ギリシャから学ぶ!野良犬と共生する社会
動物愛護先進国というと、ドイツ、スイス、イギリスなどの国を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。これらの国は充実した動物保護施設や制度、動物に関する法律を厳しくするなどの方法で動物たちを守っています。
一方で動物愛護のイメージがあまりないギリシャですが、それら国とは違ったユニークな方法で野良犬たちの保護を実施しています。
今回は、そんなギリシャの動物保護の実情や課題などをご紹介していきます。
野良犬、野良猫と共生する街アテネ
動物愛護に関心があれば「TNR」という言葉をご存じの方も多いのではないでしょうか。
主に野良猫に対して行われている活動で、「Trap(トラップ)=捕獲する」、「Neuter(ニューター)=不妊手術する」、「Return(リターン)=元の場所に帰す」の頭文字を取っています。
不妊手術済みであることがひと目で分かるように耳の先をカットした猫のことを、その耳の形が桜の花びらのように見えることから日本では「さくら猫」と呼ばれています。
ギリシャのアテネでは猫のTNRはもちろんですが、犬のTNR活動も行っています。アテネの街角では飼い主がいない野良犬たちが、自由にくつろいだり、じゃれあって遊んだりする姿が見られるのです。
飼い主がいない野良犬でありながら、同じ青い首輪をしていて、首輪に付いたプレートには、アテネ市が管理している犬であること、勝手に連れ去ることを禁止する旨、犬の名前などが記載されています。
野良犬を管理し見守る社会
「野良犬を自由にさせて、危険ではないのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、アテネ市では次のような対策を取り、野良犬、野良猫と市民の共生を実現しています。
保護・管理
- 路上などで保護された犬猫はシェルターで保護する
- 予防注射、避妊・去勢手術を行う
- ID番号や保護の履歴などがわかるマイクロチップを装着する
治療・訓練
- 怪我や病気があればシェルターで治療する
- 攻撃的な犬の場合は問題行動を解消するための訓練を受ける
譲渡・見守り
- 譲渡会やアテネ市のウェブサイトで里親を募集する
- 里親が見つからなかった場合は、路上生活で事故に合わないよう交通訓練を行い、元々生活していた場所に戻す
- アテネ市、動物保護団体、地域住民が世話をする地域犬・地域猫となる
きっかけはアテネオリンピック
かつてのギリシャでは、昔の日本と同じように犬猫は放し飼いにされ、不妊手術に対する意識も薄く、子供が産まれてしまった場合は里親を探す、もしくは飼育放棄をしてしまう人もいたそうです。
そんな意識に変化をもたらしたのが、2004年のアテネオリンピック。開催が決定されてから街中にいる野犬たちをどうするかが、大きな問題になりました。アテネ市役所の関係者や市議会では野犬の殺処分を反対する意見が大部分を占めており、保護する方向で議論を進めていくことになりました。
市民の中には殺処分を推進する意見もあり、そういった意見を持つ人々とは地道に話し合い、理解を得られるようにつとめたそうです。また、市内の一部地域で実施された試験的な犬のTNR活動の結果、問題行動が起きなかったこともあり、アテネオリンピック開催時までに犬のTNRが実現出来たのでした。
財政危機を乗り越えて
軌道に乗っていたアテネの動物保護プログラムですが、2009年に起こった財政問題、いわゆる「ギリシャ危機」の影響を大きく受けてしまいます。
行政から割り当てられていた予算は10分の1に削減され、貧困から猫を捨てる人々が増え、猫のTNRにも本格的に取り組まなければならない状況に置かれました。
そんな状況をなんとか乗り越えた最大の要因として、「官民が一体となった動物保護活動」が挙げられます。
財政危機以前は保護プログラムに対する資金が十分にあったため、すでに充実した保護施設や設備が完備されていました。そして、以前は別々に活動していた動物保護団体と行政が、動物保護プログラムを通して連携して活動するシステムが構築されていたことも大きく影響しています。
ギリシャが抱える課題
ここまで、ギリシャの首都アテネの動物保護プログラムを解説してきましたが、ギリシャ全体で見ると、まだまだ課題は多くあります。
2012年、ギリシャ政府は全国の自治体にアテネの動物保護プログラムと同様の取り組みを実施するように指示しましたが、財政危機の影響も色濃く残り、まだ全国的な実施には至っていません。
しかし、外国人観光客が多く訪れるエーゲ海の島々では、そこに移住したドイツやオランダなどの動物愛護先進国と呼ばれる国の人々が主導し、TNR活動を行う動物保護団体も多く存在すると言われています。
まとめ
野犬を保護する、法律を厳しくする以外の「共生する」という選択をしたギリシャ。日本で同じように犬のTNR活動を行うには、法律の改正や一時的な保護施設の整備、動物が苦手な人々の理解など多くの問題があり、実現するにはかなりハードルが高いと言えるかもしれません。
しかし、ギリシャのような選択をした国があると知ることは、動物愛護を考える上で深い学びになるのではないでしょうか。
また、アテネではオリンピックというきっかけがあったとはいえ、動物愛護に行政が深く関わっていることが、野良犬、野良猫と共生する社会を実現できている要因と言えるでしょう。
日本の行政にも、もっと市民や保護団体と連携を取りながら動物愛護に真摯に取り組んで欲しいと切に願います。
殺処分は本当に0なのか。ドイツの動物保護施設「ティアハイム」の現状について。
ドイツでは民間の動物保護協会が運営する「ティアハイム」が、日本でいう保健所や動物愛護センターのような役割を担っています。ティアハイムという名前は、ドイツ語で「動物の家」という意味です。
ペット先進国として有名なドイツですが、このティアハイムに関しては賛否両論あります。
今回はそんなドイツのティアハイムについての現状、世論、日本での動きなどを紹介していきます。
ティアハイムとは
ドイツ動物保護連盟が統括している750以上の動物保護協会とその会員80万人以上が運営する動物保護施設です。
ドイツ全国に1000施設以上あり、保護された動物の殺処分は原則として禁止されています。
ティアハイムの評価されている側面
引き取られた動物は、その動物が本来持つ性質に合わせて飼育されます。
例えば、犬は同類と顔を合わせられる環境であることが重要なので、個室から互いに顔を合わせられる設計にしています。また、羊には牧草地、爬虫類には水辺や木々を用意するなど、生活環境面も配慮しています。
また、引き取った際についていた噛み癖や吠え癖などを直すような仕組み、環境を設けています。施設で保護している間に健康を害さないような工夫や、引き取り手が見つかりやすいようにする工夫がされています。
ヨーロッパ最大級の保護施設、「ティアハイムベルリン」は東京ドーム4個分の総面積を持ち、約140人のスタッフと600人程のボランティア、それぞれ10人程度の獣医師・動物看護士が常駐しています。
施設の一部が一般開放されており、訪れる人も多いようなので、そのことも譲渡率にいい影響を与えているのかもしれません。
日本の場合、ペットを飼いたいとなると、ペットショップに行くと言うのが一般の方の第一選択肢になるかと思います。ティアハイムのように、常に解放されている保護施設があるというのは、その選択肢に加えてもらいやすくなるため、とても良い試みでは無いでしょうか。
そして、ティアハイムの運営費用は基本的には企業や市民からの寄付金・遺贈金で賄われています。
ティアハイムの実情の告発・批判
ドイツの犬雑誌dogsが示した現状
2016年1・2月号のdogsにおいて、ティアハイムの問題点の特集が組まれていました。その主な内容は以下の通りです。
- 安易に飼育し、すぐに手放す無責任な飼い主が多い
- 一般の人に譲渡できない攻撃的な犬が多く、常に満席状態
- 他の国からの犬の持ち込み
- ベルリンのティアハイムでは年間3500頭もの野犬を引き取っている
- 動物愛護ボランティアに対する負担が大きい
善意による活動にも関わらず、責任感の薄い飼い主が現れてしまうのは非常に深刻な問題です。そして、一般的になるに連れて、そのような飼い主も増えていってしまうというのも残念です。
「殺処分ゼロ」
ドイツ、ノルトライン=ヴェストファーレン州のティアハイムに関する収容犬の大規模調査によって、記録された全ての犬のうち26.2%がティアハイム内で安楽死させられていたことが発覚しました。このうち32%は難病であり、その他68%は高齢・攻撃性・スペース不足などの理由であるということです。
また、ティアハイム・ベルリンは日本で「殺処分ゼロ」として紹介されることが多いです。
しかし、公式HPでは「一定の行動障害を示す動物・深刻な傷病・緊急を要する危険の回避のためには殺処分する」と明記されています。
ティアハイムは行政から動物の飼育を委託された場合は年次報告する義務がありますが、私的に個人の飼い主などから引き受けた場合には年次報告書の公表義務はありません。
ティアハイムが「裏ではたくさん殺しているのではないか」などと囁かれるのも、年次報告書を公表していないことが理由の1つと考えられます。
また、以下はティアハイム・アルティントレプトゥが2014年に作成した年次報告書( http://www.tierheim-altentreptowev.de/index.php?option=com_content&view=category&id=118&Itemid=314 )です。
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【2014年後半のティアハイムの収容動物内訳】
8匹の犬(外部への恒久的な飼育移譲3)
68匹の猫
飼い主返還:28
行政からの引受:60
安楽死:34
施設内死亡:15
老犬ホーム預かり:3
このように、実際には安楽死もあるという事がお分かり頂けるかと思います。
とは言え、日本のように、収容期限が来たからという理由で殺処分されることは少ないと思われます。どうしても手に負えない、攻撃行動が染みついてしまった犬猫がいることも事実ですし、病気や怪我で苦しむ動物には苦しまない処置をするというのも倫理的な対応だと言えるのではないでしょうか。
最後に
日本でも、ドイツのティアハイムを理想の形の1つとして掲げる一般社団法人日本トラウムハイム協会が昨年設立されました。
昨年の3月15日には『ドイツのティアハイムモデルの日本導入を目指して!人と犬猫と全ての生き物の命とともに住める夢の家と社会実現に向けて』というタイトルの設立記念シンポジウムが開かれたそうです。
しかしながら、こうしてティアハイムの実情を知ると、動物の殺処分問題や保護に関する具体策などは、やはりとても難しく、一筋縄ではいかないことが分かります。
単純に殺処分ゼロという数字目標だけで語らず、動物たちの生きる権利を尊重する形で検討が進み、「理想世界のお話」という段階で終わらせないことが期待されます。そのためには、飼い主や関係者1人1人が本気でこの問題に立ち向かい、根本から解決をしていかなければならないのではないでしょうか。
よく聞く「クラウドファンディング」ってなに?動物保護の支援にも
皆さんは、「クラウドファンディング」について、聞いたことはあるでしょうか。
全員が知っているというほどの知名度はまだないかもしれませんが、とても素敵な仕組みです。犬・猫などの動物保護活動の支援を行えたり、悩みを解決してくれるような製品を購入できたりします。
今記事では、そんなクラウドファンディングを分かりやすく解説しながら、成功してきた注目のプロジェクトをいくつかご紹介いたします。
クラファンとは
クラウドファンディングとは、クラウド(群衆)とファンディング(資金調達)の造語で、不特定多数の人が、インターネットを経由して資金を募ることを言います。
「自分の本を出版したい」「かつての特産品を復活させて、地域復興をしたい」などの理由によってお金が必要な人に対し、その思いに共感をした人がインターネットを通じて出資・支援をする仕組みです。
日本でも、いくつものクラウドファンディングのサイトが立ち上がっており、支援可能な多くのプロジェクトが立ち上がっています。
クラファンのメリット
実行者のメリット
クラウドファンディングを募る人は、資金を集めることが出来るということが1番のメリットです。長年の夢ややりたいことがあっても、「お金がない」という理由で諦めなければならなかった人が、多くの人の共感と支援によって、夢を形にすることができます。
多くの支援者を集める中で自分の活動をPRすることができますし、話題になってメディアに取り上げられることもあります。
支援者のメリット
支援者は、応援をしたい活動を見つけ出し、応援をすることができます。例えば、動物保護に興味があった場合、保護団体の支援や、シェルターの新たな建築を応援することができます。
また、応援したプロジェクトのリターンとして商品が送られて来るという形のプロジェクトもあります。ここでしか購入することができないものや、世の中にまだ出回っていない商品を手にすることができます。
「こんなもの、欲しいと思っていたんだ!」というものが、自分の支援によって形になり、購入することができます。多くの人が出資することで、商品を形にすることが可能となり、世の中に新たな商品が生み出されます。
クラファンでペットを救う
クラウドファンディングの仕組みを使って、今まで数々のペットを救うプロジェクトが成功してきました。
今回は、成功した3つのプロジェクトをご紹介いたします。
「生かす」施設の建設
神奈川県動物保護センターが行ったクラウドファンディングのご紹介です。「動物を処分するための施設」から「生かすための施設」をつくるため、「ふれあい譲渡室」を建設する資金を募っていました。
神奈川県動物保護センターは、犬の殺処分ゼロを3年間と猫の殺処分ゼロを2年間継続しています(このプロジェクトが立ち上がった2016年時点)。
「殺処分ゼロ」の次のステージとして、動物たちとパートナーが幸せに暮らす橋渡し役となる、新しい施設の建設を試みようと動いています。
このプロジェクトは、最終的に608万円もの支援が集まりました。
殺処分ゼロからその先へ!「殺処分室のない」動物保護センター建設
保護犬の写真集を学校に寄贈
「保護犬のわんこプロジェクト(HWP)」が行ったプロジェクトは、保護犬の写真集を製作し、学校や図書館に寄贈するというプロジェクトです。
保護犬の知名度をあげ、イメージを変えていくことが、保護犬の保護に繋がります。
「犬を飼う第1選択肢が保護犬になるような社会になって欲しい」という思いによって、写真集が作られました。
「保護犬と飼い主さんの素敵なストーリーと写真」に触れることで、保護犬の「言うことを聞かない」「汚い」「怖い」といった従来のイメージを変えます。
また、子供たちが命の大切さや保護犬のことを知ることで、「簡単に動物を飼ったり捨てたりすることは良くない」という価値観を持つことができます。
命の大切さ伝える保護犬写真集を作って学校や図書館にとどけたい
動物愛護団体の活動支援金を生み出すサービス
700名の動物愛から生まれたSNS社会貢献アプリ「mate」は、画期的な仕組みで動物愛護団体の活動資金を生み出すことのできるサービスです。このサービスの応援に、約203万円のお金が集まりました。
こちらのアプリは、自分のペットのお気に入りアイテムを、画像を添えてアプリ上に「投稿する」、アプリ経由で「アイテムを購入する」だけで、動物愛護団体の活動支援金を生み出すことができます。
新しい形で社会貢献、課題解決の出来る仕組みづくりに、多くの共感と期待が集められています。
動物愛護団体を資金面でサポートできるサービスをつくりたい!
mate 社会貢献型e-コマース 動物たちの最新アイテムを見られる・買える・貢献できるアプリ
多くの人の力で、この世界をよりよくしていく
クラウドファディングという仕組みを使って、この世界をよりよく作っていくことができるのではないでしょうか。
プロジェクトを立ち上げる実行者になっても良いですし、興味のあるプロジェクトを応援することも良いでしょう。
過去の記事では、「CATSSUP」という猫の遊び場を簡単に作ることのできる製品のプロジェクトについて取り上げています。
こちらはKickstarterというクラウドファンディングサイトで支援を募っているプロジェクトです。興味のある方は、ご参照ください。