知っていますか「アニマルウェルフェア」①イギリスの取り組みと現状
突然ですが「アニマルウェルフェア」という言葉を聞いたことはありますか?言葉自体は聞いたことがあっても、実際に「アニマルウェルフェア」が何なのかを説明できる人は少ないかもしれません。
日本では動物愛護法が改正されたり、ペットショップのあり方を問うニュースを見聞きすることも多くなってきました。しかし、日本はアニマルウェルフェア後進国と言われるほど、動物に対する考え方が古く、アニマルウェルフェアを実現するためには多くの取り組みが必要とされています。
今回は「アニマルウェルフェア」について説明し、アニマルウェルフェア先進国であるイギリスにおける取り組みをご紹介します。
アニマルウェルフェアとは
「アニマルウェルフェア」は「動物福祉」と訳されることもあり、「感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす」畜産のあり方です。
アニマルウェルフェアの歴史
アニマルウェルフェアという考え方は、1960年代にイギリスで生まれました。発端は、イギリスの家畜福祉の活動家ルース・ハリソンが工業的な畜産の虐待性を批判したことに始まります。そして、次第にこの考えが一般市民の注目を集め、広がりました。
これを受けてイギリス政府は「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という基準を提唱しました。これが後のアニマルウェルフェアの基本原則となる「5つの自由」の元になっています。
5つの自由
この「5つの自由」は家畜を含む、ペットや実験動物など、あらゆる動物の動物福祉政策の基準であり、国際的な共通認識となっています。
- 空腹と渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛みや傷、病気からの自由
- 正常な行動を発現する自由
- 恐怖や苦悩からの自由
アニマルウェルフェアの先進国イギリスで進められる法整備
アニマルウェルフェア後進国と言われる日本とは逆に、アニマルウェルフェアへの意識が高いイギリスでは、アニマルウェルフェア関連の法整備が進んでいます。
イギリスで進むアニマルウェルフェアに関する法整備
アニマルウェルフェアに関する法律として、2006年に「アニマルウェルフェア法」が制定されました。同法では、家畜など人間の飼養下にある動物に限らず、野生動物を含めた全ての脊椎動物(人間を除く)を対象に、致傷行為などの各種禁止事項を定めています。
具体的には以下の内容が盛り込まれており、日本の動物愛護法よりもアニマルウェルフェアの実現に向けて、明確で踏み込んだものになっています。
- 闘牛や闘犬などの動物を戦わせる行為の禁止。
- 16歳以下と推定される人への動物の販売の禁止。
- ある動物に関して責任を有する者(一時的か永続的かは問わず)がその動物に適切な環境、食事などを与えていないと判断される場合、検査官(国または地方政府から任命され強い権限を付与されている)は期限を定めた改善の要求を通知できる。
- 検査官は人の飼養下の動物が苦痛を受けていると判断した場合、それらの動物の苦痛を軽減するために必要な措置を取ることができる。
さらに2019年には「アニマルウェルフェア法」が改正され、「警察犬など、業務中の動物への危害は自己防衛として認められない」といった内容も組み込まれています。
イギリスで進む家畜のアニマルウェルフェア
採卵養鶏場や養豚場などの家畜の飼育方法や飼育環境も率先して改善されています。
採卵養鶏場では「バタリーケージ」が禁止
「バタリーケージ」とは、B5サイズほどの鶏一羽分にも満たない非常に小さなケージに入れられ、そのケージを何段にも積み重ねた飼育方法です。
イギリスに限らず、EU、オーストラリア、アメリカの一部の州などでも禁止となっています。
養豚場では「妊娠ストール」が禁止
「妊娠ストール」とは、これから子どもを産む母豚を一頭ずつ飼育するための檻で、母豚が気づかずに子豚を踏み殺してしまわないように導入されています。しかし、この檻の中で母豚は方向転換すらできない状態です。
こちらもイギリスのみならず、スウェーデン、EU、アメリカの一部の州などでは禁止されています。また、オーストラリアの豚肉業界でも自主的に妊娠ストールを廃止しています。
民間でも行われるアニマルウェルフェア
イギリスを代表するスーパーマーケット、ウェイトローズでも積極的にアニマルウェルフェアの取り組みが行われています。
具体的には、自社ブランドのツナ缶に使用するマグロは、2009年より本来の漁獲対象とは異なる種を漁獲しにくく持続性が高い一本釣りで獲られたマグロのみを使用しています。
そして2013年には海のエコラベルとして知られる「海洋管理協議会(Marine Stewardship Council)認証」を取得しました。この認証の審査は、18カ月間かけて行われる厳しいものであり、世界水産物持続可能性イニシアチブ(GSSI)で承認された唯一の国際的な水産物ラベリング制度であり、世界最高水準の認証制度といえます。
まとめ
「アニマルウェルフェア」という言葉だけではどんなものなのかよくわからないかもしれません。しかし、鶏卵や牛肉、豚肉などの消費者という立場から考えると、自分たちに密接した問題であるということがおわかりいただけたでしょうか。
本記事では先進国の現状を紹介しましたが、後半ではアニマルウェルフェアの後進国日本の現状を紹介します。日本のアニマルウェルフェアがどのような状況かもぜひ知っていただきたいと思います。
世界で増える畜産動物の楽園「ファーム・サンクチュアリ」とは?
皆さんは、「ファーム・アニマル・サンクチュアリ」という動物の保護施設をご存知ですか?
犬や猫などのペットの権利を守る動きは日本でも大きくなってきていますが、世界ではペットだけでなく、畜産動物の権利を守る動きも広がっています。その活動のひとつとして数を増やしているのが、「ファーム・アニマル・サンクチュアリ」です。
今回は、ファーム・アニマル・サンクチュアリの活動や、実際に訪れるにはどうしたら良いのかなどをご紹介します。
ファーム・アニマル・サンクチュアリとは
犬や猫などを保護するペットシェルターはご存知の方も多いでしょう。ファーム・アニマル・サンクチュアリは、牛、豚、鶏、羊など、主に家畜として飼われていた動物のためのシェルターのことをいいます。
どんな動物が保護されるの?
犬や猫などのペットと違って、畜産動物が保護されるというのはイメージがしづらいかもしれません。
ファーム・アニマル・サンクチュアリで保護されているのは、主に次のような境遇の動物です。
- 飼育場や屠殺場から逃げ出した動物
- 病気や怪我で飼育場から放り出された動物
- 自然災害(台風や洪水など)によって飼育場に取り残されたり、飼育場の外で迷子になった動物
- 閉業になった飼育場に取り残された動物
保護された動物の生活
飼育場にもよりますが、現代の畜産動物の多くは工場型の狭い施設で飼育され、暴力や運動不足などにより大きなストレスを抱えて生きている場合も少なくありません。
ファーム・アニマル・サンクチュアリは、保護された動物たちにとって文字通りの「楽園」。広々とした草地で、暴力や飢えに苦しむことなく、他の動物たちと一緒にのびのびと暮らします。もちろん、食用として殺されることもありません。
ファーム・アニマル・サンクチュアリの起源
1986年、動物の権利などを訴えてきた活動家のジーン・バウアとローリー・ヒューストンによって、世界で最初のファーム・アニマル・サンクチュアリ「Farm Sanctuary」が、アメリカに設立されました。
現在まで、Farm Sanctuaryはニューヨークやロサンゼルスを拠点として、数千頭の動物を保護してきました。
保護するだけで終わらない
Farm Sancturaryでは、動物を保護するだけでなく、動物の権利を守るための活動も数多く行っています。例えば、人々に畜産の実情を訴えたり、宿泊施設やツアーなどを用意してサンクチュアリの活動を伝えたりしています。
これまであまり表に出ることのなかった畜産業の「闇」の部分を知る人が増え、Farm Sanctuaryに訪れる人や、サポーターも世界中で数を増やしました。
施設内で提供される食事は全て、cruelty-free(残虐性がない)のplant-based(植物由来の)食べ物、つまり、動物性のものを一切含まないヴィーガン料理です。
世界のファーム・アニマル・サンクチュアリ
ファーム・アニマル・サンクチュアリは、アメリカ国内にたくさん存在しますが、ヨーロッパや南米、インドなどでも数を増やしています。
ヴィーガン人口の増加とともに人気も急上昇
動物福祉のほか、環境保全や健康意識への関心の高まりから、世界中でヴィーガン人口が拡大しています。アメリカでは、ここ数年でヴィーガン人口が約6倍に増えたとも言われており、ファーム・アニマル・サンクチュアリを訪れたり、寄付をしたりする人も多くなったのではないかと考えられます。
ほとんどのファーム・アニマル・サンクチュアリは、実際に保護できる畜産動物の権利だけでなく、畜産業全体のあり方を見直す活動やヴィーガンを推進する活動などを行っています。
また、観光客向けの「牧場」では、乳製品や肉料理を提供しているところも多いのに対し、ファーム・アニマル・サンクチュアリの施設内で提供される食事は全てヴィーガンである場合がほとんどです。
ファーム・アニマル・サンクチュアリに行ってみたい!
実際にファーム・アニマル・サンクチュアリを訪れるには、どのようにしたら良いのでしょうか?
施設によって見学方法は異なりますが、予約制のツアーやイベントなどが開催されている場合、実際に動物と触れ合ったり、動物について説明を受けることができることが多いです。
ファーム・アニマル・サンクチュアリは、日本にある一般的な観光牧場とは趣旨が異なるため、訪れる際にも以下のような点を頭に入れておくと良いでしょう。
- 寄付で成り立っている施設が多いため、有料、または任意の寄付を求められることがある。
- 汚れや匂いがついても良い服装で行く。地面がぬかるんでいることもあるので、長靴を履いて来ることを推奨している場合も多い。
- 施設内で提供される食事はヴィーガンであることが多いが、動物性の食べ物を持ち込むことも禁じている施設もある。
- 動物との触れ合いで服が汚れたり、怪我をしてしまっても基本的に自己責任である場合が多い。
- 日本語のツアーはまだ少なく、現地の言葉や英語で催行されることが多い。
Airbnbでも予約できる
お目当のファーム・アニマル・サンクチュアリに直接連絡をとることももちろんできますが、「少しハードルが高いな…」と思った方は、Airbnbが提供している「アニマル体験」というサービスから、ファーム・アニマル・サンクチュアリを予約してみてはいかがでしょうか。
ツアーの内容も、動物と一緒に遊べる体験や、お世話ができる体験、動物と一緒にティーパーティができるものなど様々です。
Airbnbのアニマル体験の詳細はこちらの記事をご参照ください。
日本にもあるの?
日本にはまだファーム・アニマル・サンクチュアリがほとんどありませんが、南阿蘇にある馬の保護施設「オープンセサミ」が、2018年に畜産動物も保護するファーム・サンクチュアリとして始動することを発表しました。
アニマルライツセンターは、世界のファーム・アニマル・サンクチュアリのほとんどは多額の寄付で運営が成り立っているのに対し、寄付の文化があまり定着していない日本では、運営は簡単ではないと言います。
一方、日本でも動物福祉への関心が徐々に高まっており、実際にペットの保護活動をする人は増えてきています。今後、畜産動物のサンクチュアリも少しずつ増えていくかもしれませんね。
まとめ
今回は、畜産動物の楽園「ファーム・アニマル・サンクチュアリ」を紹介しました。
世界では、ペットだけでなく、畜産動物の福祉についても考える動きが高まってきています。ファーム・アニマル・サンクチュアリが畜産動物にとって「楽園」と言われるのは、その裏側で多くの動物たちが辛い宿命を生きているからでしょう。
多くのサンクチュアリは、畜産動物を保護するだけでなく、そこで生きる幸せな動物たちから畜産業のあり方を考え直すきっかけを持って欲しいと願い、様々な活動をしています。
ペットに対して大きな愛情を持っているみなさんは、家畜として飼われている動物たちの福祉について、どのように考えるでしょうか。