食欲旺盛で元気なシニア猫は要注意!甲状腺機能亢進症の症状と治療法
「うちの猫は高齢でも、食欲もあるし、元気いっぱいだから健康」だと思っていませんか?
しかし、あまりに食欲旺盛なシニア猫は、もしかしたら「甲状腺機能亢進症」かもしれません。
食欲があると元気に見えるため、病気とは思わない飼い主さんも多いようです。
今回の記事では、猫の甲状腺機能亢進症について詳しく解説します。
少しでも心配な飼い主さんも、うちは大丈夫という飼い主さんも、一度動物病院を受診してくださいね。
猫の甲状腺機能亢進症とは
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺の機能が何らかの原因で活発になり、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
甲状腺ホルモンとは
甲状腺ホルモンは、代謝を活発にする働きがあります。そのため、これが過剰に分泌されると、エネルギー消費が多くなりすぎてしまいます。
いつも体の中がフル回転しているような状況なので、全身の器官に影響が及びます。初期症状は元気に見えるため、病気だと気づきにくいのが特徴です。
多くの場合、「腺腫」という良性腫瘍によって甲状腺が肥大しますが、悪性腫瘍が原因になる場合も稀にあります。
甲状腺の場所
甲状腺は、猫の喉にある「甲状軟骨」の下に左右にひとつずつある小さな組織で、人でいう喉仏に該当します。
猫の甲状腺機能亢進症の原因
原因ははっきりとはわかっていません。食事、環境(化学物質など)、地域的な要因、遺伝などさまざまな説があります。
甲状腺機能亢進症を発症しやすいのは7歳以上のシニア猫で、性別は関係ありません。
シニアだけど元気いっぱいの猫は要注意!
猫が高齢と言われるのは、およそ7歳頃からです。
一般的に、高齢になれば活動量や食事量は少しずつ減ってきます。
しかし、中には食欲旺盛で活動的なシニア猫がいます。本当に元気ならいいのですが、中には甲状腺機能亢進症になっている可能性もあるのです。
甲状腺機能亢進症の症状
次のような症状があるシニア猫は、甲状腺機能亢進症かもしれません。動物病院を受診しましょう。
- たくさん食べているのに、体重が落ちる
- 食欲旺盛で、すぐにごはんを欲しがる
- 落ち着きがなくなり、じっとしていられない。攻撃的になる。
- 夜中でも大きな声で鳴きわめく
- 水をたくさん飲み、尿量も増加する
- 下痢や嘔吐など、消化器に症状が出る
- 被毛のパサつき、抜け毛が増える
- 心臓の活動が活発になり、鼓動が早くなる
ただし、甲状腺機能亢進症になれば、どのシニア猫も食欲旺盛で活発になるわけではありません。食欲低下や元気がない猫でも、診察を受けたら甲状腺機能亢進症だったという例も多く報告されています。
甲状腺機能亢進症を見逃してしまう原因
1. 年のせいだと思ってしまう
食欲は元気のバロメーターでもあるため、食べているから大丈夫と思いがちです。活動的になればなおさらでしょう。
そして活発に動けば、体重が減って当然と思うのも無理はありません。
また、落ち着きがない、攻撃的になるなど行動の変化や毛のパサツキなどは、「年齢によるもの」と思い込んでしまいます。
下痢や嘔吐も、「高齢だから消化能力が低下している」で済ませてしまうので注意が必要です。
2. 動物病院が苦手
動物病院が苦手な猫は多く、受診するだけでも大変です。
移動しただけで体調不良になってしまう子もいます。連れて行くのも一苦労というシニア猫もいるでしょう。
そのため、ちょっと変だなと思っても、「病院に行くほどではない。元気そうだからいいかな」と受診をためらってしまいます。
甲状腺機能亢進症を早期発見するために
甲状腺機能亢進症などの病気があるかを確認するためには、動物病院の受診が大切です。
また、7歳を過ぎて高齢になったら何も症状がなくても、半年に1度程度は健康診断をおすすめします。
病気の早期発見は非常に重要です。悪化してから行くと、治療に時間も費用も掛かってしまいます。
動物病院が苦手な猫には、次のような対策をしてあげましょう。
- キャリーバッグに猫用のフェロモン剤を付ける。
- 外が見えないようカバーをかける。
- 猫とほかの動物の待合室を別にしている動物病院や、猫専門の動物病院に連れて行く。
- どうしても連れて行くのがダメな場合は、往診専門の獣医さんにお願いする。
甲状腺機能亢進症の治療
甲状腺ホルモンの過剰な分泌をおだやかにするため、薬を飲みます。薬は一生涯飲む必要があります。
療法食が処方される場合も多いようです。
薬を飲んでもあまり改善しない場合、甲状腺の切除手術を行う場合もあります。切除した場合は、甲状腺ホルモンを補充する必要があります。
ただし、あまりに高齢な猫の場合、手術が困難なケースもあるようです。
まとめ
猫の甲状腺機能亢進症は、シニア猫に多い病気です。初期は、甲状腺ホルモンの過剰分泌によって活動的になります。食欲が増し、落ち着きがなくなる猫が多いようです。
中には急に攻撃的になる子もいます。体重減少や毛のパサつき、嘔吐や下痢もありますが、「高齢だから仕方ない」と片付けがちです。
「高齢だから」の影には、甲状腺機能亢進症のような病気が隠れている可能性もあると考え、「以前と何かが違う」と思ったら動物病院を受診しましょう。
大切な愛猫が元気で長生きできるように、定期的な健康診断おすすめします。
【獣医師監修】ミヌエットの好発疾患と病気予防のポイント
ミヌエットは、ペルシャとマンチカンを掛け合わせて生まれた新しい猫種です。フワフワの毛と、可愛らしい姿が魅力で、徐々に人気が出てきており、動物病院でも見る機会が増えています。
そんなミヌエットですが、遺伝的に発生しやすい病気がいくつか存在します。
今回は、ミヌエットの好発疾患について獣医師が詳しく解説します。
ミヌエットの基本情報
歴史
短足でないマンチカンは捨てられてしまうことが多かったのですが、1996年に短足愛好家のブリーダーが短足猫の固定を試みたのが始まりです。最初にペルシャとマンチカンを交配させ、その後、ヒマラヤンなどの長毛種を掛け合わせて、現在のような姿になりました。
当初は、短足という特徴からフランスの英雄にちなみ「ナポレオン」と呼ばれていましたが、2015年に「ミヌエット」と改称されました。
身体的特徴
がっしりとした身体と、マンチカン由来の短い足が特徴ですが、マンチカンと同様に足の長いミヌエットも存在します。
ペルシャのようなふわふわとしたダブルコートの被毛を持ち、ホワイト、ブラック、シルバー、ブルー、クリームなどさまざまな毛色が認められています。
性格
ペルシャ由来の甘えん坊な性格と、マンチカン由来の好奇心が強く活発な性格を兼ね備えています。
社交的で警戒心が少ないため、飼い主以外の人にもすぐに懐きます。しかし、あまりしつこくすると嫌がるので注意しましょう。
ミヌエットの好発疾患
ミヌエットの誕生背景にはペルシャおよびマンチカンの存在があります。よって好発疾患には、これら2種類の猫種に共通するものが挙げられます。
遺伝によって発生しやすいものもあるので、愛猫の両親に病気が起きていないかはしっかりと確認しておきましょう。
多発性嚢胞腎
【症状】
元気消失、食欲不振、多飲多尿、嘔吐、流涎、下痢、脱水、口内炎、発作、貧血など。
【原因】
遺伝的に腎臓に多数の嚢胞が形成され、腎不全を呈する。
【備考】
若齢でも腎不全の症状が見られる場合、検診などで腎臓に嚢胞が見られる場合は経過を注意深く観察する。
肥大型心筋症
【症状】
運動不耐性(疲れやすくなる)、胸水貯留や腹水貯留、肺水腫に伴う呼吸困難、呼吸速迫、元気消失、食欲低下、嘔吐など。
【原因】
心筋(心臓の筋肉)が厚くなり、心臓が膨らみにくくなる。これによって血液が渋滞し、循環不全を呈する。
【備考】
血栓塞栓症を併発することが多く、四肢の麻痺などを引き起こす。肥大型心筋症と診断された後は血栓の形成予防も同時に行っていく。
流涙症
【症状】
涙液量増加による涙焼け。
【原因】
先天的な鼻涙管の閉塞、結膜炎などの炎症による涙道閉鎖などによって、涙腺で産生された涙が鼻に抜けていかないことによる。
【備考】
涙焼けで被毛が黒っぽくなるだけでなく、皮膚炎も起こることがある。
角膜炎
【症状】
疼痛、角膜浮腫(角膜が白っぽくなる)など。結膜炎を併発している場合には結膜充血や結膜浮腫なども見られる。
【原因】
機械的刺激やヘルペスウイルスの感染。
【備考】
ミヌエットは活発な性格の子が多く、家具などに眼をぶつけることで角膜に傷が付くことも多い。
甲状腺機能亢進症
【症状】
多食、体重減少、多飲多尿、活動の亢進、攻撃性の亢進、嘔吐、下痢など。
【原因】
甲状腺の過形成により、甲状腺から分泌されるホルモンが過剰になることによる。
【備考】
高齢の猫では最も一般的な内分泌疾患と言われている。
ミヌエットの健康管理
愛猫が最も多くの時間を過ごすのが自宅です。家の環境や生活習慣を少し見直すだけで、愛猫の病気に早く気づくことができるかもしれません。
これら好発疾患の早期発見や予防の観点から、ミヌエットとの生活でどんなことに注意すべきかを紹介します。
1. こまめなブラッシング
長毛のミヌエットは、毛玉形成および毛球症の予防のために定期的にブラッシングをしてあげましょう。
皮膚に毛玉ができてしまうと、そこが引っ張られ、痛みや炎症が引き起こされます。毛玉を梳かす際にはスリッカーを用いますが、スリッカーの硬い毛先が直接皮膚に当たると傷がつき、そこから感染などが起こることがありますので注意しましょう。
また、定期的にムダな毛や抜け毛を取り除いてあげることによって、グルーミング(毛づくろい)の際に口から入る毛が少なくなります。抜け毛の処理の際には柔らかいブラシを使いましょう。
手袋タイプのブラシもあるので、スキンシップのついでに抜け毛処理をしてあげてもいいかもしれません。
2. 運動できる環境
毎日の適度な運動がなければ、愛猫は簡単に肥満体型になってしまうでしょう。
もともと活発な性格の猫種でもあり、運動ができない環境は猫にとってストレスです。
時間を作って一緒に遊ぶ、一人でも体を動かせるようにキャットタワーなどを設置するなどの工夫が必要です。その際、ミヌエットは手足が短いため、高さのあるキャットタワーは逆に体に負担をかける場合があるので注意しましょう。
3. 尿の状態をチェック
尿には腎泌尿器系の疾患や内分泌疾患などの徴候が現れることが多いため、愛猫の健康状態を知る手段として、毎日の尿の状態を確認することが重要です。
尿量、色、できれば排尿回数なども把握しておくといいでしょう。
もしかしたらトイレの種類(猫砂、新聞紙など)によっては尿の状態が確認しにくいかもしれませんが、トイレの種類を変えると、その子の性格によっては排尿をしなくなることもあります。
愛猫が快適に排泄できるトイレの状態で、尿を確認しましょう。
4. 眼の状態もしっかり確認
ミヌエットは、眼疾患も比較的多い猫種です。毎日顔を見る時に、眼に異常がないかも確認しておきましょう。
眼に関する観察のチェックポイントは以下のようなものがあります。
- 涙が多くないか
- 充血がないか
- 左右で眼の開き方に差がないか
- 目ヤニが多くないか
まとめ
ミヌエットは近年に出てきた新しい猫種のため、飼い方や病気などの情報は他の猫種に比べると少ないかもしれません。
今回ご紹介したポイントに注意して飼育し、わからないことがあれば、気軽に動物病院までご相談ください。
【獣医師監修】アビシニアンの6つの好発疾患と適切な飼育環境
野性味のある見た目と美しい毛並みで人気の猫種、アビシニアン。
クールでキリッとした顔立ちをしていますが、性格は甘えん坊で好奇心が旺盛なところも人気のポイントです。
一方で、アビシニアンには、遺伝的に気をつけなければならない疾患がいくつかあることをご存知でしょうか。
今回の記事では、アビシニアンの好発疾患と飼育環境について獣医師が詳しく解説します。
アビシニアンの基本情報
アビシニアンの基本的な情報を簡単にまとめました。
原産国
諸説あるが、エジプトやイギリスが有力
体重
2.5~4.5キロ
ボディタイプ
フォーリン。しなやかで筋肉質、スマートな体型。
顔の特徴
大きなアーモンドアイにクレオパトララインが相まって、目力が強い。「クレオパトラが愛した猫」とも言われる。
被毛
短毛。ティックドタビー(一本一本の毛が複数の色でできている)が美しい。
性格
甘えん坊で活発、好奇心が旺盛。
アビシニアンの好発疾患
アビシニアンの血統には、特徴的な遺伝性疾患が存在します。
その代表的なものが、「ピルビン酸キナーゼ欠損症」ですが、他にも知っておきたい疾患があります。
順番に見ていきましょう。
1. ピルビン酸キナーゼ欠損症
【症状】
貧血、運動不耐性(疲れやすい)、頻脈など
【原因】
「ピルビン酸キナーゼ」という酵素の、遺伝的欠損による溶血性貧血
【備考】
アビシニアンでは遺伝子変異が報告されているため、遺伝子検査が可能。
2. 進行性網膜萎縮
【症状】
夜盲、視覚異常、失明など
【原因】
遺伝性の網膜症
【備考】
特異的な治療法はなく、早期発見による生活水準の維持が課題となる。
3. 慢性腎不全
【症状】
多飲多尿、頻尿、尿が薄い、貧血、食欲不振、嘔吐、口内炎など
【原因】
長期にわたる腎臓への負担、腎毒性物質、腎臓の炎症、感染症、腫瘍など
【備考】
腎不全の進行により尿毒症、腎性貧血などが発現する。
4. 甲状腺機能亢進症
【症状】
体重減少、多食、嘔吐、下痢、多飲多尿、攻撃性の増加、脱毛、頻脈など
【原因】
猫の場合は非腫瘍性の過形成が原因のことが多い。甲状腺癌が原因のものは全体のわずか1〜2%という報告もある。
【備考】
高齢の猫では最も一般的な内分泌疾患である。
5. 細菌性尿路感染
【症状】
頻尿、有痛性排尿、血尿など
【原因】
尿の残留、尿結石、腎不全による尿組成の変化、尿糖の排泄など
【備考】
放置すると細菌が膀胱から腎臓へ感染することもあり、危険である。
6. 重症筋無力症
【症状】
脱力、吐出、発生障害(鳴き声がかすれる)、嚥下障害、瞬きの異常など
【原因】
神経と筋肉の伝達に異常が起こり、四肢や顔面の筋肉が動かなくなることによる。
【備考】
巨大食道症を併発することが多く、吐出などの症状が見られる。またその場合、誤嚥性肺炎には十分な注意が必要。
アビシニアンのための飼育環境
それぞれの猫に適した飼育環境を整えることで、病気の早期発見や早期治療に繋がることがあります。
アビシニアンと一緒に暮らす上では、どのような環境が推奨されるのでしょうか?ここでは、病気以外でも、日頃から注意したいことをご紹介します。
活発で運動量は多め
アビシニアンには筋肉質な子が多く、その分必要な運動量も多くなります。
一緒に遊んであげる時間を作ることや、キャットタワーを設置するなどしてひとりの時も退屈しないような工夫が必要です。
運動不足は肥満の原因となり、肥満は様々な病気の原因となるので注意しましょう。
好奇心が旺盛なため、誤飲や脱走に注意
飲み込むと危険なもの(尖ったもの、小さなプラスチック、チョコレートなどの毒物など)は、猫の手の届かない引き出しの中などにしまいましょう。
また、ドアを開けた隙に外に飛び出してしまわないよう、出入りには十分に気をつけ、もしもの時のためにマイクロチップの挿入も検討しましょう。
トイレはいつも清潔に
アビシニアンによく見られる疾患として細菌性膀胱炎がありますが、これはトイレの衛生環境も関係しています。こまめにトイレを掃除しましょう。
抜け毛対策のブラッシング
アビシニアンは短毛ですが、換毛期には非常に多くの毛が抜けます。大量の抜け毛は毛球症(グルーミングなどによって口から入った毛玉が腸を閉塞する病気)の原因にもなります。
愛猫とのコミュニケーションにもなりますし、定期的にブラッシングをしてあげましょう。
定期的な健康診断を
貧血、腎機能、甲状腺機能など、アビシニアンには定期的にチェックすべき項目があります。
その子の性格(病院に行くことを極端に嫌がるなど)にもよりますが、半年〜1年に1回の検診をオススメします。
アビシニアンは凶暴化することがある?
アビシニアン以外の猫でも凶暴化することはありますが、少し神経質気味なアビシニアンは、他の猫種よりも凶暴になりやすいと言われています。
引越しや出産といった生活環境の変化に伴って見られる嫉妬やパニックが原因のことが多いようです。
また、猫の嫌がる行為を続けたり、脳に病気があることも原因と考えられています。
まずは、凶暴化しないように
凶暴化をできるだけ防ぐため、いくつかの対策をご紹介します。
- 引っ越しの際は、たとえボロボロであっても猫の毛布やおもちゃを捨てずに持っていく。
- 新入り猫や、人間の赤ちゃんを新しく迎え入れる際は、はじめは違う部屋で過ごさせ、徐々に慣らしていく。
- 引っ越しによる環境の変化や、新入りへの嫉妬でストレスを抱えないよう、意識して多めに遊んであげる。
- 猫の嫌がる行為はしない。特に、日中テレビをつけっぱなしにするなど、何気ない行為が実は猫のストレスになり得るので要注意。過度なスキンシップも控えよう。
- 柑橘系の香りは猫にとって不快なので、香水やアロマの香りには気をつける。
- 病気を早期発見するため、定期的に健康診断をする。
それでも凶暴化してしまったら
むやみに手を出すと咬まれたり引っ掻かれたりすることがあるため、愛猫が落ち着くまで放置するか、別の部屋に隔離することが推奨されます。それでも治まらない場合は、動物病院に相談しましょう。
まとめ
ここまで非常に多くのことを説明してきましたが、一度に全てを変える必要はありません。
しかし、一緒に暮らしている大切な家族が少しでも多くの幸せを感じられるように、愛猫に合った環境の整備が重要です。
アビシニアンがかかりやすい病気をよく理解して、予防や早期発見に努めましょう。
ロシアンブルーでも病気にかかる!リスクを減らす飼い方のポイント
グレーのきれいな毛並みとエメラルドグリーンの瞳が特徴の、ロシアンブルー。
筆者の動物病院にも連れて来られることが多い猫種で、きちんと手入れがされているロシアンブルーは、「カッコイイ」、「上品」という印象が強いです。
そんなロシアンブルーですが、猫種特有のかかりやすい病気はあるのでしょうか?
今回は、ロシアンブルーの好発疾患と、飼育環境の注意点を、獣医師が詳しく解説します。
ロシアンブルーの好発疾患?
猫には、その品種によって遺伝的にかかりやすい病気があります。それは、人間がその猫種を作出する際に近親交配を続けたことによります。
しかし、ロシアンブルーには、猫種で特徴的な遺伝性疾患が存在しません。その意味で、ロシアンブルーは非常に優秀な猫種だと言えます。
ロシアンブルーは病気に強い?
ロシアンブルーには遺伝的に発生しやすい疾患はありませんが、生き物である以上、病気にならないというわけではありません。
他の猫種と比較して特別に免疫力が強いわけでもなければ、内臓が際立って丈夫なわけでもないのです。
他の猫達と同様に、病気の基礎知識を理解しておくことで、早期発見・早期治療につなげましょう。
ロシアンブルーの飼い主さんが知っておきたい病気
慢性膵炎(すいえん)
【症状】
元気消失、食欲不振、間欠的な嘔吐、体重減少など。
時に下痢、脱水、黄疸などが見られることも。
【原因】
急性膵炎の反復、または膵臓が長期にわたり糖尿病や他の疾患の影響を受け続けることによる。
【備考】
猫の膵炎は、胆管炎、胆管肝炎、肝リピドーシス、炎症性腸疾患との併発が多い。
また、トキソプラズマ感染症やヘルペスウイルス感染症によっても膵炎が誘発される。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、体重減少、削痩、嘔吐、脱水、下痢、便秘、低体温など。
【原因】
猫は元々インスリンの分泌が少なく、アミノ酸からグルコースを作り出す代謝系が活発。
肥満、ストレス、感染症など、血糖値が上昇する因子、血糖値を下げられない因子が関わると糖尿病になりやすい。
【備考】
猫では糖尿病による神経障害が起こることが知られており、末期には腎不全が発症する。
慢性腎不全
【症状】
多飲多尿、尿色が薄くなる、食欲減少、体重減少、嘔吐、下痢、口内炎など。
【原因】
慢性的に加えられた腎臓への負担(傷害)を修復する過程で線維化が進行することで発症する。
【備考】
慢性腎不全は貧血や尿毒症を引き起こす。
骨折
【症状】
患肢の痛み、挙上など。
【原因】
外からの物理的な衝撃。
【備考】
家具の隙間に足を挟む、ドアに尻尾を挟むなどには注意。
甲状腺機能亢進症
【症状】
体重減少、脱毛、多食、嘔吐、多飲多尿、活動の亢進、攻撃性の増加など。
【原因】
ホルモン分泌能を有した甲状腺の片側性または両側性の過形成または腺腫。
【備考】
甲状腺癌によるものは全体の1~2%と少ない。
ロシアンブルーを飼う際のポイント
生き物ですから、気をつけていても病気が発生してしまうのは仕方のないことです。
しかし、病気によっては、日常生活を見直すことで発生のリスクを低下させられるものもあります。
1. 尿量の把握
ロシアンブルーに限らず、猫で最も注意したいのが腎臓病です。
猫は、人間や他の動物と比較して濃い尿を排泄します。
その濃い尿を作るために、腎臓には大きな負担がかかっている状態で、腎臓に対するケアを怠ると、加齢とともに腎臓病の症状が現れます。
腎臓の異変は外見では分かりませんが、尿量が増えた、尿が薄くなった、水をたくさん飲むようになったなどは、腎臓病のサインかもしれません。
毎日の排泄物を処理する際に、少しだけ気をつけてみてください。
2. 飲水量の把握
愛猫が一日にどのくらいの量の水を飲むのかは、腎臓病や甲状腺機能亢進症を発見する上で非常に重要です。
しかし、蒸発や、水飲み皿をひっくり返すなどによって正確な飲水量を計測するのは本当に難しいことです。
それでも、皿にどのくらい水を入れて、何時にどのくらい減っていたかを記録していくことによって、飲水量の増減のおおよその判断はつくと思います。
毎日の記録は大変ですが、できる範囲で構いませんので、日常の健康チェックを行いましょう。メモリ付きの容器を使うと便利です。
3. 若い頃の運動量は多め
ロシアンブルーは筋肉質で、他の猫種と比べると少しだけ必要な運動量が多い猫種です。
特に若いうちは、運動不足によるストレスから病気になることもあるため、注意が必要です。
遊んであげる時間を作る、猫が一人でも遊べる工夫をする、キャットタワーを設置するなど、考えてあげましょう。
もちろんその際に、小さなオモチャを飲み込んでしまう、高いところから落ちてケガをするなどがないように気をつけてあげましょう。
4. 定期的な健康診断を
例え病気を疑うような明らかな症状がなくても、安心ではありません。
猫は本能的に、自分が弱っている姿を隠す傾向にあります。つまり、食欲不振などの症状が現れた時には、すでに病気は進行してしまっていることが多いのです。
そこで、若いうちは1年に1度、シニア(7歳以上)では半年に1度の健康診断をオススメします。
「何もないから病院には行かない」のではなく、「何かあるかもしれないから行く」という意識を持てば、病気の早期発見に繋がります。
ただし、動物病院が極度に嫌いな子もいますので、その子の性格に合わせた健康管理プログラムを獣医師と相談することが重要です。
まとめ
ロシアンブルーは、性格の穏やかな子が多く、猫種特有の好発疾患もないため、飼いやすい猫種です。
大切な家族の一員であるという意識を忘れずに、病気にしない生活や、万が一病気になってしまった時にすぐに適切な対処ができる心構えを持っておきましょう。
【獣医師監修】気になる猫の多飲多尿!もしかしたら病気かも?
猫との生活で把握しておきたいパラメーターに、「飲水量」と「尿量」があります。
普段あまり気にしないという飼い主さんも多いかもしれませんが、これらを把握しておくことが、猫の健康を把握することにも繋がります。
今回は猫の多飲多尿について、獣医師が詳しく解説していきます。
多飲多尿とは
多飲多尿とは、飲水量および尿量が通常よりもかなり増加することです。
具体的には猫の場合、一日で体重1㎏当たり45~50ml以上の飲水があれば多飲と判定します。また、尿量に関しては、一日で体重1㎏当たり40ml以上の排尿があれば多尿と判定されますが、尿量を自宅で測定することは困難です。
よって飼い主が異常に気付きやすいのは、「最近よく水を飲む気がする」という行動の変化でしょう。飲水量が増えれば尿量も増えますし、逆に尿量が増えれば飲水量も自然と増えます。どちらが先かはわかりませんが、多飲と多尿は対になって現れることが多いです。
猫の多飲多尿で受診した聞かれること
自宅での飲水や排尿の様子は、飼い主にしかわかりません。猫は自分で症状を訴えられない分、家での自然な行動から情報を読み取る必要があります。
動物病院を受診する際は、以下のことを確認しておきましょう。
- 飼育環境:暑すぎないか、水はいつでも飲めるか、食事の種類(カリカリ、缶詰など)
- 元気や食欲の有無
- 体重減少の有無:急激な体重減少があるか
- 嘔吐や下痢の有無
- 排尿時の様子:尿意の回数、尿失禁、尿臭、色など
- 投薬歴:ステロイドや利尿薬など
猫の多飲多尿で考えられる疾患
多飲多尿が見られた時に、ただ喉が渇いているだけなのか、病気による症状の一環なのか、判断を誤ると大変なことになります。自分で判断せず、必ず獣医師に相談しましょう。
ここでは、猫の多飲多尿が見られた際にどのような疾患が考えられるか、詳しく解説していきます。
慢性腎不全
猫で飲水量や尿量が増えた際に、最初に疑うべき病態です。
特に6歳齢を超えると腎臓病の罹患率が急激に上昇するというデータもあり、10歳以上の猫の30〜40%が腎不全にかかっているとも言われています。
「慢性」と名のつく通り、慢性腎不全は徐々に進行していく病気です。そのため、若い時期からの食事管理や定期的な健康診断などの腎臓に対するケアを行うことで予防しましょう。
甲状腺機能亢進症
甲状腺は、体内の活動を活発にするホルモンを分泌する臓器です。
甲状腺の機能が亢進(こうしん)すると代謝が異常に活性化され、食べても体重が落ち続けていく、攻撃性が増すなどの症状が見られるようになります。
また甲状腺機能の亢進によって、腎臓への血流が増加している可能性があります。このことから、甲状腺機能亢進症の治療を行った結果、隠れていた腎不全が現れてくることもあります。
糖尿病
猫の糖尿病はインスリンの作用不足による、いわゆる2型糖尿病が主と言われています。
また猫の糖尿病では、雄は雌の1.5倍発症しやすく、その危険因子として肥満、老齢、感染症、腫瘍、膵炎などが挙げられます。
尿検査や血中グルコース濃度の測定によって診断が可能であるため、高齢になってきたら健康診断を受けることをおすすめします。
尿崩症
動物の尿は、水よりも重く(濃く)作られており、それはバソプレシンというホルモンが関係しています。バソプレシンは腎尿細管における水の再吸収を促進し、尿を濃いものにします。
尿崩症はバソプレシンの分泌不足、あるいは作用不足によって尿が薄く大量に排泄される疾患です。水に近い尿を多量に排泄するために大量の水を飲みますが、それでも足りずに脱水することもある怖い病気です。
心因性多渇
運動不足やストレス環境下では自律神経の機能が低下し、多飲多尿を示すことがあります。
獣医療において「ストレス」と診断するのは非常に難しいことです。今一度飼育環境を見直し、猫にとって暮らしやすい環境を作ってあげてください。
医原性
利尿薬やステロイドなど、服用することで多飲多尿を示す薬剤があります。
もちろん、それらは他の疾患の治療のために服用しているのですが、十分な説明がないとびっくりすることも多いです。
投薬する際にはあらかじめ、その薬の作用について理解しておくことが重要です。
猫の多飲多尿で注意すること
ただ漫然と生活していては、愛猫の異変に素早く気付くことはできません。
とは言っても全てに気を付けることは不可能ですので、ポイントを押さえて健康チェックをしていきましょう。
飲水量の把握
愛猫が高齢になってきたら、食事量などと同様に飲水量を把握しておきましょう。
外飼いであったり、複数の猫を飼育している場合には飲水量の把握は難しいかと思いますが、猫の多飲多尿を確認する上で一番有効な方法でもあります。
飲水用の器にどのくらい水を入れたのか、一日の最後にどのくらい水が残っているのかを確認すれば、おおよその飲水量が見えるはずです。内側にメモリのついた容器を使えば確認の際に便利です。
定期的な健康診断
やはり病気の早期発見には健康診断は欠かせません。猫の場合は、血液検査の他に尿検査も同時に行うといいでしょう。
自宅での飲水量および尿量の把握が困難でも、尿に異常が見られた場合には多飲多尿が見えてくることもあります。6歳齢を超えたら、少なくとも半年に一回は健康診断を受けましょう。
まとめ
腎不全や甲状腺機能亢進症など、猫で注意したい疾患では多飲多尿が見られることが多くあります。「たまたま喉が乾いているだけかな?」と思うこともあるかもしれませんが、愛猫に違和感を覚えたら、すぐに動物病院へ連れて行くようにしましょう。
一緒に生活する中で異変を見落とさない目を養うことが、愛猫の長生きの秘訣かもしれません。
【獣医師監修】猫の体重減少は危険!早く気付けば病気の早期発見に
猫を抱き上げたとき、「ちょっと軽くなった」と感じることはありませんか?もしくは、猫の体を撫でたときに、「骨が当たるようになった」なんてことありませんか?
猫も生物ですので、生きている中で多少の体重の増減はあります。しかし、体調不良の際には、体重が目に見えて減少することがあります。抱っこしてみて、軽くなったかなと思ったらそれは病気のサインかもしれません。
今回は猫の削痩について獣医師が詳しく解説していきます。
削痩(さくそう)とは?
「削痩」とは読んで字のごとく、体重減少によって体型が痩せ細ることです。
個体差によりますが、季節の変わり目やその日の体調によって多少の体重の増減はあります。しかし、問題となるのは急激に体重が落ちる場合、もしくは徐々にではあるが確実に体重が落ちていく場合です。
削痩はエネルギーを勝手に大量消費するような腫瘍疾患や、食欲不振を引き起こす疾患、栄養の吸収が阻害される疾患などで主に見られます。たくさん食べるのに体重が落ちていく状態は明らかに異常であるため、精密な検査が必要です。
猫の体重減少で動物病院を受診する前にチェックしておくこと
体重減少を引き起こす疾患は多岐にわたり、そのすべてに対して検査を行うことは現実的ではありません。
なぜ体重減少が起きているのか、問診によってある程度絞り込む必要があります。動物病院を受診する前に以下のことをチェックしておきましょう。
- いつから: 何日でどのくらい体重減少があったのか
- 生後1歳齢前後の体重: 標準体重からどの程度体重が少ないのか
- 摂食態度: 食欲の有無、摂食量の確認
- 同居動物の有無: 食事の横取りの可能性
- 他の臨床徴候: 嘔吐、下痢、多飲多尿、頻尿など
同じ猫種であっても、骨格の大きさなどによって標準体重は異なります。
通常は体が出来上がった生後約1歳齢の体重をその子の標準として、体重の増減をチェックします。
猫の体重減少で考えられる疾患
では体重が減った時にどんな疾患が考えられるのでしょうか。代表的な疾患を詳しくご紹介します。
腫瘍疾患
高齢猫で体重減少が見られた際に鑑別に入れるべき疾患の一つです。
特に消化器型リンパ腫の発生率が高い傾向にあり、検査として一般血液検査の他に腹部超音波検査を勧められることが多いです。この消化器型リンパ腫では、小腸における栄養吸収の低下や、食欲不振、嘔吐、下痢によって体重が減少します。
またリンパ腫に限らず、腫瘍性疾患の末期にはがん性悪液質(栄養失調により衰弱した状態)となることが多くあります。悪液質は、疾患によるカロリー消費の増加によって理想体重の10%以上の減少が起こり、筋委縮や眼窩の落ち込みなどが見られます。
慢性心疾患
慢性の心臓疾患においても心性悪液質となることがあります。
猫で多いのは肥大型心筋症です。肥大型心筋症は、心筋が厚くなることで心臓が拡張しにくくなる疾患です。時に血栓を形成し、大腿動脈に血栓が閉塞すると、激しい痛みや呼吸困難を引き起こし、高い確率で死亡します。
慢性腎疾患
猫での慢性腎不全の発生率は非常に高いことで知られます。
慢性腎不全では水分を過剰に排泄するため、脱水による体重減少や削痩が確認できます。
また他にも蛋白漏出性腎症では、尿中に蛋白質が出現します。通常では蛋白質は再吸収されますが、尿中に排泄されるために栄養が効率よく吸収できない状態となります。
慢性肝疾患
肝不全による胆汁酸性低下や蛋白代謝低下によって栄養障害が起こります。
猫の肝胆疾患は、肝リピドーシスや胆管肝炎が多いとされています。
嘔吐や下痢といった消化器症状が見られることがほとんどであるため、日常の健康観察および定期的な健康診断によって早期発見が可能です。
甲状腺機能亢進症
高齢猫では特に多い内分泌疾患です。甲状腺ホルモンの過剰分泌によって、多食なのに体重が減少していきます。
攻撃性も増すことがあるため、年齢とともに性格の変化が認められたら一度動物病院を受診してみましょう。
また7歳齢を超えたら、半年に一度は健康診断を受けることをおすすめします。
糖尿病
糖尿病の発病初期は体重増加を示しますが、末期では体重は減少します。また糖尿病は肥満猫での発生が多く、病的な体重減少を「ダイエット成功」と勘違いするケースもあります。
これまで紹介してきた他の疾患と同様、定期的な健康診断が求められます。
猫の体重減少で注意すること
体重計に静かに乗ってくれない、抱っこが嫌いなど理由は様々ですが、猫の体重を管理することは難しいため、毎日ではなく週に1回、月に1回など定期的に測定しましょう。
もしどうしても測定が困難なようなら、撫でた時の筋肉や脂肪の付き具合を観察しましょう。動物病院で定期的に体重だけ測定してもよいです。
長毛の場合は削痩に気付きにくい
パッと見ただけで痩せているかどうかを主観的に判断することは間違いではないと思います。
しかし、特に長毛の子は、被毛の下に皮膚があるために削痩に気付きにくいことも事実です。
体を撫でる時に肋骨に触れられるか、肉付きはどうかなどを常に気にしてあげましょう。
まとめ
猫は人間よりも体が小さい分、例えば体重が1kg減った時に人間よりも大きな体重変化になります。
体重減少は比較的わかりやすい体調不良のサインでもあり、いち早く気付いてあげることが、病気の早期発見と早期治療に直結します。
愛猫とスキンシップを取りながら、日常での健康チェックを徹底していきましょう。
【獣医師監修】猫の下痢の原因は?チェックすべきポイントを徹底解説
愛猫が下痢をしたら、飼い主のみなさんは何を疑うでしょうか。「単にお腹の調子が悪かっただけだ」と思うかもしれません。
しかし、猫の下痢は重大な病気のサインである可能性もあります。猫の病気に対する正しい知識がなければ、大切な愛猫の病気のサインを見逃してしまうかもしれません。
今回は、猫に下痢が見られた際に考えられる疾患や飼い主さんができることを、獣医師が詳しく解説していきます。
そもそも下痢とは
下痢とは、水分を多く含んだ便のことで、その量は一般的に通常よりも多くなります。糞便量が多くなることで、トイレに行く回数も自然に増えます。
消化器系疾患において、下痢は嘔吐と並んでよく見られる症状であり、猫でも決して珍しいものではありません。
小腸性下痢と大腸性下痢
下痢は病変の部位によって「小腸性下痢」と「大腸性下痢」に分類され、それぞれ症状に特徴があります。
その臨床徴候を下表にまとめました。
小腸性下痢 | 大腸性下痢 | |
---|---|---|
糞便量 | 著名に増加 | 正常~軽度の増加 |
排便回数 | 正常~軽度の増加 | 増加 |
しぶり | 稀 | あり |
糞便中粘膜 | 稀 | あり |
未消化物 | あり | なし |
疼痛 | なし | 時々 |
糞便中血液 | 黒色便、タール便 | 鮮血便 |
しぶりとは、残便感があるのに排便がない状態のことです。腹痛や肛門の筋肉の痙攣が原因で、大腸性疾患の際に認められます。
内臓の出血と便
消化管内で出血があった際や、胃や小腸などの消化管上部での出血では腸内で血液が消化されることで、便が黒くなります。
一方で、大腸での出血の場合では、赤い血液の付着した鮮血便が認められます。
動物病院を受診する際に聞かれること
下痢を呈する疾患は様々で、どこに原因があるかによって治療法も変わってきます。そのため、正確で迅速な診断が求められます。
猫が下痢をして受診する際は、予め次のような問診の内容を把握しておけば、早期診断に繋がるかもしれません。
- いつから: 急性か慢性かなど
- 便の性状: 色、臭い、水分量(水様、泥状、軟便など)
- 他の症状: 嘔吐、黄疸、食欲不振など
- ゴミ箱を漁っていないか: 異物、毒物の可能性
猫の下痢で考えられる疾患
では、猫に下痢が見られた際にはどんな疾患が考えられるのでしょうか。
事前にしっかり把握しておくことで、猫の重大な病気にいち早く気づいてあげましょう。
猫汎白血球減少症
猫パルボウイルスの感染による感染症です。突然の下痢や嘔吐のために衰弱、脱水を起こします。
十分な免疫力を持っていない子猫に発生が多く、成猫ではワクチン接種による予防が可能です。
消化管内寄生虫症
種々の寄生虫による腸炎や消化吸収障害によって下痢が生じます。
駆虫薬による治療や予防が可能ですが、環境中の寄生虫を殲滅しない限り感染を繰り返すため、飼育環境を常に清潔に保つことが大切です。
炎症性腸疾患
リンパ球プラズマ細胞性腸炎や好酸球性腸炎に分類される、下痢を主徴とした炎症疾患です。長く続き、一般的な下痢に対する治療にも反応しない下痢や嘔吐の場合には本疾患を疑います。
しかし、確定診断には内視鏡下での組織生検が必要であり、猫に大きな負担をかけることになります。
消化管内腫瘍
猫における消化管内腫瘍は、消化器型リンパ腫が非常に多く見られます。高齢猫で嘔吐や下痢などの消化器症状を呈する場合にはリンパ腫を視野に入れて検査を行います。
一方で、消化器型リンパ腫は小腸に腫瘤(しゅりゅう)性病変を作らないパターンもあり、パッと見ただけでは腫瘍と気付かないこともあります。
肝リピドーシス
いわゆる脂肪肝のことで、肥満以外にも様々な原因で発生します。脂肪肝の原因は、代謝やホルモンの異常、栄養素の不均衡、毒性物質、先天性代謝異常などです。
他にも、2週間以上にわたる長期的な食欲不振でも肝リピドーシスが発生することがあります。そのため、猫で食欲の異常を見つけたら放置せずに、食欲不振の原因を除去する必要があります。
また、肝リピドーシスの治療では鼻からカテーテルを入れて強制給餌を行うこともあります。
胆管肝炎
猫の慢性肝疾患で最もよく見られるのが胆管炎・胆管肝炎です。胆管肝炎は細菌が関与し、炎症性腸疾患や膵炎などを引き起こす化膿性のものと、炎症が胆管にのみ限局する非化膿性のものに分けられます。
化膿性胆管肝炎では急性の経過を取ることが多く、早期発見・早期治療が重要です。
膵炎
猫での膵炎(すいえん)の発生は多いとされていますが症状は劇的ではなく、嘔吐や下痢が見られることもありますが、元気消失や食欲不振のみのこともあります。
猫で膵炎が重要視されるのは、膵炎の他に、胆管肝炎や肝リピドーシス、炎症性腸疾患を続発することが多いからです。また、膵炎が慢性化することも多く、消化器症状と長期的に付き合っていくことも少なくありません。
甲状腺機能亢進症
高齢の猫でよく見られる疾患です。ホルモンを分泌する甲状腺組織の過形成や腺腫によって、過剰に甲状腺ホルモンが分泌されることにより起こります。
下痢や嘔吐の他に、食欲亢進と体重減少が顕著であり、治療を行わないとどんどん衰弱していきます。食欲はあるのに痩せていく現象が見られたら、この疾患の可能性が高いです。
猫が下痢をしたとき注意すること
猫の下痢は痕跡が残るため、飼い主さんが最も気付きやすい症状の一つです。
下痢は単なるお腹の不調や食べ過ぎが原因とは限らないので、異変を感じたら早めに動物病院を受診しましょう。
動物病院に便を持参するとよい
居住空間を清潔に保つため、すぐに便を片づけてしまいがちですが、ちょっと待ってください。
「便には多くの情報が詰まっています」。
猫は言葉が話せない分、便などから健康に関する情報を得る必要があります。できるだけ排泄してから時間の経っていない便を持参すると、動物病院でスムーズに糞便検査を行えます。
まとめ
排便は、健康状態を表す重要なバロメーターです。日常的に便を観察することで、愛猫の健康管理を行うことができます。
人間側が猫の異常を感知し、すぐに対応することができると素晴らしいですね。
【獣医師監修】猫の嘔吐は正常な場合も!見分けるポイントをご紹介
猫の飼い主さんなら、一度は猫の嘔吐に遭遇したことがあるでしょう。
猫によっては健康でも吐くことはあります。しかし、確認した嘔吐が本当に正常かどうかを判断できますか?また、吐き戻しが連続して、1日に何回も確認できた場合はどうでしょう?
今回は猫における嘔吐について獣医師が詳しく解説していきます。
嘔吐と吐出
「吐き戻し」には、「嘔吐」と「吐出」の2つがあります。嘔吐は日常でも聞いたことがあるかもしれませんが、吐出は聞きなじみのない方もいるのではないでしょうか。
それぞれの違いについて見ていきましょう。
嘔吐とは
嘔吐は、延髄の嘔吐中枢が様々な原因により刺激されることで起こり、胃の内容物が食道に押し上げられて口から出る現象です。
他にも空嘔吐と呼ばれる、横隔膜と腹壁の連続的な動きが見られることが特徴です。
吐出とは
一方、吐出は咽頭や胸部食道の内容物を受動的に吐き出すことを言います。
受動的なので腹部に力が入ることはなく、気持ち悪いような様子も見られません。
また吐物に胃液を含まないため、吐物は酸性よりもむしろアルカリ性を示すことも特徴で、嘔吐との鑑別のためには重要なポイントです。
猫の嘔吐で動物病院を受診した際に聞かれること
嘔吐を主訴とする動物病院への来院は非常に多く、また嘔吐を示す疾患も多岐にわたります。どこに異常があるのかは検査をしてみて初めてわかりますが、全ての検査を行おうとすると猫に大きな負担がかかってしまいます。
そこで問診を行うことで、ある程度の当たりを付けられる場合があります。
猫の嘔吐で動物病院を受診する際は、事前に次のようなポイントを把握しておくとスムーズです。
- いつから: 急性か慢性かの判断
- 誤食の可能性: ゴミ箱など漁った形跡がないか、異物や毒物の可能性
- 病歴と治療歴: 嘔吐を誘発する薬剤の服用、他の疾患の既往歴
- 食事との関連: 食事の変更(食物アレルギーの有無)、食後どのくらいの時間で嘔吐するのか、食事とは関係ないのかなど
- 嘔吐物の様子: 内容物、色、臭いなど
猫の嘔吐で考えられる疾患
嘔吐が症状として見られる疾患はたくさんあります。
全てを紹介することはできませんが、代表的なものをピックアップしました。
膵炎
猫において膵炎は非常に多い疾患です。
嘔吐の他に下痢、発熱、食欲不振などの消化器症状を呈します。
また十二指腸炎や胆管肝炎を併発することも多く、これら併発症の有無を検索する必要もあります。さらに膵炎が慢性化する場合もあり、長期的な管理が必要となることもあります。
異物
いたずら好きな性格の子や若い猫に多く見られます。
体の大きさの割に大きいものを口に入れることも多く、腸閉塞を起こすことが考えられます。
また、尖ったものは胃粘膜や腸粘膜を傷つけることもあり、最悪の場合は消化管を穿孔してしまいます。
さらに猫は紐などの細長いもので遊ぶことが好きな子が多く、誤って飲み込んでしまうとほとんどの場合、手術によって摘出しなくてはなりません。
炎症性腸疾患
小腸または大腸における原因不明の炎症によって、慢性的な腸障害を示す疾患です。
確定診断は内視鏡による腸の生検によりますが、全身麻酔が必要なために診断が難しい疾患でもあります。
嘔吐の他に慢性的な下痢も見られることが多く、食欲不振や体重減少も認められます。
腫瘍
猫における消化管の腫瘍としては、消化器型リンパ腫の発生が重要です。
FeLV(猫白血病ウイルス)陰性の老齢猫での発生率が高いとされています。そのため、中高齢猫で慢性的な嘔吐が見られた場合には、まずリンパ腫の存在を疑います。
血液検査のみでは炎症性腸疾患との鑑別は困難であるため、超音波検査や細胞診を併用することによって診断を行います。
慢性腎不全
猫における最も一般的な嘔吐の原因となります。
猫は古代エジプトでも飼育されていた記録があり、もともと砂漠の動物であるため余分な水分を排泄しないように濃縮された濃い尿を出します。そのために腎臓は生まれた時からフル稼働状態となるので、年齢とともに腎不全になる可能性が高くなります。
慢性腎不全になると、尿の排泄によってしっかりと体外へ毒素を排出できるよう、皮下補液による水分の補給が必要となります。また失われた腎機能は改善することはないため、若い年齢のうちからの腎臓へのケアは非常に重要です。
甲状腺機能亢進症
甲状腺は頸部腹側にある臓器で、基礎代謝に関与しています。甲状腺機能亢進症は、甲状腺から分泌されるホルモンが増加することで、食欲亢進と著しい体重減少を呈する疾患です。
また攻撃性も亢進するため、年齢とともに性格が変化したなどの徴候も甲状腺機能亢進症を疑う所見です。
血液検査によって血液中の甲状腺ホルモンを測定することで診断が可能なので、定期的な健康診断が早期発見のカギとなります。
猫は毛玉を吐く習性がある
猫を飼ったばかりの人は驚くかもしれませんが、猫は毛玉を吐き出す習性があります。
これは、猫が毛づくろいをした際に飲み込んだ毛が便として排出されず、体内にたまった毛玉を口から排出するためです。一見、苦しそうに見えますが、吐いた後に食欲もあり、体調に影響がないようであれば問題ありません。
しかし、吐こうとする仕草を見せるのに、毛玉を吐き出せない場合は、胃の中で毛の塊が形成されて排出できなくなってしまっている可能性があります。悪化すると開腹手術が必要になることがありますので、気付いたら早めに動物病院を受診しましょう。
なお、日頃からブラッシングを行うことで、猫の飲み込む毛量を減らすことができます。
猫の嘔吐で受診すべきか見分けるポイント
猫に嘔吐が見られた際に動物病院を受診するかは非常に悩むところだと思いますが、連続した嘔吐や、嘔吐の他に臨床症状が認められる時には迷わず動物病院を受診しましょう。
一概には言えませんが、嘔吐の後に食欲があれば少し様子を見ても大丈夫なケースが多いです。しかし、少しでも様子がおかしいと感じた時は、その感覚を信じてすぐに動物病院を受診してください。
まとめ
猫の嘔吐はよく見られる症状のため、必ずしも体調が悪かったり、病気を患っているということではありません。
飼い主の判断が重要となる臨床症状であるため、異常を異常と感じ取れる嗅覚を日頃から養っておくことが重要です。