【獣医師監修】アビシニアンの6つの好発疾患と適切な飼育環境
野性味のある見た目と美しい毛並みで人気の猫種、アビシニアン。
クールでキリッとした顔立ちをしていますが、性格は甘えん坊で好奇心が旺盛なところも人気のポイントです。
一方で、アビシニアンには、遺伝的に気をつけなければならない疾患がいくつかあることをご存知でしょうか。
今回の記事では、アビシニアンの好発疾患と飼育環境について獣医師が詳しく解説します。
アビシニアンの基本情報
アビシニアンの基本的な情報を簡単にまとめました。
原産国
諸説あるが、エジプトやイギリスが有力
体重
2.5~4.5キロ
ボディタイプ
フォーリン。しなやかで筋肉質、スマートな体型。
顔の特徴
大きなアーモンドアイにクレオパトララインが相まって、目力が強い。「クレオパトラが愛した猫」とも言われる。
被毛
短毛。ティックドタビー(一本一本の毛が複数の色でできている)が美しい。
性格
甘えん坊で活発、好奇心が旺盛。
アビシニアンの好発疾患
アビシニアンの血統には、特徴的な遺伝性疾患が存在します。
その代表的なものが、「ピルビン酸キナーゼ欠損症」ですが、他にも知っておきたい疾患があります。
順番に見ていきましょう。
1. ピルビン酸キナーゼ欠損症
【症状】
貧血、運動不耐性(疲れやすい)、頻脈など
【原因】
「ピルビン酸キナーゼ」という酵素の、遺伝的欠損による溶血性貧血
【備考】
アビシニアンでは遺伝子変異が報告されているため、遺伝子検査が可能。
2. 進行性網膜萎縮
【症状】
夜盲、視覚異常、失明など
【原因】
遺伝性の網膜症
【備考】
特異的な治療法はなく、早期発見による生活水準の維持が課題となる。
3. 慢性腎不全
【症状】
多飲多尿、頻尿、尿が薄い、貧血、食欲不振、嘔吐、口内炎など
【原因】
長期にわたる腎臓への負担、腎毒性物質、腎臓の炎症、感染症、腫瘍など
【備考】
腎不全の進行により尿毒症、腎性貧血などが発現する。
4. 甲状腺機能亢進症
【症状】
体重減少、多食、嘔吐、下痢、多飲多尿、攻撃性の増加、脱毛、頻脈など
【原因】
猫の場合は非腫瘍性の過形成が原因のことが多い。甲状腺癌が原因のものは全体のわずか1〜2%という報告もある。
【備考】
高齢の猫では最も一般的な内分泌疾患である。
5. 細菌性尿路感染
【症状】
頻尿、有痛性排尿、血尿など
【原因】
尿の残留、尿結石、腎不全による尿組成の変化、尿糖の排泄など
【備考】
放置すると細菌が膀胱から腎臓へ感染することもあり、危険である。
6. 重症筋無力症
【症状】
脱力、吐出、発生障害(鳴き声がかすれる)、嚥下障害、瞬きの異常など
【原因】
神経と筋肉の伝達に異常が起こり、四肢や顔面の筋肉が動かなくなることによる。
【備考】
巨大食道症を併発することが多く、吐出などの症状が見られる。またその場合、誤嚥性肺炎には十分な注意が必要。
アビシニアンのための飼育環境
それぞれの猫に適した飼育環境を整えることで、病気の早期発見や早期治療に繋がることがあります。
アビシニアンと一緒に暮らす上では、どのような環境が推奨されるのでしょうか?ここでは、病気以外でも、日頃から注意したいことをご紹介します。
活発で運動量は多め
アビシニアンには筋肉質な子が多く、その分必要な運動量も多くなります。
一緒に遊んであげる時間を作ることや、キャットタワーを設置するなどしてひとりの時も退屈しないような工夫が必要です。
運動不足は肥満の原因となり、肥満は様々な病気の原因となるので注意しましょう。
好奇心が旺盛なため、誤飲や脱走に注意
飲み込むと危険なもの(尖ったもの、小さなプラスチック、チョコレートなどの毒物など)は、猫の手の届かない引き出しの中などにしまいましょう。
また、ドアを開けた隙に外に飛び出してしまわないよう、出入りには十分に気をつけ、もしもの時のためにマイクロチップの挿入も検討しましょう。
トイレはいつも清潔に
アビシニアンによく見られる疾患として細菌性膀胱炎がありますが、これはトイレの衛生環境も関係しています。こまめにトイレを掃除しましょう。
抜け毛対策のブラッシング
アビシニアンは短毛ですが、換毛期には非常に多くの毛が抜けます。大量の抜け毛は毛球症(グルーミングなどによって口から入った毛玉が腸を閉塞する病気)の原因にもなります。
愛猫とのコミュニケーションにもなりますし、定期的にブラッシングをしてあげましょう。
定期的な健康診断を
貧血、腎機能、甲状腺機能など、アビシニアンには定期的にチェックすべき項目があります。
その子の性格(病院に行くことを極端に嫌がるなど)にもよりますが、半年〜1年に1回の検診をオススメします。
アビシニアンは凶暴化することがある?
アビシニアン以外の猫でも凶暴化することはありますが、少し神経質気味なアビシニアンは、他の猫種よりも凶暴になりやすいと言われています。
引越しや出産といった生活環境の変化に伴って見られる嫉妬やパニックが原因のことが多いようです。
また、猫の嫌がる行為を続けたり、脳に病気があることも原因と考えられています。
まずは、凶暴化しないように
凶暴化をできるだけ防ぐため、いくつかの対策をご紹介します。
- 引っ越しの際は、たとえボロボロであっても猫の毛布やおもちゃを捨てずに持っていく。
- 新入り猫や、人間の赤ちゃんを新しく迎え入れる際は、はじめは違う部屋で過ごさせ、徐々に慣らしていく。
- 引っ越しによる環境の変化や、新入りへの嫉妬でストレスを抱えないよう、意識して多めに遊んであげる。
- 猫の嫌がる行為はしない。特に、日中テレビをつけっぱなしにするなど、何気ない行為が実は猫のストレスになり得るので要注意。過度なスキンシップも控えよう。
- 柑橘系の香りは猫にとって不快なので、香水やアロマの香りには気をつける。
- 病気を早期発見するため、定期的に健康診断をする。
それでも凶暴化してしまったら
むやみに手を出すと咬まれたり引っ掻かれたりすることがあるため、愛猫が落ち着くまで放置するか、別の部屋に隔離することが推奨されます。それでも治まらない場合は、動物病院に相談しましょう。
まとめ
ここまで非常に多くのことを説明してきましたが、一度に全てを変える必要はありません。
しかし、一緒に暮らしている大切な家族が少しでも多くの幸せを感じられるように、愛猫に合った環境の整備が重要です。
アビシニアンがかかりやすい病気をよく理解して、予防や早期発見に努めましょう。
ロシアンブルーでも病気にかかる!リスクを減らす飼い方のポイント
グレーのきれいな毛並みとエメラルドグリーンの瞳が特徴の、ロシアンブルー。
筆者の動物病院にも連れて来られることが多い猫種で、きちんと手入れがされているロシアンブルーは、「カッコイイ」、「上品」という印象が強いです。
そんなロシアンブルーですが、猫種特有のかかりやすい病気はあるのでしょうか?
今回は、ロシアンブルーの好発疾患と、飼育環境の注意点を、獣医師が詳しく解説します。
ロシアンブルーの好発疾患?
猫には、その品種によって遺伝的にかかりやすい病気があります。それは、人間がその猫種を作出する際に近親交配を続けたことによります。
しかし、ロシアンブルーには、猫種で特徴的な遺伝性疾患が存在しません。その意味で、ロシアンブルーは非常に優秀な猫種だと言えます。
ロシアンブルーは病気に強い?
ロシアンブルーには遺伝的に発生しやすい疾患はありませんが、生き物である以上、病気にならないというわけではありません。
他の猫種と比較して特別に免疫力が強いわけでもなければ、内臓が際立って丈夫なわけでもないのです。
他の猫達と同様に、病気の基礎知識を理解しておくことで、早期発見・早期治療につなげましょう。
ロシアンブルーの飼い主さんが知っておきたい病気
慢性膵炎(すいえん)
【症状】
元気消失、食欲不振、間欠的な嘔吐、体重減少など。
時に下痢、脱水、黄疸などが見られることも。
【原因】
急性膵炎の反復、または膵臓が長期にわたり糖尿病や他の疾患の影響を受け続けることによる。
【備考】
猫の膵炎は、胆管炎、胆管肝炎、肝リピドーシス、炎症性腸疾患との併発が多い。
また、トキソプラズマ感染症やヘルペスウイルス感染症によっても膵炎が誘発される。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、体重減少、削痩、嘔吐、脱水、下痢、便秘、低体温など。
【原因】
猫は元々インスリンの分泌が少なく、アミノ酸からグルコースを作り出す代謝系が活発。
肥満、ストレス、感染症など、血糖値が上昇する因子、血糖値を下げられない因子が関わると糖尿病になりやすい。
【備考】
猫では糖尿病による神経障害が起こることが知られており、末期には腎不全が発症する。
慢性腎不全
【症状】
多飲多尿、尿色が薄くなる、食欲減少、体重減少、嘔吐、下痢、口内炎など。
【原因】
慢性的に加えられた腎臓への負担(傷害)を修復する過程で線維化が進行することで発症する。
【備考】
慢性腎不全は貧血や尿毒症を引き起こす。
骨折
【症状】
患肢の痛み、挙上など。
【原因】
外からの物理的な衝撃。
【備考】
家具の隙間に足を挟む、ドアに尻尾を挟むなどには注意。
甲状腺機能亢進症
【症状】
体重減少、脱毛、多食、嘔吐、多飲多尿、活動の亢進、攻撃性の増加など。
【原因】
ホルモン分泌能を有した甲状腺の片側性または両側性の過形成または腺腫。
【備考】
甲状腺癌によるものは全体の1~2%と少ない。
ロシアンブルーを飼う際のポイント
生き物ですから、気をつけていても病気が発生してしまうのは仕方のないことです。
しかし、病気によっては、日常生活を見直すことで発生のリスクを低下させられるものもあります。
1. 尿量の把握
ロシアンブルーに限らず、猫で最も注意したいのが腎臓病です。
猫は、人間や他の動物と比較して濃い尿を排泄します。
その濃い尿を作るために、腎臓には大きな負担がかかっている状態で、腎臓に対するケアを怠ると、加齢とともに腎臓病の症状が現れます。
腎臓の異変は外見では分かりませんが、尿量が増えた、尿が薄くなった、水をたくさん飲むようになったなどは、腎臓病のサインかもしれません。
毎日の排泄物を処理する際に、少しだけ気をつけてみてください。
2. 飲水量の把握
愛猫が一日にどのくらいの量の水を飲むのかは、腎臓病や甲状腺機能亢進症を発見する上で非常に重要です。
しかし、蒸発や、水飲み皿をひっくり返すなどによって正確な飲水量を計測するのは本当に難しいことです。
それでも、皿にどのくらい水を入れて、何時にどのくらい減っていたかを記録していくことによって、飲水量の増減のおおよその判断はつくと思います。
毎日の記録は大変ですが、できる範囲で構いませんので、日常の健康チェックを行いましょう。メモリ付きの容器を使うと便利です。
3. 若い頃の運動量は多め
ロシアンブルーは筋肉質で、他の猫種と比べると少しだけ必要な運動量が多い猫種です。
特に若いうちは、運動不足によるストレスから病気になることもあるため、注意が必要です。
遊んであげる時間を作る、猫が一人でも遊べる工夫をする、キャットタワーを設置するなど、考えてあげましょう。
もちろんその際に、小さなオモチャを飲み込んでしまう、高いところから落ちてケガをするなどがないように気をつけてあげましょう。
4. 定期的な健康診断を
例え病気を疑うような明らかな症状がなくても、安心ではありません。
猫は本能的に、自分が弱っている姿を隠す傾向にあります。つまり、食欲不振などの症状が現れた時には、すでに病気は進行してしまっていることが多いのです。
そこで、若いうちは1年に1度、シニア(7歳以上)では半年に1度の健康診断をオススメします。
「何もないから病院には行かない」のではなく、「何かあるかもしれないから行く」という意識を持てば、病気の早期発見に繋がります。
ただし、動物病院が極度に嫌いな子もいますので、その子の性格に合わせた健康管理プログラムを獣医師と相談することが重要です。
まとめ
ロシアンブルーは、性格の穏やかな子が多く、猫種特有の好発疾患もないため、飼いやすい猫種です。
大切な家族の一員であるという意識を忘れずに、病気にしない生活や、万が一病気になってしまった時にすぐに適切な対処ができる心構えを持っておきましょう。
【獣医師監修】気になる猫の多飲多尿!もしかしたら病気かも?
猫との生活で把握しておきたいパラメーターに、「飲水量」と「尿量」があります。
普段あまり気にしないという飼い主さんも多いかもしれませんが、これらを把握しておくことが、猫の健康を把握することにも繋がります。
今回は猫の多飲多尿について、獣医師が詳しく解説していきます。
多飲多尿とは
多飲多尿とは、飲水量および尿量が通常よりもかなり増加することです。
具体的には猫の場合、一日で体重1㎏当たり45~50ml以上の飲水があれば多飲と判定します。また、尿量に関しては、一日で体重1㎏当たり40ml以上の排尿があれば多尿と判定されますが、尿量を自宅で測定することは困難です。
よって飼い主が異常に気付きやすいのは、「最近よく水を飲む気がする」という行動の変化でしょう。飲水量が増えれば尿量も増えますし、逆に尿量が増えれば飲水量も自然と増えます。どちらが先かはわかりませんが、多飲と多尿は対になって現れることが多いです。
猫の多飲多尿で受診した聞かれること
自宅での飲水や排尿の様子は、飼い主にしかわかりません。猫は自分で症状を訴えられない分、家での自然な行動から情報を読み取る必要があります。
動物病院を受診する際は、以下のことを確認しておきましょう。
- 飼育環境:暑すぎないか、水はいつでも飲めるか、食事の種類(カリカリ、缶詰など)
- 元気や食欲の有無
- 体重減少の有無:急激な体重減少があるか
- 嘔吐や下痢の有無
- 排尿時の様子:尿意の回数、尿失禁、尿臭、色など
- 投薬歴:ステロイドや利尿薬など
猫の多飲多尿で考えられる疾患
多飲多尿が見られた時に、ただ喉が渇いているだけなのか、病気による症状の一環なのか、判断を誤ると大変なことになります。自分で判断せず、必ず獣医師に相談しましょう。
ここでは、猫の多飲多尿が見られた際にどのような疾患が考えられるか、詳しく解説していきます。
慢性腎不全
猫で飲水量や尿量が増えた際に、最初に疑うべき病態です。
特に6歳齢を超えると腎臓病の罹患率が急激に上昇するというデータもあり、10歳以上の猫の30〜40%が腎不全にかかっているとも言われています。
「慢性」と名のつく通り、慢性腎不全は徐々に進行していく病気です。そのため、若い時期からの食事管理や定期的な健康診断などの腎臓に対するケアを行うことで予防しましょう。
甲状腺機能亢進症
甲状腺は、体内の活動を活発にするホルモンを分泌する臓器です。
甲状腺の機能が亢進(こうしん)すると代謝が異常に活性化され、食べても体重が落ち続けていく、攻撃性が増すなどの症状が見られるようになります。
また甲状腺機能の亢進によって、腎臓への血流が増加している可能性があります。このことから、甲状腺機能亢進症の治療を行った結果、隠れていた腎不全が現れてくることもあります。
糖尿病
猫の糖尿病はインスリンの作用不足による、いわゆる2型糖尿病が主と言われています。
また猫の糖尿病では、雄は雌の1.5倍発症しやすく、その危険因子として肥満、老齢、感染症、腫瘍、膵炎などが挙げられます。
尿検査や血中グルコース濃度の測定によって診断が可能であるため、高齢になってきたら健康診断を受けることをおすすめします。
尿崩症
動物の尿は、水よりも重く(濃く)作られており、それはバソプレシンというホルモンが関係しています。バソプレシンは腎尿細管における水の再吸収を促進し、尿を濃いものにします。
尿崩症はバソプレシンの分泌不足、あるいは作用不足によって尿が薄く大量に排泄される疾患です。水に近い尿を多量に排泄するために大量の水を飲みますが、それでも足りずに脱水することもある怖い病気です。
心因性多渇
運動不足やストレス環境下では自律神経の機能が低下し、多飲多尿を示すことがあります。
獣医療において「ストレス」と診断するのは非常に難しいことです。今一度飼育環境を見直し、猫にとって暮らしやすい環境を作ってあげてください。
医原性
利尿薬やステロイドなど、服用することで多飲多尿を示す薬剤があります。
もちろん、それらは他の疾患の治療のために服用しているのですが、十分な説明がないとびっくりすることも多いです。
投薬する際にはあらかじめ、その薬の作用について理解しておくことが重要です。
猫の多飲多尿で注意すること
ただ漫然と生活していては、愛猫の異変に素早く気付くことはできません。
とは言っても全てに気を付けることは不可能ですので、ポイントを押さえて健康チェックをしていきましょう。
飲水量の把握
愛猫が高齢になってきたら、食事量などと同様に飲水量を把握しておきましょう。
外飼いであったり、複数の猫を飼育している場合には飲水量の把握は難しいかと思いますが、猫の多飲多尿を確認する上で一番有効な方法でもあります。
飲水用の器にどのくらい水を入れたのか、一日の最後にどのくらい水が残っているのかを確認すれば、おおよその飲水量が見えるはずです。内側にメモリのついた容器を使えば確認の際に便利です。
定期的な健康診断
やはり病気の早期発見には健康診断は欠かせません。猫の場合は、血液検査の他に尿検査も同時に行うといいでしょう。
自宅での飲水量および尿量の把握が困難でも、尿に異常が見られた場合には多飲多尿が見えてくることもあります。6歳齢を超えたら、少なくとも半年に一回は健康診断を受けましょう。
まとめ
腎不全や甲状腺機能亢進症など、猫で注意したい疾患では多飲多尿が見られることが多くあります。「たまたま喉が乾いているだけかな?」と思うこともあるかもしれませんが、愛猫に違和感を覚えたら、すぐに動物病院へ連れて行くようにしましょう。
一緒に生活する中で異変を見落とさない目を養うことが、愛猫の長生きの秘訣かもしれません。
【獣医師監修】猫の尿で毎日健康チェック!尿から気付ける病気とは
猫を飼っているみなさんは、日常的に猫のトイレの掃除をしていると思います。その日常のトイレ掃除、何も考えずにただ漠然と行っていませんか?
言葉が話せない猫にとって、尿は大切な健康に関する情報です。健康の異常が尿の異常となって現れることもあるので、いつものトイレ掃除で尿の状態を確認することが重要です。
今回は、猫における尿の外観異常について、獣医師が詳しく解説していきます。
尿外観異常とは
猫の尿の色は通常、黄色~淡い黄色をしています。尿の外観異常は、この尿の色が濃くなる、薄くなる、赤くなるなどの異常を呈する状態です。
代表的なものは「血尿」です。主に泌尿器系の疾患によって尿色に異常が生じます。
猫の尿の異常で動物病院を受診する前に
愛猫の尿の異常に気付いたら、なるべく早めに動物病院を受診する必要があります。あらかじめ次のようなことを把握しておくと、診断がスムーズに進みます。
- いつから:急性か慢性か
- 尿の様子:色、臭いなど
- 排尿時の様子:頻尿の有無、排尿時に痛みがありそうか、尿漏れの有無など
- 飼育環境:環境の変化、猫がイタズラした可能性など
尿の持参もしよう
尿の外観異常が見られた場合、尿検査は必ず行いたい検査です。自宅で採尿が可能であれば、その尿で検査を行った方が猫への負担が少なくて済みます。
ウロキャッチャーと呼ばれる、スポンジが先端に付いた棒があり、簡単に採尿をすることができます。ウロキャッチャーは動物病院で購入することができます。
その際、細菌や蛋白質の混入を防ぐために、猫の排尿を空中でスポンジにキャッチすることが望ましいのですが、なかなか現実的ではありません。そこで、裏返したペットシーツの上に排尿させると楽に採尿できます。
また、無菌的に採尿するために、動物病院にてカテーテルまたは穿刺による採尿を行うこともあります。
猫の尿の異常で考えられる疾患
では、尿の外観異常が見られたとき、猫の体の中では何が起こっているのでしょうか。
疾患が泌尿器だけに起きている場合もあれば、全身に影響を及ぼしている場合もあります。
ここからは、猫の尿に外観異常が見られた際に疑われる疾患をご説明します。
特発性膀胱炎
膀胱炎は、猫において非常に多くみられる疾患です。
膀胱炎にはいくつか原因がありますが、その中でも注意したいのが「特発性膀胱炎」です。
特発性膀胱炎にはストレスが関与していると言われています。引っ越しや、近所の工事音、ペットホテルに預けるなど、住環境の変化がストレスとなって膀胱炎になることが多いのです。
血尿や頻尿といった泌尿器症状が見られ、時には腹痛や食欲不振も認められます。生活の中で猫のストレスを緩和してあげることが非常に重要です。
結石性膀胱炎
結石性膀胱炎は膀胱炎の中でも、膀胱の中に結石が形成されることに起因するものです。
膀胱内の結石がゴロゴロ転がることで膀胱粘膜を傷つけ、炎症が起こります。
結石の種類にもいくつかあり、体質や栄養状態によってできやすい結石が異なります。
また、形成された結石の大きさによっては、尿道閉塞を起こす可能性があります。
特に、雄猫の尿道は非常に狭く、閉塞を起こしやすくなっています。
タマネギ中毒
猫にとってタマネギは毒物で、食べると赤血球が破壊されます。
それによって赤血球の赤い色素が尿中に現れ、血色素尿となります。タマネギ中毒は重度の貧血を引き起こし、命を落とす危険もあります。
タマネギを食べてしまった可能性が少しでもあるのなら、すぐに動物病院を受診してください。
多発性嚢胞腎
腎臓に嚢胞(のうほう)が多数形成される先天性腎疾患で、ペルシャやエキゾチックショートヘアで見られます。
初期は無症状ですが、嚢胞が増えてくると腎機能障害が起こります。
徴候としては血尿、嘔吐、多飲多尿および尿路感染症などが認められます。
確定診断は超音波検査にて腎臓の嚢胞の大きさや個数を確認しますが、これは生後1~2カ月から可能です。
治療法は確立されていないので、慢性腎不全に対する対症療法を行うしかありません。
泌尿器系腫瘍
猫の高齢化によって腫瘍による尿外観異常も増えてきています。
泌尿器系の腫瘍は悪性であることが多く、腎臓や膀胱に腫瘍が発生します。
血尿と排尿困難が主な臨床症状であるために、膀胱炎と診断された後に治療を行ってもなかなか治らず、精査してみて見つかることも多くなっています。
胆管閉塞
胆管は胆嚢と十二指腸を繋ぎ、胆汁の通り道となる管です。
この胆管が閉塞すると、血清や組織が胆汁色素(ビリルビン)によって黄色く染まる「黄疸」が発生します。
血清中のビリルビン濃度が高くなると、尿中のビリルビン濃度も高くなり、尿は濃い黄色になります。尿中のビリルビンは尿検査によって検出可能です。
ただし、排尿回数が少ない猫は元々尿色が濃いことがあるため、判断が難しいと言えます。
慢性腎不全
腎臓で尿の濃縮がうまくできなくなると、尿色は薄くなります。
何かしらの対策を行わないと、70%以上の猫が慢性腎不全になると言われており、猫と腎不全は切っても切れない関係となっています。
年齢とともに尿が薄くなった、尿量が増えた、飲水量が増えたなどの症状が見られた場合は腎不全を疑いましょう。
変性した腎臓の細胞は、例え治療しても元に戻ることはなく、また腎不全の臨床症状が現れる頃には腎細胞の約60%が機能しなくなっていると言われています。
残った腎細胞にいかに負担をかけないかが長生きの秘訣になります。
猫の尿の異常にいち早く気づくために
日頃から猫の尿色の確認をすることで、早めに異常に気づいてあげたいものです。
猫の異常に早く気づくために、飼い主さんはどのようなことができるでしょうか。
トイレでの尿色確認
猫砂など、トイレのタイプによっては尿の色を確認しにくいかもしれません。しかし、例えば白い砂に変えてみるなどの対策で、多少は尿の色が確認しやすくなります。
さらに排尿後のトイレの様子を写真に撮っておけば、小さな変化に気付くことができるかもしれません。
外飼いの時は
外で排泄する習慣がある子については、尿色を確認することはできません。しかし、膀胱炎や腎不全などの疾患では血尿以外にも頻尿などの症状が見られることがほとんどです。
尿色に頼れない以上、他の徴候を見逃さないようにしましょう。
まとめ
猫の尿の外観異常は、排泄物として残るため、比較的気付きやすい異常です。
特に、猫は泌尿器に疾患をかかえやすい性質があります。愛猫が長生きできるよう、日頃から注意して猫の尿を観察してあげましょう。
【獣医師監修】猫の嘔吐は正常な場合も!見分けるポイントをご紹介
猫の飼い主さんなら、一度は猫の嘔吐に遭遇したことがあるでしょう。
猫によっては健康でも吐くことはあります。しかし、確認した嘔吐が本当に正常かどうかを判断できますか?また、吐き戻しが連続して、1日に何回も確認できた場合はどうでしょう?
今回は猫における嘔吐について獣医師が詳しく解説していきます。
嘔吐と吐出
「吐き戻し」には、「嘔吐」と「吐出」の2つがあります。嘔吐は日常でも聞いたことがあるかもしれませんが、吐出は聞きなじみのない方もいるのではないでしょうか。
それぞれの違いについて見ていきましょう。
嘔吐とは
嘔吐は、延髄の嘔吐中枢が様々な原因により刺激されることで起こり、胃の内容物が食道に押し上げられて口から出る現象です。
他にも空嘔吐と呼ばれる、横隔膜と腹壁の連続的な動きが見られることが特徴です。
吐出とは
一方、吐出は咽頭や胸部食道の内容物を受動的に吐き出すことを言います。
受動的なので腹部に力が入ることはなく、気持ち悪いような様子も見られません。
また吐物に胃液を含まないため、吐物は酸性よりもむしろアルカリ性を示すことも特徴で、嘔吐との鑑別のためには重要なポイントです。
猫の嘔吐で動物病院を受診した際に聞かれること
嘔吐を主訴とする動物病院への来院は非常に多く、また嘔吐を示す疾患も多岐にわたります。どこに異常があるのかは検査をしてみて初めてわかりますが、全ての検査を行おうとすると猫に大きな負担がかかってしまいます。
そこで問診を行うことで、ある程度の当たりを付けられる場合があります。
猫の嘔吐で動物病院を受診する際は、事前に次のようなポイントを把握しておくとスムーズです。
- いつから: 急性か慢性かの判断
- 誤食の可能性: ゴミ箱など漁った形跡がないか、異物や毒物の可能性
- 病歴と治療歴: 嘔吐を誘発する薬剤の服用、他の疾患の既往歴
- 食事との関連: 食事の変更(食物アレルギーの有無)、食後どのくらいの時間で嘔吐するのか、食事とは関係ないのかなど
- 嘔吐物の様子: 内容物、色、臭いなど
猫の嘔吐で考えられる疾患
嘔吐が症状として見られる疾患はたくさんあります。
全てを紹介することはできませんが、代表的なものをピックアップしました。
膵炎
猫において膵炎は非常に多い疾患です。
嘔吐の他に下痢、発熱、食欲不振などの消化器症状を呈します。
また十二指腸炎や胆管肝炎を併発することも多く、これら併発症の有無を検索する必要もあります。さらに膵炎が慢性化する場合もあり、長期的な管理が必要となることもあります。
異物
いたずら好きな性格の子や若い猫に多く見られます。
体の大きさの割に大きいものを口に入れることも多く、腸閉塞を起こすことが考えられます。
また、尖ったものは胃粘膜や腸粘膜を傷つけることもあり、最悪の場合は消化管を穿孔してしまいます。
さらに猫は紐などの細長いもので遊ぶことが好きな子が多く、誤って飲み込んでしまうとほとんどの場合、手術によって摘出しなくてはなりません。
炎症性腸疾患
小腸または大腸における原因不明の炎症によって、慢性的な腸障害を示す疾患です。
確定診断は内視鏡による腸の生検によりますが、全身麻酔が必要なために診断が難しい疾患でもあります。
嘔吐の他に慢性的な下痢も見られることが多く、食欲不振や体重減少も認められます。
腫瘍
猫における消化管の腫瘍としては、消化器型リンパ腫の発生が重要です。
FeLV(猫白血病ウイルス)陰性の老齢猫での発生率が高いとされています。そのため、中高齢猫で慢性的な嘔吐が見られた場合には、まずリンパ腫の存在を疑います。
血液検査のみでは炎症性腸疾患との鑑別は困難であるため、超音波検査や細胞診を併用することによって診断を行います。
慢性腎不全
猫における最も一般的な嘔吐の原因となります。
猫は古代エジプトでも飼育されていた記録があり、もともと砂漠の動物であるため余分な水分を排泄しないように濃縮された濃い尿を出します。そのために腎臓は生まれた時からフル稼働状態となるので、年齢とともに腎不全になる可能性が高くなります。
慢性腎不全になると、尿の排泄によってしっかりと体外へ毒素を排出できるよう、皮下補液による水分の補給が必要となります。また失われた腎機能は改善することはないため、若い年齢のうちからの腎臓へのケアは非常に重要です。
甲状腺機能亢進症
甲状腺は頸部腹側にある臓器で、基礎代謝に関与しています。甲状腺機能亢進症は、甲状腺から分泌されるホルモンが増加することで、食欲亢進と著しい体重減少を呈する疾患です。
また攻撃性も亢進するため、年齢とともに性格が変化したなどの徴候も甲状腺機能亢進症を疑う所見です。
血液検査によって血液中の甲状腺ホルモンを測定することで診断が可能なので、定期的な健康診断が早期発見のカギとなります。
猫は毛玉を吐く習性がある
猫を飼ったばかりの人は驚くかもしれませんが、猫は毛玉を吐き出す習性があります。
これは、猫が毛づくろいをした際に飲み込んだ毛が便として排出されず、体内にたまった毛玉を口から排出するためです。一見、苦しそうに見えますが、吐いた後に食欲もあり、体調に影響がないようであれば問題ありません。
しかし、吐こうとする仕草を見せるのに、毛玉を吐き出せない場合は、胃の中で毛の塊が形成されて排出できなくなってしまっている可能性があります。悪化すると開腹手術が必要になることがありますので、気付いたら早めに動物病院を受診しましょう。
なお、日頃からブラッシングを行うことで、猫の飲み込む毛量を減らすことができます。
猫の嘔吐で受診すべきか見分けるポイント
猫に嘔吐が見られた際に動物病院を受診するかは非常に悩むところだと思いますが、連続した嘔吐や、嘔吐の他に臨床症状が認められる時には迷わず動物病院を受診しましょう。
一概には言えませんが、嘔吐の後に食欲があれば少し様子を見ても大丈夫なケースが多いです。しかし、少しでも様子がおかしいと感じた時は、その感覚を信じてすぐに動物病院を受診してください。
まとめ
猫の嘔吐はよく見られる症状のため、必ずしも体調が悪かったり、病気を患っているということではありません。
飼い主の判断が重要となる臨床症状であるため、異常を異常と感じ取れる嗅覚を日頃から養っておくことが重要です。