【獣医師監修】猫が嘔吐した場合に考えられる疾患とは

猫において最も多く見られる症状は何でしょうか。猫を飼ったことのある方は、おそらく「嘔吐」が思い浮かぶかと思います。

ヒトで嘔吐が見られれば、食べ過ぎなどでもない限りすぐに異常だと思うはずです。しかし、猫の場合、健康上何も問題がなくても嘔吐が見られることが多くあります。

では、猫における異常な嘔吐では、何が考えられるのでしょうか。今回は猫の嘔吐で考えられる疾患について解説します。

猫の嘔吐で考えられる疾患

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猫の嘔吐の原因は、消化器疾患と消化器以外の異常が考えられます。主な疾患は以下の通りです。

消化器疾患

  • 胃腸炎
  • 消化管内異物
  • 炎症性腸疾患(IBD)
  • リンパ腫
  • 膵炎

消化器以外の異常

  • 腎不全
  • 肝リピドーシス
  • 甲状腺機能亢進症
  • 糖尿病

それぞれどのような疾患なのか、詳しくみていきましょう。

消化器疾患

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嘔吐という症状が見られた場合、まず考えなければならないのは消化器の異常です。消化器疾患には軽い一過性の胃腸炎から、すぐにでも治療を開始しなければならないものまで様々な病気が含まれます。

まずはどんな病気があるのかを把握しておきましょう。

胃腸炎

【症状】
嘔吐、下痢、食欲低下、元気消失など。
【原因】
食事(脂っこいもの、古いフード、食べ慣れていないものなど)、ストレス、感染症(ウイルス、寄生虫など)、異物誤飲、毛玉など。
【備考】
食べたことのないものを与えるときは少量にする、異物を誤飲しないようにしっかりしまうなど、予防できることもある。

消化管内異物

【症状】
嘔吐、食欲不振、元気消失など。異物が十二指腸などを閉塞すると嘔吐の回数が増加し、重度となる。
【原因】
異物の誤飲。おもちゃ、プラスチック、ビニール袋、鶏の骨などが比較的多い。
【備考】
ひも状異物(ひも、糸、布、ナイロンストッキングなど)は腸穿孔から腹膜炎を起こすこともあり、注意が必要。

炎症性腸疾患(IBD)

【症状】
慢性的な(3週間以上続く)嘔吐、下痢、食欲不振など。
【原因】
原因は解明されていないが、遺伝的素因、食物に対するアレルギー反応、腸内細菌の乱れ、免疫システムの異常などが関与していると言われている。
【備考】
確定診断には内視鏡による生検が必要だが、これには全身麻酔を要する。

リンパ腫

【症状】
嘔吐、下痢、食欲不振を主徴とする消化器型リンパ腫が猫では多い。他にも腫瘍の発生部位によって症状は様々であるが、胸水貯留(縦郭型)、くしゃみや鼻出血(鼻腔)、多飲多尿や血尿(腎臓)などが見られることもある。
【原因】
ウイルス(猫免疫不全ウイルスおよび猫白血病ウイルス)、受動喫煙への曝露、主に腸管内の慢性炎症などがリスクとなる。
【備考】
猫白血病ウイルス(FeLV)陽性猫では若齢(3歳くらい)で、FeLV陰性猫では高齢(13歳以上)での発生が多くなっている。

膵炎

【症状】
嘔吐、下痢、腹痛、発熱、元気消失、食欲不振など。急性か慢性かによって症状の重さは異なる。
【原因】
はっきりした原因は解明されていないが、遺伝、感染、ストレス、免疫異常などが関与していると考えられている。腸炎、肝炎、胆管炎などからの波及によって膵炎を発症する可能性もあります。
【備考】
外傷(腹部を強打するなど)も膵炎の原因となりえるという報告もあるため、落下事故などにも注意する。

消化器以外の異常

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もちろん、嘔吐が見られたからと言って必ずしも消化器に異常があるとは限りません。実は嘔吐には様々なメカニズムが関与しています。例えば、乗り物酔いは胃や腸には問題がありませんが、三半規管に刺激が加わることで嘔吐が誘発されます。

次は消化器以外の疾患で嘔吐が見られるものについて解説します。

腎不全

【症状】
多飲多尿、尿が薄い、食欲低下、体重減少、嘔吐、脱水など。
【原因】
もともと猫は飲水量が少ない割に濃い尿をする動物で、日常的に腎臓に負担をかけている。また、遺伝的に多発性嚢胞腎が発生しやすい猫種(ヒマラヤン、ペルシャ、スコティッシュフォールドなど)では若齢で腎不全に陥ることも多く、注意が必要。
【備考】
腎不全の症状が現れるのは腎機能の2/3を喪失した時で、症状発現の前にも腎臓には負担がかかっている。早めの腎臓ケアが長生きに繋がるかもしれない。

肝リピドーシス

【症状】
食欲不振、元気消失、嘔吐、黄疸、脱水、体重減少など。
【原因】
栄養障害、脂質代謝異常、ホルモン異常、ストレスが引き金となって発生すると言われているがはっきりとした原因は不明なケースがほとんど。肥満猫では他の疾患による食欲不振によってタンパク質が不足し、脂質代謝異常によって肝臓に脂肪が蓄積することでの発症が多い。
【備考】
肥満猫での発生には注意が必要であり、日常の体重管理が肝リピドーシスの予防に繋がるかもしれない。

甲状腺機能亢進症

【症状】
活動性の増加、攻撃性の増加、嘔吐、下痢、多飲多尿、脱毛、呼吸速迫、食欲は増加するが体重は減少するなど。
【原因】
甲状腺腫瘍や甲状腺過形成が原因となる。これらによって甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、症状が現れる。
【備考】
甲状腺腫瘍はほとんどが良性だが、甲状腺ホルモンの過剰分泌が問題になることも多い。また腫大した甲状腺が気管を圧迫する可能性もある。

糖尿病

【症状】
多飲多尿、嘔吐、脱水、下痢、便秘、低体温、削痩など。感染症(膿皮症、膀胱炎、子宮蓄膿症など)や白内障を引き起こすこともある。
【原因】
インスリン(血糖値を下げるホルモン)の分泌低下や作用低下によって、血中高血糖状態が持続する状態である。猫は蛋白質の分解によって作られるアミノ酸から糖を産生する代謝系が活発であり、容易に血糖値が上昇する。また、もともとインスリン分泌が低く、インスリン効果が出にくい。
【備考】
肥満は糖尿病を始めとする種々の疾患のリスクとなり得るため、体重管理は重要である。

まとめ

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猫の嘔吐で考えられる疾患についてまとめてきましたが、今回紹介した病気以外にも、嘔吐が症状として認められるものは多くあります。

生理的な範囲での嘔吐か、身体の不調による嘔吐かを見た目だけで見分けるのは非常に困難です。嘔吐以外の症状がないか、いつもと比較して元気や食欲は落ちていないかなどを総合的に判断する必要があります。

何か小さなことでも、おかしいと感じたなら動物病院を受診することをおすすめします。

下痢や嘔吐の原因?ペットの消化器を休める食事管理とは

嘔吐や下痢といった消化器症状は、動物の体調不良の理由として一般的です。
これらの症状は肝臓や腎臓などの病気でも見られますが、基本的には消化管(胃、腸など)での異常が原因となります。

また消化管は食べ物が通過する道でもあり、消化管の機能が弱っている時には食事の内容にも気を使う必要があります。
そこで、今回は、消化器疾患における食事管理についてご紹介します。

消化器疾患における食事管理の必要性とは?

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犬や猫に消化器症状が認められている場合、消化管の運動低下や消化吸収の機能低下が起こっていると考えられます。
そんな状態のところに、さらに脂っこいものや消化に悪いものが入って来たら、何となく大変だというイメージがありますよね。

弱っている消化管に鞭を打つような真似をすれば、病気はますます悪くなります。

また、消化器疾患には、症状として食欲不振が現れることも多くあります。
食欲が無くても食べたくなる、その上でお腹に優しい食事が必要となります。

消化器疾患における食事に求められること

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では、実際に消化器疾患の時の食事に必要なこととは何でしょうか。
ここでは、特に注意したい項目を挙げてみます。

高消化性(消化に良いもの)

消化性に優れている食物は、消化管に対する負担が少なく、食事中の栄養素を十分に吸収できます

また、未消化の食物は悪玉菌の餌となることもあるため、しっかりと消化することはとても大切です。

ここで言う高消化性の食べ物とは、良質なタンパク質や良質な脂肪分を含む食品のことです。

高エネルギー(少量でもエネルギーが得られるもの)

活動をするためにはエネルギーが必要です。

しかし、エネルギーを得るために食べ過ぎてしまうと、消化管への負担となります。
少量でもしっかりとエネルギーが得られる食事を選択しましょう。

高嗜好性(ペットの食欲をそそるもの)

食欲不振の症状が見られる場合に、食べる気力を起こさせることも大切です。

確かに食べ過ぎは消化管に負担をかけますが、食べないことには体力が落ちてしまいます。
病気に打ち勝つためにも、ペットには良いものを食べてもらいたいのです。

食物繊維のバランス

食物繊維と聞くと、何となくお腹に良いような印象がありませんか?
確かに食物繊維は消化管の運動を促進し、体内の毒素を排泄するのを助けるはたらきがあります。

しかし、一方で、食物繊維は消化に悪いため、食事に配合しすぎると消化器症状を悪化させることもあります。
消化管のどこに異常があるのか、現在の症状は何が現れているのかなどを評価した上で、適切な量の食物繊維量を考えていきましょう。

水分

嘔吐や下痢によって体内の水分は失われています。脱水状態は循環血液量を減少させ、各臓器に悪影響を及ぼします。

また、食欲不振のせいで水を飲むのも気持ち悪い状態であることも考えられます。
そんな時に食事と一緒に水分を摂れるよう、缶詰タイプの食事や、ぬるま湯でフードをふやかすなどの工夫が必要です。

食事の量

ここで言う食事量は、カロリーベースの食事量のことです。

嘔吐や下痢が見られているのに、普段と同じ量を与えても消化管に負担を与えるだけです。
消化管を休めるためにも、いつもより少ない量から徐々に普段の量に戻していくなどの工夫が求められます。

例えば1日で1,000kcal必要な動物に嘔吐が見られた時には、まずは1日200kcal、徐々に増やしていって3~5日かけて1,000kcalの量に戻していくなどです。「消化管に休みを与える」ことが最優先となり、食事量が少ない時にもしっかりと栄養が摂れる食事が必要となります。

各メーカーのペット用おすすめ消化器疾患療法食

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消化器症状は、犬猫で最も一般的に見られる症状であると言っても過言ではありません。
そのため、各メーカーでも消化管に配慮した様々な療法食を販売しています。

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消化器疾患を呈しているペットや、栄養要求性が高まっている動物に向けての療法食です。
消化性の高い原材料を使用し、少ない食事量でも十分なカロリーや栄養を摂取できるように調整されています。

さらに、健康的な腸内細菌バランスに考慮し、可溶性食物繊維を配合しています。
また膵炎などの脂肪を制限したい疾患の時には低脂肪タイプのものもあります。

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高消化性と消化ケアに適した栄養素性を実現しているフードです。
この高消化性は、自然由来の可溶性繊維と不溶性繊維の適切なバランス配合によります。

また、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸を配合することで、免疫系や皮膚被毛の健康も同時にサポートします。

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ごはんを手作りする際の注意点

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添加物や自然由来にこだわる方は、食事を自作するかもしれません。

そんな時に気になるのは、「お腹に優しいとは具体的にどういうことなのか」でしょう。
そこで、手作り食を与える際に注意したいことについてご紹介します。

必要な栄養素と食材

消化管に配慮するなら、以下のような食材をベースに食事を作ります。

  • 良質なタンパク質:鶏ムネ肉、脂身の少ない肉、白身魚など
  • 食物繊維:サツマイモ、キャベツ、オカラ、カボチャなど

食物繊維は、異常が大腸にあるか、胃や小腸にあるのかで配合すべき量が異なります。そのため例え下痢をしているとしても、自己判断で食事を変更するのはむしろ逆効果になることもあります。

消化器症状が見られている場合には一度動物病院を受診し、食事についても獣医師に指示を仰ぐとよいでしょう。

控えるべき食べ物

消化管に負担を与えるような食材はNGです。

  • 脂っこいもの
  • 大きくカットした野菜(野菜は細かく切りましょう)

基本的に消化しづらいものは与えないようにしましょう。
自分が気持ち悪い時に食べたくないものは、動物も食べたくありません。

まとめ

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消化器疾患の治療には、内科療法と同時に食事の指導をすることがほとんどです。
求められる栄養やカロリーは、その子の年齢や体重、健康状態に左右されるために計算は複雑です。

わからないことがあれば、かかりつけの獣医師に相談してみることをおすすめします。