【獣医師監修】アメリカン・コッカー・スパニエルの好発疾患と予防法
アメリカン・コッカー・スパニエルは、垂れ耳と大きな目が特徴で、ぬいぐるみのような容姿がかわいらしい中型犬です。優しい性格の子も多く、獣医師の筆者も好きな犬種の1つです。
そんなアメリカン・コッカー・スパニエルですが、いくつかかかりやすい疾患があることをご存知でしょうか。
今回は、アメリカン・コッカー・スパニエルに特徴的な疾患と、日常生活で飼い主さんが注意したいことを、獣医師が詳しく解説します。
アメリカン・コッカー・スパニエルの基本情報
歴史
アメリカン・コッカー・スパニエルの歴史は、スペイン系の猟犬種であるスパニエルが、14世紀頃にイギリスに持ち込まれたことが始まりと言われています。スパニエル系の犬はヨーロッパの広範囲で飼育されていたため、どこの国が原産かははっきりとわかっていません。
19世紀にイギリスからアメリカへと海を渡り、そこで短頭や長い耳に改良され、現在のアメリカン・コッカー・スパニエルの姿になったと考えられています。
「コッカー(cocker)」とは英語で「ヤマシギ」という鳥を意味し、イギリスでスパニエルがヤマシギ狩りの手伝いをしていたため、「コッカー・スパニエル」と呼ばれるようになりました。
身体的特徴
アメリカン・コッカー・スパニエルは猟犬にルーツを持つので、筋肉質な体型をしています。イングリッシュ・コッカーと比べて、頭頂部が平たく、マズルは短めで、被毛が厚いのが特徴です。
体高は約36cm~38cm、体重は約11kg~13kgです。
被毛の色は、ブラック単色、ブラック&タン、クリーム単色、ダークレッドブラウン単色、ホワイトを含む2色以上のパーティ・カラーなど、様々です。
性格
性格は明るく、人によく懐きます。
警戒心が弱くおおらかなので番犬には向きませんが、好奇心旺盛で遊び好きなため、子供や知らない人ともすぐに仲良くなれるでしょう。
アメリカン・コッカー・スパニエルの好発疾患
アメリカン・コッカー・スパニエルでは耳や眼、首周りなどの上半身の疾患が比較的多く発生します。
まずは、どんな病気にかかりやすいのかをしっかりと理解しましょう。
外耳炎
【症状】
過剰な耳垢。細菌や酵母の二次感染が起こると痒み、発赤、腫れ、悪臭など。
【原因】
特発性脂漏症により、微生物増殖を伴わない過剰な角化異常が認められる。
【備考】
甲状腺機能低下症によっても、過剰な耳垢を伴う外耳炎が見られることがある。
拡張型心筋症
【症状】
運動不耐性(疲れやすくなる)、呼吸困難(肺水腫や胸水貯留による)、腹水貯留など。
【原因】
本犬種においては遺伝の関与が疑われている。他にもタウリンやL-カルニチンなどの栄養素の欠乏なども関与すると考えられている。
【備考】
心筋の収縮力低下と顕著な心腔拡大が特徴的な心疾患。発症年齢は幼若~老齢期と様々で、症状は徐々に悪化する場合もあれば急激に発現する場合もある。
甲状腺機能低下症
【症状】
元気消失、肥満、脱毛、徐脈、運動失調、食欲低下、便秘など。
【原因】
甲状腺ホルモンの産生低下や分泌減少による。
【備考】
甲状腺ホルモンの分泌には甲状腺だけでなく、視床や視床下部も関与している。これらのどこに異常があっても甲状腺機能低下症は発生する。
乾性角結膜炎
【症状】
角膜の光沢欠如、結膜浮腫、軽度の第三眼瞼突出、眼脂(粘液性~膿性)、眼瞼痙攣、角膜潰瘍など。
【原因】
免疫介在性(涙腺炎、瞬膜腺炎)、先天性、神経性(創傷、頭部打撲)、犬種依存性など。アメリカン・コッカー・スパニエルでは犬種依存性が認められている。
【備考】
眼表面の水分が減少し表在性角膜炎と結膜炎を呈する。
緑内障
【症状】
疼痛、角膜浮腫、散瞳、視覚消失など。
【原因】
眼房水の排出路である隅角の発生異常により、眼の中に眼房水が溜まり、眼圧が上昇することによる。他にも、白内障や糖尿病に続発するタイプの緑内障もある。
【備考】
水晶体脱臼、白内障、眼内出血、網膜萎縮などを続発することもある。
特発性てんかん
【症状】
発作、痙攣、意識障害、視覚障害、感覚異常など。
【原因】
検査しても、脳内外に異常が見られない。
【備考】
特発性てんかんは犬で最も一般的に見られるてんかんである。発作が30分以上続くか、休みなしに発作が連続することを重積と言い、放置すると脳損傷に繋がるのですぐに動物病院を受診する必要がある。
椎間板ヘルニア
【症状】
疼痛、歩様失調、四肢の不全麻痺、排尿制御失調など。
【原因】
徐々に進行する椎間板の線維性変性などにより椎間板が背側に突出し、脊髄を圧迫する。
【備考】
比較的高齢で発生する。深部痛覚消失(肉球の間の骨を強くつねっても嫌がらない)から48時間以内に手術を行わないと、手術後も脊髄機能が回復する可能性は低い。
アメリカン・コッカー・スパニエルの飼育環境
好発疾患を理解した上で、日常生活でどのようなことに気をつけるのかを知っておきましょう。
病気の予防や早期発見に役立ててください。
1. 耳のケアをしっかり行う
アメリカン・コッカー・スパニエルで圧倒的に多いのは、耳の疾患です。特に外耳炎と、そこから波及する中耳炎、内耳炎は非常によく見かけます。
これらの疾患は、悪化すると耳道摘出や鼓室胞切除といった大手術を行う必要があります。
垂れ耳であること、耳の毛が長いことなど、耳道環境が悪化しやすい犬種ですので、定期的な耳掃除が病気予防のカギです。
また、動物病院によっては「オトスコープ」という耳の内視鏡ができる所もあります。麻酔は必要ないので、このような検査も定期的に行うといいかもしれません。
2. 眼の健康もチェック
耳のチェックと同時に、眼の状態も把握しておきましょう。
眼のチェックは、次のような点に気をつけましょう。
- 目ヤニが多くないか
- 目が赤くないか
- 瞬きがちゃんとできているか
- まぶたが痙攣していないか
- 目がしっかり開いているか
3. 爪切りや足裏の毛の処置を定期的に
アメリカン・コッカー・スパニエルは定期的に足裏や足周りの毛を整えないと、すぐにモジャモジャになってしまいます。
見た目が悪いだけではなく、踏ん張りが効かなくなって腰に負担がかかってしまいます。
爪や毛などの伸びた部分は定期的に処置してあげましょう。
まとめ
アメリカン・コッカー・スパニエルの飼い主さんは、犬種特有の好発疾患を理解した上で、病気の予防や早期発見に努めましょう。
特別なことをする必要はなく、日常生活の中で健康観察やお手入れを継続してあげてください。
【獣医師監修】シェットランド・シープドッグの好発疾患と予防
「シェルティ」という愛称でも呼ばれるシェットランド・シープドッグは、元々牧羊犬として活躍しており、賢い犬ランキングでも上位に入る人気犬種です。
フサフサとした長毛は美しく、筆者も大好きです。そんな魅力溢れるシェットランド・シープドッグですが、この犬種特有のかかりやすい病気があることをご存知でしょうか。
本記事ではシェットランド・シープドッグのかかりやすい病気と、予防・早期発見の方法ついて解説していきます。なお、以降は愛称である「シェルティ」と記載します。
シェルティの基本情報
シェルティの歴史
シェルティは、イギリス最北端にあるシェットランド諸島が原産の牧羊犬です。シェットランド諸島の気候条件が非常に厳しく荒涼とした土地だったため、少ない飼料でも飼育できるようにと、小型化されていきました。
19世紀の終わり頃、シェットランド諸島を訪れた兵士が犬を持ち帰り、イギリス本土でも人気が高まります。
そして、1909年には、イギリスのケンネルクラブに「シェットランド・コリー」として登録されました。しかし、外見がよく似たラフ・コリーなどとの混同を避けるため、「シェットランド・シープドッグ」という名称に変更されました。
身体的特徴
見た目はラフ・コリーによく似ていますが、大きさはラフ・コリーよりもふた回りほど小さく、オスの体高は37cm、メスの体高は35.5cmが理想とされています。
被毛は、長毛でダブルコートのため、抜け毛はかなり多いです。換毛期だけでなく、普段からブラッシングをする習慣をつけましょう。
性格
基本的には、穏やかで優しい性格をしています。
飼い主に対しては忠実で甘えん坊ですが、警戒心が強く、飼い主以外の人や他の犬に吠えやすい犬種のため、社会化期にしっかりとしつけることが大切です。
シェルティの好発疾患
シェルティで問題となるのは主に眼と皮膚の疾患です。
特に、眼の病気ではコリー種に特徴的なものもありますので、順番に見ていきましょう。
コリー眼異常
【症状】
多くは無症状。視覚障害、前眼房出血、網膜剥離(失明)が起こることもある。
【原因】
遺伝性の脈絡膜の異常。
【備考】
脈絡膜は眼球に栄養を送る血管が分布している。本疾患は4〜8週齢の眼底検査により診断される。また、現在では遺伝子検査も実施されており、本疾患のキャリアかどうかを調べることが可能。
進行性網膜萎縮
【症状】
昼盲~夜盲へ進行
【原因】
網膜色素上皮細胞にセロイドやリポフスチンが沈着する遺伝性の脂質代謝異常による。
【備考】
昼盲から夜盲への進行は遅いこともある。
甲状腺機能低下症
【症状】
元気消失、食欲不振、運動不耐性(疲れやすい)、便秘、脱毛、肥満、無関心、角膜潰瘍、運動失調、発情周期の障害など多岐にわたる。
【原因】
甲状腺の炎症や腫瘍の影響によると考えられている。
【備考】
甲状腺は代謝を司るホルモンを分泌する器官で、この機能が低下すると多くの組織が影響を受ける。
皮膚筋炎
【症状】
皮膚の痒み、脱毛などの皮膚症状が顔、耳、鼻端、四肢端に見られる。
【原因】
正確な病因は不明だが、遺伝が関与していると考えられている。
【備考】
通常は6カ月齢以内には発症するが稀に成犬でも発症する。
フォンウィルブランド病
【症状】
血が止まりにくい
【原因】
血小板が損傷部に粘着する際に必要なフォンウィルブランド因子の異常。
【備考】
乳歯の生え変わりの際に出血が止まらないことがないかを確認しておく。
脱毛症X
【症状】
脱毛、皮膚の色素沈着(皮膚が茶色や黒くなる)など
【原因】
不明
【備考】
3歳未満の未去勢雄に好発し、サマーカットなどをきっかけとして育毛障害が認知されやすい。脱毛はお尻の周り、首、腕や足に分布する。頭部や四肢端に発生することはない。
シェルティの病気予防
愛犬に長生きしてもらうために、できる限りの対策をしましょう。そして、万が一病気になってしまった時には、早期発見がとても大切です。
では、シェルティで注意したい病気を予防するため、早く発見するためにはどんなことに気を付ければいいのでしょうか。
肥満に注意
シェルティは太りやすい犬種と言われています。
毛が長いため、パッと見で愛犬の体型の変化を察知することは難しいかもしれませんが、撫でたりするときに定期的に体型を確認しましょう。目安は肋骨が軽く触れ、腰に少しクビレがある程度です。
食事管理や運動によって健康的な体型を維持することが大切です。
日常的に目のチェックを
シェルティに特徴的なコリー眼異常や進行性網膜萎縮は、視覚に異常が見られる疾患です。
愛犬の視力はしっかりと把握しておく必要がありますが、犬の視力を測定することは難しいかもしれません。
普段の生活の中で、以下のような徴候がないかを確認しましょう。
- よく物にぶつかる
- 段差につまずく
- 動こうとしなくなった
- 目の前で落としたティッシュなどを目で追わない
定期的な健康診断が重要
病気の早期発見には定期的な健康診断が最も効果的です。内臓疾患や甲状腺機能、眼のチェックも含めて行います。
少なくとも年に1回、シニア期に差しかかる7歳以上の子は半年に1回の健診をオススメします。
ブラッシングも忘れないで
長毛のシェルティは、季節の変わり目にゴッソリ毛が抜けます。定期的にブラッシングを行い、無駄な毛を除去してあげましょう。
また、同時に皮膚の赤みやカサブタなどがないかもしっかりと確認していきます。
スリッカーなどの硬いブラシではなく、毛が柔らかいブラシを使ってあげるとブラッシングが好きになってくれるかもしれません。
フィラリア予防薬にも注意
シェルティを始めとするコリー種には、イベルメクチンという成分に対して傾眠や運動失調といった神経毒性が現れることが報告されています。
イベルメクチンは主にフィラリア予防薬に含まれている成分です。この神経毒性は遺伝子の異常に起因し、検査によってイベルメクチンの副作用が発現するかしないかを確認することが可能です。
しかし、なるべくならイベルメクチンを含むフィラリア予防薬は避けた方が無難でしょう。
まとめ
今回は、シェルティの好発疾患について解説しました。もちろん、これら以外の病気にもかかってしまう可能性はありますので、定期的に健康診断を受けてくださいね。
スキンシップと健康観察が、愛情表現と病気予防につながります。ぜひ、毎日欠かさずに行ってあげてください。