【獣医師監修】成犬・高齢犬の歩様異常で考えられる疾患

最近、愛犬の歩き方が変わってきたなんてことありませんか?加齢に伴って歩き方が変化することはあるかもしれませんが、関節や神経の異常が隠れている可能性もあります。

今回は成犬・高齢犬の歩様異常について解説します。

関節疾患

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膝や肘などの関節に何らかの異常がある場合、それが歩様異常として見られることがあります。

これらの関節疾患はある程度の年月をかけて進行することも多く、高齢犬でよく見られます。人間と同様、犬でも関節の痛みはつらいものとなるはずですので、散歩の際などに定期的にチェックしてあげてください。

膝蓋骨脱臼

【症状】
跛行(足を引きずる)、患肢の挙上(足を地面に着かない)、膝の痛みなど。
【原因】
膝蓋骨が嵌まっている大腿骨の溝が浅い、膝蓋骨に付着している筋肉の左右不均衡など。
【備考】
膝蓋骨の脱臼が長期間継続していると、関節炎や靱帯断裂を引き起こす原因となる。

前十字靭帯断裂

【症状】
患肢の完全挙上、強い痛み。
【原因】
加齢とともに前十字靭帯が変性し、強度が低下する。他にも関節炎や慢性膝蓋骨脱臼などによって前十字靭帯が脆くなることもある。
【備考】
半月板損傷が続発することもあり、その場合も強い疼痛を示す。

変形性関節症

【症状】
元気消失、運動性の低下、跛行など。
【原因】
肥満による関節への過負荷、加齢、関節の異常や骨格の歪みによる関節への負荷などが繰り返し起こることによる。しかし、具体的な原因を特定することは困難。
【備考】
体重管理や適度な運動を行うことで、無駄な関節への負荷を軽減することが可能。

神経疾患

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背骨に沿って走る脊髄は、四肢の動きを始めとする様々な動作に関わる重要な神経です。

背骨(脊椎)に変形などが生じると、脊椎の中を走っている脊髄が圧迫されるなどし、歩様異常が現れます。また、脊髄の障害が起こっている部位によっては、頚部痛や排尿困難などの症状が見られることもあります。

頚部椎間板ヘルニア

【症状】
頚部痛、四肢の不全麻痺など。
【原因】
頚椎(首の骨)の間にある椎間板が逸脱して、脊髄を圧迫することによる。発生はHansenⅠ型と呼ばれる型が多く、比較的若齢で突然発症することが多い。
【備考】
ビーグル、シーズー、ペキニーズでの発生が多いと言われている。

胸腰部椎間板ヘルニア

【症状】
背中の痛み、後肢の不全麻痺、排尿障害、排便障害など。
【原因】
背骨の間にある椎間板が逸脱して脊髄を圧迫する。頚部椎間板ヘルニアとは異なるHansenⅡ型によるものが多く、麻痺は徐々に進行することが多い。
【備考】
症状の程度によってグレード分けされるが、重症例では早期にMRI検査と外科手術が推奨される。

変性性脊椎症

【症状】
疼痛、跛行など。無症状のことも多い。
【原因】
原因は不明だが、椎体(背骨)における骨増殖によって神経が圧迫されることがある。
【備考】
発症率は加齢とともに増加し、6歳齢では50%、9歳齢では75%が発症していると言われている。

自己免疫疾患

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体内で誤って作られてしまった抗体が、関節や神経に沈着することで障害を起こすものです。これら疾患の治療には主に免疫抑制剤が使用されます。

関節リウマチ

【症状】
ゆっくりと進行する四肢跛行、発熱、食欲不振、元気消失など。
【原因】
異常な免疫反応が関与していることは確実だが、詳しいことはわかっていない。
【備考】
患肢の特定が難しいこと、症状の進行がゆるやかなこと、症状が非特異的なことから早期診断が難しい。

多発性関節炎

【症状】
発熱、元気消失、食欲低下、跛行、関節痛など。
【原因】
免疫複合体が関節の滑膜に沈着していることから自己免疫疾患とされているが、正確な発生機序は不明。
【備考】
感染症(犬糸状虫、肺炎、尿路感染など)、胃腸炎、腫瘍(扁平上皮癌、乳腺腫瘍など)に付随して多発性関節炎が起こることもある。

その他

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他にも骨の腫瘍やケガなどによって四肢に痛みが生じた結果、歩様異常が見られることもあります。特に骨肉腫(骨の悪性腫瘍)は早期発見と早期治療が求められる疾患です。

骨腫瘍(主に骨肉腫)

【症状】
跛行、局所の腫れ。進行すると強い疼痛や病的骨折など。
【原因】
骨肉腫は犬の骨原発腫瘍で最も多い。
【備考】
とにかく痛いので治療の第一選択は外科手術。また、肺への転移が多い。

外傷(骨折、脱臼など)

【症状】
強い痛み、跛行、患肢の挙上など。
【原因】
段差や抱っこからの落下、ドアに挟まれる、交通事故など。
【備考】
子犬の時期と同様、小さな段差(ソファやイスなど)にも注意する。

まとめ

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歩様異常が見られるということは、愛犬の身体に何らかの異常があると見ていいでしょう。それは本当に小さな違和感かもしれませんし、耐えがたい痛みを我慢しているのかもしれません。

愛犬は言葉を話せない分、飼い主がしっかりと愛犬の生活を守る必要があります。

【獣医師監修】子犬の歩様異常で考えられる病気とは?

愛犬の歩き方が、何となくいつもと違うと思ったことはありますか?明らかにおかしな歩き方をしている場合もあれば、毎日観察していないと気付かないレベルの違和感まで、歩様異常の状態は様々です。

散歩の時はもちろん、家の中で一緒にいる時など、愛犬の歩き方を見る機会は多いと思いますが、もし、歩き方の異常に気付いた場合はどうすればいいのでしょうか。

歩様異常の原因となる疾患は、年齢によって若干変わるため、今回は子犬の歩様異常について解説します。

子犬で見られる歩様異常の原因

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子犬の歩様異常は痛みや麻痺などが主な原因で、場所によって考えられる病気も異なります。

前肢の歩様異常で考えられる病気

  • 橈骨・尺骨の成長板早期閉鎖
  • 環軸椎不安定症
  • 肘異形成

後肢の歩様異常で考えられる病気

  • 大腿骨頭壊死症
  • 膝蓋骨脱臼
  • 椎体奇形
  • 股関節形成異常

前肢と後肢のどちらでも見られる病気

  • 汎骨炎(はんこつえん)
  • 外傷(骨折、脱臼など)

それぞれどんな病気なのか見ていきましょう。

前肢の歩様異常

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肩関節や肘関節に何らかの異常があると、前肢の歩様異常が見られます。

特に若い年齢だと、先天的な関節の形成異常が見られることがあります。また、首の異常でも前肢に影響が出る場合もあります。

橈骨・尺骨の成長板早期閉鎖

【症状】
前肢の跛行(足を引きずる)、挙上(ケンケンする)など。
【原因】
前腕(肘と手首の間)は橈骨と尺骨で構成されるが、外傷などが原因でどちらかの骨の成長が途中で止まると、二本の骨の間に長さの差が生まれ、関節が不安定になる。
【備考】
治療には早期の外科手術が必要となる。放置することでさらに骨の長さの差が出てくることがある。

環軸椎不安定症

【症状】
頚部痛、頚部の知覚過敏とそれに伴う元気消失や活動性低下、四肢の麻痺など。
【原因】
環椎(第一頚椎)と軸椎(第二頚椎)の関節の先天的な形成異常による。
【備考】
小型犬に好発する傾向にある。

肘異形成

【症状】
跛行(足を引きずる)を主訴とし、肘関節に疼痛を有する。
【原因】
肘関節を構成するいくつかの要素(肘突起癒合不全、尺骨内側鉤状突起分離、上腕骨顆内側面の離断性骨軟骨症)が複合的に関与している。これらは遺伝性や軟骨の成長に起因していると考えられている。
【備考】
大型犬に比較的多く見られる。

後肢の歩様異常

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後肢の歩様異常も、やはり関節(股関節や膝関節)の異常が考えられます。

後肢はジャンプするときに力が入る部位であるため、子犬では痛めやすくなります。動物病院に来院する患者も、前肢よりも後肢の歩様異常を主訴に来られる方が多いです。

大腿骨頭壊死症

【症状】
数カ月~1歳までの時期の跛行(足を引きずる)。これは徐々に進行する傾向にある。
【原因】
骨端への血液供給が制限されることにより、大腿骨の成長板に梗塞をきたすと考えられている。
【備考】
小型犬に多く発生し、遺伝性も報告されている。

膝蓋骨脱臼

【症状】
後肢の跛行(足を引きずる)、挙上(足を地面に着けない)など。
【原因】
生まれつき膝蓋骨が嵌まっている大腿骨の溝が浅い、膝蓋骨に付着している筋肉の左右バランス不均衡、階段から落ちるなどの外傷などが原因となる。
【備考】
小型犬で非常によく見られる。膝蓋骨の脱臼を長期間繰り返していると、関節炎や靱帯断裂を続発することもある。

椎体奇形

【症状】
軽度では脊椎痛(背中の痛み)、重度では麻痺、歩様異常、排尿障害など。
【原因】
先天的な椎骨の発育異常や融合不全。
【備考】
フレンチブルドッグ、パグ、マルチーズ、ヨークシャーテリア、シーズーなどの犬種で多い。

股関節形成異常

【症状】
股関節の緩みによる疼痛、運動機能不全など。
【原因】
先天的あるいは成長期の複数の因子により発現する。
【備考】
5~10カ月の大型若齢犬で症状が見られることが多い。大型犬の場合は子犬の時期に股関節形成異常の兆候がないかをX線検査で確認しておく。また関節の緩みは加齢とともに変形性関節症を併発する。

前肢と後肢のどちらにも見られることがある歩様異常

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関節ではなく骨そのものに異常がある場合は、前肢にも後肢にも歩様異常が見られることがあります。

その代表例が骨折でしょう。特に小型犬は骨も細く、骨折が多く見られます。

汎骨炎(はんこつえん)

【症状】
患肢の跛行、挙上など。元気消失、発熱、食欲低下が見られることもある。
【原因】
原因は不明だが、栄養、代謝、アレルギー、内分泌、遺伝的な要素が関わっていると考えられている。
【備考】
中型~大型犬に多い骨の炎症のこと。高タンパクや過剰なカルシウムが関与しているという報告もあるため、フードには注意したい。

外傷(骨折、脱臼など)

【症状】
激しい痛み、患肢の跛行や挙上、触ろうとすると怒るなど。
【原因】
階段・ソファ・イスなどから足を踏み外す、抱っこから飛び降りる、ドアに挟むなど、日常生活の中に危険が潜んでいる。
【備考】
人間にとっては何でもない段差でも、子犬にとっては大きい段差になることが多い。

まとめ

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犬は言葉で痛みや違和感を伝えることができません。そのため、毎日の観察が愛犬の異常を察知する上で非常に重要で、子犬の時期でも、それは同じです。

もし何か気になることがあれば、気軽に動物病院まで相談してください。

【獣医師監修】愛犬の歩き方がおかしい?見逃せない歩様異常とは

足を引きずる、どこかが痛そうなど、愛犬の歩き方がいつもと違うことは、よく観察してみると意外に多く見られるものです。犬には、多少の痛みに関しては周囲に悟らせないようにする本能があります。

しかし、歩様異常というサインを愛犬が出しているなら、飼い主としてはそれに一早く気付き、原因を取り除いてあげなくてはなりません。今回は、犬の歩様異常について獣医師が詳しく解説していきます。

歩様異常って何?

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歩様異常とは、簡単に言えば「歩き方がおかしい」ことです。

考えやすい原因としては「骨や関節が痛い」「足の裏が痛い」などが挙げられますが、他にも神経系の異常や腹腔内臓器の異常によっても歩き方に異常が認められる場合があります。

そのため、歩様異常が主な症状であっても、血液検査や神経学的検査など様々な角度からのアプローチが必要です。

歩様異常によって考えられる疾患

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愛犬の歩き方や動き方に違和感を覚え、動物病院に来院される方は多くいます。どんな疾患が考えられるのかを知っておけば、動物病院でどんな検査や治療が行われるのかを予測することができるかもしれません。

関節炎

各種微生物や骨関節の解剖学的異常、リウマチ、免疫介在性疾患などによって関節に炎症が起こり、痛みを生じます。

X線検査のみでは原因を特定できないこともあり、関節液の採取や血液検査が追加で必要な場合もあります。

膝蓋骨脱臼

日本でも人気の小型犬種(チワワやトイプードルなど)で多く見られる疾患です。
膝関節は大腿骨の溝に膝蓋骨(膝の皿)が嵌まっており、その膝蓋骨が溝を滑ることによってスムーズな膝の動きが可能になっています。

生まれつき大腿骨の溝が浅い、膝蓋骨に繋がっている筋肉の力が強すぎるなどによって膝蓋骨が溝から外れることを膝蓋骨脱臼といいます。

さらに、膝蓋骨が何度も外れたり嵌まったりを繰り返すことによって関節炎が引き起こされます。膝を伸ばすような仕草をする子は要注意です。

股関節脱臼

生まれつき股関節が緩いことや、強い外傷によって股関節が外れることです。
強い痛みのために足を地面に着くことができません。

大腿骨頭壊死症

小型犬に多く、股関節の付け根である大腿骨頭が壊死する疾患です。
こちらも強い痛みが伴うため、着肢ができなくなります。

靭帯断裂

各骨を結ぶ靭帯が切れることです。特に犬では、膝の前十字靭帯断裂が多く見られます。

膝蓋骨脱臼などによって関節に炎症があると靭帯が脆くなり、靭帯が断裂しやすくなります。激しい運動、突然のダッシュの後に足を着かなくなったら前十字靭帯断裂の疑いがあります。

ちなみに、前十字靭帯はサッカーやラグビーの選手が損傷しやすい靭帯です。

骨折

階段からの転落、ドアに挟まるなどの外傷が原因となります。
腕や太ももよりも、前腕、すね、指などの細い骨が折れやすい傾向にあります。

腫瘍

骨にできる骨肉腫や、その他の部位からの転移によって骨に腫瘍が形成されると強い痛みを伴います
また、歩くときに擦れる部位に皮膚腫瘍が形成された場合などにも歩様異常が観察される時があります。

パッドの異常

手足の裏にトゲが刺さっている、指の間に小石が挟まっているなどによって歩き方がおかしくなることがあります。
散歩の後は足の裏をしっかりと観察することも大切です。

椎間板ヘルニア

背骨の骨と骨の間には、椎間板というクッションがあります。
椎間板の上には脊髄が走っていますが、何らかの原因で椎間板が上に突き出ると脊髄が圧迫され、神経に障害が起こります

椎間板ヘルニアでは末梢組織の麻痺の前に痛みが現れるため、歩様異常の検出は早期治療のためには非常に重要です。

前庭障害

平衡感覚を司る前庭神経の障害によって斜頸や歩行障害が現れます。

犬の場合、外耳炎からの波及による中耳炎や内耳炎によって前庭障害が認められることが最も一般的です。
また中高齢でも特発性の前庭障害が多く起こります。

小脳障害

先天的に小脳が小さい、脳炎からの炎症の波及によって小脳が障害されることによって起こります。
小脳は運動調節中枢としての役割があり、小脳が障害されることによって足先を異常に挙げて歩く測定過大の症状が現れます。

その他

ここまでご紹介した疾患の他にも、筋肉の異常や、神経と筋肉の接合部の異常など、歩様異常から多くの疾患が考えられます。
愛犬の歩き方がおかしいなと思ったらすぐに獣医師に相談するようにしましょう。

動画の撮影は非常に有効

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犬は動物病院受診の際に、いつもとは異なる環境で緊張によって歩様異常の症状を隠してしまうことがあり、家では変なのに、病院では元気ということは非常によくあります。

そのため、愛犬の歩き方の様子を自宅で動画に撮っておくと、非常に有益な情報として診断に役立ちます
もちろん動物病院でも歩行検査により、患部の特定を行います。

問診で聞かれること

症状が現れる前後のことは、診断を行う上で大切です。動物病院を受診する際は、以下のことを確認しておくとスムーズです。

  • 既往歴:膝蓋骨脱臼や股関節形成不全などの要因の有無
  • どこが痛そうか:手足、背中、お腹など
  • 時間の経過とともに変化があるか:一時的なものかどうか
  • 患肢の挙上はあるか:骨折や靭帯断裂では継続した患肢挙上が見られます
    ※挙上とは、地面に着かないように肢を挙げることを言います

まとめ

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歩くことは犬にとってストレス発散になることが多く、歩きにくい状態は非常にストレスを感じます。

歩様異常は犬種や性別に関わらず、誰でも見られることのある臨床症状で、一時的で軽症のものもあれば、麻痺が起こったりするものもあります。少し様子を見てみようと思うのではなく、歩き方に違和感が見られた場合は、すぐに動物病院に相談して下さい。