【獣医師監修】消化器疾患だけじゃない!猫の下痢で考えられる病気

猫と一緒に生活をする上で、毎日顔を合わせなければならないのが排泄物です。言葉を話せない猫において便や尿は、その子の健康状態をありのままに写す貴重なデータです。

もし、いつもより愛猫の便が柔らかい、あるいはもうほとんど形を有していないとしたら、あなたはどうしますか。もちろん、それは一時的な下痢かもしれません。しかし、そこには放置してはならない病気が隠れているかもしれないと、常に考えなくてはなりません。

今回は猫の下痢で考えられる疾患について解説します。

消化器などの内臓疾患

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下痢という症状について、まず考えられるのは消化器など内臓の異常です。わかりやすいのは腸炎でしょうか。

では、その下痢は腸に原因があるのか、それとも他の箇所に原因があって結果的に腸に影響が出ているのかは見た目ではわかりません。そこはしっかりと検査を行う必要があります。

まずは代表的な疾患をいくつか紹介します。

炎症性腸疾患(IBD)

【症状】
3週間以上続くような慢性的な嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失など。低タンパク血症による腹水貯留が見られることもある。
【原因】
遺伝的素因、感染症、食物などによるアレルギー、腸内細菌の乱れ、免疫異常などが複合的に関与していると考えられるが、はっきりとした原因は不明。
【備考】
他の下痢を起こす疾患を鑑別・除外しながら、確定診断は内視鏡下での組織生検が必要となる。しかしこれには全身麻酔が必須であり、猫の状態などを慎重に見極める必要がある。

リンパ腫

【症状】
猫で多いとされる消化器型リンパ腫では嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失が見られる。他には発生部位によって症状は様々で、縦隔型では胸水貯留、鼻腔ではくしゃみ、鼻汁、鼻出血、顔面の変形、腎臓では多飲多尿や血尿、中枢神経では発作が認められる。
【原因】
直接的な原因は不明だが、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)の感染や受動喫煙、慢性炎症の関与が示されている。
【備考】
FeLV陽性猫では若齢(3歳齢前後)、FeLV陰性猫では高齢(13歳齢以上)でのリンパ腫の発生が多いとされている。

肝リピドーシス

【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、黄疸、脱水など。
【原因】
太った猫において、他疾患などによる食欲不振から体内で蛋白質の不足が起こり、その結果、脂質代謝異常で肝臓に脂肪が蓄積するケースが多い。他にも栄養障害、ホルモン異常、ストレスが関わっているとされている。
【備考】
適切な体重管理によって猫を肥満にさせないことが、肝リピドーシスの発生予防に繋がるかもしれない。

胆管肝炎

【症状】
嘔吐、下痢、発熱、脱水、腹痛、黄疸など。
【原因】
消化管からの細菌の逆行(化膿性胆管肝炎)、炎症性腸疾患や膵炎などの関連(非化膿性胆管肝炎)による。
【備考】
胆管肝炎は猫の慢性肝疾患では最も多く見られる。化膿性か非化膿性かで治療方針も異なるので鑑別は重要。

内分泌疾患

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猫では内分泌系の疾患も比較的よく見られます。内分泌系とは、ホルモンを分泌する器官のことで、全身状態の維持に大きく関与しています。

何らかの原因でこの内分泌系に異常が起こると、下痢を始めとする様々な症状が現れます。

甲状腺機能亢進症

【症状】
嘔吐、下痢、食欲増加、体重減少、攻撃性増加、多飲多尿、脱毛など。
【原因】
頚部にある甲状腺の過形成や腫瘍によって、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることによって引き起こされる。
【備考】
シニア期(7歳齢以上)では、半年に一度くらいは健康診断として血液検査で甲状腺ホルモンを測定することが早期発見に繋がる。

糖尿病

【症状】
多飲多尿、嘔吐、下痢、脱水、便秘、低体温、体重減少など。皮膚感染症、膀胱炎といった感染症や白内障を引き起こすこともある。
【原因】
猫は蛋白質からグルコースを産生する代謝系が活発で、容易に血糖値が上昇する。インスリン分泌も低く、肥満、ストレス、感染症などの血糖値を下げられない因子が関わると糖尿病状態になりやすい。
【備考】
雄は雌の1.5倍発症しやすい。過体重、老齢、膵炎、腫瘍、感染症も危険因子となる。

感染症

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屋外に出ることのある猫は、他の猫から病原体をもらうこともあります。

以下の感染症は、日本でも注意するべきものです。中にはワクチンで予防できるものもあるので、生活環境によっては接種を検討してもいいかもしれません。

猫汎白血球減少症

【症状】
軽症例では軽度発熱、食欲不振。重症例では40℃以上の高熱、食欲廃絶、嘔吐、下痢。子猫での発症が多い。
【原因】
猫パルボウイルスの感染による。
【備考】
定期的なワクチンの接種によって予防する。アメリカのガイドラインでは3年に1回が推奨されている。

猫免疫不全ウイルス感染症

【症状】
感染後の時期によって症状は異なる。急性期では発熱、貧血、下痢など。その後症状がない時期が数カ月~数年続き、徐々に口内炎、歯肉炎、上部気道炎、皮膚症状、重度削痩、腫瘍(特にリンパ腫)、日和見感染などが現れる。
【原因】
猫免疫不全ウイルス(FIV)は、感染猫からの咬傷から感染する。
【備考】
外に出る習慣のある猫は感染のリスクを伴うので、室内飼いが推奨される。また多頭飼育の場合にも新しく猫を迎える際には、ウイルスを保持していないかを検査する必要がある。

トキソプラズマ症

【症状】
一般的には下痢を認め、成猫より子猫で見られる。これは原虫が腸管で発育することによるが、腸管外発育の場合には発熱、ぶどう膜炎、痙攣、黄疸、下痢、膵炎などを起こす。
【原因】
感染猫の糞便中のトキソプラズマ原虫を経口摂取することによって感染する。
【備考】
ヒトにも感染することがあり、特に妊娠中の女性は流産や胎児の視覚障害、脳障害なども起こるため注意が必要。

まとめ

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一言で下痢と言っても、その原因は様々です。早い段階で原因を突き止め、適切な処置をしてあげることが愛猫にとって一番なのではないでしょうか。

そのためには糞便検査や、便を写真に撮るなども有効となることがあります。何か気になることがあれば、気軽に動物病院にご相談ください。

【獣医師監修】甘くみないで!犬の尿漏れで考えられる病気とは

「尿漏れ」と言ったらどんな症状を思い浮かべますか?尿漏れはポタポタと尿が垂れている状態はもちろん、広い意味ではトイレ以外での排泄も含まれます

ただの粗相と思うかもしれませんが、体調の変化によってこれら尿漏れの症状が現れることもあります。その原因は主に泌尿器系の異常ですが、中には神経や内分泌系の異常も尿漏れに関与している場合があります。

今回は犬の尿漏れで考えられる疾患について解説します。

犬の尿漏れで考えられる疾患

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犬の尿漏れの原因は、膀胱の疾患、尿道括約筋の異常、神経疾患、尿量増加によるトイレ以外での排尿などが考えられます。

膀胱の疾患

  • 細菌性膀胱炎
  • 結石性膀胱炎
  • 膀胱腫瘍
  • 異所性尿管

尿道括約筋の異常

  • ホルモン反応性尿失禁

神経疾患

  • 胸腰部椎間板ヘルニア
  • 馬尾症候群(変性性腰仙椎狭窄症)
  • 認知障害

尿量増加によるトイレ以外での排尿

  • 腎不全
  • 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
  • 糖尿病

それぞれどのような疾患なのか、詳しくみていきましょう。

膀胱の疾患

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犬の尿漏れで最初に考えられるのは膀胱の異常です。特に膀胱炎は、外来でも非常によく遭遇する疾患です。尿検査を行いたいところですが、これら疾患では頻尿が症状として現れていることも多く、検査に十分な尿を採取できないこともあります。

また、原因によって治療法や経過も異なるため、しっかり検査をして診断を行うことが重要です。

細菌性膀胱炎

【症状】
頻尿、血尿、腹痛、排尿痛、膿尿(濁った尿)など。
【原因】
膀胱内での細菌の増殖。尿道口から侵入した細菌が膀胱まで到達することによる。
【備考】
通常は定期的な排尿によって尿道の細菌は洗い流されるが、過剰な尿の我慢、免疫系のはたらきの低下などによって細菌が膀胱に達することがある。特にメスは尿道が短いので細菌が侵入しやすい。

結石性膀胱炎

【症状】
頻尿、血尿、腹痛、排尿痛など。
【原因】
ストラバイト結石、シュウ酸カルシウム結石などが膀胱内にできることによる。
【備考】
これら結石は尿のpHの変化によって作られやすくなる。例えば細菌の増殖によって膀胱内の尿pHはアルカリ性となるが、それによってストラバイト結石が形成されやすくなる。

膀胱腫瘍

【症状】
血尿、頻尿、排尿困難など。
【原因】
膀胱内に腫瘍が発生することによる。なかでも移行上皮癌は膀胱三角と呼ばれる部位に発生しやすく、尿管閉塞や尿道閉塞を引き起こしやすい。
【備考】
症状が膀胱炎と類似しているため、外見でどちらかを判断することは難しい。尿管や尿道の閉塞が起こると急性腎不全に陥り、命に関わることもある。

異所性尿管

【症状】
失禁、排尿失敗、尿漏れなどと、それに伴う陰部の汚れや皮膚炎。
【原因】
先天的に尿管が膀胱ではなく、膣や尿道に開口することによる。好発犬種はトイプードル、コーギー、シベリアン・ハスキーなどで、オスよりメスでよく見られる。
【備考】
持続的に陰部から尿が垂れていると、そこから細菌感染を起こすこともある。先天疾患なので若齢(3~6ヵ月齢)で尿漏れが見られたら要注意。

尿道括約筋の異常

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排尿のコントロールには膀胱の収縮の他に、尿道括約筋が関与しています。この尿道括約筋が緩むことで、尿は尿道を通って排泄されます。つまり、尿道括約筋が何らかの原因で緩みっぱなしになってしまうと、膀胱から尿が流れ出てきてしまいます。

ホルモン反応性尿失禁

【症状】
尿漏れ、失禁などと、それに伴う皮膚炎など。
【原因】
女性ホルモンや男性ホルモンが減少することで、尿道括約筋のはたらきが減少する。
【備考】
避妊/去勢後の高齢犬で多く見られる。似た症状にストレス性尿失禁があるが、こちらは検査で判断することが困難となる。

神経疾患

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前述したように、排尿には膀胱の収縮および尿道括約筋の弛緩が必要です。これらの働きは神経によって支配されており、脊髄などが侵されると正常な排尿が困難となります。神経が障害される部位によっては、逆に尿が出にくくなることもあります。

よって、以下の疾患では尿漏れではなく、排尿困難が認められることも少なくありません。

胸腰部椎間板ヘルニア

【症状】
跛行(足を引きずる)、四肢麻痺、排尿困難、背部痛など。
【原因】
遺伝(ダックスフント、コーギー、シーズーなど)、加齢が要因となる。
【備考】
背骨を走る脊髄が、突出した椎間板によって圧迫されることによって麻痺などが起こる。排尿異常が認められる場合には予後に関係するため早い対処が求められる。

馬尾症候群(変性性腰仙椎狭窄症)

【症状】
尿失禁、排便の失敗、腰部や尾部の痛み、ふらつき、跛行など。
【原因】
先天的な脊椎の形態異常や不安定症、または椎間板変性などにより馬尾神経(腰の部分の神経)が圧迫されることによる。
【備考】
大型犬の中高齢以降で多く見られるという報告がある。小型犬ではプードルが好発犬種と言われている。

認知障害

【症状】
見当識障害(うろつく、家具の後ろなどで身動きが取れなくなるなど)、睡眠障害、夜間に鳴く、活動量の低下、尿失禁、排便の失敗など。
【原因】
ヒトのアルツハイマー病や認知症と同様の変化が脳に起こっているという報告があるが、詳しい原因は解明されていない。
【備考】
犬の認知障害は近年になって注目され始めた分野であり、今後の研究が待たれる。

尿量増加によるトイレ以外での排尿

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尿量が増加するような疾患では、トイレが間に合わずに粗相をしてしまうことがあります。これら疾患では尿量の増加とともに、飲水量も増加します。

また、全身症状を伴うこともあり、速やかな診断と治療が求められます。最近何かおかしいなと感じたらすぐに動物病院を受診しましょう。

腎不全

【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、脱水、多飲多尿、貧血など。重症例では乏尿、無尿、痙攣、尿毒症などが見られる。
【原因】
腎炎(細菌やウイルスの感染、自己免疫疾患など)、腎臓への血流の減少(心臓疾患やショックなど)、尿路結石、中毒など。
【備考】
高齢の犬ほど慢性腎不全のリスクは増加する。一方で急性腎不全は症状が激烈で、若齢の犬でも注意が必要。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

【症状】
多飲多尿、食欲増加、腹部膨満、皮膚の菲薄化や石灰化、脱毛など。
【原因】
副腎腫瘍や下垂体腫瘍による副腎皮質ホルモンの分泌増加、ステロイド薬の過剰投与など。
【備考】
プードル、ボストンテリア、ダックスフントが発症しやすいと言われている。

糖尿病

【症状】
多飲多尿、体重減少、嘔吐、下痢、脱水、口臭、昏睡など。
【原因】
犬ではインスリンの分泌量が減少するⅠ型糖尿病が多い。原因ははっきりとはしていないが、発症には肥満、感染症、遺伝などが複合的に関与していると考えられている。
【備考】
合併症として白内障、副腎皮質機能亢進症、膀胱炎、膵炎、子宮蓄膿症などが挙げられる。

まとめ

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尿漏れが見られる疾患の中には、放置するとより重篤になるものもあります。尿漏れの原因がどこにあるのか、しっかりと診断して適切な処置を行う必要があります。

たかが尿漏れと思わずに、変わったことがあればお気軽に動物病院にご相談ください。

【獣医師監修】脳の疾患も?犬が震えている場合に考えられる疾患

愛犬がプルプルと震えている場合、あなたは何が原因だと考えますか?寒さなどの生理的なものが原因かもしれませんが、一方で何か身体の不調を訴えるサインである可能性もあります。

では、犬に震えが見られる時にはどんな異常が考えられるのでしょうか。

今回は犬の震えで考えられる疾患について解説します。

犬が震える原因

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犬が震えている原因はいくつか考えられます。

脳疾患

  • 小脳障害
  • 脳炎(髄膜脳炎)

痛みによるもの

  • 椎間板ヘルニア(頚部/胸腰部)
  • 膵炎
  • 骨関節炎
  • 外傷(骨折/脱臼)

その他

  • 発熱
  • 腎不全/肝不全

それぞれどんな病気なのか詳しくみていきましょう。

脳疾患

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脳に何らかの異常があると震えが起こることがあります。手や足が小刻みに震えている時には注意が必要です。また、脳疾患では意識障害を伴う全身性発作が見られることも珍しくなく、震えは発作の前兆である可能性もあります。

さらに、この全身性発作が続くと、脳へ重大なダメージを与えかねません。震え以外にも何か脳疾患を疑う徴候がないか、しっかりと確認しておきましょう。

小脳障害

【症状】
起立時の足の間隔が広い、行動時の揺れ、歩行時の足の上げ方や曲げ方が大きい、頭部の震え(企図振戦:きとしんせん)
【原因】
外傷、梗塞、脳炎、突発性、毒物など。
【備考】
企図振戦は、自分から何か動作を起こした時に生じる震えのこと。食べる、飲む、嗅ぐといった動作を行おうとすると著しく発現する。

脳炎(髄膜脳炎)

【症状】
てんかん発作、意識レベルの低下、斜頚、旋回、震え、視覚障害など。
【原因】
感染性(ウイルス、細菌、真菌、寄生虫)と非感染性(壊死性髄膜脳炎/パグ脳炎、肉芽腫性髄膜脳炎など)に分けられる。
【備考】
犬の脳炎は非感染性のものがほとんど。炎症が起こっている部位によって症状は様々となる。

痛みによるもの

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犬は痛い時にも震えることがあります。痛みには神経痛、腹痛、関節痛など様々なものがあります。愛犬がうずくまって震えている場合、強い痛みが起こっている可能性があります。

また、痛みの箇所は触ることで判断しますが、自宅では行う必要はありません。愛犬との信頼関係が損なわれるだけでなく、飼い主であるあなたがケガをするかもしれないからです。

痛みが疑われる場合には、直ちに動物病院を受診することをオススメします。

椎間板ヘルニア(頚部/胸腰部)

【症状】
跛行(足を引きずる)、背部痛、頚部痛、歩きたがらない、首を上に向けたがらない、四肢麻痺、排尿困難など。
【原因】
背骨の間にある椎間板が突出し、脊髄を圧迫することによる。加齢や遺伝(ダックスフント、コーギー、ビーグルなど)が要因となる。
【備考】
特に頚部椎間板ヘルニアは、無理に首を動かそうとすると突然死することもあるため、安静にして動物病院を受診する。

膵炎

【症状】
頻回の嘔吐、食欲不振、腹痛、下痢、発熱など。
【原因】
はっきりした原因はわかっていないが、生ゴミの誤食、高脂血症、肥満、脂肪を多く含む食事などが危険因子となる。また、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や糖尿病、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患を持つ犬も膵炎発症の危険性が高まる。
【備考】
膵炎に特異的な症状はなく、他の消化器疾患とよく似た症状を呈するため、ただの胃腸炎だろうと自己診断するのは危険。

骨関節炎

【症状】
跛行(足を引きずる)、元気消失、動きたがらないなど。
【原因】
肥満、外傷、加齢などが要因となる。また膝蓋骨脱臼、免疫介在性関節炎(関節リウマチ、多発性関節炎)なども関節炎を引き起こす。
【備考】
慢性的な関節炎となると症状として震えが現れることがある。特に小型犬では膝蓋骨脱臼が多いので注意が必要。

外傷(骨折/脱臼)

【症状】
部位によって異なるが、跛行、歩行困難、起立困難、震えなど。
【原因】
高い所からの飛び降り、ドアに挟む(尻尾が多い)、溝にはまるなど。
【備考】
トイプードルは前肢の骨折が多いと言われている。ケガをした瞬間を目撃していれば判断は容易かもしれないが、留守中のケガなどは歩き方などを見て判断する必要がある。

他にも

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脳の異常や痛みを伴う疾患以外にも、震えが見られることがあります。以下に示すような病態は、いずれも元気消失や食欲低下などの全身症状を伴うことが多いです。

放置することで病態が悪化する可能性もあるため、やはり早めの動物病院受診がオススメです。

発熱

【症状】
39~40℃以上の体温で発熱と見なす。原因によって症状は様々だが、元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢などが見られることが多い。
【原因】
感染(子宮蓄膿症、犬ジステンパーウイルス感染症、犬パルボウイルス感染症など)、歯周病、リンパ腫、突発性多発性関節炎、熱中症など。
【備考】
犬の体温は直腸で計るが、体表面を触っていつもより熱い気がするなら発熱の可能性がある。

腎不全/肝不全

【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、脱水、痙攣などの神経症状、貧血、黄疸など。
【原因】
腎不全は腎炎(感染、自己免疫疾患など)や腎血流量の低下、肝不全は急性肝炎、慢性肝炎、中毒、薬剤などによって起こる。
【備考】
痙攣の他、てんかん発作の前兆として震えが見られることがある。これら神経症状は肝臓や腎臓で解毒/排泄されるべき毒素が体内を循環することによって脳へ障害を与えるために起こる。

まとめ

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明らかに寒い環境にいる場合や強いストレスがかかっている場合を除き、愛犬が震えている時には体調不良を疑うべきです。しかし一方で、このような生理的な震えと病的な震えを正確に見分けることはなかなか困難です。

冬場には服を着せることや暖房を利用すること、普段の生活の場ではストレスを極力なくすなど、生理的な震えが発生しないような環境を作ることも大切でしょう。

何か気になることがあれば、気軽に動物病院までご相談してください。

【獣医師監修】歯周病だけじゃない!犬の口臭で気をつけたい疾患とは

ふと愛犬の口が臭うと感じたことはありませんか?ヒトではオーラルケアに関心が集まり、歯周病の予防や口臭のケアに対するグッズもたくさんあります。

では、犬における口臭は普通のことなのでしょうか。実は犬の口臭もまた、見過ごしてはならない病気の徴候である可能性があります。

今回は、犬の口臭で考えられる疾患について解説します。

犬の口臭で考えられる疾患とは

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犬の口臭の原因は、主に口腔内疾患と内臓疾患が考えられます。

口腔内疾患

  • 歯周病(歯肉炎、歯周炎など)
  • 口腔内腫瘍

内臓疾患

  • 胃炎
  • 腎不全
  • 肝不全
  • 腸閉塞

それぞれの疾患について詳しく見ていきましょう。

口腔内疾患

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口臭が認められた時にまず考えなければならないのは、口の中の異常です。特に歯周病は犬において非常に一般的な疾患です。

自分で歯みがきをする習慣がない犬にとって、食べたものが歯垢や歯石に変わるのは当たり前のことです。歯石の除去には全身麻酔が必要であり、愛犬にとって負担の大きい治療が必要になります。

さらに、口腔内の腫瘍も口臭の原因となり得ます。子犬の時から歯みがきを習慣づけ、口の中をしっかりと確認するクセをつけておくといいかもしれませんね。

歯周病(歯肉炎、歯周炎など)

【症状】
口の痛み、口臭、食欲不振など。カリカリのフードを食べなくなった、噛むおもちゃで遊ばなくなることも多い。
【原因】
歯に歯石が沈着し、そこで細菌が繁殖することによる。
【備考】
犬の唾液は弱アルカリ性であり、歯垢が歯石に変化するのがヒトより早い(2~3日程)。歯周ポケット(歯の付け根の隙間)に歯石が沈着していることも多いため、歯石の除去は全身麻酔を伴うことが一般的。また歯石除去後は歯の表面がザラザラになり、再び歯石が沈着しやすいため、ポリッシング処置によって磨くことも重要。

口腔内腫瘍

【症状】
口の痛み、出血、嚥下困難、口臭など。
【原因】
口の中における各種腫瘍の発生。この腫瘍が自壊、出血し周囲に炎症をもたらすことでニオイが生じる。
【備考】
口腔内腫瘍としては悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫などが多い。腫瘍が大きくなれば肉眼的にも発見は容易だが、それよりも前に何らかの異常を感知することが重要。

内臓疾患

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口の中だけでなく、消化器を始めとする各種内臓疾患においても口臭が発生することがあります。それは過度に分泌された消化液によるものであったり、解毒できない毒素が体内を巡ることによります。

口腔内に異常がない場合や、口臭以外の症状が現れている場合には注意が必要です。特に、嘔吐などの症状は、口臭よりも先だって現れることも少なくありません。

胃炎

【症状】
嘔吐、元気消失、食欲不振、吐血、腹痛など。
【原因】
微生物(細菌、ウイルス、寄生虫など)の感染、食物アレルギー、質の悪い食事、中毒など。
【備考】
嘔吐後には胃酸が口腔内に付着するため、口から酸っぱいニオイがすることがある。例えば留守中に嘔吐した後、その吐物を食べてしまった場合でも口のニオイで何かを感知することができるかもしれない。

腎不全

【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、脱水、多飲多尿、貧血など。重症化すると乏尿、無尿、痙攣、体温低下、尿毒症などが見られて危険。
【原因】
細菌やウイルスの感染、腎血流量の低下(心不全、ショックなど)、免疫疾患、尿結石など。
【備考】
尿毒症ではアンモニアのような口臭が起こることがある。

肝不全

【症状】
食欲不振、嘔吐、黄疸、腹水貯留、神経症状など。
【原因】
急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変など。
【備考】
コッカー・スパニエルやラブラドール・レトリーバーは遺伝的に銅を排泄する機能が低いことがあり、慢性肝炎に罹患しやすいと言われている。口臭は肝臓で解毒されるべき毒素が体内を循環することによって起こることがある。

腸閉塞

【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛など。
【原因】
異物の誤飲(プラスチック、ひも、植物の種、布など)、腫瘍、腸重積、重度の便秘など。
【備考】
腸の閉塞によって口から糞臭がすることがあるが、それよりも前に嘔吐や腹痛の症状が現れることが多い。また腸穿孔を起こすと腹膜炎やショックなど激烈な症状を呈し、非常に危険である。

フードの劣化

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病気以外に口臭が現れる原因として、フードが古くなっていることが考えられます。口が臭うなと感じたときは、まずフードの賞味期限を確認しましょう。

海外で作られたフードは賞味期限の表示が「日/月/年」の順番になっているので確認の際には注意してください。フードが古いものではないのに口臭がする場合には、動物病院を受診したほうがいいかもしれません。

まとめ

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口臭に関してあまり深刻に考えない方も多いと思います。しかし、やはりいつもと違うことには何か原因があり、そこには病気が隠れていることも少なくありません。

中には放置することでどんどん悪化していくような体の異常もあるかもしれません。たかが口臭と思わず、何か気になることがあれば気軽に動物病院に相談してください。

【獣医師監修】鼻腔や喉の異常?犬のいびきで考えられる疾患とは

皆さんは「いびき」という言葉から何を連想しますか。おそらくポジティブなイメージは無いのではないでしょうか。

ヒトではいびきに関連して睡眠時無呼吸症候群などが問題として挙げられていますが、犬ではどうでしょう。愛犬がある日、急にいびきをかくようになったとき、あなたはどうしますか。

今回は犬のいびきで考えられる疾患について解説します。

犬のいびきの原因

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いぬのいびきの原因は、主に鼻腔の異常と咽喉頭の異常が考えられます。

鼻腔の異常による疾病

  • 鼻腔狭窄
  • 鼻炎
  • 副鼻腔炎
  • 鼻腔内腫瘍
  • 鼻腔内異物

咽喉頭の異常による疾病

  • 軟口蓋過長症
  • 口蓋裂
  • 喉頭虚脱
  • 腫瘍(喉頭、甲状腺など)

それぞれの疾患について詳しく見ていきましょう。

鼻腔の異常

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体温調節などでパンティング(浅く早い口呼吸)をすることもありますが、安静時には多くの犬は鼻で呼吸を行います。鼻からの空気の通り道、すなわち鼻腔に異常がある場合、そこを空気が通るときに音が鳴ります

いびきは「睡眠時の音」を指しますが、起きているときにもガフガフと呼吸をすることもあるかもしれません。また、鼻汁やくしゃみなど他の症状が現れていることも多いです。鼻腔は呼吸に関連しているため、異常が見られた場合には愛犬は少なからず息苦しさを感じているかもしれません。

まずは鼻腔の異常について見ていきましょう。

鼻腔狭窄

【症状】
睡眠時や活動時のグーグーという呼吸音、パンティング、興奮時のチアノーゼなど。
【原因】
短頭種では先天的に起こりやすい。他には感染症やアレルギーにより鼻腔内が狭くなることがある。
【備考】
夏には体温調節がうまくいかず、熱中症になりやすいので注意が必要。

鼻炎

【症状】
鼻汁、くしゃみなど。
【原因】
微生物(細菌、ウイルス、真菌など)の感染、アレルギー(ハウスダスト、花粉)など。
【備考】
アトピー性皮膚炎を患っている犬でも鼻炎症状が見られることがある。鼻の炎症による粘膜の肥厚や分泌物によって鼻腔が狭くなることで睡眠時にいびきが生じることがある。

副鼻腔炎

【症状】
くしゃみ、鼻汁、鼻を気にする動作、鼻づまり、いびき、結膜炎、流涙など。
【原因】
感染やアレルギーによる慢性的な鼻炎からの波及、鼻周囲の外傷、腫瘍などが原因となる。また奥歯(第3,4前臼歯)の歯周病の悪化による炎症の波及も原因となり得る。
【備考】
鼻炎の段階でしっかりと治療を行うことが予防となる。

鼻腔内腫瘍

【症状】
くしゃみ、鼻汁、鼻出血、流涙、瞬膜突出などが初期に見られる。進行すると顔面の変形、眼球突出、呼吸困難、貧血、感染などの重篤な症状が発現する。腫瘍による鼻腔の狭窄によっていびきが生じることがある。
【原因】
腺癌、扁平上皮癌などの上皮性悪性腫瘍が多く、他にも軟骨肉腫、骨肉腫、線維肉腫、悪性黒色腫も見られる。
【備考】
長頭種で中~大型犬の発生が半数以上を占め、短頭種での発生は少ない。

鼻腔内異物

【症状】
突然発症するくしゃみ、鼻汁、鼻出血、いびきなど。放置すると睡眠障害や睡眠時無呼吸により元気消失や食欲不振が見られることがある。
【原因】
草、植物の種などが多い。外鼻腔から混入することもあれば、口に入れたものが鼻咽頭側に逆流して鼻腔内に異物が混入することも多い。
【備考】
小さな異物ならばくしゃみで排出されることも多い。

咽喉頭の異常

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咽頭および喉頭は「のど」のことです。鼻や口から吸い込まれた空気はのどを通って肺に向かいますが、やはりこれらの部位に異常があると空気が通るときに音が鳴ります。特に軟口蓋過長症は臨床の現場でもよく遭遇する先天性疾患です。

睡眠時だけでなく、起床時にも呼吸に影響を及ぼすこともあります。興奮時に空気の取り込みがうまくいかないと、失神やチアノーゼといった危険な状態に陥ることもあるため注意が必要です。

軟口蓋過長症(なんこうがいかちょうしょう)

【症状】
呼吸困難、異常呼吸音、いびきなど。
【原因】
軟口蓋(喉の上側にある柔らかい部分)が通常より長くなることで呼吸が妨げられる。多くは先天性で、短頭種(パグ、シーズー、ペキニーズ、フレンチブルドッグ)に多い。
【備考】
加齢によって症状が現れることも多く、肥満防止が予防に繋がるとの報告もある。

口蓋裂

【症状】
咳、くしゃみ、いびき、鼻汁、食事や飲水中にむせる、鼻から水や食事が逆流するなど。
【原因】
先天的な原因は生まれつき口蓋(口の上の部分)に穴が開いている。後天的な原因は歯周病、外傷、腫瘍などが原因となる。多くは先天性の遺伝性疾患であり、好発犬種はフレンチブルドッグ、ペキニーズなどの短頭種と言われている。
【備考】
発育不良や日常生活での支障が起きやすく、特に誤嚥性肺炎には注意が必要。

喉頭虚脱

【症状】
いびき、鼻を鳴らすような呼吸音、苦しそうな呼吸、開口呼吸など。悪化するとチアノーゼや呼吸困難が見られることもある。
【原因】
外鼻腔狭窄や軟口蓋過長症といった短頭種気道症候群の終末像として見られることが多い。他にも外傷による喉頭軟骨の損傷によっても生じる。
【備考】
外鼻腔狭窄や軟口蓋過長症を早期に治療することによって発症を防ぐことが可能。

腫瘍(喉頭、甲状腺など)

【症状】
鳴き声の変化、いびき、呼吸困難、運動不耐性(疲れやすい)など。悪化するとチアノーゼ、起立不能など。
【原因】
扁平上皮癌、リンパ腫、形質細胞腫などが喉頭に原発性に発生することがある。また、甲状腺腫瘍などの転移が喉頭に現れることもある。しかし、これらの発生は稀で、リンパ腫や甲状腺腫瘍など、喉周りに発生した腫瘍が呼吸を妨げることが多い。
【備考】
喉の中に異常がなくても、喉の周りに異常があることでいびきなどの呼吸異常が発現していることもある。

まとめ

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ヒトでは睡眠外来が一般的になりつつあり、いびきも問題として採り上げられるようになりました。犬でもやはりいびきは注意したい症状なのですが、問題だと感じる飼い主は少ないように思います。

もし、少しでも気になることがあれば、気軽に動物病院までご相談ください。

【獣医師監修】もしかして治療が必要?犬のくしゃみで考えられる疾患

愛犬がくしゃみをしているのを見たことがありますか?おそらくほとんどの方が見たことがあると思いますが、大抵のくしゃみは単発で終わります。

しかし、一日に何度もくしゃみをしているのを見れば、「おや?」と思いますよね。春先では「犬にも花粉症はあるのか」などの質問はよくいただきます。

今回は犬のくしゃみで考えられる疾患について解説します。

鼻腔の異常

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まず、くしゃみの原因として考えるのは鼻腔の異常でしょう。人間でも、アレルギーや風邪によってくしゃみが出ることはよくあります。

年齢やワクチン接種歴などによって考えられる原因は多少異なりますが、犬のくしゃみの原因になる鼻腔異常は以下のようなものがあります。

鼻炎

【症状】
鼻汁、くしゃみなど。
【原因】
細菌、ウイルス、真菌などの感染、アレルギー性(ハウスダスト、花粉など)による。
【備考】
アレルギー性鼻炎が疑われる場合、掃除機や空気清浄機の使用、フローリングでの飼育などによって症状が軽減されることがある。

犬伝染性喉頭気管炎(ケンネルコフ)

【症状】
咳、鼻汁、くしゃみ、えずきなど。進行すると元気消失、食欲低下も見られる。
【原因】
犬アデノウイルスⅡ型、犬パラインフルエンザウイルス、ボルデテラ菌などの微生物の感染による。
【備考】
細菌性肺炎が合併症としては多く、この場合は命に関わることもある。ウイルスについては混合ワクチンで予防が可能。

鼻腔内腫瘍

【症状】
一般的に多い初期症状はくしゃみ、片側性の鼻汁排泄、鼻出血、流涙、瞬膜突出など。進行すると顔面の変形、呼吸困難などが見られる。
【原因】
扁平上皮癌、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、腺癌、悪性黒色腫などが見られる。
【備考】
長頭種や都会犬に多発傾向があると言われている。

鼻腔内異物

【症状】
突然のくしゃみ、鼻汁、鼻出血、いびきなど。重症例では睡眠呼吸障害、睡眠時無呼吸発作を認め元気消失や食欲低下が見られることもある。
【原因】
植物の種、草などが多い。異物は外鼻腔から混入することもあるが、口に入れたものが鼻咽頭側に逆流して鼻腔内に混入する例も多い。
【備考】
症状は劇的で、見逃されると睡眠に影響することもあるため注意が必要。

口腔内疾患

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意外かもしれませんが、くしゃみを主訴に来院する犬で多いのは口腔疾患です。主に歯周病によるものが多いのですが、3歳以上の犬の80%以上が何らかの歯周病を患っていると言われています。

歯周病の原因となる歯垢と歯石の除去には全身麻酔が必要なので、できれば日頃のオーラルケアで予防したいところです。

歯周病

【症状】
口の痛み、口臭、くしゃみ、鼻汁、眼の下の腫れや膿汁排出など。
【原因】
歯石の沈着および歯石の周りでの細菌の増殖によって歯周組織に炎症が起こる。
【備考】
犬の唾液はヒトのものよりややアルカリ性で、歯垢が歯石に変化するのが早い(2〜3日と言われている)。よって歯みがきは毎日行うことが重要。

病気ではないくしゃみの原因

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くしゃみの原因は病気によるものだけではありません。生活環境が変わったなど、何かきっかけがある場合もあります。

いずれも鼻を刺激するようなものですが、人間には気付かないレベルの刺激も犬のくしゃみの原因となり得ます。愛犬がくしゃみを連発するときは、思い当たる節がないか確認してみてください。

また、病気によるくしゃみとの違いとして、鼻汁や鼻出血を伴っているか、何日も続くかなどのポイントにも注目しましょう。

芳香剤

お香、香水、アロマディフューザーなどを自宅で使用している方もいるかと思います。

犬の嗅覚はヒトの100万倍と言われており、我々にとってはわずかな香りでも、愛犬にとっては強すぎる可能性もあります。室内のニオイが気になる場合は、窓を開けて換気をするなど愛犬への配慮が必要です。

香辛料

特にキッチン周りでは、胡椒や各種スパイスなどの香辛料のニオイが残っていることがあります。胡椒でくしゃみをするとは古典的ですが、芳香剤と同様、犬にとっては強いニオイ刺激となることでしょう。

愛犬がくしゃみを連発しているときは、料理で何か香辛料を使用しなかったか確認してみてもいいかもしれません。

殺虫剤

害虫などに対処するために殺虫剤を室内で使用する機会もあると思います。殺虫剤の成分は節足動物にしか効果がないため、通常の使用方法で愛犬に中毒症状が現れることは少ないでしょう。

しかし、殺虫剤のニオイに反応してくしゃみが見られることがあります。換気扇を回す、空気清浄機を使用するなどの配慮は必要かもしれません。

まとめ

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犬のくしゃみは、治療が必要なのかの判断が微妙なものも多くあります。動物病院を受診するか悩む方も多いのではないでしょうか。

くしゃみ以外に鼻汁や咳、口臭などの症状が見られる場合には受診をおすすめします。そうでなくても、異常かどうかの判断がつきにくいようなときにはお気軽に動物病院に相談してください。

【獣医師監修】原因はいろいろ!犬の流涙で考えられる疾患とは

涙は眼の保護や、眼の汚れを洗い流すのに重要な役割を果たしています。人間は悲しい時や感動した時などにも涙を流しますが、犬ではそのような場合は稀だと考えられます。つまり、涙の量が増えることは何らかの眼の異常があるということです。

また、涙が増えることで眼の周りの皮膚に炎症が起こることもあります。

そこで今回は、犬の流涙で考えられる疾患について解説します。

犬の涙の量が増える原因

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犬の涙が増える原因を大きく分けると、「涙液の産生増加」と「涙液の排泄異常」の2つが考えられます。

涙液の産生増加で考えられる疾患

  • 睫毛異常
  • 角膜潰瘍
  • ぶどう膜炎
  • 緑内障

涙液の排泄異常で考えられる疾患

  • 先天的鼻涙管異常
  • 後天的鼻涙管閉塞

また、涙の量が増えることで、いわゆる「涙やけ」になってしまうこともあります。涙やけは複数の原因が考えられるため、早めに対処する必要があります。

涙液の産生増加

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単純に涙の産生量が増えれば、流れ出る涙は多くなります。眼にゴミが入るなどの刺激によって、涙の量は増えます。これは生理現象で、病的な涙液量の増加とは区別されます。

しかし、例えば慢性的に眼の周りの毛が角膜を刺激していたり、眼に炎症が起きていても涙液量は増加します。流涙が一時的なものではなく、しばらく続くようなら眼の異常を疑った方がいいでしょう。

睫毛異常

【症状】
流涙、眼脂(目ヤニ)、羞明(眩しそうにして眼を細める)、結膜充血、角膜潰瘍など。
【原因】
眼瞼の裏側に睫毛が生える異所性睫毛、生えている場所は正常だが睫毛が角膜に接触する睫毛乱生(逆さまつげ)が臨床上問題となることが多い。
【備考】
多くは先天的に発生する。睫毛を抜いても根本的な治療にはならず、レーザーなどで毛根を焼く必要がある。

角膜潰瘍

【症状】
流涙、羞明、結膜充血などの疼痛症状、角膜浮腫など。重度の場合は縮瞳なども見られる。
【原因】
眼瞼内反、眼瞼外反、睫毛異常、外傷などによる角膜の損傷および二次的な細菌感染による。
【備考】
潰瘍の深さによる分類が行われ、表層性では治療によって予後良好だが、細菌感染を伴う角膜穿孔では眼球摘出が必要となることもある。

ぶどう膜炎

【症状】
流涙、眼瞼痙攣、羞明、結膜充血、角膜浮腫など。
【原因】
約半数は特発性(原因不明)で、他には感染症、代謝性、免疫介在性、腫瘍性などが挙げられる。この中には子宮蓄膿症やリンパ腫のような生命予後に関わる疾患も含まれるため注意が必要。
【備考】
犬では虹彩、毛様体といった前部ぶどう膜組織の炎症が多い。視覚消失の可能性もあるため早期の対応が必要となる。

緑内障

【症状】
流涙、眼瞼痙攣、羞明といった疼痛症状、眼脂、視覚障害など。眼圧の上昇時には元気消失、食欲不振、眼をこする、気にするなどの症状が見られることもある。
【原因】
遺伝が関与する原発性緑内障と、他の疾患からの続発性緑内障とがある。遺伝的な好発犬種は柴、アメリカン・コッカー・スパニエル、シーズーなど50種以上が知られている。続発性の原因となる疾患には水晶体疾患(白内障、水晶体脱臼)、網膜剥離、ぶどう膜炎、眼内腫瘍などが挙げられる。
【備考】
原発性でも続発性でも、視力保持のためには早期発見と早期治療が必須となる。

涙液の排泄異常

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涙腺から分泌された涙は、まぶたにある涙点という小さい穴から鼻涙管を通って鼻腔へ抜けていきます。先天的あるいは後天的に鼻涙管に通過障害が起こると、出口を失った涙は眼から排泄されます

充血などの眼の異常を示すような徴候が見られないにも関わらず涙液量が多いときは、これら鼻涙管の異常を疑います。ちなみに筆者も幼い頃に鼻涙管閉塞を患っていて、涙が溢れて常に泣いている状態でした。

先天的鼻涙管異常

【症状】
流涙、涙やけとそれに伴う眼の周りの皮膚炎。
【原因】
先天的な鼻涙管の不十分な発達による。
【備考】
マルチーズやプードルで多く、遺伝的な素因が要因としてあると言われている。

後天的鼻涙管閉塞

【症状】
流涙、涙やけとそれに伴う眼の周りの皮膚炎。
【原因】
結膜炎や鼻炎などの炎症の波及により、分泌物が閉塞する。他にも外傷や腫瘍も原因となり得る。
【備考】
原因となる疾患(炎症や腫瘍など)の早期発見と早期治療が予防となる。

小型犬の涙やけ症候群

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眼の周りの毛が涙によって茶色~黒っぽく変色すること「涙やけ」といいます。毛が白い犬種では外見の変化が大きく目立ちます。小型犬の中には、涙やけを起こしやすい特徴(体の構造や好発する眼の疾患など)を有する犬種があるため注意が必要です。

「小型犬の涙やけ症候群」は、単一または複数の要因によって涙やけを起こす病態の総称です。眼の周りの皮膚の不快感など、愛犬にとってストレスとなる場合も少なくありません。涙やけは原因を特定し、それを取り除いてあげる必要があります。

  • 内眼角の過剰な被毛の発育:毛が角膜に触れることで涙液の産生が増加する。
  • 涙管機能障害がある内眼角異常:解剖学的異常により鼻涙管が狭窄する。
  • 睫毛重生:プードルやコッカー・スパニエルで多く、睫毛がマイボーム腺開口部から生えている状態。
  • 眼窩が浅い:パグやチワワなどは眼が大きく、角膜が傷つきやすい。
  • マイボーム腺機能不全:マイボーム腺からの脂質分泌が障害されることで涙が眼の表面に留まりにくくなる。

まとめ

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愛犬の涙が多いことで緊急性を感じる方は少ないかもしれません。しかし、涙液量の変化は、何か異常のサインである可能性があります。

一回の診察で原因の解明から治療まで行うことは難しいかもしれませんが、愛犬のためにも異常が見られれば一度動物病院を受診してみてはいかがでしょうか。

【獣医師監修】目ヤニが気になる?犬の眼脂で考えられる疾患とは

眼脂とはいわゆる「目ヤニ」のことです。眼脂は眼の汚れを洗い流すために、健康な状態でもよく見られます。

しかし、あまりにも多い眼脂やドロドロの眼脂が見られた場合、眼や眼の付属器に何らかの異常があると考えられます。時間が経つと眼の周りがガビガビになってしまうこともあり、放置することはよくありません。

今回は犬の眼脂で考えられる疾患について解説します。

漿液性(しょうえきせい)の疾患

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漿液性の眼脂は多少ネバネバはしますが比較的サラサラで、色は白っぽいことが多いです。過剰に分泌されることにより眼の周りに常に眼脂がある状態になります。

ただし、寝起きなど眼脂が多いタイミングもあるため、病的な眼脂との区別が大切です。眼に充血など他の症状がないかを確認しましょう。

眼瞼内反症

【症状】
流涙、眼脂、羞明(眩しそうに眼を細める)、結膜充血など。
【原因】
先天的な眼瞼周囲の構造異常や加齢、外傷治癒後の引きつれ、他の疾患(角膜潰瘍、ぶどう膜炎、緑内障など)から続発することなどによって発生。眼瞼が内側に巻き込まれ、まぶたの縁が眼球表面に接している状態を指す。
【備考】
遺伝的に眼瞼内反症を呈しやすい犬種は、トイ・プードル、シーズー、パグ、ペキニーズ、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどが挙げられる。

睫毛異常

【症状】
流涙、眼脂、羞明、結膜充血など。
【原因】
まぶたの裏側に睫毛が生える異所性睫毛や、正常な位置に生えている睫毛が角膜に接触している睫毛乱生が問題となる。
【備考】
異所性睫毛は様々な犬種で見られ、睫毛乱生はシーズー、パグ、フレンチブルドッグなどの短頭種で多い傾向にある。

鼻涙管通過障害

【症状】
流涙、涙やけとそれに伴う眼の周りの皮膚炎。
【原因】
先天的な鼻涙管の狭窄や、後天的な炎症や腫瘍が原因となる。
【備考】
先天的な鼻涙管閉塞はプードルやマルチーズで多いとされている。

結膜炎

【症状】
眼脂、結膜浮腫、結膜充血、眼瞼痙攣、眼の不快感など。
【原因】
アレルギー性(アトピー性、薬剤過敏症など)、濾胞性(花粉やハウスダストなどの抗原の慢性刺激)、免疫介在性、外傷、寄生虫などが原因となる。
【備考】
他の眼科疾患や全身疾患からの波及によって結膜炎が生じている場合もあり、全身状態の把握も重要となる。

ぶどう膜炎

【症状】
眼脂、流涙、眼瞼痙攣、羞明、結膜充血など。
【原因】
多くは特発性(原因不明)で、他には感染症(子宮蓄膿症など)、代謝性、免疫
介在性、腫瘍性(リンパ腫など)が原因となる。
【備考】
ぶどう膜炎は必ずしも原因が眼だけにあるわけではなく、全身症状にも注意を払う必要がある。進行すると緑内障を続発し、視覚にも影響を与える。

緑内障

【症状】
眼の痛み(流涙、羞明、眼瞼痙攣)、眼脂など。眼圧の上昇時には元気消失、食
欲不振なども見られる。
【原因】
原発性緑内障の多くは遺伝性で、柴、アメリカン・コッカー・スパニエル、シーズーなどの犬種で好発する。続発性緑内障は白内障、水晶体脱臼、ぶどう膜炎、眼内腫瘍、網膜剥離などが原因となる。
【備考】
眼圧の上昇によって視神経障害が引き起こされ、一度失明に至ると視力は回復しないため、早期発見と早期治療が重要となる。

粘性~粘液膿性の疾患

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漿液性眼脂よりももっとドロドロしていて、色は黄色味がかったような眼脂です。漿液性眼脂が見られるような眼疾患に細菌が感染することでも見られます。

このような眼疾患の治療には点眼薬を用いることになりますが、眼脂が大量にあると薬液が十分に眼に行き渡らなくなります。固まってガビガビにならないよう、クシなどで丁寧に眼の周りをケアすることも大切です。

また、固まってしまったときは、温かい濡れタオルで眼の周りの眼脂をふやかしてから取り除くようにしてください。

乾性角結膜炎

【症状】
涙液減少による角膜や結膜の乾燥のため、眼脂、結膜充血、角膜色素沈着、眼疼
痛が見られる。
【原因】
顔面神経麻痺、三叉神経麻痺、感染症(ジステンパーウイルスなど)、甲状腺機
能低下症、糖尿病、免疫介在性などにより涙液が減少することによる。
【備考】
原因として最も多いのは免疫介在性で、好発犬種はキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、アメリカン・コッカー・スパニエル、ペキニーズ、パグ、シーズーなどが挙げられる。

眼窩膿瘍

【症状】
膿性眼脂、膿が眼の下に溜まり膨らんで見える。
【原因】
歯周病の進行による根尖膿瘍や歯根膿瘍などから生じる。
【備考】
歯周病による症状として口臭や口の痛みが見られることも多い。

まとめ

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眼脂は眼の疾患でよく見られる徴候です。疾患によっては好発する犬種もあるので、毎日の眼のチェックはしっかりと行いましょう。

また、たかが目ヤニと思わずに、異常があればすぐに動物病院を受診してください。