【獣医師監修】狂犬病のワクチン接種。今年は12月31日までに打とう。
狂犬病は毎年1回、ワクチンの予防接種を義務付けられている感染症です。先日、海外から来日した人が狂犬病を発症し、亡くなったとニュースになったのも記憶に新しいでしょう。
ところで皆さんは、狂犬病の恐ろしさをきちんと理解しているでしょうか?
今年は新型コロナウイルスの影響で集団接種を中止した自治体も多く、「一年くらいは打たなくても大丈夫」なんて思っていませんか?本記事では、狂犬病について詳しく解説していきます。
狂犬病ってどんな病気?
狂犬病は、狂犬病ウイルスによる致死的な灰白脳炎です。ヒトを含む全ての哺乳類に感染し、ごく一部の地域を除き世界中に分布しています。
外国の狂犬病事情と日本の狂犬病事情を比較してみましょう。
世界の狂犬病
日本の周辺を含む世界のほとんどの国・地域(150カ国以上)でいまだに発生しており、毎年約55,000人の死者がでています。そのうちアジアとアフリカが95%を占めており、ヒトの狂犬病の感染は99%が犬からという報告もあります。
狂犬病清浄国とされているのは、日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、スカンジナビア半島の国々などごくわずかです。
日本の狂犬病
日本では、1897年に初めて狂犬病に関する科学的な記録があります。その後、第一次世界大戦や関東大震災、太平洋戦争などの混乱期に大流行し、犬およびヒトの狂犬病が多数発生しました。
1950年に狂犬病予防法が制定され、犬の登録、ワクチン接種などが徹底され、1957年に猫が感染したのを最後に、日本で狂犬病は撲滅されました。
しかし、狂犬病はアジアを中心に流行が続いており、グローバル化によって日本への侵入リスクは常に存在している状況です。
未登録の輸入動物に対しては水際対策として輸入検疫を行い、狂犬病の国内への侵入を防止しています。しかし、ヒトにおける海外帰国者での狂犬病発症者はいまだに少数存在し、油断できない状態が続いています。
狂犬病の症状
実際に狂犬病の症状を見たことのある方はあまりいないでしょう。
どんな症状が現れるのか、詳しくご紹介していきます。
感染経路
狂犬病ウイルスは唾液中に排出されるため、咬傷からの唾液で直接感染します。
もしくはウイルスを含んだ唾液が粘膜面に接触したり、コウモリの生息場所の洞窟では飛沫によっても感染することがあります。
潜伏期
潜伏期は2〜8週と言われていますが、1週程度のことから1年近くかかることもあり不定期です。ヒトも犬も症状は同じで、病期によって3つに分けられます。
①前駆期
この時期の症状は曖昧で、気づかれないことも多くあります。
発熱、挙動異常、眼瞼・角膜反射が緩やかになり、咬傷部をなめたりかんだりするなどの行動をとります。恐水症や恐風症はこの時期に見られます。
②狂騒期
中枢神経系の辺縁が侵されると、異常興奮、不安、吠え、突発的な攻撃、険悪な顔つき、ケージなど周囲のものに対する攻撃、異食、徘徊、運動失調、発作などの症状が見られます。
③麻痺期
四肢の不全マヒ、呼吸困難、よだれの垂れ流し、食事をのみ込めなくなるなどの症状を示し昏睡状態に陥ります。その後、呼吸麻痺により死亡します。
狂犬病の診断法
狂犬病が疑われる場合には厳重に隔離して症状の経過を観察します。
また、咬傷事故を起こした動物は最低2週間の係留観察が義務付けられています。観察中に発症した場合は直ちに殺処分し、脳組織からウイルス抗原を検出します。
なお、犬での生前検査は検出率が低く、実用化されていません。
狂犬病の治療および予後
ヒトでは野生動物にかまれた後は石鹸と水で傷口をよく洗い流し、できるだけ早期に狂犬病ワクチンと抗狂犬病ガンマグロブリンを投与する治療(暴露後接種)が行われます。
しかし、犬においては狂犬病の治療は行いません。予後は不良で、発症後7〜10日で例外なく死亡します。
狂犬病の予防
狂犬病予防法でワクチン接種が義務付けられてから、わずか7年で日本の狂犬病が撲滅されたことを考えると、狂犬病のワクチン接種が予防に非常に効果的であることがわかります。
WHOのガイドラインでは、ウイルスの国内侵入時の蔓延を防止できる目安としてワクチン接種率70%以上という数値が設けられています。
狂犬病予防法
狂犬病のヒトへの感染源のほとんどが犬であることから、狂犬病予防法は主に犬を対象としています。
また、狂犬病予防法では以下のことが定められています。
- 91日齢以上の犬を迎え入れたとき、30日以内に各市町村に犬を登録すること
- 91日齢以上の犬に毎年狂犬病の予防接種を受けさせること
- 犬に鑑札と注射済票を付けること
これらを怠ると20万円以下の罰金の対象となり、飼い犬は捕獲・抑留の対象となります。
注意
狂犬病予防法では、狂犬病予防注射の実施期間を毎年4月1日から6月30日までと定めていますが、令和2年6月11日に公布・施行された「狂犬病予防法施行規則の一部を改正する省令」により、令和2年12月31日までに予防注射を打てば法律に定めた期間内に接種したことになります。
室内飼いなのでワクチン接種しなくてもいい?
日本の法律で狂犬病のワクチン接種は義務付けられています。
室内飼いであっても他の哺乳類と接する機会は十分にあります。普段は大人しくても、万が一狂犬病に感染してしまったら、意外な攻撃性が見られることもあります。
室内、屋外に関わらず、全ての犬で予防を徹底しましょう。
まとめ
日本では60年以上、犬での狂犬病の発生がないからといって、狂犬病のワクチンを接種しなくていいわけではありません。
厚生労働省の報告では、平成30年度の狂犬病ワクチン接種率は71.3%とギリギリの数字であり、国内に侵入してしまえば、いつ蔓延してもおかしくない感染症です。
今年は新型コロナウイルスの影響で集団接種を中止している自治体もありますが、一人一人の予防意識をしっかり持ち、予防接種を忘れずに受けさせるようにしましょう。
【ニュース】14年ぶりの狂犬病。ワクチン接種が愛犬と日本を守る
犬の飼い主の皆さんにとっては聞き馴染みのある狂犬病。先日、14年ぶりに日本で、海外からの来日者が狂犬病を発症しました。残念ながら6月13日に亡くなられたと報じられています。
毎年通知が来るから何気なく予防接種をしているけど、日本では発症したという話も聞かないし、お金もかかるから予防接種しなくてもいいのでは?と思っている方はいませんか?
しかし、全ての哺乳類に感染し、発症するとほぼ確実に死亡するこの恐ろしい病気を決して楽観視してはいけません。多くの国で感染が確認されている狂犬病がなぜ日本では発生しないのか、なぜワクチンを接種しなければいけないのかを改めて考えみましょう。
狂犬病とは
狂犬病は、犬だけでなく人間を含む全ての哺乳類に感染し、発症すると有効な治療法がないため、ほぼ100%死亡するというウイルス性の人獣共通感染症です。一方で、予防接種や感染動物に咬まれた後でも、発症前であればワクチンの投与が有効であることが知られています。
感染経路
狂犬病は主に、狂犬病ウイルスに感染した動物に咬まれ、傷口からウイルスが体内に侵入することにより感染します。
潜伏期間
狂犬病は感染してから発症するまでの期間が一般に1ヶ月から3ヶ月、長い場合には感染してから1年から2年後に発症した事例もあります。なお、発症前に感染の有無を診断することは出来ません。
症状
犬の場合
狂騒型では、極度に興奮し攻撃的な行動を示します。唾液の分泌が増加し、よだれを流すようになります。
麻痺型では、後半身から前半身に麻痺が拡がり、食物や水が飲み込めなくなります。
人の場合
初期症状は、発熱、頭痛、倦怠感、筋痛、疲労感、食欲不振、悪心・嘔吐、咽頭痛、空咳などの、風邪のようなものがみられます。
症状が進むと、強い不安感、精神錯乱、水を見ると首の筋肉がけいれんする恐水症、冷たい風を受けるとけいれんする恐風症、高熱、麻痺、運動失調、全身けいれんが起こります。その後、呼吸障害等の症状を示し、死亡します。
参考:厚生労働省 狂犬病に関するQ&Aについて
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html
日本国内では海外からの帰国者・来日者が発症
1957年以降、日本で狂犬病の発症者が出たのは以下の4例のみです。それも全て海外で犬に咬まれた人が、適切な処置を行わなかったために日本で発症し、その後亡くなったケースです。
1970年
ネパールで野犬に咬まれた学生が、帰国後、狂犬病を発症し亡くなりました。
2006年11月(1例目)
フィリピンより帰国した60歳代の男性が狂犬病を発症しました。8月頃にフィリピン滞在中に犬に手を咬まれて感染したとみられます。
11月15日に風邪のような症状と右肩の痛みが現れ、19日に病院を受診、22日に狂犬病と判明、12月7日に亡くなりました。
2006年11月(2例目)
フィリピンより帰国した、1例目とはまた別の60歳代の男性が狂犬病を発症しました。8月末にフィリピン渡航中に犬に手を咬まれて感染したとみられます。
11月9日に風邪のような症状を呈したため病院を受診し、16日に狂犬病と判明、翌17日に亡くなりました。
2020年5月
フィリピンから来日した外国籍の男性が狂犬病を発症し、6月13日に亡くなりました。昨年9月頃にフィリピンで犬に足首を咬まれて感染したとみられます。
補足
臓器移植などの特別な場合を除き、人から人への感染は確認されていませんので、過度に恐れる必要はありません。
日本の狂犬病事情
日本は島国という地理的な環境や、衛生事情の向上、ワクチン接種の徹底により、狂犬病ウイルスの撲滅に成功しました。しかし、未だ世界中で狂犬病ウイルスが蔓延していることから、海外から日本に上陸する可能性は否定できません。
狂犬病予防法
1950年に狂犬病予防法が制定され、飼い犬の登録や予防注射を受けることが義務付けられました。
それまでは犬だけでなく多くの人間も狂犬病ウイルスに感染し、亡くなっていましたが、狂犬病予防法制定からわずか7年で、日本国内での感染がなくなりました(海外で感染し、日本で発症した例は除く)。
日本の予防接種率
厚生労働省では、都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数を毎年発表しています。平成25年度~30年度の全国の注射率は以下の通りです。
年度 | 登録頭数 | 予防接種頭数 | 注射率 |
---|---|---|---|
平成25年度 | 6,747,201 | 4,899,484 | 72.6% |
平成26年度 | 6,626,514 | 4,744,364 | 71.6% |
平成27年度 | 6,526,897 | 4,688,240 | 71.8% |
平成28年度 | 6,452,279 | 4,608,898 | 71.4% |
平成29年度 | 6,326,082 | 4,518,837 | 71.4% |
平成30年度 | 6,226,615 | 4,441,826 | 71.3% |
犬の狂犬病予防接種率が70%以上あれば流行を防ぐことができるとされています。数字だけ見れば日本の接種率は70%を超えていますが、地域によっては50%程度のところもあり、登録されていない野犬のことを考慮するとかなりギリギリの数値です。
出典:都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等(平成25年度~平成30年度)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/01.html
世界では狂犬病で大勢が亡くなっている
日本で狂犬病ウイルスの撲滅に成功した一方で、海外では未だ狂犬病ウイルスが蔓延しています。
2018年の世界保健機関(WHO)の報告によると、世界では毎年5万9000人が狂犬病に感染して死亡しており、そのほとんどをアジアとアフリカが占めています。
日本は狂犬病清浄国
ある特定のウイルスが撲滅され、存在しないとされる国を「清浄国」といいます。実は、狂犬病の清浄国は日本を含め10カ国ほどと少なく、世界のほとんどの国で感染する可能性のある病気です。
また、2013年には、長らく清浄国とされていた台湾で野生のイタチアナグマの狂犬病が確認されており、決して「清浄国だから安全」というわけではありません。
海外旅行の際は十分注意して
「狂犬病清浄国」に暮らしていると、狂犬病への危機意識が低くなってしまいがちですが、ここまででお伝えしているとおり、狂犬病は世界中で感染の恐れがある病気です。
犬だけでなく、アライグマやコウモリなどの動物に噛まれたり引っかかれたりすると感染する可能性があります。特に、野生動物にはなるべく近づかないようにしましょう。
また、厚生労働省検疫所は、動物と直接接触する機会の多い人や、奥地・秘境など、すぐに医療機関にかかれないところに行く人に対し、狂犬病の予防接種を強く勧めています。
犬の狂犬病ワクチン接種は飼い主の義務
日本でも犬の咬傷事故は毎年4000件以上発生しています。もし知らない間に狂犬病ウイルスが日本にやってきて、知らない間にワクチンを接種していない愛犬が狂犬病にかかり咬傷事故を起こしてしまったらどうでしょうか?
愛犬も咬まれた人もほぼ確実に死亡してしまいます。しかし、狂犬病ワクチンを接種してさえいれば、愛犬が狂犬病にかかることも、少なくとも咬んだ相手を狂犬病で死なせることはありません。
日本では感染しないから予防接種をしなくても大丈夫と考える方もいるかもしれません。しかし、それは今までの飼い主さんが責任を持って予防接種をしていたからです。日本を狂犬病のリスクから守るためにも、今後も狂犬病ワクチンを忘れずに接種しましょう。