【獣医師監修】ブリティッシュ・ショートヘアの好発疾患と飼い方
ブリティッシュ・ショートヘアは、グレー(ブルー)の短毛が美しい猫種です。性格もどっしりと落ち着いていて、比較的手のかからないと日本でも人気です。
ところで、ブリティッシュ・ショートヘアには好発疾患があるのをご存知でしょうか。
今回はブリティッシュ・ショートヘアのかかりやすい病気と、それを踏まえたオススメの飼育環境について解説していきます。
ブリティッシュ・ショートヘアの基本情報
歴史
ブリティッシュ・ショートヘアは、ローマ帝国がイギリスへ侵入する際に、ネズミを駆除するためのワーキングキャットとして連れてこられたと考えられています。
それからしばらくは、農場などでネズミ退治を目的に飼われていましたが、19世紀中頃に優秀な個体を選択し、品種改良が行われました。
その後、1871年のロンドンで開かれたキャットショーで紹介され、注目を集めました。
身体的特徴
体重は4〜8kgで、力強くがっしりとした体つきをしています。成猫になるには3〜5年ほどかかるといわれており、他の猫種に比べると成長はゆっくりです。
被毛は短毛のダブルコートです。毛色はブラック、ホワイト、クリームなどさまざまですが、「ブリティッシュブルー」と呼ばれる灰色の毛色が一般的で人気があります。
性格
ブリティッシュ・ショートヘアは、温和でのんびりした性格をしています。
自立心が強いため、スキンシップはあまり好まず、抱っこや撫でられることも嫌がります。しかし、猫の方から近寄ってくることもありますので、その際は思う存分甘やかしてあげてください。
ブリティッシュ・ショートヘアの好発疾患
まずは、ブリティッシュ・ショートヘアに多い疾患をいくつか紹介します。
どんな症状が出るのかなど、病気をきちんと理解しておけば、日常生活の中で愛猫の異常に気づきやすくなるかもしれません。
肥大型心筋症
【症状】
食欲不振、嘔吐、運動不耐性(疲れやすい)、胸水貯留、腹水貯留など。
【原因】
心筋が厚く固くなることによって、心臓の動き(主に拡張能)が阻害される。また左心房内に血栓が形成されやすく、大動脈に乗って末端で詰まることも多い。
【備考】
血栓塞栓症が随伴した場合、最も多いのは腹大動脈遠位部(太ももの付け根あたり)で、突然の後肢麻痺が見られる。肥大型心筋症と診断された後は、心筋症の治療の他に血栓の予防も同時に行う。
尿石症
【症状】
頻尿や血尿などの膀胱炎症状。尿道閉塞や尿管閉塞を来たすと急性腎不全の症状(食欲廃絶、嘔吐など)を呈する。
【原因】
腎臓から膀胱までの尿路で結石が形成され、物理的刺激による炎症や閉塞による症状を呈する。
【備考】
特にオスでは尿道閉塞のリスクが高い。また結石の種類(ストラバイトやシュウ酸カルシウムなど)によって食事療法が適用となるかが変わる。
多発性嚢胞腎
【症状】
食欲不振、嘔吐、脱水、多飲多尿、貧血など。
【原因】
腎臓に多数の嚢胞が形成され、腎機能に障害がおこる。遺伝的要因の関与が疑われる。
【備考】
慢性腎不全は高齢猫に多い病態だが、多発性嚢胞腎では若齢で慢性腎不全の症状が見られることも多い。血液検査と同時に、画像による腎臓の検査も定期的に行うべきである。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、多食、体重減少、白内障、嘔吐、下痢、便秘、脱水、歩行障害、昏睡など多岐にわたる。
【原因】
過体重、老齢、膵炎、腫瘍、感染症などが危険因子となる。インスリンは分泌されているが効果が低いⅡ型糖尿病が多いと言われている。
【備考】
猫はアミノ酸からグルコースを作り出す代謝経路が活発で、またインスリンの分泌が低い特徴がある。よって猫では肥満、ストレス、感染症など血糖値を上げる因子、血糖値を下げられない因子が関わると糖尿病になりやすい。
ブリティッシュ・ショートヘアに適した飼育環境
これらの好発疾患を踏まえたブリティッシュ・ショートヘアへのオススメの飼育環境について見ていきましょう。
今回は好発疾患の予防や、病気の早期発見に着目してご紹介します。生活習慣を見直し、万が一の時に素早い対応ができるようにしましょう。
肥満に注意
ブリティッシュ・ショートヘアに限ったことではありませんが、肥満は多くの病気のリスク因子となります。
肥満を予防するためには、食事管理と適度な運動が不可欠です。食事は総合栄養食を与え、栄養のバランスが崩れないように配慮しましょう。
また、室内外だとどうしても運動不足に陥りやすくなります。走り回るなどの二次元的な動きだけでなく、ジャンプなどの三次元的な動きを採り入れた運動スペースを確保しましょう。
尿の状態をチェック
腎泌尿器疾患や糖尿病など、ブリティッシュ・ショートヘアには尿に異常が見られる疾患が多く発生します。
健康な状態での尿の量や色をしっかりと把握し、毎日の尿の状態をチェックしましょう。
しかし、トイレの種類(猫砂、新聞紙など)によっては尿の性質を正確に把握することは難しいかもしれません。少なくとも尿の色(血尿かどうか)および尿が少なくないかは見ておくといいでしょう。
水はいつでも飲めるように
腎臓への負担を軽減するため、または尿路での結石形成を抑制するためにも、十分な飲水量を確保する必要があります。
猫は清潔な水しか飲みたがらないので、飲水場は常に清潔にし、こまめに水を替えてあげましょう。
飲水場の環境が気に入らないと水を飲まないことがあったり、家の中の複数箇所に飲水場を設置してあげるとなお良いでしょう。猫が水を飲みたいと思った時に、いつでも飲むことができます。
飲水量の把握
一日にどれくらい水を飲むのかも把握しましょう。尿量が多い時には飲水量も多くなります。
予め器にどのくらいの量の水を入れ、どのくらいなくなったのかをチェックすれば、蒸発で誤差はあれど、ある程度の飲水量は把握できるはずです。メモリのある容器を使うと便利です。
猫では体重1㎏あたり一日50ml以上の飲水で異常と言えます。体重5㎏の子では一日で250ml以上の水を飲むと多いという計算です。
おおよその計算にはなりますが、頭の片隅に置いて頂ければと思います。
まとめ
こちらの記事で紹介した他にも、病気にかかってしまうことはあると思います。そんな時は慌てずに、動物病院までご相談してください。
定期的に健康診断を受け、病気の早期発見とその後のケアについてしっかり考えていきましょう。
【獣医師監修】スコティッシュフォールドに多い疾患とその対策
スコティッシュフォールドは、垂れた耳とぷっくり丸い顔が特徴の猫種です。
日本でも人気が高く、スコティッシュフォールドを飼育する方や、飼育したいと考える方が増えています。
そこで今回は、スコティッシュフォールドに起こりやすい病気と、注意したい飼育環境についてまとめました。
スコティッシュフォールドの歴史や性格
歴史
「Scottish(スコットランドの)fold(折りたたむ)」という名前の通り、スコットランドが原産の猫で、1960年代に耳の折れた猫をベースに交配を繰り返して生まれた猫種です。
「折りたたまれた耳」が特徴の猫種ですが、実は、不完全な折れ耳、または立ち耳のスコティッシュフォールドもいます。
スコティッシュフォールドは、進化の過程で折れ耳を獲得したのではなく、突然変異で生まれた折れ耳の猫を人為的に交配したものであるため、必ずしも折れ耳の遺伝子が発現するとは限りません。
立ち耳のスコティッシュフォールドを、最近では「スコティッシュストレート」と呼ぶこともあるようです。
性格
スコティッシュフォールドは、おだやかで人懐っこい性格をしているため、「猫と一緒に遊びたい」「甘えてほしい」と思っている方にはおすすめの猫種です。
また、運動量も比較的少ないため、おとなしめの猫を飼いたい方にも最適です。
スコティッシュフォールドの好発疾患
スコティッシュフォールドには、注意しなければならない疾患が存在します。特に注意したいのは骨軟骨異形成症で、これはスコティッシュフォールドの垂れ耳にも関係しています。
健康診断の時に何を注意すればよいのか、考えながら読んでいただければと思います。
骨軟骨異形成症
【症状】
足を引きずる様子。
【原因】
スコティッシュフォールドに特徴的な遺伝性疾患。
【備考】
中手骨や中足骨(いずれも指の骨)などの骨格変形が特徴。有効な治療法はなく、対症療法のみ。
折れ耳同士で繁殖させると発症しやすいため、最近では折れ耳のスコティッシュフォールド同士の交配は原則禁止とされる。
多発性嚢胞腎
【症状】
多飲多尿、頻尿、無尿、嘔吐、下痢、食欲不振など。
【原因】
遺伝的に起こる疾患で、腎臓にたくさんの袋(嚢胞)が形成されることで腎機能障害を引き起こす。
【備考】
若いうちから腎不全症状が見られる場合もあるので、定期的に血液検査や画像検査で腎臓のチェックを。
肥大型心筋症
【症状】
呼吸速拍、胸水、腹水、疲れやすい、元気消失、食欲不振、嘔吐など。
【原因】
アメリカンショートヘアの血が混じってる場合には、家族性発生が報告されている。
【備考】
心臓内で血栓が形成されやすく、動脈(特に大腿動脈)に塞栓することが多い。
その場合、後肢の麻痺と突然の痛みを生じる。
外耳炎
【症状】
耳の痒み、臭い、汚れなど。
【原因】
耳道の環境悪化によって、細菌や真菌などの微生物が異常増殖することによる。
【備考】
スコティッシュフォールドの垂れ耳は耳道内環境が悪化しやすい。特に耳が硬い子は要注意。
尿石症
【症状】
膀胱炎症状(頻尿、血尿など)、腹痛など。
【原因】
食事のミネラルバランスの異常、避妊や去勢によるホルモンバランスの乱れなど。
【備考】
肥満傾向の子は、膀胱内の結石が尿道に閉塞することも多く、この場合は緊急疾患として取り扱う。
速やかに閉塞を解除しないと急性腎不全となり、命に関わる。
日頃から気をつけたいポイント
以上の好発疾患を踏まえて、スコティッシュフォールドと一緒に暮らす上で、飼い主さんが日頃から気をつけてあげたいことを解説します。
痛みのサインを逃さない
スコティッシュフォールドの好発疾患に「骨軟骨異形成症」がありますが、これは外見を観察するだけではわかりません。
日々の歩き方、ジャンプの頻度、動く頻度などをチェックし、異常にいち早く気づいてあげることが必要です。
「スコ座り」には要注意
また、スコティッシュフォールドは「スコ座り」と呼ばれる独特のポーズをすることがあります。両後肢を前に投げ出したおじさんのような体勢で、SNSでも人気のポーズです(#スコ座り)。
しかしこれは、関節にかかる負担を軽減するための姿勢で、関節疾患や肥満の子によく見られます。
「可愛いから写真を撮る」ではなく、一度動物病院でしっかり検査をしてもらうのが良いでしょう。
定期検診でレントゲンを
症状が見られなくても病気が進行していたり、痛みを我慢して表に出さないこともあります。
スコティッシュフォールドは特に、半年に1回程度の画像検査をおすすめします。
レントゲン画像上で関節に異常が見られた場合には、できるだけ運動をさせない、室内の段差をなくすなどの対応が必要です。
耳掃除
垂れ耳で、耳の軟骨が硬い傾向にあるスコティッシュフォールドは、定期的に耳のお手入れが必要です。
その際、綿棒を使ってガシガシ掃除をすると、耳の粘膜を傷つけてしまうため、柔らかいコットンを軽く湿らせ、優しく拭ってあげるくらいがちょうどいいです。
耳掃除を嫌がる猫も多いので、無理をせず、定期的に動物病院でケアを依頼することも考えてみてください。
尿のチェック
猫は、腎臓病が非常に多い動物です。
毎日の排泄で、尿の量が変化していないか、あるいは尿の色に変化はないかをしっかりと確認しましょう。
肉眼ではわからないこともあるので、特に7歳以上のシニア期の子は定期的に尿検査をすることが推奨されます。
まとめ
特徴的な遺伝性疾患があるスコティッシュフォールドですが、だからといって寿命が短いわけではありません。愛情をしっかり注ぎ、病気を早期に発見することができれば、十分に長生きできます。
あらかじめかかりやすい病気を知っておき、少しでも異常を感じたらすぐに動物病院に連れて行きましょう。そして、もし病気になったとしても、その病気とうまく付き合う方法を考えていきましょう。
【獣医師監修】太り過ぎに注意!アメリカンショートヘアの好発疾患
アメリカンショートヘアは、昔から日本で人気の猫種です。
猫を飼ったことがなくても、アメリカンショートヘアの名前くらいは知っているという人も多いでしょう。それだけメジャーで、日本でも飼育頭数が多い猫です。
では、猫の品種によって気をつけなければならない病気や、飼育環境はあるのでしょうか。今回はアメリカンショートヘアの好発疾患と飼育環境についてまとめました。
アメリカンショートヘアの歴史
アメリカンショートヘアの祖先はイギリスのブリテッシュショートヘアで、1620年に移民を乗せたメイフラワー号のネズミ退治猫としてアメリカにやってきました。
もともと使役猫として飼われていたことから、愛玩目的の純血種である必要がなく、異なる種の猫との交配が行われました。そのため、比較的丈夫な体になったとされています。
その後、アメリカの愛好家たちの手により品種が固定され、「アメリカンショートヘア」という純血種として現代にまで受け継がれてきました。
アメリカンショートヘアの好発疾患7つ
純血種というのは、近い血を交配し続けることで守られています。それ故に遺伝的に発生しやすい疾患があり、体が丈夫とされるアメリカンショートヘアも例外ではありません。
それでは、アメリカンショートヘアの好発疾患について詳しく見ていきましょう。
肥大型心筋症
【症状】
・呼吸速拍
・胸水
・腹水
・嘔吐
・食欲不振【原因】
心臓の筋肉(心筋)が大きくなり、心臓の拡張能が低下することによる。アメリカンショートヘアでは遺伝性の肥大型心筋症が報告されている。【備考】
診断には超音波検査が必要。また動脈血栓塞栓症が続発することが多く、注意が必要。
動脈血栓塞栓症
【症状】
・突然の後肢麻痺
・後肢の冷感
・大声で鳴く【原因】
心臓などで形成された血栓が、動脈の細い部分(特に大腿動脈)に詰まる。【備考】
肥大型心筋症では血栓が形成されやすい。治療には血栓を溶かす薬剤を用いるが、長く閉塞した血栓がなくなると、末端の壊死した組織や細胞が全身を巡る「腫瘍溶解症候群」が起こり、時に命に関わる。
糖尿病
【症状】
・多飲多尿
・脱水
・易感染性
・嘔吐
・下痢
・昏睡
・低体温【原因】
インスリンの分泌不足や、インスリンの作用不足。猫の場合、インスリンは分泌されていることが多く、ヒトのⅡ型糖尿病と類似する。【備考】
雄は雌の1.5倍発生が多く、肥満はインスリンの効きを悪くする。他の危険因子としては加齢、膵炎、腫瘍、感染症も挙げられる。
多発性嚢胞腎
【症状】
・多飲多尿
・尿が薄くなる
・食欲不振
・嘔吐
・口内炎や消化管潰瘍などの尿毒症症状
・貧血【原因】
多くは遺伝性で、両親に発病がないか確認する必要がある。【備考】
治療法や予防法がないため、早く発見してできるだけ症状を緩和していく。
肝リピドーシス
【症状】
・急激な体重減少
・食欲不振
・嘔吐
・下痢
・便秘
・黄疸【原因】
肥満の猫が、2週間以上の食欲不振などで栄養が偏ると肝臓に過剰な脂肪が蓄積する。【備考】
肥満の予防が重要であるが、他の病気による食欲不振も引き金になり得る。
尿石症
【症状】
・血尿
・頻尿
・トイレに行くが排尿しない
・腹痛【原因】
腎臓や膀胱などの泌尿器に結石が形成されることによる。【備考】
結石は普段の食事や、体質によって形成されやすいものがある。また雄の場合は、尿道に結石が閉塞することも多く、緊急手術が行われる。
関節炎
【症状】
・動きたがらない
・患部を舐める
・関節の腫れ
・痛み【原因】
慢性的な関節への負担、肥満などにより関節軟骨が擦り減ると、骨の変形が引き起こされる。【備考】
肥満の予防が重要。
アメリカンショートヘアを飼うなら注意したい4つのこと
「猫は犬と違って散歩も必要ないし、手間がかからない」と思っていませんか?しかし、人間と一緒に生活をする以上、愛猫の健康を守るためにはやはり気をつけなければならない生活習慣があります。
アメリカンショートヘアの好発疾患を理解し、どんなことに注意すべきかを確認しましょう。
①太りにくい食事管理
糖尿病や関節炎、あるいは膀胱にできた結石が尿道に閉塞しないためにも、肥満を防止することが重要です。そのためには、栄養バランスの整った太りにくい食習慣を作りましょう。
特に避妊や去勢をした子は太りやすい傾向にありますので、ライフステージにあった食事を用意してあげてください。
②しっかりした運動
食事管理と同様に、肥満の予防のためには適度な運動も必要です。
もともと、日常的にたくさんの運動を必要とする猫種ではありませんが、キャットタワーを設置するなどの工夫は必要でしょう。時間がある時はおもちゃで遊んであげるのも良いですね。
③尿のチェック
アメリカンショートヘアの好発疾患には、腎臓疾患や糖尿病など尿に異常が現れるものが多くあります。
日々の生活の中で、尿量がいつもより増えていないか、あるいは減っていないかを確認しましょう。また、尿の色が薄い、赤いなどの見た目の異常もあるかもしれません。
トイレをただ片付けるのではなく、排泄物を確認する習慣をつけましょう。
④飲水量の把握
尿の量は、飲水量と密接に関係しています。
留守の間は置き水をすることになりますが、一日で愛猫がどのくらい水を飲んだかを把握しておくことはとても大切です。
目盛りのある容器を用意すると、飲んだ量が分かりやすいのでおすすめです。
また、夏場などは特に、飲み水を切らさないように注意してください。
常に新鮮な水を飲めるような環境を整え、しっかり飲んでしっかり排泄をしてもらうことで、腎臓への負担を軽減します。
まとめ
アメリカンショートヘアは、猫の純血種の中では特に病気が多いというわけではありません。しかし、やはり生き物ですので、どうしても体調を崩すことはあるでしょう。
病気にさせない環境を整えると同時に、病気を早く見つけられるよう、排泄物のチェックや飲水量の確認を習慣づけることが大切です。
【獣医師監修】脱臼や角膜炎に注意!チワワの好発疾患と予防法
日本では小型犬の人気が高く、チワワも人気犬種のひとつです。
小さくてかわいらしい犬種ですが、チワワだからこそ気を付けたい疾患があるのをご存知でしょうか。
チワワを飼っている方も、これから飼おうとしている方も、本記事を読んでチワワに対する知識をぜひ深めてください。
チワワの起源
チワワは、9世紀頃にメキシコの先住民に飼育されていた「テチチ」という犬が祖先とされています。「チワワ」という名前は、メキシコのチワワ州に由来しており、ここで発見された犬がアメリカへ持ち込まれ、品種改良されて現在の姿になりました。
もともとは短毛のスムースコートでしたが、パピヨンやポメラニアンとの交配により、さまざまな毛色やロングコートのチワワが誕生しました。
チワワの7つの好発疾患
品種改良を重ねて生まれた犬は、その過程で遺伝的に発生しやすい疾患や、身体の構造上発生しやすい疾患が生じてしまうことがあります。
チワワの場合は、身体が小さいことや眼が大きいことに起因する疾患が多い傾向にあります。
それでは、チワワでよく発症しやすい7つの疾患について詳しく見ていきましょう。
水頭症
【症状】
・意識障害(ボーっとする、反応が鈍いなど)
・行動異常(何もない空中を噛む「ハエ咬み行動」など)
・痙攣
・視力障害
など【原因】
多くは先天性で、生後1歳以下に発症。
頭蓋骨内の脳脊髄液が過剰に貯留する疾患で、脳脊髄液の産生亢進、脳脊髄液の排出低下、頭蓋奇形などが原因。【備考】
早期診断により適切な処置が行われれば、長期間にわたるコントロールも可能。
膝蓋骨脱臼
【症状】
・患肢の挙上(足を地面に着かない、ケンケンの状態)
・跛行(足を引きずる)
・動きたくなくなる
・患部を舐める
など【原因】
・膝蓋骨(膝のお皿)がはまっている大腿骨の溝が浅い
・膝蓋骨が繋がっている筋肉が左右で不均衡
・外傷
など【備考】
段差からの飛び降りや、激しい運動によって膝蓋骨が外れることがある。
放置すると関節炎や前十字靭帯を引き起こす。
環軸亜脱臼
【症状】
・頸部疼痛(頭を上に挙げなくなる)
・歩様失調
・四肢不全麻痺
など【原因】
環椎(第一頸椎)と軸椎(第二頸椎)の関節が緩いことが原因。これは、靭帯の断裂、外傷、先天的な関節の構造不正などに起因する。【備考】
頸椎の脱臼は命に関わることもある。頸部疼痛や四肢の麻痺が重度の場合は、外科手術によって関節の安定化を図る。
角膜炎
【症状】
・眼脂
・流涙
・羞明(眼が痛いことにより完全に開かない様子)
など【原因】
外から受けた傷によることが多い。【備考】
炎症の波及によって結膜炎を引き起こすこともあり、その場合は結膜浮腫や結膜充血が見られる。
気管虚脱
【症状】
・特徴的な「ガーガー」という咳
・呼吸困難
など【原因】
先天的な気管軟骨の低形成、脂肪による頸部の圧迫などが原因。
これらによって呼吸時(特に息を吸う時)に気管が潰れ、独特な咳が出る。【備考】
咳によって大きく体力が削られるので、できるだけ早い処置が望まれる。診断は画像検査によって可能である。
尿石症
【症状】
・血尿
・頻尿
・排尿障害
などの泌尿器症状【原因】
ミネラルバランスの不均衡や尿路感染などによって膀胱内に結石が形成されることが原因。【備考】
チワワなどの小型犬は尿道が狭いことも多く、結石の大きさによっては尿道閉塞を引き起こす。すると尿が腎臓に逆流して急性腎不全を起こし、非常に危険である。
僧帽弁閉鎖不全症
【症状】
・咳
・呼吸速迫
・呼吸困難
・疲れやすい
など【原因】
発症が中高齢犬に多いことから、加齢によって心臓の僧帽弁が変性すると考えられている。
血液の逆流が起こることによって、心臓への負担が増加する。【備考】
放置すると肺水腫に繋がることも多く、非常に危険である。投薬によってコントロールが可能であるため、早期発見が重要である。
チワワの飼育環境で気をつけたい4つのこと
これら好発疾患を踏まえて、日常生活で注意すべき点とは何でしょうか。
先天性の疾患は仕方がないとして後天性の、例えば膝蓋骨脱臼などは飼育環境の見直しによってある程度の予防ができます。大切な愛犬のためにも、できる限りの予防をしましょう。
1.床は滑りにくい材質を
フローリングなどの滑りやすい床は、踏ん張りが効かず、膝や腰に大きな負担がかかります。
生まれつき膝関節が緩い子などは、床にカーペットやマットを敷くと滑りにくくなります。また畳も爪が引っかかるなどして危険な場合がありますので、マットなどで覆うといいでしょう。
2.段差を減らす
段差の登り降りも、膝に負担がかり膝蓋骨脱臼の原因です。極力ソファやベッドに登らせないようにし、どうしても登ってしまうようであれば、犬用の階段を用意してあげましょう。
また、外出時も、階段などの大きな段差では抱っこをしてあげると負担が軽減します。
3.爪の伸びすぎに注意
爪の伸び具合は、床でのブレーキの効きに関係します。長い爪では踏ん張りが効かず、やはり膝や腰に負担がかかります。
定期的に爪や足の裏の毛は短くしておきましょう。家での処置が難しいようでしたら、遠慮なく動物病院のスタッフまでご相談ください。
4.散歩コースを考える
犬は情報をニオイで捉えようとする生き物です。散歩コースの途中に草むらがある場合、そこに顔を突っ込み、草などで眼を傷つけてしまうことがあります。
障害物のない散歩コースを選択する、もしくはしっかりとリードで人間が散歩のペースを握るなどの工夫が必要です。
まとめ
チワワは骨関節系の疾患や、神経系の疾患が多い犬種です。
病気が発生してから後手後手に対応するのではなく、予め疾患を理解し、病気にならないように対策しましょう。
【獣医師監修】病院に連れて行くべき?犬の尿漏れの原因とは
犬を飼っているみなさんは、床に水滴が点々と落ちている、犬を抱っこした時に湿り気があるなどの経験はありませんか?
犬の尿漏れに関しては、生活する上で悩みに感じている方も多いのではないでしょうか。動物病院で相談しようにも笑われてしまうのではないかと、気軽に相談できない方もいるかもしれません。
しかし、犬の尿漏れは、何らかの疾患のサインである可能性もあります。
そこで本記事では、犬でよく見られる尿漏れについて、獣医師が詳しく解説していきます。
尿漏れはどうして起こるのか
尿失禁や排尿困難などを総称して「排尿障害」と言います。
尿は腎臓で作られ、尿管を取って膀胱に溜まっていきます。ある程度尿が溜まり、膀胱壁が一定の厚さになると末梢神経、中枢神経、交感神経のはたらきによって膀胱壁の収縮と尿道括約筋の弛緩が起こります。
排尿障害は、炎症や感染によってこれら神経に障害が起きる、または排尿痛などによって排尿頻度が増すなど、様々な要因により発生することが考えられます。
犬の尿漏れで受診する際に聞かれること
動物病院を受診した時に問診で聞かれることをまとめました。スムーズに診察を行うためにも、事前に次のような項目をチェックしておきましょう。
- 排尿の状態:トイレの回数、トイレにいる時間
- 避妊/去勢の有無
- 飲水量と尿量:飲水量の増加など
- 尿漏れが起こるタイミング:興奮時、寝ている時はどうかなど
尿漏れの原因として考えられる病気など
尿漏れが見られた時には、以下のような疾患が疑われます。
- 先天性尿失禁
- 尿路感染症
- 尿石症
- ホルモン反応性尿失禁
- 糖尿病
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
- 肥満
- 前立腺疾患
これ以外に、嬉ションなど、病気ではないお漏らしも考えられます。
それでは詳しく見て行きましょう。
先天性尿失禁
生まれつき尿管が膀胱以外に開口している、雌の場合は膣が狭いなどの異常によって尿漏れが起こります。
これら疾患の場合、尿は絶えず漏れ続けるため、異常にはすぐに気付くでしょう。
尿路感染症
犬の膀胱炎で最も多い原因は細菌性膀胱炎です。
排尿痛によるトイレ時間の延長や頻尿が見られ、時には血尿となります。
膀胱への残尿から、意図しないところでポタポタと尿が垂れることもあります。
尿石症
膀胱内に結石が形成されることで膀胱に炎症が起こります。尿路感染症と同様に、膀胱の炎症は排尿障害の原因となります。
また結石が膀胱から尿道に移動し、尿道閉塞を起こすこともあります。不完全な尿道閉塞では尿道に尿が残り、ポタポタと尿が垂れる原因となることもあります。
ホルモン反応性尿失禁
エストロジェンやテストステロンといった性ホルモンの減少によって引き起こされる尿失禁で、これは尿道括約筋の緊張低下が原因です。
避妊後の雌犬、または去勢後の雄犬で見られることがあり、特に中高齢になると発生が増加する傾向にあります。
ホルモン補充療法による治療が行われますが、雄の場合はテストステロンの補充によって前立腺過形成や肛門腺周囲腺腫を悪化させることもあるので注意が必要です。
糖尿病
血糖値の持続的な上昇によって様々な症状が現れますが、糖尿病の臨床徴候の中には多飲多尿があります。
尿量が増加すると、失禁や尿漏れの原因となります。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
内分泌疾患は、多飲多尿を引き起こすことが多いです。糖尿病と同様に、尿量の増加が排尿障害の原因です。
これらの疾患の際には、尿量の増加とともに飲水量の増加も認められるため、自宅での飲水量を把握しておくといいでしょう。
腎不全
腎臓の機能が低下することで尿の濃縮が起こらなくなり、薄い尿が排泄されるようになります。
水分が過剰に排泄されるため、飲水量と尿量が増加します。
肥満
体勢の変化時などに体内の脂肪によって膀胱が押され、意図せずに尿が漏れることがあります。
また肥満は糖尿病など他の疾患の素因にもなるため、併発症がないかの確認も必要となります。
前立腺疾患
前立腺の良性過形成は、去勢していない雄犬で一般的に見られる加齢変化です。
前立腺の増大は尿道の狭窄を起こし、尿が残りやすくなります。その結果として、排尿障害や尿失禁が認められるようになります。
また前立腺膿瘍、前立腺炎、前立腺腫瘍など、前立腺の腫大が引き起こされる疾患によっても同様の症状が見られます。
病的ではないお漏らし
子犬や老犬では尿道括約筋の機能が弱いため、尿漏れを起こすことがあります。興奮すると尿が漏れる、いわゆる「嬉ション」もこれに当たります。
通常は成長とともになくなっていく嬉ションですが、小型犬では尿道括約筋が元々弱いために成犬になっても嬉ションが治まらないこともあります。
犬の尿漏れが見られたら動物病院に連れて行こう
現在確認できる尿漏れが、病気によるものかそうでないかを確認する必要があります。しかし、「病気でない」ことを証明するのは「病気である」と診断するよりも困難です。
尿漏れが見られた場合は、必要な検査をしっかりと受けておきましょう。
尿検査の必要性
膀胱に感染が起きているか、尿が薄くないか、尿糖が出現していないかなど、尿検査では様々なことがわかります。また尿漏れの原因は泌尿器系に異常があることが多いため、尿検査は原因を探るための非常に有能なツールとなります。
少しの違和感でも動物病院へ
少しでも愛犬に違和感を感じたら、まずは動物病院へ行ってみましょう。検査をして異常がなければ安心ですし、異常があれば病気の早期発見が可能です。
まとめ
犬の尿漏れについて、「そんなこともあるよな」と特に気に留めない方も多いように思います。
しかし、愛犬の健康を守れるのは飼い主であるあなただけです。異常かもと感じたなら、ぜひ気軽に動物病院まで相談しに来て下さい。
【クイズ】犬の避妊・去勢手術のメリットとデメリット
今回は犬の避妊・去勢手術について、メリットやデメリット、術後に気をつけたいことをクイズ形式でご紹介します。
それではさっそく、犬の避妊・去勢手術クイズにチャレンジしてみましょう!
子犬を増やすことは、犬にとって負担になることはもちろん、飼い主にとっても生活環境の整備や経済面で大きな負担がかかります。妊娠を望まないのであれば、避妊手術は重要でしょう。
また、犬の発情は年に1〜2回やってきます。避妊をしなければ、発情期にホルモンの影響でソワソワしたり、不安になるなどのストレス行動が見られます。犬の避妊・去勢手術は「かわいそうだ」という意見もありますが、子犬を増やす予定がないのであれば、手術をしないことで逆に犬のストレスとなることもあるのです。
避妊手術を行う場合、初回発情前だと乳腺腫瘍の予防効果は99%以上、初回発情と2回目発情の間でも約95%の予防効果が得られると言われています。しかし2回目発情後となると、その予防効果は約70%とガクッと落ちてしまいます。
一方で、去勢手術は時期によって病気の予防効果に差が出るわけではないので、焦らない飼い主さんが多いようです。物理的には生後2〜3ヵ月で手術は可能です。また、一般的には去勢手術の方が短時間で行われ、傷口も小さいことが多いです。
また、避妊・去勢手術は全身麻酔で行われます。全身麻酔は犬の体に負担がかかりますので、獣医師とよく相談して手術するようにしましょう。
今回はこちらの記事から問題を作成しました。 詳細が知りたい人はこちらも読んでみてください!
【獣医師監修】犬の避妊・去勢のメリットとデメリット