傷つく動物をなくしたい!虐待事件の現状と「どうぶつ弁護団」の活動

動物保護団体の懸命な活動や法律の改正など、動物たちを守る機運が高まっている現代においても、動物への暴力事件や悪質な多頭飼育によるネグレクトなど、動物虐待事件はあとを絶ちません。

今回は、そんな動物への虐待問題に焦点をあてて、その現状と、今までにない動物保護を行う「どうぶつ弁護団」の活動をご紹介していきます。

年々増加する動物虐待事件

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警視庁の発表によると、令和3年(2021年)に全国の警察が検挙した動物虐待事犯は過去最多の170件。平成24年(2012年)は29件であったため、10年間で5倍以上検挙数が増えています。

この検挙数増加の背景には、単純に動物を虐待する人間が増えたというわけではなく、動物虐待を問題視する社会的な関心の高まりや、動物愛護管理法改正の影響により犯罪とされる行為の範囲が広がった影響が考えられます。

世論の追い風や法律の改正によって、動物たちにとってより良い世の中に変わりつつあるのかもしれません。しかし、未だ動物虐待を事件化するのには、高いハードルがあります。

動物虐待事件の認知や捜査の難しさ

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動物虐待事件が発覚しづらい点として、次のような問題が挙げられます。

  • 動物は虐待の被害を自ら申告できない
  • 飼い主から虐待されているケース、野良猫のような飼い主がいないケースなど、虐待を告発できる人間が存在しない
  • 密室で行われると、外部から虐待行為を認識できない

また、警察の捜査が難しくなってしまう点として、次のような問題が挙げられます。

  • 死亡した動物を発見した第三者が埋葬してしまうなど、虐待の証拠が残りにくい
  • 飼育放棄現場では死後時間が経過しているなど、死因がわかりにくい
  • 被害を受けた動物が逃げてしまい、犯人や犯行現場の把握が困難になることがある

弁護士による刑事告発の問題点

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動物虐待を発見し通報した人の中には、「通報しても警察が対応してくれない」、「本当に捜査をしているか不明」といった不満を持つ人も少なからずいると言われています。
各自治体には虐待を通報する窓口がありますが、警察と効果的な連携ができず、摘発につながっていないケースが多いのも問題点として指摘されています。

警察が動きやすくなるためには、民間人と警察がやり取りするのではなく、法律に精通した弁護士が間に入った刑事告発が非常に効果的ではありますが、ペット問題を取り扱う弁護士は少ないのが現状です。

また、弁護士に依頼することで弁護士費用の問題が出てきます。実際に動物虐待事件を扱う弁護士によると、依頼者のほとんどが個人や中小規模の動物保護団体であり、弁護士費用の捻出が難しい場合も少なくないそうです。

全国初の取り組み「どうぶつ弁護団」

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そんな中、2022年9月に動物虐待事件について刑事告発などを行うNPO法人「どうぶつ弁護団」が設立されました。動物への虐待を発見した人が通報しやすい環境を作り、警察の迅速な捜査により、深刻な虐待被害を防ぐことを目的としています。

「どうぶつ弁護団」が行う主な活動

  • 個人や動物保護団体などから提供された動物虐待の情報を独自に調査
  • 調査の上、必要と判断すれば動物愛護法違反罪などで証拠を集めて刑事告発
  • 不起訴になった場合は検察審査会に不服申し立て
  • 動物関係の法令や制度に対しての提言
  • 動物虐待の予防や動物愛護への理解を深める啓蒙活動

通報者は弁護士費用の心配がなくなる

「どうぶつ弁護団」の活動では、今までのように通報者が弁護士費用を工面する必要はなく、賛助会員の会費によって団体を運営していく方針とのこと。(2023年1月導入予定)

費用の心配がなくなることで、今まで見過ごされていた動物虐待事件にも適切な処罰が下される可能性が広がり、動物虐待を予防する効果も期待されています。

弁護士や各分野の専門家をメンバーに

メンバーは弁護士や獣医師で構成されており、今後獣医師はもちろん、医師や研究者など、広い分野の専門家との連携を目指して活動していくそうです。先述したように動物虐待事件は警察が動きづらいケースもありますが、法律や動物の専門家が警察への橋渡しになることで、スムーズに捜査へ繋げられる可能性が高くなります。

特定非営利活動法人 どうぶつ弁護団 ホームページ
https://animal-dt.org/

最後に

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今回は動物虐待問題に焦点を当ててお話してきましたが、動物虐待の処罰や防止は一概に動物のためだけではありません

凶悪な事件を起こした犯人の中には、人間に対する加害の前段階として、動物虐待を繰り返していた人物は少なくないのです。
また、悪質な多頭飼育の現場では、動物が発する臭いや鳴き声などにより、付近の住民が不快な思いをしながらの生活を強いられています。

傷つく動物を減らすことはもちろんですが、わたし達の安全で平穏な生活を守るという観点からも、動物虐待は見過ごしてはならない問題なのではないでしょうか。

あなたは大丈夫?知らない間に「ペットハラスメント」していませんか?

みなさんは「ペットハラスメント」という言葉を聞いたことはありますか?

「パワハラ」や「セクハラ」といった○○ハラスメントという言葉が広く認知されるようになりましたが、中にはあまり聞きなれない名前のハラスメントもあるかもしれません。

今回は、ペットを飼っている人に特に知ってもらいたい「ペットハラスメント」についてご紹介いたします。

ペットハラスメントとは

ペットハラスメントとは
「ハラスメント」とは、いろいろな場面での「嫌がらせ、いじめ」のことです。

ペットハラスメントには大きく分類すると、以下の2種類があります。

  1. 他者へのペットを通してのハラスメント
  2. ペットに対してのハラスメント

一般的には前者を指す場合も多いようですが、後者も広義の意味でペットハラスメントに含まれると言われています。

他者へのペットハラスメント

他者へのペットハラスメント

ペットを飼っている人の中には、無意識のうちに「みんなペットを好きに違いない」という考えや、「うちの子なら大丈夫」という気持ちになってしまうことがあります。

しかしこの世の中には、どうしても動物が苦手な人や、過去にトラウマがあって見ることも触ることも辛い人など、さまざまな人がいます。ペットを通して、動物が苦手な人やそうでない人であっても周りの人にとって迷惑になるような行為はすべて「ペットハラスメント」に当たります

例えば、あなたは以下のような行為をしていませんか?
「私は十分に気をつけているから大丈夫!」と思っていても、もう一度確認してみましょう。

他者へのペットハラスメント① 長すぎるリード、ノーリードで散歩

犬が怖いと感じる人は、散歩中の犬のリードが長すぎたり、ノーリードで歩いていたりすると、「自分に襲いかかってくるのではないか」と不安になります。

犬を自由に歩かせたい気持ちはわかりますが、リードを離すのはドッグランなど犬が自由に走り回っても良いところだけにし、散歩中はしっかりとリードをつけましょう

他者へのペットハラスメント② トイレマナーを怠る

お散歩中、ペットの排泄物を持って帰らなかったり、おしっこをそのままにしておいては、他の人が嫌な気分になります。時にはご近所とトラブルになることも。

私はきちんと水で流しているから大丈夫だと思っていても、実はそれだけでは足りないケースもあります。そもそもペットに外で排泄させること自体、都市部ではNGとされるようになってきています。

犬の散歩中のトイレマナーについては、さまざまな意見があります。詳しくは以下の記事をご参照ください。

犬の外トイレはアリ?ナシ?人間と犬の共生社会を考える

他者へのペットハラスメント③ 他者に向かって吠えさせる

ご近所さんとの問題にもなりやすいのが騒音トラブル。大きな音が苦手な人や、犬を飼ったことのない人は嫌な思いをしているかもしれません。

吠えは、なくすことが難しい面もありますが、しつけによって改善できる可能性も高いです。幼い頃からしつけを行い、それでも無駄吠えがなくならない場合にはしつけ教室に通ったり、ドッグトレーナーに相談するのも一つの手でしょう。

他者へのペットハラスメント④ 他者に飛びつかせる

特にペットが苦手な人にとっては、ペットに飛びつかれることはものすごく恐怖を感じます。ペットにしてみれば、はしゃいでいるだけかもしれませんが、相手の人は怖い思いをしているかもしれません。

愛犬の様子を注意深く見ながら、相手に飛びつかないように飼い主さんが制御しましょう。

他者へのペットハラスメント⑤ 野良犬・野良猫への餌付け

野良犬や野良猫に餌をあげることもハラスメントになります。糞尿による被害もありますが、そこヘまた多くの野良犬・猫が集まってきてしまったり、繁殖しすぎてしまうなど、徐々に地域の深刻な問題へと発展していく可能性があります。

かわいそうだという気持ちはわかりますが、野良犬や野良猫を発見したら、餌をあげるのではなく、まずは近くの愛護団体や獣医師に相談してみましょう。

ペットへのハラスメント

ペットへのハラスメント
ペットへのハラスメントは、ペットに対して飼い主が行うべき責任を果たさず、ペットが不健康になったり、ストレスを受けたりすることをいいます。ペットへの暴力などもペットハラスメントに含みますが、無意識にやってしまっているかもしれないペットハラスメントもあります。

ペットへのハラスメント① ごはんをあげない/あげすぎる

ペットにごはんを与えなかったり、栄養バランスを考えずに偏った食事を与えたりと、ペットの健康管理を怠ることはハラスメントにあたります。

逆に、ペットがかわいいからといって食べ物をあげすぎても肥満の原因になるためよくありません。同様に、お饅頭やケーキをあげてみたり、味の付いたお菓子を与えることも危険です。

飼い主さんが責任を持って、ペットの健康管理をしてあげる必要があります。

ペットへのハラスメント② 運動、散歩を十分にさせない

ペットも、人間と同じように運動をしなければ不健康になってしまいます。ペットによって、またそれぞれの種類によっても、適切な運動量は異なります。

例えば、大型犬の散歩ですと、一般的には「1日2回、1回あたり30~60分ほど」の散歩が必要と言われています。

このように、必要な運動をさせてあげることができず、「忙しくて散歩に行く時間はないから」「部屋で自分で動いているから大丈夫でしょ」と、散歩に全く行かないでいることはハラスメントにあたります。

ペットへのハラスメント③ 留守番が長すぎる

毎日長時間留守番をさせられていると、ペットにストレスがたまったり、不安症になったりする恐れがあります。また、排泄物が放置されて不衛生な環境に置かれたり、ペットの異変に気づけなかったりと、さまざまな問題も起こり得ます。

どんなに元気でお利口なペットでも、お留守番は長くても10時間以内にしましょう。これも個体によって限界である時間は異なりますし、お留守番する環境や時間帯によっても変わってきます。

海外では、6時間以上のお留守番は動物虐待とされ、罰則規定が設けられている国もあるほどです。理想論としては、お留守番の時間は短ければ短いほど良いでしょう。

ペットへのハラスメント④ 嫌がることをしつこくする

蹴る、殴るなどの暴力行為は論外ですが、嫌がっているのに服を着せたり、長時間撮影をしたりと、ペットがストレスを感じることをするのも立派なペットハラスメントです。

ペットはおもちゃではありません。ペットの様子をよく観察して、ペットが嫌がることは極力しないようにしましょう。

ただし、犬種によっては服を着せること自体が良い場合もあります。そのような場合は、トレーニングを積むことで、服を着ること自体が徐々に好きになっていきます。当然ですが、これはここで言うペットハラスメントには当てはまりません。獣医療も同様です。

最後に

犬や猫が苦手な人ももちろんいますし、過去に辛い経験があってトラウマがある人もいるかもしれません。自分がペットを飼っていると忘れてしまいがちですが、「ペットに対してさまざまな想いを抱いている人がいる」ということは忘れてはならないでしょう。

また、ペットに対しても、無意識のうちにストレスをかけて「ハラスメント」をしてしまっているかもしれません。ペットの気持ちをよく考えて、ペットが嫌がることやストレスがたまること、健康を害することはしないように注意しましょう。

動物虐待を発見したらどうする?状況別の通報先とは

2019年6月、動物愛護管理法が改正され、動物虐待の厳罰化がなされました。

法改正や動物愛護団体の取り組みなどにより、動物の殺処分や動物虐待などの問題を解消しようとする動きが高まってきていますが、実際に身近で動物虐待を発見したら、どのような行動を起こせば良いのでしょうか?

今回は、動物虐待を発見した際に通報するべき機関を、状況別にご紹介します。

動物虐待を規制する動物愛護管理法

動物愛護管理法 虐待

動物愛護管理法では虐待の種類を大きく、「積極的虐待」と「ネグレクト」の2つに分けて定義しています。

1. 積極的虐待

意図的に動物を傷つける行為のことを言います。

殴る、蹴る、熱湯をかける、暴力を加える、酷使する、など。
身体に外傷が生じる恐れのある行為だけでなく、心理的抑圧、恐怖を与える行為も含みます。

2. ネグレクト

やらなければならない行為をやらないことを言います。

例えば、健康管理をしない、病気を放置、ご飯をあげない、散歩に連れていかない、衛生管理などの世話をしないで放置する、など。

動物虐待の処罰

2019年6月、動物愛護管理法が改正されたのをご存知ですか?

虐待・遺棄を行った場合の処罰は、「100万円以下の罰金」から「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」に改正され、実刑を受ける可能性が出てきました。

これらの虐待に該当する行為とみなされた場合、該当者は処罰を受けることになりますが、とはいえ、正直まだまだ重い刑とは言えないのが実情でしょう。

【2019年改正動物愛護法】増加する動物虐待。その歯止めになるか?動物虐待厳罰化の背景とは?

動物虐待を見つけたらどこに通報すれば良いのか?

動物虐待の通報

1. 緊急性を要する行為は警察へ

特に殴る、蹴るなど、動物を直接傷つける行為で、早急に対応が必要な虐待行為を発見した際にはすぐに警察に連絡しましょう。

SNS上で虐待の動画を発見した場合も同様です。警察に連絡してください。

2. それ以外の行為は以下の機関へ

その他、動物に対するネグレクト行為などを発見したら、各自治体の以下の機関に連絡しましょう。

各自治体の動物愛護管理センター

各自治体には、動物愛護センターが設置されています。

動物愛護管理法では、第37条の2にて、各都道府県の動物愛護管理センターの業務を以下のように規定しています。

動物愛護管理センターが行う業務
(1)動物取扱業の登録、届出、並びに監督
(2)動物の飼養又は保管をする者に対する指導、助言、勧告、命令、報告徴収、立入検査
(3)特定動物の飼養又は保管の許可、監督
(4)犬・猫の引取り、譲渡し等
(5)動物の愛護及び管理に関する広報その他啓発活動
(6)その他動物の愛護及び適正な飼養のために必要な業務

(2)にある通り、動物愛護センターは動物の飼い主に対して指導や助言、勧告等を行う役割を担っています。

各自治体の保健所

お近くの保健所は、厚生労働省の以下のサイトからご確認ください。
保健所管轄区域案内

各自治体の衛生課

動物愛護管理は、各自治体の衛生科が担当しています。

各自治体の衛生科の連絡先は、以下のサイトからご確認ください。
地方自治体(都道府県・指定都市・中核市)の動物愛護管理行政担当組織一覧

3. 近くの獣医師に相談するのも1つの手

2019年改正動物愛護管理法第41条の2では、獣医師が「みだりに殺された、傷つけられた、虐待されたと思われる動物を発見した際に、遅滞なく都道府県等に通報すること」を、これまでの努力義務から義務として定める改正がなされました。

「警察や各機関に通報するのは気がひける…」という方は、まずはお近くの獣医師さんに相談してみるのも1つの手です。

「アニマルポリス」を設けている自治体も

アニマルポリス

兵庫県警「アニマルポリス・ホットライン」

兵庫県警察は、2014年1月に動物虐待事案等専用相談電話「アニマルポリス・ホットライン」を開設し、犬や猫などの殺傷行為やネグレクト、遺棄などを発見した際に相談できるようになりました。

兵庫県で発生した事案に関してアニマルポリス・ホットラインに連絡をすると、動物愛護関連の法令に詳しい警察官が対応してくれます。

アニマルポリス・ホットライン(動物虐待事案等専用相談電話) 
受付対象:兵庫県下で現に行われている動物虐待等の事案
受付時間:平日9:00~17:00
電話番号:078-371-8974

大阪府「おおさかアニマルポリス」

大阪府では、2019年10月より「大阪府動物虐待通報共通ダイヤル#7122(おおさかアニマルポリス)」を開設し、大阪府内の動物虐待に関して「#7122(悩んだら・わん・にゃん・にゃん)」に通報すると、行政の担当部署に繋がる仕組みが整いました。

兵庫県のアニマルポリス・ホットラインとは違い、警察ではなく行政の担当者に繋がります。

大阪府動物虐待通報共通ダイヤル#7122(おおさかアニマルポリス)
受付対象:大阪府内の動物虐待
受付時間:平日10:00~16:30
ダイヤル:#7122 (繋がらない場合は06-7639-0294)

現在、アニマルポリスを設置している自治体は多くありませんが、動物虐待の通報・対応がスムーズに行われるように、今後全国の自治体に広まっていってほしいですね。

通報をする上で注意したいこと

動物虐待の通報で注意すること

匿名通報にしたい場合は、しっかり伝えよう

通報された側に、自分が通報したことが伝わってしまうと、後々逆恨みされるなど、トラブルになりかねません。
特にご近所の動物虐待に関して通報したいときなどは、自分の情報を秘密にした方が無難でしょう。

自分が通報したことを秘密にしたい場合は、その旨を通報先にはっきりと伝えましょう

発生した場所の住所を把握しよう

通報した際、虐待を発見した場所の住所を聞かれることがあります。

通報先から、位置情報等で住所がわかる場合もありますが、聞かれたら答えられるようにしておくとスムーズです。
もし住所がわからない場合は、周りの建物など、目印を伝えるようにしましょう

動物虐待のない社会へ

動物虐待をなくそう

今回は、動物虐待を発見した際に通報するべき機関をご紹介しました。

動物は、自分から虐待を訴えることができません。誰かが通報してくれない限り、残念ながらその後も虐待され続けることでしょう。

動物虐待を発見したら「自分は関係ない」と思わず、迷わず通報をするようにしましょう。

【2019年改正動物愛護法】増加する動物虐待。その歯止めになるか?動物虐待厳罰化の背景とは?

2019年6月参議院本会議で、議員立法の改正動物愛護法が、全会一致で可決、成立しました。

主に、犬猫の販売を認める時期を、これまでの生後7週超えから8週超えに改定すること、犬猫へのマイクロチップ装着・登録の義務化、ペットの虐待に対する厳罰化など多くの改正が行われました。

【2019年改正動物愛護法】生後56日以前の販売を禁止する「8週齢規制」とは?

【2019年改正動物愛護法】マイクロチップ装着の義務化の目的と懸念に迫る

今回は、それらの多くの改正の1つである「ペットの虐待に関する厳罰化」について取り上げ、その中身を詳しくご紹介していきます。

動物愛護法とは


正式名称は動物愛護管理法で、人と動物の共生を目指し、動物の愛護と適切な管理方法について定められた法律です。

すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするだけでなく、人間と動物がともに生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知った上で適正に取り扱うことができるように定められています。愛護動物を虐待したり遺棄することは犯罪となり、違反すると懲役や罰金に処されます。

※愛護動物とは
1. 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、及びあひる
2. その他、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

虐待の禁止

動物虐待とは、不必要に動物を苦しめる行為のことを言い、主に次のような行為が含まれます。

  • 正当な理由なく動物を殺したり傷つけたりする行為
  • 必要な世話を怠ったりケガや病気の治療をせずに放置する、充分な餌や水を与えないなど、「ネグレクト」と呼ばれる行為

なお、食用にしたり、治る見込みのない病気やけがで動物がひどく苦しんでいるときなど、正当な理由で動物を殺すことは虐待ではありませんが、その場合でもできる限り苦痛を与えない方法をとらなければならないとされています。

遺棄の禁止

動物の飼い主には、動物を最後まできちんと飼う責任が義務付けられています。飼っているペットを捨てるという行為は、立派な犯罪なのです。

動物の遺棄は動物を危険にさらし、飢えや乾きなどの苦痛を与えるばかりでなく、近隣住民への迷惑や農業被害・生態系破壊が懸念されるため、禁止されています。

改正された内容


今回の法改正では、上記の「虐待・遺棄の禁止」に違反した場合に課せられる懲役や罰金が厳罰化されました。

これまでの法律

  • 愛護動物をみだりに殺したり傷つけた者には「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」
  • 虐待・遺棄を行った場合は「100万円以下の罰金」

今回の改正

  • 愛護動物をみだりに殺したり傷つけた者には「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」
  • 虐待・遺棄を行った場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」

また、今回の改正で、みだりに飼養密度が著しく適正を欠いた状態で飼養するといった「多頭飼育」状態の場合も虐待の一つであることが例示されました。

改正された背景

猫
今回の法改正での動物虐待の厳罰化には、どのような背景があるのでしょうか。

動物虐待の増加

動物虐待の件数は年々増加しています。2018年の検挙件数は全国で84件と、6年連続で前年を上回っているのが現状です。その内訳は猫が51件、犬が28件の他、カメやハムスターなどもありました。

近年の動物虐待の悪質化

近年の動物虐待は、実際に動物を虐待する様子を動画で撮影し、それをインターネットに投稿するなど、より悪質化している傾向にあります。また、その投稿された動画に対し、虐待行為を煽るような書き込みがされ、虐待がエスカレートしていくなどの事態も増えています。

2017年12月、男が猫13匹を虐待し死傷させた事件が一例として挙げられます。この男は、インターネット上に猫に対して熱湯をかけたり、バーナーで焼いたりなどした様子を撮影した動画を投稿しており、「芸術品だ」などといった称賛の書き込みがあったため行為がエスカレートしていきました。

男は動物愛護法違反の罪に問われ、懲役1年10ヶ月執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。動物を愛する一般の人から見ると、執行猶予がついており、その虐待の内容から考えても、決して重くはない判決と言えます。

改正前の罰則

改正前の罰則は、動物の殺傷については「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」でした。一方で刑法では3年以下の懲役の場合、「執行猶予をつけることができる」とされています(刑法25条)。

そのため、どんなに動物を虐待しようと、懲役の上限が2年以下であったため、執行猶予の対象となってしまっていました。何度も繰り返さない限り、実刑はないという現状であったのです。

これが上記の判決内容から感じる「違和感」につながっていたわけです。今回の法改正が施行されることにより、この例のような事件は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に処される可能性が出てきました。これにより、執行猶予のない実刑判決が可能になります。

動物・人が共生できる幸せな未来のために

犬との絆
ここ数年、動物虐待による検挙件数が増加し続けています。また、SNSの普及などにより、虐待の状況などが写真や動画撮影され、拡散され、そしてマニアの間で広がっていくという悪循環も見られるようになりました。

このような社会で私たちにできること。それはこのような犯罪が起きていることを知り、そしてそれらを見かけた際には、すぐに警察に通報することではないでしょうか。また、私たち飼い主がネグレクトなどの動物虐待を行い、加害者になってしまうことがないよう、ペットの飼育に関する正しい知識を身につけることが重要です。時には、衝動的に動物を飼わないということも必要です。

動物を虐待するという行為自体も許せないものですが、動物虐待は凶悪犯罪の前触れとも言われます。凶悪犯罪を防ぐという意味でも、動物虐待という犯罪を重く受け止め、そして厳罰化するという法改正は評価できるものではないでしょうか。

【2019年改正動物愛護法】マイクロチップ装着の義務化の目的と懸念に迫る

2019年6月参院本会議にて、議員立法の改正動物愛護法が全会一致で可決、成立しました。

犬猫の販売を認める時期を、これまでの生後7週超えから生後8週超えに改定すること、犬猫へのマイクロチップの装着・登録の義務化、ペットの虐待に対する厳罰化などが改正法の主な柱として盛り込まれています。

今回はその中でも特に、マイクロチップ装着の義務化に関してお伝えしていきます。

マイクロチップって何?

マイクロチップ
マイクロチップは「動物の個体識別」を目的とした直径2mm、全長11~13mmの円筒形の電子機器で、15桁の番号が書き込まれたICが封入されています。この番号を読み取り機で読み取ることで、登録された動物の名前や生年月日、種類に加え、飼い主の名前や住所・連絡先を確認できます。

マイクロチップの埋め込みは、少し太い注射器のような専用の埋め込み器を使って行われ、犬猫であれば通常、首の背面の皮下に埋め込まれます。なお、マイクロチップの表面は生体適合ガラスで覆われており、埋め込みによる副作用はほとんどないようです。

今回の法改正で、ペット販売業者に対し、飼い主にペットを販売する前にマイクロチップを装着することが義務付けられることになりました。販売業者が装着したマイクロチップに、飼い主が後から情報をデータとして登録できるようになっています。

ちなみに、動物愛護団体等が犬猫を一般の飼い主に譲渡する場合や、すでに犬猫を飼っている場合には、義務ではなく「努力義務」になる見通しです。

マイクロチップ義務化の目的

迷子
これまでもマイクロチップは多くのペットの飼い主の間で普及していましたが、マイクロチップの装着を法律で義務化することにはどのような目的があるのでしょうか?

虐待・遺棄防止

マイクロチップが装着されていることで、飼い主は自分の情報が書き込まれていることを自覚するため、虐待や遺棄を抑制する効果が期待されています。

義務化される前からペットにマイクロチップを装着する飼い主はたくさんいましたが、「マイクロチップを自主的に装着するような人の中に虐待や遺棄をするような人は少なく感じられるため、そうした問題の防止にはなかなか繋がりにくいのではないか?」という意見もあり、今回の義務化には期待の声があがっています。

マイクロチップの装着による虐待・遺棄対策に加え、これまで動物の殺傷に対して課せられていた罰則は「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」へ強化され、虐待についても1年以下の懲役が加えられることになりました。

迷子のペットの飼い主探し

災害等で迷子になってしまった犬猫を発見した際、マイクロチップが埋め込まれていればすぐに身元を確認でき、飼い主の元に届けられます。現時点では、飼い主が見つからない保護動物は最悪の場合、殺処分されてしまいます。マイクロチップの埋め込みにより、そのような災害時にはぐれてしまっても飼い主の元に戻ってくる可能性が高まることが期待されています。また、これにより迷子になってしまったペットの殺処分も減らせるかもしれません。

首輪の鑑札で身元を特定できる場合もありますが、室内犬の場合は散歩のときしか付けなかったり、何かの衝動で外れてしまう可能性もあります。マイクロチップであれば常に身体の中に埋め込まれており、外れる心配もありません。

ペットの盗難防止

首輪の鑑札等は簡単に偽装できてしまうため、ペットを盗まれたとき、証拠としての効力は比較的小さいと言えるでしょう。

一方で、マイクロチップは体内に埋め込まれており、取り外し・書き換えをすることができないので、決定的な身元証明として有効です。

マイクロチップ義務化への懸念

ハト
以上のように、さまざまな効果が期待されて義務化されることが決まったマイクロチップですが、問題点もいくつか指摘されています。

100%情報が読み取れるわけではない

動物が怯えたり暴れたりして上手く読み取り機をあてられなかった場合や、機械の不具合により情報の読み取りに失敗することがあります。

さらに、マイクロチップには種類が複数あり、マイクロチップと読み取り機が異なる規格であった場合、読み取りに失敗することもあり、今後、国全体として規格の統一を行っていく必要があるでしょう。

ペットと野良の差別化に繋がる?

販売される動物へのマイクロチップ装着を義務化することで、マイクロチップが埋め込まれている「ペット」と、埋め込まれていない「野良」の権利を差別化することにつながるのではないか、という意見もあります。

ペット同様、野良猫・野良犬への虐待は動物愛護法で禁止されていますが、マイクロチップの義務化により、マイクロチップが埋め込まれていない動物は飼い主がいないとみなされ、処分の対象になりやすくなるかもしれません。マイクロチップの義務化は、ペットの殺処分を減らせるかもしれませんが、ペットとして飼われている動物と、そうでない動物の権利に違いを生み出す原因となってしまう可能性もありそうです。

法律はどこまで動物を守れるか?

法律
今回は、2019年6月に可決された改正動物愛護法について、主にマイクロチップの装着義務化に焦点を当てて考えました。

マイクロチップの埋め込みには、ペットの虐待や迷子、盗難対策などの効果が期待されています。一方で、画期的なマイクロチップでも、不確実性や野良として生きる動物の権利の差別化といった懸念も寄せられています。

また、全ての人が法律を遵守するとは限らず、法律が全ての動物の権利を確実に守れるわけではありません。動物の権利を守るには、法律だけではなく、やはり個人個人の意識も重要でしょう。

そして、法律はそれがどのように運用されるかが最も重要になってきます。法律だけ制定されても、その運用と監視が機能しなければ、何の意味もありません。私たち、飼い主も自分たちのペットに関する重要な法律ですので、施行後、どのように運用されるのか注目していきたいですね。