが、一見動物保護のように見せかけて、実質は「ただの売れ残った犬猫の販売だった」という場合もあります。
その場合、以下の傾向が見られるそうです。
- 保護犬、保護猫は、なぜか「純血種」か「純血種同士で繁殖したミックス犬」ばかりだった
- 保護された経緯の説明があいまい
- 保護犬、保護猫なのに誕生日がわかっている
- ワクチンの接種や健康診断の費用が相場より高額
- 商品の購入や店舗からペットフードを数年購入し続けること、特定のペット保険への加入を求められる
事例②実は繁殖・販売業者の下請け
2013年に施行された「改正動物愛護管理法」によって、自治体では不当な理由による動物の受け入れを拒否できるようになりました。悪徳な業者による大量の殺処分を避けるための法律ですが、その結果、売れ残った犬猫を、金銭をもらった上で引取り、劣悪な環境にただ放置するだけの「引き取り屋」という存在が生まれ問題になりました。
しかし、近年の動物愛護意識の高まりや、動物虐待にあたる飼育方法の告発などによって、相当数いた「引き取り屋」も徐々に減ってきていると言われています。そして、売れ残った犬猫たちの処分に困った繁殖・販売業者は、近年注目されている動物保護活動に目をつけました。
悪質な例では、あたかも飼育崩壊した繁殖業者から犬猫たちをレスキューしたようにみせ、実際は繁殖・販売業者から売れ残った動物や繁殖を引退した犬猫たちを、金銭を受け取った上で引き受ける団体があるそうです。
里親を探そうとするだけ、まだ「引き取り屋」よりマシなのかもしれません。しかし、悪徳な業者と手を組み、善意ある人々を騙し、金儲けをしている時点で、こちらも悪質だと言えるのではないでしょうか。
信頼できる支援先とは
しかし、現実的には多くの保護団体が資金不足の問題を抱えており、金銭的な支援を求めています。保護犬、保護猫を譲渡する際に寄付金を求める場合もあり、そのお金が一頭でも多くの命を救うために使われるのか、それともお金儲けのためなのか、外部から判断するのは不可能と言えるでしょう。
実際に「動物保護団体に寄付をしたいけど、どこに寄付をしていいか分からない」、「寄付金目当ての悪質な保護団体も存在するらしいので、正当な活動をしている団体を支援したい」という声を聞くことがあります。
また、小規模で資金不足の保護団体や、保護活動で手一杯の団体の場合、寄付を求める告知や自分たちの団体のアピールが上手くいかない場合も多いそうです。
そういった支援先を選べない人々と、賢明に保護活動に取り組んでいる団体を結ぶ活動をしている組織があります。それが「公益社団法人 アニマル・ドネーション」、通称「アニドネ」です。
アニドネでは、自分たちで動物の保護をしたり、里親探しをしたりするわけではなく、そういった活動をしている保護団体の支援を行う、動物保護活動の中間支援組織として活動している団体です。
アニドネのホームページ
https://www.animaldonation.org/
アニドネの認定団体に向けた支援
アニドネが支援する団体は厳しい認定審査を通過した、アニドネ認定団体になります。審査だけでも半年近くかけて行われ、面談や現地調査を含む、綿密な調査が行われるのです。そして、認定だけで終わるのではなく、2年に1度再審査を行ったり、こまめな活動状況のチェックや毎月の報告義務をもうけたりと、厳密な運用が行われています。
アニドネの認定団体になった動物保護団体は、アニドネを通じて寄付金を受け取ることが出来るのはもちろんのこと、認定後も団体ごとに置かれたアニドネの担当者によって、イベント告知や他団体の事例を共有するなどの様々なサポートを受けることが出来ます。
また、アニドネでは認定団体の活動の「見える化」を目指し、保護活動の様子や寄付の使途を積極的に発信しています。
アニドネで保護活動をする方法
アニドネには、個人による支援、法人による支援など、様々な支援方法がありますが、ここでは個人による支援方法をご紹介します。
1.お金による寄付
- オンライン決済で寄付する
- 銀行振込で寄付する
- 賛助会員になる
- ふるさと納税で寄付する
なお、アニドネでは動物保護団体だけでなく、「介在団体」、「伴侶団体」、「啓発団体」といった分野の団体にも支援を行っています。各分野に均等に支援をすることも可能ですし、自分の応援したい分野を支援することも出来ます。
2.モノによる寄付
- 「+イイコト」で商品を購入して寄付できる
- 企業とのコラボレーション寄付に参加する
- 読み終えた本や物品を買い取ってもらい寄付をする
「+イイコト」はアニドネのホームページから企業のページへ飛び、そこでオンラインショッピングをするだけで寄付ができます。ペット関連グッズはもちろんのこと、生活雑貨やジュエリー、ホテル宿泊など選べる商品も様々で、ショッピングを楽しみながら動物福祉への貢献が可能です。
「+イイコト」のページ
https://www.animaldonation.org/various_donation/iikoto/
その他の寄付・支援への参加
- 募金箱を置く
- 募金付き自動販売機を置く
- チラシ・パンフレットを置く
- 無料で支援する(SNSでの拡散や、クリックすると寄付になるサービス、署名活動など)
- ボランティアに参加する
お金や時間に余裕がない場合でも可能なボランティアも用意されています。また、文章、デザイン、広報などの特技があれば、それらを活かしてボランティアをすることも可能です。
ボランティアの中には学生もいて、SNS発信などの分野で活躍しているそうです。
まとめ
動物愛護の法律が厳しくなれば、抜け道をつく「引き取り屋」が現れ、引き取り屋が批判されれば「保護ビジネス」が現れるといったように、動物保護の世界は延々といたちごっこを続けていくのかもしれません。
犠牲になる動物たちのことを思うと胸が痛くなりますが、常に情報のアンテナを張り、支援先は慎重に見定めて、諦めずに保護活動や支援を続けていくことが重要なのではないでしょうか。
保護活動の救いとなるか?!改正動物愛護法における数値規制とは
2019年に「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」が改正され、2022年までに段階的に施行されています。
この改正の特徴の一つとして、動物の飼育に関して初めて「数値規制」が導入されました。
今回は、数値規制を導入した行政側の狙いと、それによって影響を受ける動物保護団体の活動の問題点を解説していきます。
なぜ数値規制を導入したのか
以前までの動物愛護管理法には、適切な飼育の条件となる「飼育頭数」、「従業員数」、「飼育スペースの広さ」などに具体的な規定がありませんでした。
そのため、自治体が不適切な飼育現場を指導するための法的な根拠がなく、悪質な業者に指導することが出来なかったり、業者自身も不適切な飼育環境だという認識がなかったりという問題がありました。
適切な飼育環境を数値で表すことによって、基準を守っていない場合は指導することができ、速やかに改善しなかったり、改善の意思がなかったりする事業者に対しては、最終的に動物取扱業の取り消しも可能になります。
具体的な数値制限とは
2019年の改正動物愛護管理法では、「繁殖年齢や回数」、「飼育環境の温度や湿度」、「臭気の基準」など様々な数値規制が導入されましたが、特に注目したいポイントは「飼育スペース」と「従業員数」です。
飼育スペース
身動きが取れないような狭いゲージに動物を入れっぱなしにし、運動も出来ないような劣悪な環境で飼育するペット関連業者も存在します。
数値による規制が出来ることによって、違反行為が具体的で明確になりました。
■運動スペース一体型飼養等(平飼い等)を行う際のケージ等の基準のイメージ
(画像:環境省「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」より)
従業員数
一人の従業員が世話をする頭数の制限を設けることによって、一人で何十頭、何百頭の動物を抱え、十分な世話をされず放置されるような環境を減らしていく効果が期待できます。
■従業員一人当たりが飼養又は保管をする頭数の上限
犬の場合 | 22年 | 23年 | 24年 | 25年 |
---|---|---|---|---|
ブリーダーなど(繁殖用) | 25 | 20 | 15 | |
ペットショップなど(販売用) | 30 | 25 | 20 | |
動物保護団体など(非営利)※ | 30 | 25 | 20 |
猫の場合 | 22年 | 23年 | 24年 | 25年 |
---|---|---|---|---|
ブリーダーなど(繁殖用) | 35 | 30 | 25 | |
ペットショップなど(販売用) | 40 | 35 | 30 | |
動物保護団体など(非営利)※ | 40 | 35 | 30 |
※動物保護団体などの第二種動物取扱業では、法律の施行後にブリーダー等の第一種動物取扱業から譲渡される動物が増加する可能性が考えられるため、完全施行時期を1年遅らせることになっています。
詳しい飼育基準の数値制限等はこちらをご覧ください
動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~/環境省
厳しい状況におかれたペット業界
先に述べたような動物愛護管理法の数値規制導入にあたって、ペット関連の業界団体や一部の繁殖業者からは、「廃業に追い込まれる業者も出る」と強い反発がありました。
実際に数値制限の導入後に繁殖犬・猫を減らすブリーダーは増えていると言われており、全国のブリーダーに対して実施されたアンケートによると約30%のブリーダーが廃業も視野に入れているとされています。
その結果、一部では13万頭以上の犬や猫に保護が必要になり、殺処分が増えると主張する意見もあります。しかし、そういった行き場のない動物たちの受け皿となる動物保護団体も数値規制の対象となるのです。
保護団体のキャパシティと葛藤
ブリーダーの廃業が進み、手放された動物たちが保護団体へ引き渡されたとしても、保護頭数が法律の数値規制以上に増えてしまった場合、保護団体はスタッフの増員や飼育スペースの拡張を迫られます。
もちろん、それには莫大な資金が必要になり、多くの保護団体の頭を悩ませる問題となっています。
また、動物保護活動をされている方の多くが、1頭でも多くの動物を救いたいと考えています。そうした方々の「保護したいが数値規制のために断らざるをえない」という苦しみは、金銭面だけでなく精神的な負担も強いています。
しかし、保護団体への数値規制で保護が出来なくなる動物が増える一方で、保護団体と称する劣悪な環境の施設を減らすことも可能になるでしょう。
「保護する動物の数」と「保護後の飼育の質」のバランスが非常に難しい問題となっています。
最後に
日本のペット業界の問題として、ペット産業の「大量生産、大量廃棄」が指摘されています。数値規制により悪質なブリーダーが減り、大量生産がなくなれば、大量廃棄つまりは殺処分や遺棄の減少が期待出来るかもしれません。
しかし、それに至るまでの過程で保護団体にかかる負担や、懸念されている殺処分の増加は避けて通れない問題です。
残念ながら、多くのペットたちが幸せに暮らせる環境になるには、まだまだ解決すべき問題が山積しています。まずは多くの人が現状を知り、少しずつでも改善していくことを願います。