【2019年改正動物愛護法】増加する動物虐待。その歯止めになるか?動物虐待厳罰化の背景とは?

2019年6月参議院本会議で、議員立法の改正動物愛護法が、全会一致で可決、成立しました。

主に、犬猫の販売を認める時期を、これまでの生後7週超えから8週超えに改定すること、犬猫へのマイクロチップ装着・登録の義務化、ペットの虐待に対する厳罰化など多くの改正が行われました。

【2019年改正動物愛護法】生後56日以前の販売を禁止する「8週齢規制」とは?

【2019年改正動物愛護法】マイクロチップ装着の義務化の目的と懸念に迫る

今回は、それらの多くの改正の1つである「ペットの虐待に関する厳罰化」について取り上げ、その中身を詳しくご紹介していきます。

動物愛護法とは


正式名称は動物愛護管理法で、人と動物の共生を目指し、動物の愛護と適切な管理方法について定められた法律です。

すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするだけでなく、人間と動物がともに生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知った上で適正に取り扱うことができるように定められています。愛護動物を虐待したり遺棄することは犯罪となり、違反すると懲役や罰金に処されます。

※愛護動物とは
1. 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、及びあひる
2. その他、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

虐待の禁止

動物虐待とは、不必要に動物を苦しめる行為のことを言い、主に次のような行為が含まれます。

  • 正当な理由なく動物を殺したり傷つけたりする行為
  • 必要な世話を怠ったりケガや病気の治療をせずに放置する、充分な餌や水を与えないなど、「ネグレクト」と呼ばれる行為

なお、食用にしたり、治る見込みのない病気やけがで動物がひどく苦しんでいるときなど、正当な理由で動物を殺すことは虐待ではありませんが、その場合でもできる限り苦痛を与えない方法をとらなければならないとされています。

遺棄の禁止

動物の飼い主には、動物を最後まできちんと飼う責任が義務付けられています。飼っているペットを捨てるという行為は、立派な犯罪なのです。

動物の遺棄は動物を危険にさらし、飢えや乾きなどの苦痛を与えるばかりでなく、近隣住民への迷惑や農業被害・生態系破壊が懸念されるため、禁止されています。

改正された内容


今回の法改正では、上記の「虐待・遺棄の禁止」に違反した場合に課せられる懲役や罰金が厳罰化されました。

これまでの法律

  • 愛護動物をみだりに殺したり傷つけた者には「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」
  • 虐待・遺棄を行った場合は「100万円以下の罰金」

今回の改正

  • 愛護動物をみだりに殺したり傷つけた者には「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」
  • 虐待・遺棄を行った場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」

また、今回の改正で、みだりに飼養密度が著しく適正を欠いた状態で飼養するといった「多頭飼育」状態の場合も虐待の一つであることが例示されました。

改正された背景

猫
今回の法改正での動物虐待の厳罰化には、どのような背景があるのでしょうか。

動物虐待の増加

動物虐待の件数は年々増加しています。2018年の検挙件数は全国で84件と、6年連続で前年を上回っているのが現状です。その内訳は猫が51件、犬が28件の他、カメやハムスターなどもありました。

近年の動物虐待の悪質化

近年の動物虐待は、実際に動物を虐待する様子を動画で撮影し、それをインターネットに投稿するなど、より悪質化している傾向にあります。また、その投稿された動画に対し、虐待行為を煽るような書き込みがされ、虐待がエスカレートしていくなどの事態も増えています。

2017年12月、男が猫13匹を虐待し死傷させた事件が一例として挙げられます。この男は、インターネット上に猫に対して熱湯をかけたり、バーナーで焼いたりなどした様子を撮影した動画を投稿しており、「芸術品だ」などといった称賛の書き込みがあったため行為がエスカレートしていきました。

男は動物愛護法違反の罪に問われ、懲役1年10ヶ月執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。動物を愛する一般の人から見ると、執行猶予がついており、その虐待の内容から考えても、決して重くはない判決と言えます。

改正前の罰則

改正前の罰則は、動物の殺傷については「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」でした。一方で刑法では3年以下の懲役の場合、「執行猶予をつけることができる」とされています(刑法25条)。

そのため、どんなに動物を虐待しようと、懲役の上限が2年以下であったため、執行猶予の対象となってしまっていました。何度も繰り返さない限り、実刑はないという現状であったのです。

これが上記の判決内容から感じる「違和感」につながっていたわけです。今回の法改正が施行されることにより、この例のような事件は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に処される可能性が出てきました。これにより、執行猶予のない実刑判決が可能になります。

動物・人が共生できる幸せな未来のために

犬との絆
ここ数年、動物虐待による検挙件数が増加し続けています。また、SNSの普及などにより、虐待の状況などが写真や動画撮影され、拡散され、そしてマニアの間で広がっていくという悪循環も見られるようになりました。

このような社会で私たちにできること。それはこのような犯罪が起きていることを知り、そしてそれらを見かけた際には、すぐに警察に通報することではないでしょうか。また、私たち飼い主がネグレクトなどの動物虐待を行い、加害者になってしまうことがないよう、ペットの飼育に関する正しい知識を身につけることが重要です。時には、衝動的に動物を飼わないということも必要です。

動物を虐待するという行為自体も許せないものですが、動物虐待は凶悪犯罪の前触れとも言われます。凶悪犯罪を防ぐという意味でも、動物虐待という犯罪を重く受け止め、そして厳罰化するという法改正は評価できるものではないでしょうか。

【2019年改正動物愛護法】マイクロチップ装着の義務化の目的と懸念に迫る

2019年6月参院本会議にて、議員立法の改正動物愛護法が全会一致で可決、成立しました。

犬猫の販売を認める時期を、これまでの生後7週超えから生後8週超えに改定すること、犬猫へのマイクロチップの装着・登録の義務化、ペットの虐待に対する厳罰化などが改正法の主な柱として盛り込まれています。

今回はその中でも特に、マイクロチップ装着の義務化に関してお伝えしていきます。

マイクロチップって何?

マイクロチップ
マイクロチップは「動物の個体識別」を目的とした直径2mm、全長11~13mmの円筒形の電子機器で、15桁の番号が書き込まれたICが封入されています。この番号を読み取り機で読み取ることで、登録された動物の名前や生年月日、種類に加え、飼い主の名前や住所・連絡先を確認できます。

マイクロチップの埋め込みは、少し太い注射器のような専用の埋め込み器を使って行われ、犬猫であれば通常、首の背面の皮下に埋め込まれます。なお、マイクロチップの表面は生体適合ガラスで覆われており、埋め込みによる副作用はほとんどないようです。

今回の法改正で、ペット販売業者に対し、飼い主にペットを販売する前にマイクロチップを装着することが義務付けられることになりました。販売業者が装着したマイクロチップに、飼い主が後から情報をデータとして登録できるようになっています。

ちなみに、動物愛護団体等が犬猫を一般の飼い主に譲渡する場合や、すでに犬猫を飼っている場合には、義務ではなく「努力義務」になる見通しです。

マイクロチップ義務化の目的

迷子
これまでもマイクロチップは多くのペットの飼い主の間で普及していましたが、マイクロチップの装着を法律で義務化することにはどのような目的があるのでしょうか?

虐待・遺棄防止

マイクロチップが装着されていることで、飼い主は自分の情報が書き込まれていることを自覚するため、虐待や遺棄を抑制する効果が期待されています。

義務化される前からペットにマイクロチップを装着する飼い主はたくさんいましたが、「マイクロチップを自主的に装着するような人の中に虐待や遺棄をするような人は少なく感じられるため、そうした問題の防止にはなかなか繋がりにくいのではないか?」という意見もあり、今回の義務化には期待の声があがっています。

マイクロチップの装着による虐待・遺棄対策に加え、これまで動物の殺傷に対して課せられていた罰則は「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」へ強化され、虐待についても1年以下の懲役が加えられることになりました。

迷子のペットの飼い主探し

災害等で迷子になってしまった犬猫を発見した際、マイクロチップが埋め込まれていればすぐに身元を確認でき、飼い主の元に届けられます。現時点では、飼い主が見つからない保護動物は最悪の場合、殺処分されてしまいます。マイクロチップの埋め込みにより、そのような災害時にはぐれてしまっても飼い主の元に戻ってくる可能性が高まることが期待されています。また、これにより迷子になってしまったペットの殺処分も減らせるかもしれません。

首輪の鑑札で身元を特定できる場合もありますが、室内犬の場合は散歩のときしか付けなかったり、何かの衝動で外れてしまう可能性もあります。マイクロチップであれば常に身体の中に埋め込まれており、外れる心配もありません。

ペットの盗難防止

首輪の鑑札等は簡単に偽装できてしまうため、ペットを盗まれたとき、証拠としての効力は比較的小さいと言えるでしょう。

一方で、マイクロチップは体内に埋め込まれており、取り外し・書き換えをすることができないので、決定的な身元証明として有効です。

マイクロチップ義務化への懸念

ハト
以上のように、さまざまな効果が期待されて義務化されることが決まったマイクロチップですが、問題点もいくつか指摘されています。

100%情報が読み取れるわけではない

動物が怯えたり暴れたりして上手く読み取り機をあてられなかった場合や、機械の不具合により情報の読み取りに失敗することがあります。

さらに、マイクロチップには種類が複数あり、マイクロチップと読み取り機が異なる規格であった場合、読み取りに失敗することもあり、今後、国全体として規格の統一を行っていく必要があるでしょう。

ペットと野良の差別化に繋がる?

販売される動物へのマイクロチップ装着を義務化することで、マイクロチップが埋め込まれている「ペット」と、埋め込まれていない「野良」の権利を差別化することにつながるのではないか、という意見もあります。

ペット同様、野良猫・野良犬への虐待は動物愛護法で禁止されていますが、マイクロチップの義務化により、マイクロチップが埋め込まれていない動物は飼い主がいないとみなされ、処分の対象になりやすくなるかもしれません。マイクロチップの義務化は、ペットの殺処分を減らせるかもしれませんが、ペットとして飼われている動物と、そうでない動物の権利に違いを生み出す原因となってしまう可能性もありそうです。

法律はどこまで動物を守れるか?

法律
今回は、2019年6月に可決された改正動物愛護法について、主にマイクロチップの装着義務化に焦点を当てて考えました。

マイクロチップの埋め込みには、ペットの虐待や迷子、盗難対策などの効果が期待されています。一方で、画期的なマイクロチップでも、不確実性や野良として生きる動物の権利の差別化といった懸念も寄せられています。

また、全ての人が法律を遵守するとは限らず、法律が全ての動物の権利を確実に守れるわけではありません。動物の権利を守るには、法律だけではなく、やはり個人個人の意識も重要でしょう。

そして、法律はそれがどのように運用されるかが最も重要になってきます。法律だけ制定されても、その運用と監視が機能しなければ、何の意味もありません。私たち、飼い主も自分たちのペットに関する重要な法律ですので、施行後、どのように運用されるのか注目していきたいですね。