下痢や嘔吐の原因?ペットの消化器を休める食事管理とは
嘔吐や下痢といった消化器症状は、動物の体調不良の理由として一般的です。
これらの症状は肝臓や腎臓などの病気でも見られますが、基本的には消化管(胃、腸など)での異常が原因となります。
また消化管は食べ物が通過する道でもあり、消化管の機能が弱っている時には食事の内容にも気を使う必要があります。
そこで、今回は、消化器疾患における食事管理についてご紹介します。
消化器疾患における食事管理の必要性とは?
犬や猫に消化器症状が認められている場合、消化管の運動低下や消化吸収の機能低下が起こっていると考えられます。
そんな状態のところに、さらに脂っこいものや消化に悪いものが入って来たら、何となく大変だというイメージがありますよね。
弱っている消化管に鞭を打つような真似をすれば、病気はますます悪くなります。
また、消化器疾患には、症状として食欲不振が現れることも多くあります。
食欲が無くても食べたくなる、その上でお腹に優しい食事が必要となります。
消化器疾患における食事に求められること
では、実際に消化器疾患の時の食事に必要なこととは何でしょうか。
ここでは、特に注意したい項目を挙げてみます。
高消化性(消化に良いもの)
消化性に優れている食物は、消化管に対する負担が少なく、食事中の栄養素を十分に吸収できます。
また、未消化の食物は悪玉菌の餌となることもあるため、しっかりと消化することはとても大切です。
ここで言う高消化性の食べ物とは、良質なタンパク質や良質な脂肪分を含む食品のことです。
高エネルギー(少量でもエネルギーが得られるもの)
活動をするためにはエネルギーが必要です。
しかし、エネルギーを得るために食べ過ぎてしまうと、消化管への負担となります。
少量でもしっかりとエネルギーが得られる食事を選択しましょう。
高嗜好性(ペットの食欲をそそるもの)
食欲不振の症状が見られる場合に、食べる気力を起こさせることも大切です。
確かに食べ過ぎは消化管に負担をかけますが、食べないことには体力が落ちてしまいます。
病気に打ち勝つためにも、ペットには良いものを食べてもらいたいのです。
食物繊維のバランス
食物繊維と聞くと、何となくお腹に良いような印象がありませんか?
確かに食物繊維は消化管の運動を促進し、体内の毒素を排泄するのを助けるはたらきがあります。
しかし、一方で、食物繊維は消化に悪いため、食事に配合しすぎると消化器症状を悪化させることもあります。
消化管のどこに異常があるのか、現在の症状は何が現れているのかなどを評価した上で、適切な量の食物繊維量を考えていきましょう。
水分
嘔吐や下痢によって体内の水分は失われています。脱水状態は循環血液量を減少させ、各臓器に悪影響を及ぼします。
また、食欲不振のせいで水を飲むのも気持ち悪い状態であることも考えられます。
そんな時に食事と一緒に水分を摂れるよう、缶詰タイプの食事や、ぬるま湯でフードをふやかすなどの工夫が必要です。
食事の量
ここで言う食事量は、カロリーベースの食事量のことです。
嘔吐や下痢が見られているのに、普段と同じ量を与えても消化管に負担を与えるだけです。
消化管を休めるためにも、いつもより少ない量から徐々に普段の量に戻していくなどの工夫が求められます。
例えば1日で1,000kcal必要な動物に嘔吐が見られた時には、まずは1日200kcal、徐々に増やしていって3~5日かけて1,000kcalの量に戻していくなどです。「消化管に休みを与える」ことが最優先となり、食事量が少ない時にもしっかりと栄養が摂れる食事が必要となります。
各メーカーのペット用おすすめ消化器疾患療法食
消化器症状は、犬猫で最も一般的に見られる症状であると言っても過言ではありません。
そのため、各メーカーでも消化管に配慮した様々な療法食を販売しています。
ロイヤルカナンの消化器サポート
消化器疾患を呈しているペットや、栄養要求性が高まっている動物に向けての療法食です。
消化性の高い原材料を使用し、少ない食事量でも十分なカロリーや栄養を摂取できるように調整されています。
さらに、健康的な腸内細菌バランスに考慮し、可溶性食物繊維を配合しています。
また膵炎などの脂肪を制限したい疾患の時には低脂肪タイプのものもあります。
ヒルズのi/d
高消化性と消化ケアに適した栄養素性を実現しているフードです。
この高消化性は、自然由来の可溶性繊維と不溶性繊維の適切なバランス配合によります。
また、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸を配合することで、免疫系や皮膚被毛の健康も同時にサポートします。
ごはんを手作りする際の注意点
添加物や自然由来にこだわる方は、食事を自作するかもしれません。
そんな時に気になるのは、「お腹に優しいとは具体的にどういうことなのか」でしょう。
そこで、手作り食を与える際に注意したいことについてご紹介します。
必要な栄養素と食材
消化管に配慮するなら、以下のような食材をベースに食事を作ります。
- 良質なタンパク質:鶏ムネ肉、脂身の少ない肉、白身魚など
- 食物繊維:サツマイモ、キャベツ、オカラ、カボチャなど
食物繊維は、異常が大腸にあるか、胃や小腸にあるのかで配合すべき量が異なります。そのため例え下痢をしているとしても、自己判断で食事を変更するのはむしろ逆効果になることもあります。
消化器症状が見られている場合には一度動物病院を受診し、食事についても獣医師に指示を仰ぐとよいでしょう。
控えるべき食べ物
消化管に負担を与えるような食材はNGです。
- 脂っこいもの
- 大きくカットした野菜(野菜は細かく切りましょう)
基本的に消化しづらいものは与えないようにしましょう。
自分が気持ち悪い時に食べたくないものは、動物も食べたくありません。
まとめ
消化器疾患の治療には、内科療法と同時に食事の指導をすることがほとんどです。
求められる栄養やカロリーは、その子の年齢や体重、健康状態に左右されるために計算は複雑です。
わからないことがあれば、かかりつけの獣医師に相談してみることをおすすめします。
【獣医師監修】猫の下痢の原因は?チェックすべきポイントを徹底解説
愛猫が下痢をしたら、飼い主のみなさんは何を疑うでしょうか。「単にお腹の調子が悪かっただけだ」と思うかもしれません。
しかし、猫の下痢は重大な病気のサインである可能性もあります。猫の病気に対する正しい知識がなければ、大切な愛猫の病気のサインを見逃してしまうかもしれません。
今回は、猫に下痢が見られた際に考えられる疾患や飼い主さんができることを、獣医師が詳しく解説していきます。
そもそも下痢とは
下痢とは、水分を多く含んだ便のことで、その量は一般的に通常よりも多くなります。糞便量が多くなることで、トイレに行く回数も自然に増えます。
消化器系疾患において、下痢は嘔吐と並んでよく見られる症状であり、猫でも決して珍しいものではありません。
小腸性下痢と大腸性下痢
下痢は病変の部位によって「小腸性下痢」と「大腸性下痢」に分類され、それぞれ症状に特徴があります。
その臨床徴候を下表にまとめました。
小腸性下痢 | 大腸性下痢 | |
---|---|---|
糞便量 | 著名に増加 | 正常~軽度の増加 |
排便回数 | 正常~軽度の増加 | 増加 |
しぶり | 稀 | あり |
糞便中粘膜 | 稀 | あり |
未消化物 | あり | なし |
疼痛 | なし | 時々 |
糞便中血液 | 黒色便、タール便 | 鮮血便 |
しぶりとは、残便感があるのに排便がない状態のことです。腹痛や肛門の筋肉の痙攣が原因で、大腸性疾患の際に認められます。
内臓の出血と便
消化管内で出血があった際や、胃や小腸などの消化管上部での出血では腸内で血液が消化されることで、便が黒くなります。
一方で、大腸での出血の場合では、赤い血液の付着した鮮血便が認められます。
動物病院を受診する際に聞かれること
下痢を呈する疾患は様々で、どこに原因があるかによって治療法も変わってきます。そのため、正確で迅速な診断が求められます。
猫が下痢をして受診する際は、予め次のような問診の内容を把握しておけば、早期診断に繋がるかもしれません。
- いつから: 急性か慢性かなど
- 便の性状: 色、臭い、水分量(水様、泥状、軟便など)
- 他の症状: 嘔吐、黄疸、食欲不振など
- ゴミ箱を漁っていないか: 異物、毒物の可能性
猫の下痢で考えられる疾患
では、猫に下痢が見られた際にはどんな疾患が考えられるのでしょうか。
事前にしっかり把握しておくことで、猫の重大な病気にいち早く気づいてあげましょう。
猫汎白血球減少症
猫パルボウイルスの感染による感染症です。突然の下痢や嘔吐のために衰弱、脱水を起こします。
十分な免疫力を持っていない子猫に発生が多く、成猫ではワクチン接種による予防が可能です。
消化管内寄生虫症
種々の寄生虫による腸炎や消化吸収障害によって下痢が生じます。
駆虫薬による治療や予防が可能ですが、環境中の寄生虫を殲滅しない限り感染を繰り返すため、飼育環境を常に清潔に保つことが大切です。
炎症性腸疾患
リンパ球プラズマ細胞性腸炎や好酸球性腸炎に分類される、下痢を主徴とした炎症疾患です。長く続き、一般的な下痢に対する治療にも反応しない下痢や嘔吐の場合には本疾患を疑います。
しかし、確定診断には内視鏡下での組織生検が必要であり、猫に大きな負担をかけることになります。
消化管内腫瘍
猫における消化管内腫瘍は、消化器型リンパ腫が非常に多く見られます。高齢猫で嘔吐や下痢などの消化器症状を呈する場合にはリンパ腫を視野に入れて検査を行います。
一方で、消化器型リンパ腫は小腸に腫瘤(しゅりゅう)性病変を作らないパターンもあり、パッと見ただけでは腫瘍と気付かないこともあります。
肝リピドーシス
いわゆる脂肪肝のことで、肥満以外にも様々な原因で発生します。脂肪肝の原因は、代謝やホルモンの異常、栄養素の不均衡、毒性物質、先天性代謝異常などです。
他にも、2週間以上にわたる長期的な食欲不振でも肝リピドーシスが発生することがあります。そのため、猫で食欲の異常を見つけたら放置せずに、食欲不振の原因を除去する必要があります。
また、肝リピドーシスの治療では鼻からカテーテルを入れて強制給餌を行うこともあります。
胆管肝炎
猫の慢性肝疾患で最もよく見られるのが胆管炎・胆管肝炎です。胆管肝炎は細菌が関与し、炎症性腸疾患や膵炎などを引き起こす化膿性のものと、炎症が胆管にのみ限局する非化膿性のものに分けられます。
化膿性胆管肝炎では急性の経過を取ることが多く、早期発見・早期治療が重要です。
膵炎
猫での膵炎(すいえん)の発生は多いとされていますが症状は劇的ではなく、嘔吐や下痢が見られることもありますが、元気消失や食欲不振のみのこともあります。
猫で膵炎が重要視されるのは、膵炎の他に、胆管肝炎や肝リピドーシス、炎症性腸疾患を続発することが多いからです。また、膵炎が慢性化することも多く、消化器症状と長期的に付き合っていくことも少なくありません。
甲状腺機能亢進症
高齢の猫でよく見られる疾患です。ホルモンを分泌する甲状腺組織の過形成や腺腫によって、過剰に甲状腺ホルモンが分泌されることにより起こります。
下痢や嘔吐の他に、食欲亢進と体重減少が顕著であり、治療を行わないとどんどん衰弱していきます。食欲はあるのに痩せていく現象が見られたら、この疾患の可能性が高いです。
猫が下痢をしたとき注意すること
猫の下痢は痕跡が残るため、飼い主さんが最も気付きやすい症状の一つです。
下痢は単なるお腹の不調や食べ過ぎが原因とは限らないので、異変を感じたら早めに動物病院を受診しましょう。
動物病院に便を持参するとよい
居住空間を清潔に保つため、すぐに便を片づけてしまいがちですが、ちょっと待ってください。
「便には多くの情報が詰まっています」。
猫は言葉が話せない分、便などから健康に関する情報を得る必要があります。できるだけ排泄してから時間の経っていない便を持参すると、動物病院でスムーズに糞便検査を行えます。
まとめ
排便は、健康状態を表す重要なバロメーターです。日常的に便を観察することで、愛猫の健康管理を行うことができます。
人間側が猫の異常を感知し、すぐに対応することができると素晴らしいですね。
【獣医師監修】猫の嘔吐は正常な場合も!見分けるポイントをご紹介
猫の飼い主さんなら、一度は猫の嘔吐に遭遇したことがあるでしょう。
猫によっては健康でも吐くことはあります。しかし、確認した嘔吐が本当に正常かどうかを判断できますか?また、吐き戻しが連続して、1日に何回も確認できた場合はどうでしょう?
今回は猫における嘔吐について獣医師が詳しく解説していきます。
嘔吐と吐出
「吐き戻し」には、「嘔吐」と「吐出」の2つがあります。嘔吐は日常でも聞いたことがあるかもしれませんが、吐出は聞きなじみのない方もいるのではないでしょうか。
それぞれの違いについて見ていきましょう。
嘔吐とは
嘔吐は、延髄の嘔吐中枢が様々な原因により刺激されることで起こり、胃の内容物が食道に押し上げられて口から出る現象です。
他にも空嘔吐と呼ばれる、横隔膜と腹壁の連続的な動きが見られることが特徴です。
吐出とは
一方、吐出は咽頭や胸部食道の内容物を受動的に吐き出すことを言います。
受動的なので腹部に力が入ることはなく、気持ち悪いような様子も見られません。
また吐物に胃液を含まないため、吐物は酸性よりもむしろアルカリ性を示すことも特徴で、嘔吐との鑑別のためには重要なポイントです。
猫の嘔吐で動物病院を受診した際に聞かれること
嘔吐を主訴とする動物病院への来院は非常に多く、また嘔吐を示す疾患も多岐にわたります。どこに異常があるのかは検査をしてみて初めてわかりますが、全ての検査を行おうとすると猫に大きな負担がかかってしまいます。
そこで問診を行うことで、ある程度の当たりを付けられる場合があります。
猫の嘔吐で動物病院を受診する際は、事前に次のようなポイントを把握しておくとスムーズです。
- いつから: 急性か慢性かの判断
- 誤食の可能性: ゴミ箱など漁った形跡がないか、異物や毒物の可能性
- 病歴と治療歴: 嘔吐を誘発する薬剤の服用、他の疾患の既往歴
- 食事との関連: 食事の変更(食物アレルギーの有無)、食後どのくらいの時間で嘔吐するのか、食事とは関係ないのかなど
- 嘔吐物の様子: 内容物、色、臭いなど
猫の嘔吐で考えられる疾患
嘔吐が症状として見られる疾患はたくさんあります。
全てを紹介することはできませんが、代表的なものをピックアップしました。
膵炎
猫において膵炎は非常に多い疾患です。
嘔吐の他に下痢、発熱、食欲不振などの消化器症状を呈します。
また十二指腸炎や胆管肝炎を併発することも多く、これら併発症の有無を検索する必要もあります。さらに膵炎が慢性化する場合もあり、長期的な管理が必要となることもあります。
異物
いたずら好きな性格の子や若い猫に多く見られます。
体の大きさの割に大きいものを口に入れることも多く、腸閉塞を起こすことが考えられます。
また、尖ったものは胃粘膜や腸粘膜を傷つけることもあり、最悪の場合は消化管を穿孔してしまいます。
さらに猫は紐などの細長いもので遊ぶことが好きな子が多く、誤って飲み込んでしまうとほとんどの場合、手術によって摘出しなくてはなりません。
炎症性腸疾患
小腸または大腸における原因不明の炎症によって、慢性的な腸障害を示す疾患です。
確定診断は内視鏡による腸の生検によりますが、全身麻酔が必要なために診断が難しい疾患でもあります。
嘔吐の他に慢性的な下痢も見られることが多く、食欲不振や体重減少も認められます。
腫瘍
猫における消化管の腫瘍としては、消化器型リンパ腫の発生が重要です。
FeLV(猫白血病ウイルス)陰性の老齢猫での発生率が高いとされています。そのため、中高齢猫で慢性的な嘔吐が見られた場合には、まずリンパ腫の存在を疑います。
血液検査のみでは炎症性腸疾患との鑑別は困難であるため、超音波検査や細胞診を併用することによって診断を行います。
慢性腎不全
猫における最も一般的な嘔吐の原因となります。
猫は古代エジプトでも飼育されていた記録があり、もともと砂漠の動物であるため余分な水分を排泄しないように濃縮された濃い尿を出します。そのために腎臓は生まれた時からフル稼働状態となるので、年齢とともに腎不全になる可能性が高くなります。
慢性腎不全になると、尿の排泄によってしっかりと体外へ毒素を排出できるよう、皮下補液による水分の補給が必要となります。また失われた腎機能は改善することはないため、若い年齢のうちからの腎臓へのケアは非常に重要です。
甲状腺機能亢進症
甲状腺は頸部腹側にある臓器で、基礎代謝に関与しています。甲状腺機能亢進症は、甲状腺から分泌されるホルモンが増加することで、食欲亢進と著しい体重減少を呈する疾患です。
また攻撃性も亢進するため、年齢とともに性格が変化したなどの徴候も甲状腺機能亢進症を疑う所見です。
血液検査によって血液中の甲状腺ホルモンを測定することで診断が可能なので、定期的な健康診断が早期発見のカギとなります。
猫は毛玉を吐く習性がある
猫を飼ったばかりの人は驚くかもしれませんが、猫は毛玉を吐き出す習性があります。
これは、猫が毛づくろいをした際に飲み込んだ毛が便として排出されず、体内にたまった毛玉を口から排出するためです。一見、苦しそうに見えますが、吐いた後に食欲もあり、体調に影響がないようであれば問題ありません。
しかし、吐こうとする仕草を見せるのに、毛玉を吐き出せない場合は、胃の中で毛の塊が形成されて排出できなくなってしまっている可能性があります。悪化すると開腹手術が必要になることがありますので、気付いたら早めに動物病院を受診しましょう。
なお、日頃からブラッシングを行うことで、猫の飲み込む毛量を減らすことができます。
猫の嘔吐で受診すべきか見分けるポイント
猫に嘔吐が見られた際に動物病院を受診するかは非常に悩むところだと思いますが、連続した嘔吐や、嘔吐の他に臨床症状が認められる時には迷わず動物病院を受診しましょう。
一概には言えませんが、嘔吐の後に食欲があれば少し様子を見ても大丈夫なケースが多いです。しかし、少しでも様子がおかしいと感じた時は、その感覚を信じてすぐに動物病院を受診してください。
まとめ
猫の嘔吐はよく見られる症状のため、必ずしも体調が悪かったり、病気を患っているということではありません。
飼い主の判断が重要となる臨床症状であるため、異常を異常と感じ取れる嗅覚を日頃から養っておくことが重要です。
【獣医師監修】犬が嘔吐した!動物病院に行く前のチェックリスト
犬の嘔吐は決して珍しいものではありません。犬を飼っていれば、誰しもが一度は犬の嘔吐に遭遇するでしょう。
犬が吐いてしまったとき、動物病院に連れて行くべきか迷う方もいるかもしれません。
犬の嘔吐は、怖い病気が原因の可能性も、病気以外の原因がある可能性もあります。突然の嘔吐に焦らないように、犬の嘔吐について獣医師と一緒に学んでおきましょう。
嘔吐って何?
嘔吐とは、一度胃の中に入った食べ物などが逆流し、口から出る現象です。これは、延髄にある嘔吐中枢が興奮することで起こり、「悪心」(気持ち悪さ)と「空嘔吐」(横隔膜と腹壁を動かす連続的な動き、吐く兆候)を伴います。
嘔吐は消化器疾患以外にも、大脳や小脳といった中枢、またはさまざまな末梢からの刺激によっても誘発されます。
吐出との違い
同じように口からものを吐き出す症状には「吐出」という、嘔吐によく似たものがあります。
簡単に言うと嘔吐は胃から内容物を吐き出すのに対し、吐出は咽頭や胸部食道から内容物を吐き出すことをいいます。
実際に、嘔吐と吐出では考えられる疾患は全く異なるので、区別はしっかりする必要があります。しかし、吐物を見ただけでは両者の鑑別は難しく、「気付いたら吐き戻した痕跡があった」という証言だけでは何とも言えません。
嘔吐と吐出を見分けるには、吐物のpH(嘔吐は胃液が含まれるので酸性)を調べる、吐き戻し前の動作を確認するなどの方法があります。
動物病院で聞かれること
嘔吐を主訴に動物病院を受診した場合、問診では以下のことを聞かれることが多いです。
これらの質問に答えられるように、予め様子を把握しておくことで診断がスムーズに進められるかもしれません。
- いつから:急性嘔吐(嘔吐発現してから1週間以内)と慢性嘔吐(1週間以上)の鑑別
- 吐物の性状:色、臭い、内容物
- 頻度:一日どのくらい吐くのか
- 食事との関連性:食後どのくらいの時間か、食事の変更の有無
- 年齢、既往歴など:内臓疾患、異物の誤飲などの予測
嘔吐によって考えられる疾患
嘔吐の裏には、何かの疾患が隠れている可能性があります。
嘔吐以外の徴候や、各種検査結果によって診断が進められていきますが、中には怖い病気もあります。ここでは、嘔吐が見られた際に考えられる疾患について簡単に紹介します。
1.急性胃腸炎
急性胃腸炎は、何らかの原因によって消化管に炎症が生じている状態です。
一方で、原因がよくわからないことも多く、治療を行ってみて反応を見ることもあります。
2.感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は、ウイルス(犬パルボウイルス、犬ジステンパーなど)、細菌、寄生虫などの病原微生物の感染による胃腸炎です。
嘔吐の他に下痢を起こすことも多く、ワクチン接種歴や糞便検査などによって診断を行います。
3.炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患(IBD)は、小腸または大腸の粘膜に炎症細胞浸潤が起こる、原因不明の慢性腸障害です。こちらも下痢を伴うことが多くあります。確定診断には内視鏡による腸組織の生検が必要となり、厄介な疾患です。
4.消化管内異物
消化管内異物は、布、鶏や魚の骨、プラスチック片、金属など消化が難しいものを飲み込んだ時、それらが胃の粘膜を刺激することで炎症が起き、嘔吐が誘発されます。
また、大きなものは胃の出口(幽門部)や小腸に閉塞することがあり、その際にも嘔吐が引き起こされます。
好奇心が旺盛な若い子犬や、散歩中に拾い食いの癖があるような子では注意が必要です。
5.食物アレルギー
食物アレルギーは、体に合わないものを食べてからあまり時間が経たないうちに嘔吐します。
普段食べないものを食べた後に嘔吐した場合は、食物アレルギーが疑われます。
6.腸閉塞・腸捻転・腸重積
異物、腫瘍、捻転、重積などが原因となり、物理的に腸内容物の通過が障害された状態を、「腸閉塞」といいます。
また、神経や血管の傷害によって腸の動きが悪くなり、機能的な腸閉塞が起こることもあります。いずれの場合も激しい嘔吐が見られ、速やかに閉塞を解除する必要があります。
7.咽喉頭の刺激
激しい咳き込みや、咽喉頭に異物があることで刺激され、嘔吐を誘発することがあります。
8.アジソン病
アジソン病は、副腎から分泌されるホルモンが低下する疾患です。
体内のナトリウム濃度とカリウム濃度のバランスが乱れることで、嘔吐を始め、下痢、徐脈、低体温といった命に関わる症状が現れます。見逃してはいけない疾患の一つです。
9.糖尿病
糖尿病は、インスリンの不足によって糖代謝、蛋白代謝、脂肪代謝が正常に行えなくなる疾患です。
特に脂肪代謝の異常は、体内に「ケトン体」と呼ばれる物質を増加させ、このケトン体が嘔吐を引き起こします。
10.腎不全
体内の尿毒素を排泄できないと、嘔吐が誘発されます。また、腎不全では消化管に潰瘍を形成することがあり、これも嘔吐に関与します。
11.肝不全
肝炎や肝硬変によって肝臓の機能が低下すると、窒素代謝の異常によって体内のアンモニア濃度が上昇し、脳へ障害が起こります。
また、肝臓に炎症が起こると、腹膜に炎症が生じる「腹膜炎」に進行し、それによっても嘔吐が誘発されることがあります。
12.膵炎
近年、犬の膵炎の診断感度は高くなり、よく見られる疾患となりました。
膵臓の炎症により、激しい嘔吐を始め、下痢、腹痛、食欲不振が見られます。急性膵炎では早期に治療を行わないと命に関わることもあるため、注意すべき疾患の一つです。
13.中枢神経系疾患
頭部挫傷や腫瘍などによって頭蓋内の圧力が上昇すると、嘔吐中枢が直接刺激されることがあります。
14.生殖器疾患
避妊/去勢をしていない犬では、生殖器系の疾患も視野に入れます。雄では前立腺疾患、雌では子宮疾患を鑑別に入れます。
特に雌の子宮蓄膿症は緊急疾患で、陰部から血膿のようなものが出る、またはお腹が張っているなどの症状が同時に見られた場合は注意が必要です。
15.腫瘍
消化管や周辺臓器腫瘍ができると、物理的に通過障害が起きて、嘔吐が引き起こされます。
また、肝臓などに発生した腫瘍が嘔吐を誘発することもあります。
病気ではないが嘔吐を示す状態
以上のように、さまざまな疾患で嘔吐の症状は認められます。
一方で、病気ではないけど嘔吐が認められる場合もあります。
1.乗り物酔い
三半規管から小脳へ伝わった刺激が嘔吐中枢に投射されると考えられています。
2.食べ過ぎ
急激に多量の食事が胃の中に流れ込むことで嘔吐します。
3.薬の副作用
一部の薬剤は、副作用として嘔吐の症状が見られるものがあります。
代表例としては、ステロイド、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、抗腫瘍薬、一部の抗菌薬などがあります。
4.中毒
鉛、亜鉛、エチレングリコール(不凍液)といった中毒性物質の摂取も、嘔吐を引き起こします。
嘔吐で動物病院を受診すべきか?
病的な嘔吐か、そうでないかは問診だけでは判断できません。
血液検査や画像検査といった必要な検査を経て、診断を下さないことには「絶対に大丈夫」と太鼓判を捺すことはできません。
愛犬の現在の様子を見て、動物病院を受診すべきかを判断して頂ければと思います。
もちろん、病院に来ること自体が犬のストレスになることもあるので、全身状態が悪くなければ経過を見ることも選択肢の一つです。
その場合は、急に体調が悪くなった時のためにしっかり様子を観察してあげましょう。
嘔吐をしているときの注意点
では、動物病院を受診する前や、犬に嘔吐の症状が見られた時に注意しておくことは何でしょうか。
受診には吐物を持参
何回も吐いているときに全ての吐物を持ってくる必要はありませんが、吐物の情報を正確に伝えるためには実物を持ってくるのが一番です。
持参が難しい場合には写真を撮ることもオススメです。
誤嚥性肺炎の防止
特に寝たきりの犬では、吐物が肺に侵入することで誤嚥性肺炎が起こる可能性があります。
犬が嘔吐をしようとしている際には上体を起こし、頭を下げるような姿勢がとれるように飼い主さんが補助してあげてください。
まとめ
嘔吐は、見ている方にとっても、犬自身にとっても苦しいものです。
頻回の嘔吐は脱水や食道炎を続発し、体力の消耗も激しいため、速やかに治療を行う必要があります。
犬が嘔吐をしたら、様子を見つつ、長く続いたり他に気になる症状が認められたときには、動物病院を受診してみてください。