【獣医師監修】パピヨンの好発疾患と予防のための5つのポイント
パピヨンは、蝶のような大きな耳が特徴の小型犬種です。
賢い子が多く、日本でも人気で、街を歩いていてもよく目にすることがあります。そんなパピヨンですが、特異的にかかりやすい病気がいくつかあります。
今回の記事では、パピヨンのかかりやすい病気と、おすすめの飼育環境について、獣医師が詳しく解説します。
パピヨンの基本情報
歴史
パピヨンはフランスとべルギーが原産の犬種で、先祖はスパニエルの一種とされています。16世紀以降、マリー・アントワネットなどヨーロッパの貴族から愛されてきました。
当時は垂れ耳が多かったのですが、まれに立ち耳のパピヨンが生まれ、18世紀末頃からは立ち耳のパピヨンが選択的に繁殖されるようになります。その後、チワワなどとの交配によって小型化し、現在のような姿になりました。
名前の由来
パピヨン(papillon)はフランス語で「蝶」という意味があり、パピヨンの耳が蝶の羽を開いたような姿であることから名付けられました。
身体的特徴
体高は20〜28cm、体重は3.0〜4.5kgで、超小型犬に分類されます。
被毛はシングルコートで長めで、色は白を基本として黒、茶、レモン、セーブルなどの色の組み合わせです。
性格
人間が大好きで甘え上手なため、誰に対してもフレンドリーです。ただし、警戒心が強い一面もあります。
また、知能が高い犬種としても知られています。
さらに、パピヨンは小型犬でありながら運動能力に優れているため、動き回るのが大好きです。
パピヨンの好発疾患
パピヨンには、その解剖学的特徴や遺伝的な背景から好発する傾向のある疾患があります。
どんな病気があるのか、どんな症状が現れるのかを理解しておけば病気の早期発見に繋がります。
僧帽弁(そうぼうべん)閉鎖不全症
【症状】
運動不耐性(疲れやすい、易疲労性)、咳、興奮時の呼吸速迫など。
病態が進行し肺水腫となると、呼吸困難、チアノーゼ、安静時の呼吸速迫、運動時のふらつき、失神など。
【原因】
僧帽弁(左心房と左心室の間にある弁)の異常により、心臓の収縮とともに血液が逆流する。これによって循環が悪くなり、心臓への持続的な負荷のために心拡大が引き起こされる。
【備考】
全身臓器への血液供給が減少することにより、膵炎や腎不全を併発することもある。
脱毛症X
【症状】
大腿部背側(お尻の少し下)や頸部、手足の先端以外の脱毛、育毛障害。
色素沈着(皮膚が黒っぽくなる)、面皰、フケなどが見られることも。
【原因】
病態は不明。(Xは不明の意味)
【備考】
3歳齢以下の未去勢雄に好発し、トリミング(特にサマーカット)の後に気付くことが多い。
進行性網膜萎縮
【症状】
初期症状は夜盲症で、徐々に視覚消失を起こす。
【原因】
光を感じる細胞(桿体細胞)の変性による。
【備考】
網膜が発達している間、または生後6週齢までの若い時期に発症することもある。
眼瞼内反症
【症状】
流涙、眼瞼痙攣、角膜周囲の充血、結膜充血など。
【原因】
眼瞼辺縁が内側に曲がっていることによって、眼瞼辺縁と角膜が接触することによる。
【備考】
痛みによって眼瞼は腫れ、さらに眼瞼内反症が悪化するという悪循環に陥ることもある。
白内障
【症状】
水晶体の白濁、視覚障害。
【原因】
加齢、外傷、代謝性(糖尿病、低カルシウム血症など)、他の眼疾患からの続発(水晶体脱臼、網膜異形成、進行性網膜萎縮など)による。
【備考】
老齢疾患のイメージが強いが、若齢(0〜6歳齢)でも発症することがある。
膝蓋骨脱臼
【症状】
足を引きずる、歩き方がおかしい、患肢が地面に着かないなど。
【原因】
外からの強い衝撃、生まれつき膝蓋骨が外れやすい体質など。
【備考】
膝蓋骨脱臼を放置すると重度の関節炎や前十字靭帯断裂を続発することもある。
パピヨンとの日常生活で注意したい5つのポイント
パピヨンのかかりやすい病気に基づき、日常でどんなことに注意すればよいのかをまとめます。
1. 床を滑りにくくする
フローリングなどの滑りやすい床は、膝関節に対して負担がかかります。
膝への負荷は、膝蓋骨脱臼に繋がります。また、膝蓋骨脱臼を既に持っている子は、膝蓋骨がはまったり外れたりを繰り返すことで関節炎を併発することもあります。
愛犬が行動する部屋の床にはカーペットやマットを敷くなど、滑りにくくする必要があります。
2. 爪切りや足裏の毛の処置を定期的に行う
犬の肉球は、走っている時にブレーキの役割を果たします。
爪や足裏の毛が伸びていると、肉球が床と触れずブレーキが効きにくくなり、膝に余計な負担をかけることになります。
トリミングやブラッシングなどの際に、定期的に処置しましょう。
3. 段差にも注意
ソファや小さな椅子などの段差は、飛び乗りや着地の際に大きな衝撃が加わる場合があります。
膝や腰への衝撃は膝蓋骨脱臼や骨折などを引き起こすこともあり、危険です。
ソファやベッドには犬用の階段をつけ、抱っこから降ろす際にはできるだけ床に近づけてから降ろしてあげることが大切です。
4. 心臓病の徴候を見逃さない
パピヨンは僧帽弁閉鎖不全症の発生が多い犬種です。心臓の病気は発見が遅れたり放置したりすると命に関わる可能性があります。
日常生活で観察したいこととしては、以下のような項目があります。
- 散歩に行きたがらなくなった
- 散歩に行ってもすぐに帰りたがる
- 咳をする
- 安静時の呼吸が速い
動物病院が併設されているトリミング室を利用している場合は、定期的に聴診をしてもらうといいかもしれません。
半年に一度の健康診断も、早期発見には有用ですので検討してみてください。
5. 眼のチェックも忘れない
心臓病と同じように、パピヨンは眼の病気も多い犬種です。
眼のチェック項目についてもまとめておきます。
- 涙が多くないか
- 目ヤニが多くないか
- 目ヤニの性状はどうか(色、粘度など)
- 眼が赤くないか
- 黒目が白く濁っていないか
- まぶたが痙攣していないか
これらの異常が見られるようになった場合は、動物病院を受診してみましょう。
まとめ
今回はパピヨンの好発疾患について解説しました。
病気は重くなる前に診断し、適切な処置をすることが非常に重要です。
愛犬が長生きできるよう、日頃から健康について意識し、異常があればすぐに動物病院を受診してくださいね。
【犬図鑑】パピヨンの歴史や性格、飼い方のポイントをご紹介!
上品な見た目と賢く活発な性格が魅力的なパピヨンは、かつてヨーロッパ貴族に愛されていました。そして現在は、日本国内でも全犬種の中で毎年上位の飼育頭数を誇っています。
この記事では、パピヨンの歴史や性格、飼い方のポイントなどをご紹介していきます。パピヨンを飼っている人も、これから飼ってみたいと思っている人もぜひ参考にしてください。
パピヨンの歴史
パピヨンはフランスとべルギー原産の犬種で、先祖はスパニエルの一種とされています。16世紀以降、ポンパドゥール夫人やマリー・アントワネットをはじめとするヨーロッパの貴族から愛されるようになり、多くの絵画にもパピヨンが描かれました。
当時は垂れ耳のタイプがほとんどでしたが、まれに立ち耳のパピヨンが生まれ、18世紀末頃からは立ち耳のパピヨンが選択的に繁殖されてきました。
その後、チワワなどとの交配によりサイズも小さくなり、現在のような姿のパピヨンが誕生したとされています。
名前の由来
パピヨン(papillon)はフランス語で「蝶」という意味があり、パピヨンの耳が蝶の羽を開いたような姿であることから名付けられました。
また、垂れ耳のパピヨンはフランス語で「蛾」という意味の「ファーレン(phalene)」と呼ばれており、日本では同じ犬種として認められていますが、別の犬種として扱っている国もあります。
パピヨンの特徴
大きさ
体高は20〜28cm、体重は3〜4.5kgで、超小型犬に分類されます。
オスとメスでサイズに違いはあまりありませんが、オスの方が少しだけ大きい傾向がみられます。
被毛
被毛はシングルコートで長めです。耳と尾にはパピヨンを象徴する長い飾り毛があり、優雅な見た目をしています。
ジャパンケネルクラブでは、白地であれば全ての色が認められるとしており、黒、茶、レモン、セーブルなどの色が組み合わさって二色の「パーティカラー」や三色の「トライカラー」になります。
パピヨンの性格
パピヨンの魅力は外見だけではありません。その愛くるしい性格も人気の理由のひとつです。
すべての人とフレンドリー
人間が大好きで甘え上手なため、小さな子どもから高齢者まで、誰とでも仲良くなれます。
初対面の人や犬にも友好的ですが、警戒心が強い一面もあるため、トラブルにならないよう注意してあげましょう。
知能は高いが従順ではない
賢いことで知られるパピヨンの知能の高さは、全犬種の中でも上位に入ります。
一方で、自己主張が強く、従順さはあまりみられないため、子犬の頃からしっかりとしつけることが大切です。
活発で運動が大好き
パピヨンは小型犬にも関わらず、運動能力に優れ、飼い主と一緒にドッグスポーツを楽しめます。
パピヨンの好発疾患
パピヨンはほかの小型犬と比べると遺伝の病気は少なく、あまり病気になりません。しかし、それでも注意したい疾患があります。
膝蓋骨脱臼(パテラ)
膝蓋骨脱臼は、膝のお皿にずれが生じて脱臼してしまう疾患で、小型犬によくみられます。先天的な場合と、足に負担がかかることが原因の後天的な場合があります。
立っている状態で膝がカタカタ震えだす、足をかばいながら痛がるなどが見られる場合は、膝蓋骨脱臼の疑いがあります。すぐに病院に連れていきましょう。
眼瞼内反症(逆さまつげ)
まぶたが内側に巻き込んでいる先天的な疾患で、眼球がまつげに刺激されて、角膜や結膜の疾患を引き起こします。
常に涙目になっており、放置すると目ヤニや涙やけなどが見られるようになります。
パピヨンの飼い方のポイント
散歩や運動
1日30分程度の散歩を2回行いましょう。パピヨンは小型犬ですが、体力があり運動好きな子も多いので、長めの散歩が必要です。
ただし、激しい運動を長時間行うと足に負担がかかるため、適度な運動量を守りましょう。
足腰への負担がかからない環境
滑りやすい床や、段差の登り降りは、犬の足に負担がかかります。
床には滑りにくいマットを敷き、犬がソファやベッドに登ることがあるのなら、専用の階段やスロープを設置してあげましょう。
お手入れ
パピヨンはシングルコートで、抜け毛は少なく、トリミングは必要ありません。しかし、長く柔らかい被毛で絡まりやすいため、ブラッシングは毎日してあげると良いです。
また、立ち耳のため、垂れ耳の犬と比べると耳の病気になりにくく、耳のお手入れも頻繁に行う必要はありません。
まとめ
昔から多くの人に愛されてきたパピヨンの魅力は、気品にあふれた見た目だけでなく、フレンドリーで賢く、活発な性格にもあります。
賢いがゆえに、一度甘やかすとわがままになってしまうこともありますが、子犬の頃から正しくしつければ、最高のパートナーになることは間違いないでしょう。
パピヨンを飼っている方も、これから飼おうと思っている方も、ぜひ参考にしてみてください。