猫がヒアリと並んで「侵略的外来種ワースト100」に選ばれる理由
みなさんにとって、猫とはどのような存在ですか?
「癒し」でしょうか。「大切な家族」でしょうか。
一方、特に鳥類などの小動物にとって、猫はものすごく脅威的な存在となり得ます。中には、猫によって絶滅にまで追いやられてしまった種もあります。
この記事では、猫が生態系に及ぼす被害の実態をご紹介し、猫の飼い主として何ができるかを考えていきましょう。
猫が生態系に及ぼす脅威とは?
猫が鳥類の絶滅の原因!?
アメリカ・ジョージタウン大学のピーター・マラ氏は、ネコはこれまでに63種にも上る脊椎動物(ほとんどが鳥類)の絶滅に関与してきたと言います。
アメリカとカナダでは、年になんと20億以上の動物が猫によって命を奪われているとの報告もあります。また、オーストラリアの研究では、オーストラリア国内で猫が1日に殺す鳥類は100万羽を超え、野生化した猫では年に3億1600万羽、飼い猫でも年に6100万羽の鳥類を殺していると推測されています。
猫は侵略的外来種ワースト100
猫は、世界の「侵略的外来種ワースト100」に選ばれています。
侵略的外来種ワースト100とは、国際自然保護連合(IUCN)の「種の保全委員会」が定めたリストで、外来種の中でも特に生態系や人間の生活に大きな被害をもたらす生物が選ばれています。リストには、他にもシロアリやヒアリなどが載っています。
IUCNは、猫は鳥などの小動物にとって脅威的な捕食者であるとし、特に、猫のような捕食者がこれまでいなかった離島に人間の飼い猫が持ち込まれたことで、多くの動物が絶滅の危機に追いやられたと説明しています。
なぜ飼い猫が生態系を狂わせるのか
狩りをし過ぎてもエサに困らないから
「捕食者」である猫と、猫に襲われる鳥などの小動物との関係には、野生の「喰う・喰われる関係」とは決定的に異なる点があります。
野生のライオンとシマウマの関係を例に考えてみましょう。例えば、ライオンの数が増えれば、食べられてしまう数が増えるのでシマウマは徐々に減っていきます。シマウマが減れば、食べ物が少なくなるのでライオンの数が減っていきます。するとまた、シマウマの数が増えていきます。このように、野生の世界では、捕食者が永遠に増え続けたり、被食者が減り続けたりすることはなく、基本的にはある一定の期間内で生態系のバランスがうまく保たれる仕組みになっています。
一方、人間に飼われている猫と、誰にも飼われていない小動物との関係はどうでしょうか。
人間に飼われている猫が増え、彼らが外に出て狩りをすると、小動物は減っていきます。しかし、野生の世界と違って、小動物が減っても猫は一向に食べ物に困りません。なぜなら、猫は人間にエサをもらえるからです。捕食者が減らないので小動物は数を回復することができず、その一部は絶滅にまで追いやられてしまうのです。
遊びで小動物を傷つけるから
猫は、食べることが目的ではなくても、遊びで小動物を傷つけたり、殺してしまうことがあります。中には、ご主人(飼い主)に喜んでもらうため、鳥やネズミなどを狩って家に持ち帰ってくる猫もいます。
「怪我くらい大丈夫じゃないの?」と思うかもしれませんが、傷ついて動きが鈍ってしまった動物は、他の天敵に襲われやすくなってしまいます。
猫の飼い主にできることは何か
猫が生態系を壊してしまわないために、猫の飼い主にはどのようなことができるでしょうか。
飼い猫をなるべく外に出さない
当たり前ですが、飼い猫を外に出さなければ、猫が小動物に危害を加える心配はありません。
室内でもストレスが溜まらないよう、しっかり運動ができるようなキャットタワーを置いたり、ゆっくり日向ぼっこができるスペースを確保してあげるなどの工夫もしてみましょう。
去勢・避妊手術をする
猫を家の外に出す場合や、多頭飼いをしている場合は、去勢・避妊手術をすることで、必要以上に猫が増えてしまうのを防げます。これは猫自身の殺処分数を減らす上でも重要です。
また、猫をあまり家の外に出さない場合、手術をしていないと、発情期の猫は大きなストレスを感じてしまいます。
子猫が生まれるのを望んでいて、生まれた子猫の世話をしっかりできる環境が整っているのであれば手術の必要はないかもしれませんが、そうでない場合はなるべく去勢・避妊手術をしてあげましょう。
飼えなくなった猫を外に捨てない
一度猫を飼い始めても、「猫アレルギーになってしまった」「子猫がたくさん生まれてしまった」「病気や怪我で世話をする余裕がなくなってしまった」など、様々な理由で飼育が困難になってしまうことがあるかもしれません。
そんな時、猫を外に放してしまうと、猫は小動物を狩って生きるようになる上、去勢・避妊手術をしていなければ、その地域で猫が繁殖してしまうということもあり得ます。
野良猫が数を増やして近隣住民を悩ませるという話は決して珍しい話ではありませんし、もちろん被害は人間だけでなく、地域の鳥やトカゲなどの小さな動物たちにも及んでいるでしょう。
猫を飼うときは、最後まで面倒を見るのが鉄則ですが、もしどうしても猫を手放さなければならない状況になった場合は、引き取ってくれる人を探したり、動物保護団体に相談をしてみるようにしましょう。
まとめ
今回は、猫が生態系に及ぼす影響をご紹介し、猫の飼い主にできることを考えました。
猫は、私たち人間にとってはかわいくて癒される存在かもしれませんが、実は鳥類をはじめとする多くの小動物にとっては脅威となっており、ヒアリと並んで「侵略的外来種ワースト100」にも選ばれていることがわかりました。
猫がここまで生態系を脅かす存在となったのは、猫が人間によって世界中に持ち込まれ、小動物が減っても常にエサをもらえるという大きな特権を手にしたからでした。決して猫だけで生態系を壊すのではなくて、人間に愛されたからこそ猫が脅威となったことを、私たち人間は忘れてはいけません。
かわいいけど飼うのは違法!シカをペットにできない理由とは
6月上旬、東京都の足立区で、野生のシカが捕獲されました。
捕獲されたシカが区の施設で保護されることがメディアで報じられると、区には「かわいそうだから引き取って飼育したい」という問い合わせが寄せられました。
しかし、野生鳥獣であるシカを飼うことは法律で禁止されており、原則として飼うことはできません。一方、シカは害獣として扱われているため、野生に返すことも難しく、殺処分の可能性も十分にあるといいます。
そもそも、なぜシカを飼ってはいけないという法律ができたのでしょうか?
また、シカが害獣として捕獲・駆除されるようになったのには、どのような原因があるのでしょうか?
なぜシカを飼ってはいけないのか?
シカの飼育は、鳥獣保護管理法(正式名称:鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)によって原則禁止されています。
では、この鳥獣保護管理法とはどのようなものなのでしょうか?
鳥獣保護管理法の目的
そもそも、鳥獣保護法(鳥獣保護管理法)はどのような目的で制定されたのでしょうか?
まずは第一章第一条を見てみましょう。
第一条 この法律は、鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するとともに、猟具の使用に係る危険を予防することにより、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、もって生物の多様性の確保(生態系の保護を含む。以下同じ。)、生活環境の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資することを目的とする。
条文から、鳥獣の保護、管理、狩猟の適正化によって、「生物多様性」と「人間の生活環境、農林水産業」の2つを守っていくことを主な目的にしていることがわかります。
鳥獣保護法の歴史
鳥獣保護法の歴史は、1896年に成立した「狩猟法」まで遡ります。狩猟法は、狩猟の際の安全・秩序の確保を目的としていましたが、何度か法改正を重ねる中で、狩猟して良い鳥獣と、それ以外の鳥獣が分けられるようになり、鳥獣保護の意味合いを持つようになります。
また、生態系保護や、生活や農林水産業の保護の意味合いも含むようになり、2002年の鳥獣保護法全部改正にて、現在の鳥獣保護法の基盤が作られました。
2014年の改正で「管理」が色濃くなった
2014年に鳥獣保護法が改正されると、今まで以上に鳥獣個体数の「管理」の意味合いが強くなりました。
この背景には、1980年頃からの30年余りで、ニホンジカやイノシシの数が爆発的に増え、それに伴う鳥獣被害が増えたことが原因だとされています。
これに関して、環境保全団体からは、「生態系保全の意味合いが薄れ、増えすぎた鳥獣の管理に偏ることで、減りすぎた鳥獣の保護への考慮が不十分である」との非難も寄せられました。
シカの数は爆発的に増えた?
環境省によると、1978年から2014年までの36年間で、ニホンジカが約2.5倍まで増えたとされています。
では、ニホンジカはなぜこんなにも増えたのでしょうか?また、ニホンジカの増加でどのような影響が出ているのでしょうか?まずは、一般的に言われている説をご紹介します。
なぜ増えたのか?
ニホンジカが増えた理由として、一般的に言われているのは、「人口の変化」「オオカミの絶滅」「温暖化」の3点です。
人口の変化
明治以降、中山間地域に人口がたくさん流れ込み、耕作地を開拓していったことで、野生生物が一気に減少しました。やがて、都市部に人口が流出したため、中山間地域では野生生物が再び数を増やした、と考えられています。また、人口減少と少子高齢化によって、狩猟人口が減ったことも原因の1つだとされています。
オオカミの絶滅
ニホンジカの天敵である、ニホンオオカミの絶滅も、大きな原因だと言われています。かといって、海外からオオカミを導入すれば、生態系に悪影響を及ぼす可能性があるため、無闇に天敵を放てば良いというわけではありません。
温暖化
気候変動によって、積雪が少なくなり、ニホンジカが生息できる地域が増えたことも、ニホンジカの増加に繋がったとされています。
なぜ「害獣」なのか?
ニホンジカはとてもかわいらしい見た目をしていますが、鳥獣保護法では「害獣」として取り扱われています。その理由は、ニホンジカが数を増やしたことで、人間と自然環境に被害が及ぶようになったからです。
人間に与える被害
人間への被害は主にニホンジカが農作物を食べてしまうという被害です。そのため、電気柵を用いる、銃声を発する、罠を仕掛けるなどして、農家の人たちは様々なシカ対策を試行錯誤しています。
自然環境に与える被害
シカが増えすぎてしまえば、当然のことながら全体の食べる量も増えます。すると、山の中の植物が減ってしまったり、樹皮をはいで食べてしまったりします。全ての生き物は生態系のなかでつながりを持っていますから、ひとつバランスが崩れれば全てに影響が及ぶことになるのです。
「シカは異常に増えているわけではない」と考える専門家もいる
一般的に「シカは異常に増えている」と考えられている一方で、「確かに1970年頃と比較すると個体数は増えているが、今の状況が異常と考えるのは早計である」とする考え方もあります。
北海道大学の揚妻准教授によると、1970年よりもっと前の自然環境を考えると、オオカミが健在していた時期でもシカの数は今と同じくらいいたと推測することができ、1970年頃のシカの数が異常に少なかったという方がむしろ妥当だというのです。
つまり、人間の介入が少なかった本来の自然環境的には、シカの数を一生懸命減らそうとするよりむしろ、シカがたくさんいる状態を維持できる環境が望ましい可能性もあるということです。
シカと人間生活
シカが増えていると考えるにしろ、現在が正常であると考えるにしろ、いずれにしても人間の営みがシカの生態に影響を与えてきたことには変わりありません。
シカに限らず、「かわいいから」といってすぐにペットにしてしまったり、飼えなくなってしまって野生に返すなどといった行為も、少なからず生態系に影響を与えてしまいます。
飼ってはいけないとされる動物は飼わないこと、また、飼い始めたペットは最後までしっかり面倒をみることを、ひとりひとりがしっかり守っていくことは、地球上の生態系や私たち自身の生活を守る上で欠かせないことなのです。
足立区で捕獲されたシカのその後
足立区役所の方からご依頼を頂き、荒川の土手で保護されたシカさんが仲間入りしました❗
お名前は、エスケープしたシカという事で小百合園長が「ケープ」くんと名付けました?
ケープくんをどうぞ、よろしくお願いいたしますm(_ _)m#市原ぞうの国#ぞうの国 #シカ pic.twitter.com/Dq9PowgKeW— 市原ぞうの国・サユリワールド【公式】 (@IEK_SW_official) June 8, 2020
今回足立区で捕獲されたシカは、区からの依頼に応じた千葉県の市原ぞうの国が引き取りました。「エスケープしてきた」ことにちなんで「ケープくん」と命名され、検疫後、体調などを見ながら一般公開時期を決めるそうです。
ツイッターやフェイスブックなどでもケープくんの様子が定期的に報告されていますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
市原ぞうの国
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