知っていますか「アニマルウェルフェア」③私たちにできること
前回の記事では、アニマルウェルフェア後進国と言われる日本の現状を紹介しました。第三弾となる本記事では、日本の取り組みや私たちができることをご紹介します。
動物が好きではないという方も、動物の命をいただいている以上は関わりがあることです。今日からできることがないか、ぜひ考えてみてください。
日本の企業によるアニマルウェルフェアの取り組み
アニマルウェルフェア後進国の日本では、大手食品企業のアニマルウェルフェアに対する認識や対応レベルも非常に低いと世界的に評価されています。
しかし、日本企業や自治体でも少しずつアニマルウェルフェアへの取り組みを開始しており、認定NPO法人アニマルライツセンターが毎年実施している2022年度の「アニマルウェルフェアアワード」に選出された4つの企業をご紹介します。
アニマルウェルフェアアワード
畜産動物、水産動物のことを考え、アニマルウェルフェアへの取り組みをした企業を、日本の畜産動物を守る活動を行うアニマルライツセンターが選出しています。
https://www.hopeforanimals.org/animal-welfare-award/
1. 内閣府の食堂を運営する「株式会社ニッコクトラスト」
内閣府の食堂を運営している株式会社ニッコクトラストでは、食堂で提供する卵を、ケージフリーで飼育されているものに切り替えました。
内閣府の食堂という、アニマルウェルフェアの重要性を認識し、影響を最大化できるであろう場所での取り組みも評価されています。
2. 『やまなしアニマルウェルフェア認証制度』を創設した「山梨県」
山梨県は、全国の自治体で初となるアニマルウェルフェアの認証制度「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を創設しました。これにより山梨県内のアニマルウェルフェア推進と共に畜産物のブランド強化を目指しています。
認証制度の創設はもちろん、認証基準も世界にも認められる内容となっている点などが評価されており、日本のアニマルウェルフェア発展に大きな希望が持てる取り組みの一つです。
3. アニマルウェルフェアへの取り組みを重要課題にした「日本ハム株式会社」
日本ハムはアニマルウェルフェアに配慮した事業を行うことを重要課題とし、基本原則である「5つの自由」を推進、この考えを踏まえた家畜の飼養管理、生産体制の改善、継続的な技術革新などを進めるとしています。
さらに、「アニマルウェルフェアに配慮した取り組みの推進」として以下のような具体的な目標を掲げています。
- 2023年度末までに国内の全処理場内の係留所へ飲水設備の設置(牛・豚)
- 2023年度末までに国内全農場・処理場への環境品質カメラの設置
- 2030年度末までに国内の全農場の妊娠ストール廃止(豚)
4. 人と環境にやさしいお店づくりを目指す「TORIBA COFFEE」
TORIBA COFFEEを含め、都内を中心に飲食店を展開する株式会社バードフェザー・ノブでは、2020年にエシカルプロジェクトをスタートさせ、店舗の脱プラスチックや生ごみ削減など「エシカル化」を進めています。
その中でもTORIBA COFFEEでは、コーヒーショップとして地球への環境負荷をかけないためにできることをまとめた、「エシカル宣言15ヶ条」を2021年に出しました。そして2022年には、さらに10ヶ条を追加した「続・エシカル宣言」を発表しています。その中で、アニマルウェルフェアに最も関わりがあるものが21条です。
TORIBA COFFEE 続・エシカル宣言 21条
「牛乳はアニマルウェルフェアなもののみ使用します」
お店でドリンクに使用する牛乳は、乳牛を仔牛から親牛まで、自由な環境で育てられているもののみを使います。
これに加え、お店では通常のミルクと植物性ミルクは同じ価格であるため、無理なくアニマルウェルフェアに配慮したものを選択できます。
私たちができるアニマルウェルフェア
日本がアニマルウェルフェア後進国から脱却するためにも、まずは私たちが意識を変えていかなくてはいけません。
手軽にできる「食」を通して、アニマルウェルフェア実現のためにできることをやってみましょう。
1. アニマルウェルフェアに配慮した商品の選択
アニマルウェルフェアに配慮した商品を選ぶことは大切な行動です。具体的には平飼い、放し飼い卵、放牧されている牛の牛乳、グラスフェッドという飼育方法で育てられた牛の牛乳・牛肉、放牧豚など、動物の生態に合わせた飼育環境で育った動物たちを購入するという選択です。
このような情報は商品のパッケージに書かれていたり、ネット通販であれば商品情報として記載されていることが多いため、購入前にチェックしてみてください。
グラスフェッドとは、牧草のみで育てる飼育方法です。グラスフェッドは放牧で飼育されており、エサは牧草や干し草のみで、野生と同じような環境で育てることを目指しています。牛たちはエサを探すために広大な土地で動き回るため、従来の飼育方法で育った牛よりも赤みが多く低脂肪な肉質をしていることから、健康志向な人からも注目を浴びています。
2. 認証マークのついた食品の選択
よりわかりやすく、アニマルウェルフェアに配慮した商品を選択する方法として「一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会」が付与している認証マークが付いた商品を選択することもおすすめです。
「一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会」は、アニマルウェルフェアの推進・普及を目的に設立され、ヨーロッパの制度などを基準に、アニマルウェルフェアに特化した独自の認証制度を設定しています。
この制度は、2016年に乳牛から運用を開始し、5つの自由を守り、各評価項目を80%以上クリアした農場に対して認証をしています。その認証された農場で育った家畜から生産された食品に、認証マークをつけて販売をしています。
3. 植物性食品の選択
卵や乳製品、はちみつなどの動物性食品を一切口にしないヴィーガンとまでいかずとも、植物性食品を積極的に選択する方法もあります。最近ではプラントベースのお肉として大豆ミートなどをスーパーで購入できるようにもなってきました。
ここでは、具体的な大豆ミートの商品を紹介します。
マルコメ「大豆のお肉」
お肉のみならず、カレーや麻婆豆腐、ボロネーゼなど手軽に食べられるものもあるのが魅力です。
大塚食品「ゼロミート」
手軽においしく植物性食品が食べられます。ソーセージやハムなどもあり、様々な料理に使えるのが魅力です。
大塚食品 HPより
伊藤ハム「大豆ミート」
「まるでお肉のような」おいしさの食感・味・香りにこだわって作られた大豆ミート商品が多くあり、おつまみの王道ジャーキーもあります。
伊藤ハム HPより
日本ハム「ナチュミート」
大豆特有の青臭さを軽減する独自の製法で、大豆ミートながらお肉のような旨味を再現した商品が複数あります。
イオン「Vegetive(ベジティブ)」
健康や環境に配慮し、毎日の食事の中で植物由来の食品を積極的に取り入れられるよう、肉、乳製品、白米、小麦などを植物性の素材に置き換えた商品が多数あります。
まとめ
企業や行政の取り組み、植物性食品の増加など、アニマルウェルフェア後進国である日本でも、少しずつ前進してきているというのを感じられたのはないでしょうか。日本は遅れているなあと思うよりも、今自分たちに何ができるかを考えるきっかけになればうれしいです。
今回見てきた畜産以外にもペットショップ、動物園、水族館、飼育されているペットなど、日本が抱えるアニマルウェルフェアの課題は多くあります。動物たちのために、自分たちにできることを見つけ、少しずつでも行動に移していきましょう。
知っていますか「アニマルウェルフェア」②日本の現状
前編では「アニマルウェルフェア」先進国のイギリスの状況を紹介しました。
後編の本記事では、「アニマルウェルフェア」後進国と言われる日本の現状を紹介します。少しでもアニマルウェルフェア実現に向けて前進するために、まずは現状を知ることが大切です。
日本の実情を知り、アニマルウェルフェアを考えるきっかけになればうれしいです。
日本のアニマルウェルフェアに関する認知度
日本がアニマルウェルフェア後進国と言われる要因の一つに、知名度の低さが考えられます。
認定NPO法人アニマルライツセンターは、2016年から毎年「畜産動物に関する認知度調査アンケート」を実施しています。この調査では、毎回同じ10項目の質問を設け、回答者は「知っている」「聞いたことがある」「知らない」の3つから選択します。
質問項目
- 母豚の多くが、妊娠ストールという、方向転換できない狭い囲いの中に閉じこめられていることを知っていますか?
- 子豚の多くが、麻酔なしで去勢、歯・尾の切断をされていることを知っていますか?
- 卵用の鶏の多くが、バタリーケージという、狭い金網の中(一羽あたり22センチ×22センチほど)で飼育されていることを知っていますか?
- 卵用の鶏の多くが、麻酔なしでクチバシを切断されていることを知っていますか?
- 肉用の鶏(ブロイラー)が、早く成長するように品種改変されており、その結果、病気になりやすくなっていることを知っていますか?
- 乳牛の多くが、つながれた状態でほとんどの時間を過ごしていることを知っていますか?
- 牛の多くが、麻酔なしで去勢、角の切断をされていることを知っていますか?
- 「アニマルウェルフェア」、あるいは「動物福祉」という言葉を知っていますか?
- 平飼卵、あるいは放牧卵が、スーパーなどで販売されていることを知っていますか?
- ヨーロッパで禁止されている飼育方法が、日本で行われていることを知っていますか?
※質問5のみ2016年は未実施
結果
回答者全員の認知度
2022年は『「アニマルウェルフェア」、あるいは「動物福祉」という言葉を知っていますか?』という質問に対し、有効回答数1214のうち、81.5%が「知らない」と回答をしています。
81.5%という数字の多さに驚かれるかもしれませんが、2016年以降毎年実施している本調査で、「知らない」と答えた人の割合は2022年が一番低い結果です。
乳牛に関する質問の結果は前年との差はあまり見られませんでしたが、他の質問は前年よりもそれぞれ平均1.5%程認知度がアップしています。
しかしながら、全体の8割強が「知らない」と回答しています。
年齢別の認知度
上のグラフは2022年の結果です。10代から20代の認知度が高い傾向にあるのは毎年のことですが、2022年の結果の特徴としては、2021年と比べて、20代から40代にかけて特に認知度が上がっています。
低い年代から徐々に認知度が高まっており、今後も低い年代から認知度が上がっていくことが予想されています。
世界から見た日本
世界14か国に拠点を持つ国際的な動物保護団体、「世界動物保護協会(WAP)」が公表した 2020年版の動物保護指数(API)を紹介します。
評価対象は日本を含む50か国です。アニマルウェルフェアの法規制や政策に関する 10 項目に関して、最高レベルを指すAから最低レベルのGまで7段階評価で行われます。
日本は総合評価E、各項目も軒並み低い結果であり、日本のアニマルウェルフェアの対応の遅さを示す結果です。なお、本記事の前編でアニマルウェルフェア先進国として紹介したイギリスは総合評価Bでした。
<参考>10項目の内容と日本の評価
評価項目 | 評価 |
---|---|
動物の知覚は法律によって正式に認められているか | F |
動物に苦痛を与えることを禁止する法律があるか | D |
畜産動物の保護について | G |
管理下の動物の保護について(展示動物や毛皮産業など) | D |
コンパニオンアニマルの保護について | D |
使役動物および娯楽に用いられる動物の保護について(サーカスや闘犬など) | G |
科学研究に用いられる動物の保護 (動物実験) | E |
野生動物福祉の保護 | E |
動物福祉における政府の責任 | F |
OIE動物福祉基準の遵守状況 | F |
日本の採卵鶏の飼育状況
アニマルウェルフェアの中でも、消費者という立場で多くの人に関わりがある家畜業界の現状を見ていきます。
日本人は国際鶏卵委員会(IEC)の調査では世界第2位と、卵の消費量が多い国です。年間でひとり当たり平均338個の卵を消費しているとされ、ほぼ1日1個は食べている計算になります。
この卵を産むために育てられているのが採卵鶏です。採卵鶏の飼育方法としては主に4つあります。
- 放牧
- 平飼い
- エンリッチドケージ
- バタリーケージ
※アニマルウェルフェアの実現度が高い順に記載
最もアニマルウェルフェアの実現度が低い、つまり動物(採卵鶏)への負担が大きいバタリーケージでの飼育が日本で最も多い飼育方法です。
2015年の「採卵鶏の飼養実態アンケート調査報告書」によると、日本の養鶏場の92%以上がバタリーケージを採用していました。バタリーケージは、B5サイズくらいの非常に小さなケージを何段にも積み重ねた飼育方法です。効率的かつ安定的に生産できるといった理由から、この飼育方法が日本では主流になっていると考えられます。
養豚(母豚)の飼育状況
養豚の飼育方法の中で、アニマルウェルフェアという観点から特に問題視されているのが「妊娠ストール」と呼ばれる、母豚を飼育する檻の使用です。妊娠をした母豚を、出産までの約4カ月間、方向転換もできないほど狭い檻に一頭一頭入れる飼育方法です。
日本において2018年に日本養豚協会が実施した「養豚農業実態調査」の調査では、91.6%が妊娠ストールを採用していました。
この調査は2007年、2014年と、2016年以降は毎年行われており、2007年の調査結果では妊娠ストールの採用率は83.1%でした。有効回答数にばらつきがあるものの、約10年日本では変化がほぼなく、大多数が妊娠ストールを採用し、母豚がアニマルウェルフェアからかけ離れた状況下で飼育されていることがわかります。
2018年時点でストールを採用していると回答したうちの10%が今後「群飼養を検討する」と回答しており、この点は期待ができますが、実現には国による法整備といった、具体的かつ強制力のある対応が必要であると考えられます。
母豚の辛い一生
子どもを産むために飼育される母豚は、生後8カ月程度で人工授精またはオスとの交配によって種付けされ、母豚となる豚たちは1頭1頭が妊娠ストールへ入れられます。ここで約4カ月間の妊娠期間を過ごし、出産前には分娩ストールへ移動されます。分娩ストールも妊娠ストール同様に狭く、方向転換はできません。ここでは約20日間過ごします。
その後、次の種付けのために他の母豚とともにフリーストールという、何頭かの豚を群飼いする囲いに入れられます。フリーストールも4〜8畳程度しかない広さですが、方向転換や歩くことはできます。しかし、フリーストールにいられる期間はわずかです。発情し種付けが行われるとすぐにまた妊娠ストールへ戻されます。
母豚たちはこのようなサイクルで平均1年に2.2産させられ、生後4-5年で屠殺されます。多くの時間を方向転換の出来ない空間で過ごし、その一生を終えることになります。
まとめ
日本のアニマルウェルフェアの実現度は国内で見ても、世界から見ても非常に低いことがおわかりいただけたのではないでしょうか。
今回紹介した家畜に関する現状はほんの一部です。知れば知るほど、辛く、心を痛めることもあるかもしれません。しかし、消費者という立場から、さらに深く多くの現状を知っていただきたいと思います。
次回の記事では、日本の取り組みや、私たちにできることをご紹介します。
知っていますか「アニマルウェルフェア」①イギリスの取り組みと現状
突然ですが「アニマルウェルフェア」という言葉を聞いたことはありますか?言葉自体は聞いたことがあっても、実際に「アニマルウェルフェア」が何なのかを説明できる人は少ないかもしれません。
日本では動物愛護法が改正されたり、ペットショップのあり方を問うニュースを見聞きすることも多くなってきました。しかし、日本はアニマルウェルフェア後進国と言われるほど、動物に対する考え方が古く、アニマルウェルフェアを実現するためには多くの取り組みが必要とされています。
今回は「アニマルウェルフェア」について説明し、アニマルウェルフェア先進国であるイギリスにおける取り組みをご紹介します。
アニマルウェルフェアとは
「アニマルウェルフェア」は「動物福祉」と訳されることもあり、「感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす」畜産のあり方です。
アニマルウェルフェアの歴史
アニマルウェルフェアという考え方は、1960年代にイギリスで生まれました。発端は、イギリスの家畜福祉の活動家ルース・ハリソンが工業的な畜産の虐待性を批判したことに始まります。そして、次第にこの考えが一般市民の注目を集め、広がりました。
これを受けてイギリス政府は「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という基準を提唱しました。これが後のアニマルウェルフェアの基本原則となる「5つの自由」の元になっています。
5つの自由
この「5つの自由」は家畜を含む、ペットや実験動物など、あらゆる動物の動物福祉政策の基準であり、国際的な共通認識となっています。
- 空腹と渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛みや傷、病気からの自由
- 正常な行動を発現する自由
- 恐怖や苦悩からの自由
アニマルウェルフェアの先進国イギリスで進められる法整備
アニマルウェルフェア後進国と言われる日本とは逆に、アニマルウェルフェアへの意識が高いイギリスでは、アニマルウェルフェア関連の法整備が進んでいます。
イギリスで進むアニマルウェルフェアに関する法整備
アニマルウェルフェアに関する法律として、2006年に「アニマルウェルフェア法」が制定されました。同法では、家畜など人間の飼養下にある動物に限らず、野生動物を含めた全ての脊椎動物(人間を除く)を対象に、致傷行為などの各種禁止事項を定めています。
具体的には以下の内容が盛り込まれており、日本の動物愛護法よりもアニマルウェルフェアの実現に向けて、明確で踏み込んだものになっています。
- 闘牛や闘犬などの動物を戦わせる行為の禁止。
- 16歳以下と推定される人への動物の販売の禁止。
- ある動物に関して責任を有する者(一時的か永続的かは問わず)がその動物に適切な環境、食事などを与えていないと判断される場合、検査官(国または地方政府から任命され強い権限を付与されている)は期限を定めた改善の要求を通知できる。
- 検査官は人の飼養下の動物が苦痛を受けていると判断した場合、それらの動物の苦痛を軽減するために必要な措置を取ることができる。
さらに2019年には「アニマルウェルフェア法」が改正され、「警察犬など、業務中の動物への危害は自己防衛として認められない」といった内容も組み込まれています。
イギリスで進む家畜のアニマルウェルフェア
採卵養鶏場や養豚場などの家畜の飼育方法や飼育環境も率先して改善されています。
採卵養鶏場では「バタリーケージ」が禁止
「バタリーケージ」とは、B5サイズほどの鶏一羽分にも満たない非常に小さなケージに入れられ、そのケージを何段にも積み重ねた飼育方法です。
イギリスに限らず、EU、オーストラリア、アメリカの一部の州などでも禁止となっています。
養豚場では「妊娠ストール」が禁止
「妊娠ストール」とは、これから子どもを産む母豚を一頭ずつ飼育するための檻で、母豚が気づかずに子豚を踏み殺してしまわないように導入されています。しかし、この檻の中で母豚は方向転換すらできない状態です。
こちらもイギリスのみならず、スウェーデン、EU、アメリカの一部の州などでは禁止されています。また、オーストラリアの豚肉業界でも自主的に妊娠ストールを廃止しています。
民間でも行われるアニマルウェルフェア
イギリスを代表するスーパーマーケット、ウェイトローズでも積極的にアニマルウェルフェアの取り組みが行われています。
具体的には、自社ブランドのツナ缶に使用するマグロは、2009年より本来の漁獲対象とは異なる種を漁獲しにくく持続性が高い一本釣りで獲られたマグロのみを使用しています。
そして2013年には海のエコラベルとして知られる「海洋管理協議会(Marine Stewardship Council)認証」を取得しました。この認証の審査は、18カ月間かけて行われる厳しいものであり、世界水産物持続可能性イニシアチブ(GSSI)で承認された唯一の国際的な水産物ラベリング制度であり、世界最高水準の認証制度といえます。
まとめ
「アニマルウェルフェア」という言葉だけではどんなものなのかよくわからないかもしれません。しかし、鶏卵や牛肉、豚肉などの消費者という立場から考えると、自分たちに密接した問題であるということがおわかりいただけたでしょうか。
本記事では先進国の現状を紹介しましたが、後半ではアニマルウェルフェアの後進国日本の現状を紹介します。日本のアニマルウェルフェアがどのような状況かもぜひ知っていただきたいと思います。
世界で増える畜産動物の楽園「ファーム・サンクチュアリ」とは?
皆さんは、「ファーム・アニマル・サンクチュアリ」という動物の保護施設をご存知ですか?
犬や猫などのペットの権利を守る動きは日本でも大きくなってきていますが、世界ではペットだけでなく、畜産動物の権利を守る動きも広がっています。その活動のひとつとして数を増やしているのが、「ファーム・アニマル・サンクチュアリ」です。
今回は、ファーム・アニマル・サンクチュアリの活動や、実際に訪れるにはどうしたら良いのかなどをご紹介します。
ファーム・アニマル・サンクチュアリとは
犬や猫などを保護するペットシェルターはご存知の方も多いでしょう。ファーム・アニマル・サンクチュアリは、牛、豚、鶏、羊など、主に家畜として飼われていた動物のためのシェルターのことをいいます。
どんな動物が保護されるの?
犬や猫などのペットと違って、畜産動物が保護されるというのはイメージがしづらいかもしれません。
ファーム・アニマル・サンクチュアリで保護されているのは、主に次のような境遇の動物です。
- 飼育場や屠殺場から逃げ出した動物
- 病気や怪我で飼育場から放り出された動物
- 自然災害(台風や洪水など)によって飼育場に取り残されたり、飼育場の外で迷子になった動物
- 閉業になった飼育場に取り残された動物
保護された動物の生活
飼育場にもよりますが、現代の畜産動物の多くは工場型の狭い施設で飼育され、暴力や運動不足などにより大きなストレスを抱えて生きている場合も少なくありません。
ファーム・アニマル・サンクチュアリは、保護された動物たちにとって文字通りの「楽園」。広々とした草地で、暴力や飢えに苦しむことなく、他の動物たちと一緒にのびのびと暮らします。もちろん、食用として殺されることもありません。
ファーム・アニマル・サンクチュアリの起源
1986年、動物の権利などを訴えてきた活動家のジーン・バウアとローリー・ヒューストンによって、世界で最初のファーム・アニマル・サンクチュアリ「Farm Sanctuary」が、アメリカに設立されました。
現在まで、Farm Sanctuaryはニューヨークやロサンゼルスを拠点として、数千頭の動物を保護してきました。
保護するだけで終わらない
Farm Sancturaryでは、動物を保護するだけでなく、動物の権利を守るための活動も数多く行っています。例えば、人々に畜産の実情を訴えたり、宿泊施設やツアーなどを用意してサンクチュアリの活動を伝えたりしています。
これまであまり表に出ることのなかった畜産業の「闇」の部分を知る人が増え、Farm Sanctuaryに訪れる人や、サポーターも世界中で数を増やしました。
施設内で提供される食事は全て、cruelty-free(残虐性がない)のplant-based(植物由来の)食べ物、つまり、動物性のものを一切含まないヴィーガン料理です。
世界のファーム・アニマル・サンクチュアリ
ファーム・アニマル・サンクチュアリは、アメリカ国内にたくさん存在しますが、ヨーロッパや南米、インドなどでも数を増やしています。
ヴィーガン人口の増加とともに人気も急上昇
動物福祉のほか、環境保全や健康意識への関心の高まりから、世界中でヴィーガン人口が拡大しています。アメリカでは、ここ数年でヴィーガン人口が約6倍に増えたとも言われており、ファーム・アニマル・サンクチュアリを訪れたり、寄付をしたりする人も多くなったのではないかと考えられます。
ほとんどのファーム・アニマル・サンクチュアリは、実際に保護できる畜産動物の権利だけでなく、畜産業全体のあり方を見直す活動やヴィーガンを推進する活動などを行っています。
また、観光客向けの「牧場」では、乳製品や肉料理を提供しているところも多いのに対し、ファーム・アニマル・サンクチュアリの施設内で提供される食事は全てヴィーガンである場合がほとんどです。
ファーム・アニマル・サンクチュアリに行ってみたい!
実際にファーム・アニマル・サンクチュアリを訪れるには、どのようにしたら良いのでしょうか?
施設によって見学方法は異なりますが、予約制のツアーやイベントなどが開催されている場合、実際に動物と触れ合ったり、動物について説明を受けることができることが多いです。
ファーム・アニマル・サンクチュアリは、日本にある一般的な観光牧場とは趣旨が異なるため、訪れる際にも以下のような点を頭に入れておくと良いでしょう。
- 寄付で成り立っている施設が多いため、有料、または任意の寄付を求められることがある。
- 汚れや匂いがついても良い服装で行く。地面がぬかるんでいることもあるので、長靴を履いて来ることを推奨している場合も多い。
- 施設内で提供される食事はヴィーガンであることが多いが、動物性の食べ物を持ち込むことも禁じている施設もある。
- 動物との触れ合いで服が汚れたり、怪我をしてしまっても基本的に自己責任である場合が多い。
- 日本語のツアーはまだ少なく、現地の言葉や英語で催行されることが多い。
Airbnbでも予約できる
お目当のファーム・アニマル・サンクチュアリに直接連絡をとることももちろんできますが、「少しハードルが高いな…」と思った方は、Airbnbが提供している「アニマル体験」というサービスから、ファーム・アニマル・サンクチュアリを予約してみてはいかがでしょうか。
ツアーの内容も、動物と一緒に遊べる体験や、お世話ができる体験、動物と一緒にティーパーティができるものなど様々です。
Airbnbのアニマル体験の詳細はこちらの記事をご参照ください。
日本にもあるの?
日本にはまだファーム・アニマル・サンクチュアリがほとんどありませんが、南阿蘇にある馬の保護施設「オープンセサミ」が、2018年に畜産動物も保護するファーム・サンクチュアリとして始動することを発表しました。
アニマルライツセンターは、世界のファーム・アニマル・サンクチュアリのほとんどは多額の寄付で運営が成り立っているのに対し、寄付の文化があまり定着していない日本では、運営は簡単ではないと言います。
一方、日本でも動物福祉への関心が徐々に高まっており、実際にペットの保護活動をする人は増えてきています。今後、畜産動物のサンクチュアリも少しずつ増えていくかもしれませんね。
まとめ
今回は、畜産動物の楽園「ファーム・アニマル・サンクチュアリ」を紹介しました。
世界では、ペットだけでなく、畜産動物の福祉についても考える動きが高まってきています。ファーム・アニマル・サンクチュアリが畜産動物にとって「楽園」と言われるのは、その裏側で多くの動物たちが辛い宿命を生きているからでしょう。
多くのサンクチュアリは、畜産動物を保護するだけでなく、そこで生きる幸せな動物たちから畜産業のあり方を考え直すきっかけを持って欲しいと願い、様々な活動をしています。
ペットに対して大きな愛情を持っているみなさんは、家畜として飼われている動物たちの福祉について、どのように考えるでしょうか。