【獣医師監修】犬・猫の慢性心臓病にオススメな食事管理のポイント
ペットが慢性の心臓病を患っていて、長期の薬物療法をしている方も多いでしょう。
獣医療の発展のおかげで、病気に効果的な薬が次々と開発されています。
薬以外にも、自宅でもできる食事療法もまた、治療を補助する上で重要な役割を占めています。
今回は、慢性心疾患を持つペットの食事療法について、獣医師が詳しく解説していきます。
慢性心臓病における食事管理の必要性
ヒトの心臓病での食事管理で思い浮かぶことは「塩分の制限」でしょうか。
それは動物の心臓病でも同様で、ナトリウムの制限がカギとなります。
しかし、心臓病での食事管理の最も重要なことは「悪液質」の予防です。
悪液質とは、重篤な全身疾患による栄養失調が原因で、全身が衰弱した状態のことを言います。食欲不振や栄養失調が原因で、脂肪と筋肉が衰えてしまいます。
悪液質は一度陥ると元には戻らないことが知られており、QOLの維持のためにも、この悪液質に陥らないことが必要です。
心疾患における食事に求められること
では具体的に、心疾患の食事は何に気を付ければいいのでしょうか。
最も注意したいことは、以下の3つです。
①カロリーの確保
悪液質防止のために、十分なエネルギーが必要です。犬の場合、できれば体重1㎏当たり60kcal程をベースに考えていきます。
②タンパク質の確保
悪液質防止のために、良質なタンパク質の給与も重要です。ただし腎疾患を併発している場合は、逆に蛋白の制限が必要となります。
③ナトリウムの制限
心臓病の食事制限としては、ナトリウムの制限が重要です。
食事だけでなく、オヤツや投薬に使う食材なども含め、全ての食物に含まれるナトリウム量を把握するのが望ましいです。
服用中の薬剤に応じた食事管理が必要
服用している薬剤によっては、特に利尿薬を使用している場合には以下のことも気にしておくといいかもしれません。
詳しくは、薬を処方してもらっている獣医師に相談しましょう。
カリウムの給与
利尿薬の種類によっては、尿と共に体内のカリウムが排泄され続けるものがあります。
定期的に血液検査を行い体内のイオンバランスなどをモニターしていく中で、必要であれば食事に添加することがあるかもしれません。
水分の確保
利尿薬を服用していると非常に喉が渇きます。常に自由に飲水できるような環境を確保しておきましょう。
市販のペットフードで食事療法
ペットフード各社では、心臓病に対応したフードを販売しています。
心臓病における必要な栄養素や、制限するべき栄養素が配慮されているため、必要に応じて利用するといいでしょう。
犬の心臓サポート
犬の心臓病療法食にはロイヤルカナンの「心臓サポート」があります。
十分なタンパク質の確保と、ナトリウムの制限がなされているフードです。
また、心筋の栄養であるタウリンの添加や、併発の多い腎臓病への配慮としてリンの制限も同時に行っています。
猫では腎臓サポート
犬に比べ、猫の心臓病用のフードは少ないです。
ロイヤルカナンの「腎臓サポート」を代用しますが、タンパク質が制限されているため、ササミなどを追加しましょう。
また、猫の場合はタウリン欠乏による心筋症の報告がありますので、魚などからタウリンを補う必要があります。
ごはんを手作りする際の注意点
栄養のバランスや嗜好性を考えると、食事を手作りすることは非常に有効です。
新鮮な食材を選ぶことができる、食品添加物を与えないようにするなどのメリットが大きいです。
病気のために何かしてあげられている感覚がするのも良いですよね。
しかし、手作り食は、きちんと管理しないと逆効果となることもあります。
必要な栄養素と食材
心臓病において摂取すべき栄養と、その栄養が含まれる食材を紹介します。
- タンパク質:ササミ、豚肉(脂身を除く)、魚、大豆など
- カリウム:バナナ、イモ類、大豆など
- ビタミンB群:豚肉、枝豆など
初めて給与する食材は、アレルギーを引き起こすこともあります。まずは少量から始めてください。
また、これらの食材のみを与えれば良いわけでもないので注意してください。
控えるべき食べ物
給与を推奨する食材があれば、できれば避けたい食材もあります。
- 粗タンパク質:ジャーキーなどのオヤツなど
- 塩分:カツオ節、人間の食べるもの全般
食事で心臓病を予防できる?
「うちのペットはまだ心臓病になっていないけど、食事で予防できるの?」という疑問を持った方もいるかもしれません。
結論から言うと、食事の改善のみでは病気の予防はできません。
しかし、日頃から栄養バランスの良い食生活を心がけることで、心臓病やその他の病気のリスクを下げることはできます。
総合栄養食による食事管理
各フード会社では、動物のライフステージに合わせた栄養を配合した「総合栄養食」が販売されています。
もちろん、心臓病にも配慮されているので、常食とするのも選択肢の一つです。
ただし、この総合栄養食は療法食ではないため、あくまで健康な状態の動物に給与すべきフードであることを留意しておきましょう。
まとめ
ペットの心臓病における食事管理は、お家でもできる補助療法です。
薬での治療と合わせて行うことで、心臓病の悪化や悪液質を予防・緩和しましょう。
かかりつけの獣医師とも相談しながら、その子にあったごはんを愛情込めて作ってあげてくださいね。
グレインフリーのドッグフードと犬の心臓病との関連とは?
近年、犬の健康志向も高まっており、グレインフリーのドッグフードを愛犬に与えている飼い主さんも多いようです。
しかし、先日、アメリカ食品医薬品局がグレインフリーのフードが犬の心臓病を引き起こす可能性があることを発表しました。
https://news.cheriee.jp/articles/4403
愛犬のことを第一に考えている飼い主さんは気が気ではないことと思います。そんな飼い主さんに向け、グレインフリーとは何なのか、犬の心臓病について、そしてアメリカ食品医薬品局が報告したグレインフリーと心臓病の関連について、丁寧にご説明していきます。
グレインフリーとは
グレインは英語で「穀物」を意味し、具体的には小麦、大麦、トウモロコシ、米、大豆、玄米などのことを指します。
犬はもともと肉食動物であり、穀物を消化する「アミラーゼ」という酵素を持っていません。そのため、穀物は消化しにくくアレルギーを引き起こす可能性があるとも言われており、近年では穀物を使っていないグレインフリーの餌が注目されています。
グレインフリーのフードには、小麦やトウモロコシの代わりに、エンドウ豆などの豆類やサツマイモやジャガイモなどの芋類が使われていることが多いようです。
犬の心臓病
犬にとって心臓病は珍しいものではなく、中年齢以降の犬にはよく見られる病気です。しかし、なぜ犬が心臓病にかかりやすいのかは未だ解明されていません。
犬がかかりやすい心臓病はフィラリア症、僧帽弁閉鎖不全症、拡張型心筋症が挙げられます。
フィラリア症
犬の飼い主さんにとっては聞きなじみのある「フィラリア」。寄生虫のフィラリアに感染している蚊に刺されることで起こるフィラリア症も心臓病の一種です。フィラリアの成虫が心臓の肺動脈に寄生することで血液の流れが悪くなり、散歩中に息が切れたり、腹水がたまったりするなどの症状が現れます。
フィラリアは、体内に侵入した幼虫を投薬により駆除することが可能です。しかし、感染そのものを防ぐわけではありませんので、蚊が活動している期間は定期的な投薬が必要です。
日本ではほとんどの飼い主さんが予防をしているため、近年はフィラリア症が重篤化する犬は少ないとされています。
僧帽弁閉鎖不全症
犬の心臓病の中で最も罹患率が高いのが僧帽弁閉鎖不全症です。キャバリア、マルチーズ、シーズーなどの犬種でよくみられますが、高齢の犬ではどんな犬種にも発症します。
僧帽弁とは心臓の左心房と左心室の間にある弁のことで、これが加齢などにより変性することで弁が完全に閉じなくなってしまいます。心臓の各部屋を仕切る弁が機能しなくなると血液の逆流が起こり、全身へ送り出す血液の量が減少し、心臓の拡大化を引き起こします。
急性の場合は、肺高血圧、肺うっ血による呼吸困難などを引き起こします。慢性的な場合は症状に気づかないことも多くありますが、心臓の機能が徐々に低下し、息切れや呼吸困難が現れます。
拡張型心筋症
拡張型心筋症も犬がかかりやすいとされている心臓病で、ドーベルマン、グレート・デーン、ボクサー、セント・バーナードなどの犬種や中年齢のオスによくみられます。
拡張型心筋症は、心筋が薄くなることで心臓が大きくなり、心臓の機能が低下して全身に血液を送れなくなってしまう病気です。疲れやすくなる、食欲がなくなる、運動中に失神するなどの症状が現れます。
犬の拡張型心筋症は遺伝的な要素が高いと言われていますが、詳しい原因はまだ分かっていません。また、生体内で重要な働きをするタウリンの欠乏も原因の一つであるという報告もあります。
グレインフリーと心臓病の関連について
アメリカ食品医薬品局(FDA)の調査により、拡張型心筋症を発症した犬の多くがグレインフリーのフードを食べていたことが分かり、両者に関連がある可能性が示唆されました。
以下、FDAが2014年1月1日から2019年4月30日までに拡張型心筋症を発症した犬560匹と猫9匹を対象にした、頻繁に与えているフードの調査結果をお伝えします。
ドッグフードの成分
このグラフは拡張型心筋症を発症した犬が食べていたドッグフードの成分をグラフにしたものです。グレインフリーのドッグフードは91%で、エンドウ豆かレンズ豆のいずれかを含んでいたドッグフードは93%でした。
調査対象はあくまで「拡張型心筋症を発症した犬が食べていたドッグフード」であり、「グレインフリーのドッグフードを食べていた犬の拡張型心筋症発生率」等は示されていないため、現段階で「グレインフリー=拡張型心筋症を発症しやすい」ということは難しいと言えるでしょう。
FDAは結果から「拡張型心筋症とグレインフリーやエンドウ豆、レンズ豆に関連性があるのではないか」と考えており、引き続き調査を続けるとのことです。
フードに含まれる動物性タンパク質の由来
このグラフは拡張型心筋症を発症した犬が食べていたドッグフードの動物性タンパク質の由来を分類したもので、ほとんどは複数のタンパク源が含まれていました。
最も多く含まれていたのが鶏肉の113件、ラム肉98件、サーモン72件、白身魚65件と続きます。カンガルー、バイソン、アヒルなどの特殊なものが含まれているフードもありました。
拡張型心筋症と犬種の関連
先ほども述べたように、拡張型心筋症は大型の犬種でよく発症すると認識されており、今回はゴールデンレトリバーが顕著に高い値を示しました。
なお、このアンケートでは犬種の比率が明らかになっておらず、たまたまゴールデンレトリバーを飼育している人が多かったため数値が高くなった可能性もあります。このことから、一概にゴールデンレトリバーが拡張型心筋症にかかりやすいとは言えません。
しかし、ゴールデンレトリバーが遺伝的にタウリン欠乏症にかかりやすいという報告はすでにされており、今後はゴールデンレトリバーと拡張型心筋症の相関についても調査していくとのことでした。
最後に
健康のために良かれと思いグレインフリーのフードを与えている飼い主さんは、この記事を読んで不安になってしまったかもしれません。
しかし、現段階ではグレインフリーのフードと拡張型心筋症の関連については完全には明らかになっておらず、今後も引き続き調査を行っていくとのことです。Cherieeでも引き続き、この調査を追っていきたいと思います。
どんな病気も予防と早期発見が大切です。もし不安に思うことがあれば、かかりつけの獣医さんに相談し、検査をしてもらうようにしましょう。