【獣医師監修】犬の咳が気になる!実は心疾患の可能性も?

もし愛犬が咳をしていたら、あなたはどうしますか?

その咳が一時的なものであれば、何かにむせただけかもしれません。しかし、咳が持続しているとなると、身体、特に胸部に何かしらの異常があることが疑われます。

今回は、犬が咳をしている場合に考えられる病気について、獣医師が詳しく解説していきます。

咳で考えられる7つの呼吸器疾患

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咳の症状を見て、まず疑うのが呼吸器の異常でしょう。呼吸器と一口に言ってもその範囲は広く、鼻腔、喉頭、気管、気管支、肺などが挙げられます。

呼吸器系の検査にはX線検査を行うことが一般的です。では、犬で見られる呼吸器疾患にはどんなものがあるのでしょうか。

ケンネルコフ(犬伝染性気管・気管支炎)

【症状】
感染初期の乾性発咳、くしゃみ、鼻汁、流涙など。長期化や重症化によって湿性発咳、呼吸困難、呼吸速迫など。
【原因】
犬パラインフルエンザウイルス、犬アデノウイルス、犬呼吸器コロナウイルス、マイコプラズマ、細菌の単独あるいは混合感染による。
【備考】
ネブライザーによる吸入療法が効果的。

慢性気管支炎

【症状】
慢性で持続する湿性の咳。
【原因】
ケンネルコフなどの急性気道感染症の回復後、または気道刺激物(埃、塵、タバコの煙など)による慢性的な曝露による。
【備考】
犬の慢性気管支炎は次の3つの基準により定義されている。
①過去1年以内に2か月以上にわたって継続する咳である
②気道内に過剰な粘液を分泌している
③他の慢性循環器あるいは呼吸器疾患を伴わない

気管支拡張症

【症状】
元気消失、食欲不振、湿性の咳、呼吸困難、頻呼吸、喀痰、運動不耐性など。
【原因】
多くは慢性気管支炎などの進行により発症する。先天的な発生もあるが、これは稀。
【備考】
不可逆性の疾患であるため適切な治療により進行を遅らせ、病態の維持を目的とする。

誤嚥(ごえん)性肺炎

【症状】
突然の発咳、呼吸困難、呼吸速迫、発熱、チアノーゼなど。
【原因】
異物を気道内に摂取することによる炎症反応で、以前より嘔吐、吐出、鼻汁、嚥下困難の症状を呈することがある。
【備考】
肺の障害程度は誤嚥した物質の量、粒子の大きさ、経過時間、pHにより異なる。高齢で寝たきりの子や、巨大食道症を罹患している子は特に注意。

気管虚脱

【症状】
咳、アヒル様呼吸音、呼吸困難、チアノーゼなど。
【原因】
直接的な原因は不明だが、主に気管が呼吸時に潰れることによる。興奮、運動、首輪による圧迫などによって症状が発現することもある。
【備考】
首輪から胴輪への切り替え、肥満の解消も治療として効果的。

気道内異物

【症状】
突然の咳と呼吸困難。異物が気管支まで到達すると慢性的な咳を呈することがある。
【原因】
小さな異物(植物の葉や種など)を吸引し、それが気管内に迷入することで急性の閉塞性呼吸困難や咳を呈する。
【備考】
異物の大きさによっては気道を閉塞し、命に関わることもある。

肺の腫瘍

【症状】
発咳(腫瘍が気管支を圧迫した場合)、胸水貯留による呼吸速迫、がん性悪液質(腫瘍によってエネルギー消費が過大となり、栄養状態が悪くなること)など。
【原因】
原発性の肺腫瘍は稀で、多くは転移性。
【備考】
重度に進行するまで症状が出にくいことがある。

咳で考えられる3つの心臓疾患

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呼吸器だけでなく、心疾患においても咳の症状が見られます。これは心臓の負担が増して心臓が大きくなり、胸腔や気管を圧迫すること、肺や胸腔に水が溜まることなどによって引き起こされます。

健康診断などで心雑音が指摘されている子は、咳の症状には特に注意しましょう。

心肥大/左心房拡大による気管支圧迫

【症状】
運動不耐性、活動性低下、頻呼吸、呼吸困難、食欲不振、失神、咳など。
【原因】
僧帽弁閉鎖不全症などの心疾患によって心臓が大きくなると、気管が圧迫されて発咳が見られることがる。
【備考】
僧帽弁閉鎖不全症は犬の心疾患で最もよく見られる。

心原性肺水腫

【症状】
発咳、チアノーゼ、呼吸様式の変化(浅速呼吸や努力性呼吸)、喀血など。
【原因】
慢性の心臓弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症)によって心機能が低下し、肺に血液が過剰に貯留することで生じる。
【備考】
肺水腫は緊急を要する病態で、一刻も早い対処が必要である。

犬糸状虫症(フィラリア症)

【症状】
寄生虫対数が少ないと症状が現れないが、肺に炎症を起こすと発咳が見られるようになる。他にも肺高血圧による右心不全徴候(運動不耐性、体重減少、頻呼吸、腹部膨満)、血色素尿なども見られる。
【原因】
犬糸状虫が肺動脈に寄生することによる。犬糸状虫は蚊によって媒介される。
【備考】
月に1回の駆虫薬の投与によって予防が可能。

まとめ

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他にも、寒い時や埃っぽい時にも咳が見られることがあります。

愛犬の健康管理のために、愛犬の様子を毎日観察することは非常に重要です。観察していると、咳が持続しているか、その咳が異常なものかどうかを見極めることができるかもしれません。心配なことがあれば遠慮なく動物病院に相談してくださいね。

【獣医師監修】犬の尿の色がいつもと違う!考えられる原因や病気とは

犬の健康時の尿色は、黄色~淡い黄色と言われています。しかし、突然愛犬の尿色が赤や褐色になっているのを発見した時、あなたはどうしますか?

尿の色が変化するのは、尿中に普段は出現しないような物質が出現していることが示唆されます。

では、尿色の変化によってどんな異常が考えられるのでしょうか。今回は犬の尿外観異常について解説します。

尿の色から病気の原因がわかる?

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犬の尿の色がいつもと違う場合、体に何らかの異常が起こっていると考えた方がいいでしょう。
尿の色が変化する原因はいくつかあります。

  • 【赤色】赤血球が尿中に排出されている
  • 【褐色】赤血球が破壊され、血色素が尿中に排出されている
  • 【橙色】赤血球が破壊され、ビリルビンが尿中に排出されている

では、具体的にはどのような疾患が考えられるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

赤色(血尿)

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尿の色が赤い時には、尿中に赤血球が出現していると考えられます。膀胱炎を始めとした泌尿器疾患で多く見られる色です。

実際に尿検査をしてみると、尿中に大量の赤血球が検出されます。

下部尿路感染症(LUTI)

【症状】
少量ずつの頻回排尿、排尿時の痛み、血尿など。
【原因】
細菌、マイコプラズマ、真菌などの微生物の感染による。これらの感染は、尿の残留、尿路結石、腫瘍、水分摂取量の不足、尿量の減少、尿糖の排泄などが誘因となる。
【備考】
症状の程度は原因菌、感染からの時間経過、合併症の有無によって異なる。感染が尿管や腎臓にまで波及すると、発熱や腎不全症状が現れる。

膀胱結石

【症状】
血尿、頻尿、排尿時疼痛、尿淋瀝(尿がポタポタ垂れる)、トイレ以外での排尿など。
【原因】
尿の塩濃度、尿pH、尿の停留時間、食物中の無機質濃度不均衡、尿路感染などが誘因となり、膀胱内に結石が形成される。
【備考】
膀胱内の結石が尿道に移動し、そこで閉塞を起こすことがある。速やかに閉塞を解除しないと急性腎不全や膀胱破裂などを招くこともある。

泌尿器腫瘍(尿管、膀胱、尿道)

【症状】
血尿、頻尿、排尿困難など。
【原因】
各組織に腫瘍が発生し、そこから出血することで血尿が生じる。
【備考】
腫瘍の種類としては移行上皮癌が最も多い。また膀胱の移行上皮癌はメスのほうがオスよりもリスクが高いと言われている。

薬剤

【症状】
血尿
【原因】
抗がん剤(シクロホスファミド)の投与による無菌性出血性膀胱炎。
【備考】
腫瘍の治療の際に見られることがある。

褐色(血色素尿)

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茶色っぽい尿色では、赤血球の赤色の成分である血色素が出現していると考えられます。つまり、赤血球が何かしらの原因で破壊され、それが尿中に排泄されているのです。

犬糸状虫症(フィラリア症)

【症状】
運動不耐性(疲れやすい)、発咳、腹水、呼吸困難(肺水腫)、血色素尿など。寄生虫の寄生数、寄生部位、宿主の肺動脈や肺の病変程度によって多様な症状を呈する。
【原因】
犬糸状虫(フィラリア)が心臓に寄生することによる。犬糸状虫は蚊によって媒介される寄生虫で、月に1回の駆虫が必要である。
【備考】
フィラリアの駆虫薬を投与する前には、予めフィラリアへの感染がないことを血液検査にて確認する。フィラリア陽性犬にフィラリア駆虫薬を投与すると、致死的なショックを引き起こすことがあるためである。

タマネギ中毒

【症状】
貧血、血色素尿など。
【原因】
タマネギ、ネギ、ニンニク、ニラなどのネギ類の採食によって赤血球が破壊されることによる。
【備考】
柴犬や秋田犬などの日本犬には、タマネギ中毒に高感受性の家系が存在する。また、亜鉛、アセトアミノフェンといった物質の摂取でも同様の症状を呈することがある。

橙色(ビリルビン尿)

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尿色がいつもよりオレンジ色を帯びている場合、あるいは肉眼的には正常でも、尿中にビリルビンという色素が出現していることがあります。

正常でもビリルビンが尿中に出現することは珍しくありませんが、尿検査で2+以上だと異常と見なされます。

ビリルビンが関与しているということは、肝胆系に何らかの異常があることが示唆されます。また、この場合、血液検査でも血中ビリルビン値の異常が見られることがあります。

胆管閉塞

【症状】
嘔吐、食欲不振、腹痛、黄疸など。
【原因】
胆石や胆嚢粘液嚢腫、周囲組織の腫瘍や炎症によって胆管が閉塞し、ビリルビンが肝細胞間へ逆流することで血清や組織が黄染する。ビリルビン尿は高ビリルビン血症や皮膚の黄疸に先行して発見されることも多い。
【備考】
胆嚢破裂を続発する危険があるため、早期に外科的な治療を行う必要がある。

肝疾患

【症状】
嘔吐、食欲不振、腹痛、下痢、黄疸など。
【原因】
肝炎、肝硬変、肝腫瘍などによって肝機能が低下し、血中ビリルビン濃度が上昇することによる。
【備考】
肝臓の疾患では確定診断の際に肝生検を行う必要があることが多い。

まとめ

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突然の尿色異常は、非常にビックリすると思います。しかし、尿外観異常がどんな原因で起こるのかをおおよそ理解しておけば、不測の事態にも迅速に対応できるでしょう。

慌てず、できることなら異常が見られる尿を採集し、速やかに動物病院までご相談ください。