【獣医師監修】愛犬の歩き方がおかしい?見逃せない歩様異常とは
足を引きずる、どこかが痛そうなど、愛犬の歩き方がいつもと違うことは、よく観察してみると意外に多く見られるものです。犬には、多少の痛みに関しては周囲に悟らせないようにする本能があります。
しかし、歩様異常というサインを愛犬が出しているなら、飼い主としてはそれに一早く気付き、原因を取り除いてあげなくてはなりません。今回は、犬の歩様異常について獣医師が詳しく解説していきます。
歩様異常って何?
歩様異常とは、簡単に言えば「歩き方がおかしい」ことです。
考えやすい原因としては「骨や関節が痛い」「足の裏が痛い」などが挙げられますが、他にも神経系の異常や腹腔内臓器の異常によっても歩き方に異常が認められる場合があります。
そのため、歩様異常が主な症状であっても、血液検査や神経学的検査など様々な角度からのアプローチが必要です。
歩様異常によって考えられる疾患
愛犬の歩き方や動き方に違和感を覚え、動物病院に来院される方は多くいます。どんな疾患が考えられるのかを知っておけば、動物病院でどんな検査や治療が行われるのかを予測することができるかもしれません。
関節炎
各種微生物や骨関節の解剖学的異常、リウマチ、免疫介在性疾患などによって関節に炎症が起こり、痛みを生じます。
X線検査のみでは原因を特定できないこともあり、関節液の採取や血液検査が追加で必要な場合もあります。
膝蓋骨脱臼
日本でも人気の小型犬種(チワワやトイプードルなど)で多く見られる疾患です。
膝関節は大腿骨の溝に膝蓋骨(膝の皿)が嵌まっており、その膝蓋骨が溝を滑ることによってスムーズな膝の動きが可能になっています。
生まれつき大腿骨の溝が浅い、膝蓋骨に繋がっている筋肉の力が強すぎるなどによって膝蓋骨が溝から外れることを膝蓋骨脱臼といいます。
さらに、膝蓋骨が何度も外れたり嵌まったりを繰り返すことによって関節炎が引き起こされます。膝を伸ばすような仕草をする子は要注意です。
股関節脱臼
生まれつき股関節が緩いことや、強い外傷によって股関節が外れることです。
強い痛みのために足を地面に着くことができません。
大腿骨頭壊死症
小型犬に多く、股関節の付け根である大腿骨頭が壊死する疾患です。
こちらも強い痛みが伴うため、着肢ができなくなります。
靭帯断裂
各骨を結ぶ靭帯が切れることです。特に犬では、膝の前十字靭帯断裂が多く見られます。
膝蓋骨脱臼などによって関節に炎症があると靭帯が脆くなり、靭帯が断裂しやすくなります。激しい運動、突然のダッシュの後に足を着かなくなったら前十字靭帯断裂の疑いがあります。
ちなみに、前十字靭帯はサッカーやラグビーの選手が損傷しやすい靭帯です。
骨折
階段からの転落、ドアに挟まるなどの外傷が原因となります。
腕や太ももよりも、前腕、すね、指などの細い骨が折れやすい傾向にあります。
腫瘍
骨にできる骨肉腫や、その他の部位からの転移によって骨に腫瘍が形成されると強い痛みを伴います。
また、歩くときに擦れる部位に皮膚腫瘍が形成された場合などにも歩様異常が観察される時があります。
パッドの異常
手足の裏にトゲが刺さっている、指の間に小石が挟まっているなどによって歩き方がおかしくなることがあります。
散歩の後は足の裏をしっかりと観察することも大切です。
椎間板ヘルニア
背骨の骨と骨の間には、椎間板というクッションがあります。
椎間板の上には脊髄が走っていますが、何らかの原因で椎間板が上に突き出ると脊髄が圧迫され、神経に障害が起こります。
椎間板ヘルニアでは末梢組織の麻痺の前に痛みが現れるため、歩様異常の検出は早期治療のためには非常に重要です。
前庭障害
平衡感覚を司る前庭神経の障害によって斜頸や歩行障害が現れます。
犬の場合、外耳炎からの波及による中耳炎や内耳炎によって前庭障害が認められることが最も一般的です。
また中高齢でも特発性の前庭障害が多く起こります。
小脳障害
先天的に小脳が小さい、脳炎からの炎症の波及によって小脳が障害されることによって起こります。
小脳は運動調節中枢としての役割があり、小脳が障害されることによって足先を異常に挙げて歩く測定過大の症状が現れます。
その他
ここまでご紹介した疾患の他にも、筋肉の異常や、神経と筋肉の接合部の異常など、歩様異常から多くの疾患が考えられます。
愛犬の歩き方がおかしいなと思ったらすぐに獣医師に相談するようにしましょう。
動画の撮影は非常に有効
犬は動物病院受診の際に、いつもとは異なる環境で緊張によって歩様異常の症状を隠してしまうことがあり、家では変なのに、病院では元気ということは非常によくあります。
そのため、愛犬の歩き方の様子を自宅で動画に撮っておくと、非常に有益な情報として診断に役立ちます。
もちろん動物病院でも歩行検査により、患部の特定を行います。
問診で聞かれること
症状が現れる前後のことは、診断を行う上で大切です。動物病院を受診する際は、以下のことを確認しておくとスムーズです。
- 既往歴:膝蓋骨脱臼や股関節形成不全などの要因の有無
- どこが痛そうか:手足、背中、お腹など
- 時間の経過とともに変化があるか:一時的なものかどうか
- 患肢の挙上はあるか:骨折や靭帯断裂では継続した患肢挙上が見られます
※挙上とは、地面に着かないように肢を挙げることを言います
まとめ
歩くことは犬にとってストレス発散になることが多く、歩きにくい状態は非常にストレスを感じます。
歩様異常は犬種や性別に関わらず、誰でも見られることのある臨床症状で、一時的で軽症のものもあれば、麻痺が起こったりするものもあります。少し様子を見てみようと思うのではなく、歩き方に違和感が見られた場合は、すぐに動物病院に相談して下さい。
知らないうちに愛犬が膝を脱臼?小型犬に多い疾患「パテラ」とは
みなさんは、「パテラ」もしくは「膝蓋骨脱臼」という疾患を聞いたことがあるでしょうか?
パテラは、膝のお皿にずれが生じて脱臼をしてしまう疾患で、特に小型犬にとってはよくある身近な疾患です。
多くの犬の飼い主さんは、「うちの犬は足を痛そうにしていないから大丈夫だろう」と思うかもしれませんが、実は、パテラは痛みを伴わないことのある、症状に気づきにくい疾患なのです。
今回は、パテラの症状や原因、予防方法を分かりやすくお伝えします。
パテラとは
パテラ(膝蓋骨脱臼)とは、膝蓋骨(膝のお皿)がずれて脱臼してしまった状態のことを言います。
膝蓋骨は本来、大腿骨の溝に収まっていますが、これが何らかの理由によって溝からずれてしまうと、パテラになります。
膝蓋骨脱臼は、英語で「patellar luxation」と表現されますが、診断の多い一般的な疾患であることから、略して「patellar(パテラ)」と呼ばれるようになりました。
パテラには「内側」と「外側」がある
パテラには、膝蓋骨が大腿骨の内側にずれる場合(膝蓋骨内方脱臼)と、外側にずれる場合(膝蓋骨外方脱臼)があります。
内側にずれることの方が多いですが、大型犬は小型犬よりも外方脱臼を起こしやすいです。
パテラの原因
パテラの原因には、先天的なものと後天的なものがあります。
先天的な原因
現段階では、まだはっきりとは解明されていませんが、パテラには遺伝的な要因が関わっていると考えられています。
生まれつき後ろ足の骨が曲がっていたり、膝のお皿を安定させる筋肉や靭帯などの組織に異常があったりすると、膝のお皿が大腿骨の溝から外れやすくなると考えられています。
パテラは、トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、パピヨン、ヨークシャテリア、マルチーズなどの小型犬に多くみられますが、柴犬やゴールデンレトリーバーなどの中・大型犬でも発症します。
後天的な原因
先天的な原因以外にも、交通事故の他、高いところからの飛び降りや転倒などの後天的な原因でもパテラになってしまうことがあります。
飛び降り・転倒など、足に負担がかかる出来事があった後、はっきりと見える怪我がなくても、足を引きずることがある、ケンケンをするなど、歩行に異常がみられる場合はパテラである可能性が高いです。
パテラの症状
パテラを起こしても必ずしも痛みを伴う症状が発生するわけではないため、飼い主さんがなかなか初期段階で気づくことができない場合が多いです。
パテラの進行状況は、膝蓋骨の外れやすさによって4つのグレードに分類されています。
グレード1:膝蓋骨は、手で簡単に外せるが、手を離すとすぐに正しい位置に戻る。
グレード2:膝蓋骨が、膝の曲げ伸ばしだけで簡単に外れる。
グレード3:膝蓋骨が常に外れた状態だが、手で押すと正常な位置に戻る。
グレード4:膝蓋骨が常に外れた状態で、手で押しても正常な位置に戻らない。
グレード1、2では、はっきりとした症状は出にくいですが、激しい運動のあとにケンケンをすることや、外れた膝関節を自分で戻そうと、後ろ足をふいに伸ばすなどの行動があります。さらに症状が進行してグレード3、4になると、歩き方に異常がみられたり、足が伸ばせないためにうずくまって歩いたりするようになります。
しかし、歩行困難になっても痛みを感じない犬もいるため、「痛がってないし、きっと年のせいだろう」と、パテラに気づけずに過ごしてしまうこともしばしばあるようです。
パテラの予防
愛犬がパテラになってしまわないためには、どのような予防方法があるのでしょうか。
1.太り過ぎに注意
人間も同じですが、犬も体重が重くなると膝への負担が大きくなります。
ただし、現段階で愛犬がすでに太り気味の場合、ダイエットのためだからといって、太った体でいきなり過度な運動を始めるとかえって膝に負担がかかります。まずは食事を見直し、適度に運動をしましょう。
2.床を滑りにくくする
床が滑りやすいと、足への負担が大きくなります。
床に滑り止めワックスをかけたり、滑りにくいマットを敷くなどの対策をとりましょう。また、家の中で犬と遊ぶときは、できるだけ滑りにくい場所を選びましょう。
床の対策だけでなく、愛犬の足裏の毛が伸びていると滑りやすいので、定期的にカットしてあげましょう。
3.段差を極力減らす
段差の登り降りは、犬の足に負担がかかります。
犬がソファやベッドに登ることがあるのなら、専用の階段やスロープを設置しましょう。
また、外出時も、階段などの大きな段差では抱っこしてあげると負担が軽減します。
4.過度な運動は控える
適度な運度で筋肉を丈夫に保つことはパテラの予防に役立ちますが、やりすぎは禁物です。
毎日の散歩は、大型犬で1時間程度、小型犬で30分程度で十分です。
また、ハイキングやドッグスポーツをする場合も、段差を過剰に登り降りさせたり、長時間運動させることは避けましょう。
5.「おかしいな?」と思ったら早めの診断を
「少し足を気にしているかも?」「歩き方がいつもと違うかも?」など、少しでもおかしいと思ったら、早めにかかりつけの獣医師に相談しましょう。
特にシニア犬では、年齢のせいだと早合点してしまう飼い主さんが多いですが、放っておくと歩けなくなってしまうこともあるので注意しましょう。
まとめ
今回は、犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)の症状や原因、予防方法をお伝えしました。
パテラは決して珍しい疾患ではありませんが、痛みを起こさないこともあるために、飼い主さんがなかなか気づけないうちに進行してしまうのが怖い疾患です。
進行してしまうと歩行困難になってしまうこともあるため、まずはパテラにかからないように適切な予防を行いましょう。そして、少しでも異常が見られたら、なるべく早めに獣医さんに診てもらいましょう。