驚くべき犬のコミュニケーション能力!3つの実験を紹介
犬が非常に優れたコミュニケーション能力を持つ動物であることは、広く知られています。実際に犬を飼っている人なら、その能力の高さに驚かされることも少なくありません。
犬が持つさまざまな能力は、数多くの実験で実証されています。今回は、犬のコミュニケーションに関する3つの実験を紹介します。犬の驚くべき能力の研究について見ていきましょう。
犬は教えなくても人間とのコミュニケーションがとれる!?
アリゾナ大学の研究チームは、平均8.5週齢の子犬375頭を対象にした実験により、「犬は学習せずとも人間との社会的なコミュニケーションが可能である」という結論を導きました。
実験内容
2つのカップを用意し、片方のカップに犬から見えないようにエサを隠します。その後、ジェスチャーによるヒントを与えた場合と与えなかった場合の正解率を検証します。
(参照:https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(21)00602-3)
A.エサの入った方のカップを指さす
B.エサの入ったカップの横に黄色い目印を置く
C.指さしも目印の設置も行わない
実験結果
A.「エサの入った方のカップを指さす」の場合は正解率67.4%、B.「エサの入ったカップの横に黄色い目印を置く」の場合は72.4%の確率でエサが入ったカップを選択しています。一方で、C.「指さしも目印の設置も行わない」場合は48.9%と正解率が大幅に低下します。
この結果から、研究チームは「犬は人間のジェスチャーに対して学習に頼らず、幅広い社会化の前や発達初期から強い感受性を示す」と結論付けています。つまり、犬は生まれながらにして、学ばずとも人間とのコミュニケーションをとる能力を持っていると言えます。
野良犬でも人間の指示を理解できる!?
人間の元で飼われている犬たちは、「オスワリ」や「マテ」などの指示に従うことができます。このような人間の指示を理解する能力は、生まれつき備わっているものなのか、それとも人間と共に暮らしていく上で学習したものなのかを明らかにするため、野良犬による実験が行われました。
インドの動物行動学者、アニディンタ・バドラ氏らの研究グループは、野良犬の生態について調査するため、野良犬160頭が人間のジェスチャーを理解できるかを調べる実験を行いました。
実験内容
- 鶏肉をボウルに入れて、野良犬に与える。
- 犬や実験担当者が見ていない場所で、「鶏肉を1切れ入れたボウル」と「鶏肉の匂いだけをつけた空のボウル」を用意し、段ボールでフタをして担当者に渡す。なお、実験担当者の心理が実験結果に影響しないよう、実験担当者にも鶏肉入りのボウルが分からないようにした。
- 実験担当者は地面に置いたボウルの中から、ランダムに片方を指で示すジェスチャーを行う。
- 1頭の犬に対して、実験を3回繰り返し、「犬がボウルに近づいたかどうか」と「犬が近づいたボウルが、人間が指さしたボウルかどうか」を確認する。
実験結果
残念ながら、野良犬のほぼ半数がどちらのボウルにも近づくことができませんでした。バドラ氏は、この理由としてインドにおける狂犬病の危険性や衛生上の問題から、野良犬が人々に叩かれたり追い払われたり、毒入りのエサを与えられたりすることへの警戒心からくるものではないかと述べています。
しかし、ボウルに近づくことができた野良犬の80%は「人間が指さしたボウル」を選びました。こちらは、実験の結果として有意なものとなりました。
この結果からは、犬が訓練を受けずとも、生まれながらにして人間のジェスチャーを理解する能力を持つ可能性が示唆されます。ただし、内気な犬や不安傾向の高い犬は実験ができなかったため、個々の犬の性格が人間の合図を理解する能力にどのような影響を与えるかなど、今後の研究で新たな発見が期待されます。
犬はウソつきを見破れる!?
ウィーン大学の研究チームが発表した論文により、犬は単に人間の指示に従うだけでなく、「人のウソを見破って指示を無視する」ことが明らかになりました。この研究では、260頭の犬に対して、「人間が誤った指示を出している、またはウソをついている」状況下で、犬がどのように行動するのかを調査しました。
実験内容
AとBの2つのバケツを用意し、「エサを隠す人(ハイダー)」がエサをバケツに入れたり、他のバケツに移し替えたりする様子を、犬が目撃できるようにします。「エサの場所を指示する人(コミュニケーター)」は、犬にエサが入ったバケツを教え、中のエサを取るよう指示することを繰り返し、あらかじめ犬がコミュニケーターを信頼できるような工夫を行います。
(参照:https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.0906)
- グループ1(誤った指示をするコミュニケーター)
ハイダーがAのバケツにエサを入れ、コミュニケーターが不在にしている間にBのバケツにエサを移す。その後、部屋に戻ったコミュニケーターは「Aのバケツにエサがある」と誤った指示を出す。 -
グループ2(ウソをついているコミュニケーター)
ハイダーがエサをAのバケツからBのバケツへ移し替える様子を、コミュニケーターが犬と一緒に目撃した後、犬に対して「Aのバケツにエサがある」とウソの指示を出す。
実験結果
過去には同様の実験が5歳未満の子供やニホンザル、チンパンジーを対象に行われていました。その結果、グループ1の「誤った指示をする人」を無視する傾向が観察された一方で、グループ2のような「ウソをついている人」には従う傾向が見られました。
同研究チームは、犬を対象にした実験においても、同様の行動が観察されると予想していました。
しかし、実際の実験結果では、犬がグループ2のような「ウソをついている人」を信頼する割合は、グループ1の「誤った指示をする人」を信頼する割合よりも低いことが明らかになりました。
グループ1の「誤った指示をする人」の場合、約半数の犬が指示に従わなかった一方、グループ2の「ウソをついている人」の場合は、その割合が約3分の2とより高くなりました。
グループ1の実験において、約半数の犬が誤った指示に従った理由については、犬が人間の指示を無視するのが困難な点も影響しているのではないかと指摘されています。
これにより、犬は人間を注意深く観察しており、正式なトレーニングの場以外でも常に人間から学んでいる可能性があると考えられます。
まとめ
今回ご紹介した実験から、犬は生まれながらにして人間とコミュニケーションを取る能力を持ち、ウソですら見破る可能性があることがわかりました。
このような犬の能力に関する研究の進展により、私たちは犬の本質をより深く理解し、愛犬との関わり方をより良くできると期待しています。
犬にも利き足はある?性格診断やトレーニングに有効な可能性も
皆さんの「利き手」は左右のどちらでしょうか。ほとんどの人間には利き手があり、世界の約90%は右利き、約10%は左利きだとされています。
動物の「利き手(足)」については、近年まで利き手があるのは人間だけだと考えられていましたが、最新の研究で多くの哺乳類に利き手(足)があると判明しています。
それでは、犬の場合はどうなのでしょうか。今回は犬の「利き足」について解説していきます。
犬の利き足の実験
犬の「利き足」については、イギリス・リンカーン大学の研究チームが1万7901頭の犬を対象にした実験で明らかにしています。
その実験では、犬の前足が入る程度の幅の容器を使い、その中にエサを置きます。犬は前足を使って容器の中のエサを取ろうとしますが、その中で「1.ほとんど右の前足を使う(右利き)」、「2.ほとんど左の前足を使う(左利き)」、「3.どちらを使ったのか判別が難しい(両利き)」の3つのどれに当てはまるのかを調査しました。
その結果、全体の74%の犬が左右どちらかの利き足を持っていることが判明し、そのうち右利きは58.3%、左利きは41.7%でした。やや右利きが多いものの、人間ほどの大きな差は出ませんでした。
なぜ右利きのほうが多いのかという点については、「エサを食べるなどの日常的な動作の指示は左脳が担当する。脊椎動物は左脳が右半身を制御するため、右前足を使っていると考えられる。」としています。
利き足には性差がある!?
犬の利き足には性差があることもわかっています。先述した研究チームの調査では、次のような結果になりました。
性別 | 右利き | 左利き |
---|---|---|
オス | 56.1% | 43.9% |
メス | 60.7% | 39.3% |
全体 | 58.3% | 41.7% |
性差による違いは猫も同様で、オスの方が左利きは多いとされています。人間でも同じで日本人の場合、左利きは男性が3.6%、女性は2.7%で、男性の方が多い結果となっています。
オスの方が左利きの割合が多い理由については定かではありませんが、性ホルモンが利き手に影響を与えている可能性があると考えられています。
利き足と性格は関係する!?
英クイーンズ大学ベルファスト校准教授のデボラ・ウェルズ氏の論文では、利き足と性格に関連があるとしています。例としては次のような特徴があげられます。
- 両利きの犬は左右どちらかが利き足の犬より攻撃性が高い傾向にある
- 利き足がはっきりしない犬は、録音された雷や花火の音に強く反応する
- 左利きの犬は右利きよりも状況によりストレスを示しやすい
また、犬も人間と同じで右半身をつかさどる「左脳」はポジティブな感情を担っており、左半身をつかさどる「右脳」は恐怖や不安などのネガティブな感情に関係しています。そのため、何か課題をこなす時に左足を使う犬は、右足を使う犬よりネガティブな感情を抱いている可能性があります。
ただ、犬の性格を利き足だけで判断するのは難しいのだそうです。他の性格テストやしっぽの振り方など併せて考えることで、その犬への理解が深まるとウェルズ氏は語っています。
利き足は空間認識にも影響する!?
イタリア・バリ大学獣医学部の研究チームにより、空間処理の優位性と利き足との関係が明らかになりました。
15×8=120区画の仕切りがある特殊な容器におやつを入れ、中央から右側と左側のどちらが優先的に選ばれるかを調べました。
(参照:Relationship between visuospatial attention and paw preference in dogs | Scientific Reports)
空間処理の優位性は、中央より右側のおやつをたくさん食べたときは「右の視野が優先」、逆に中央より左側のおやつをたくさん食べたときは「左の視野が優先」と定義しています。
その結果、次のような事実が判明しました。
- 「右利き」の犬は右の視野を優先的に処理する
- 「左利き」の犬は左の視野を優先的に処理する
- 両利きの犬は視野の処理に優先順位がない
この研究結果は犬のトレーニングにも応用できる可能性があります。例えば、指で犬に指示を出す「ハンドシグナル」を出す時、その犬が見やすい位置に出すことで上手くトレーニングができるかもしれません。また、犬を飼い主の横に歩かせる「ヒール(ツケ)」を教える際も、右側にするか左側にするかの判断材料になるでしょう。
犬の利き足を調べる方法
最初にご紹介した実験では、犬の前足が入る程度の幅の容器にエサを入れ、取り出す様子から犬の利き足を調べていましたが、その他の犬の利き足の調べ方をご紹介します。一つの方法での判別は難しいので、複数を試して判断します。
「お手」で調べる
一番簡単なやり方は「お手」をさせて頻繁に差し出す足がどちらなのかチェックする方法です。「お手」のような反復練習で覚える動作の場合、犬が差し出す足は「利き足」であることが多いと言われています。
「コングテスト」で調べる
有名な犬用玩具の「コング」におやつを詰め、コングが動かないように固定するのに利用した足を利き足として調べる方法です。有名なテストですが、両足で押さえてしまうことも多いようです。
最初に踏み出す足を観察する
人間と同じ様に、犬も利き足から歩き出す傾向があります。「マテ」をさせておき「オイデ」と呼んだ時に、どちらの足を先に動かすかを見ると判断しやすくなるでしょう。動画で撮影するとよりわかりやすくなります。
まとめ
今回は犬の利き足についてご紹介しました。ご自身の愛犬の利き足がどちらなのか、気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、犬の利き足は人間の利き手ほど判りやすいものではありません。いろいろなテストをしたり、様々な場面を観察したりしていると、だんだんわかってくる場合が多くあります。
地道な方法ではありますが、観察を続けることで愛犬の新たな一面が発見できるかもしれませんので、試してみてはいかがでしょうか。
飼い犬と顔や性格が似る理由!実は科学的に証明されていた!?
犬を飼っている方は、飼い犬と顔や性格が似ていると言われたことがあるかもしれません。
あるいは、「あの犬、飼い主とよく似ているな」と思ったことが一度はあるのではないでしょうか。
「飼い主とペットが似る」とはよく聞きますが、実はこの現象、実験によって科学的にも裏付けられているのです。
今回は、飼い犬と飼い主が似るプロセスについて、実験結果とともにご紹介していきます。
飼い主と顔が似るって本当?
犬と人間では顔の作りが違いますから、そっくりというわけにはいきませんが、「どこか顔の雰囲気が似ている気がする」「目のあたりがなんとなく似ている」と感じたことがあるかもしれません。
似ているような雰囲気を受けるペットと飼い主の顔ですが、果たして本当に似ているのでしょうか。
心理学者が行った実験
関西学院大学の心理学者、中島定彦氏が2009年に行った実験は、「飼い主と犬の画像をバラバラに配置し、全くの他人が正しいペアを作ることができるのか?」というものでした。
実験では、飼い主や飼い犬の目元、口を隠した画像を用いて、500名以上の参加者にペアを作ってもらい、顔のどのパーツが特に似ているのかを実験しました。
実験の結果
実験の結果、何も加工をしていない画像でペアを作ったケースでは、最高で80%の精度で正しいペアを作ることができました。
また、目元を隠した画像を用いた場合では正答率は50%程度まで低下しましたが、目元だけを写した画像では約75%の正答率を示したそうです。
このことから、飼い主と犬の顔が似ていることは事実であり、特にその目元に共通の特徴が存在しているとの結論が出されました。
「顔が似てくる」わけではない…?
飼い主と飼い犬は顔が似ているという結論が出ましたが、中島氏はこれを、「単純接触効果」によるものだと推測しました。
単純接触効果とは、ある刺激(図形や味、においなど)に触れれば触れるほど、それを好きになっていく現象のことです。
つまり、飼っているうちに愛犬が飼い主に似てくるのではなくて、人が犬を選ぶ際に、見慣れた自分の顔に似た犬を無意識のうちに選んでいるのではないかと考えたのです。
中島氏のブログサイト
https://sadahikonakajima.cocolog-nifty.com/nakajima/2013/10/test-1.html
飼い主と性格が似るって本当?
顔や表情の他にも、性格が似る場合もあります。
人間と同じように、千差万別な犬の性格ですが、飼い主と飼い犬の性格も、顔と同じように似るという結果がある調査を通して出されたのです。
性格の形成に関わる要素は?
犬の性格形成には、人間と同じように様々な要素が関わっているとされています。
- 生まれ持った性格
- 幼少期の環境
- 成長する過程での経験
- 犬種ごとの性格的特徴
社会心理学者の調査
米ミシガン州立大学の社会心理学者、ウィリアム・J・チョピク氏はこの中でも、「生まれ持った性格」と、「成長する過程での経験」に着目して調査を行いました。
チョピク氏の調査は、1681匹の犬の飼い主たちに、飼い主自身の性格と飼い犬の性格についてアンケートをとり、「飼い主と飼い犬の性格にどのような特徴があるのか」を調べるものでした。
調査結果
調査の結果、飼い主と飼い犬の間には、性格の類似点が存在していることが判明しました。
例えば、外向的で活発な飼い主の犬は元気で活動的、内向的でインドア派な飼い主の犬は臆病で人見知りしやすいなどの傾向がありました。
この他にも、真面目で誠実と自分を評した飼い主の飼う犬は言うことをよく聞く、人当たりがいい飼い主は社交的な犬を飼っているなどの例があり、両者は性格が似ていることが多いとの結論が出されました。
なぜ性格が似るの?
飼い主と飼い犬の性格が似る理由について、チョピク氏は2つの仮説を提唱しています。
1. 性格が合うペットを選んでいるため
飼い主と飼い犬の顔が似ている場合と同じく、飼い主が自身の性格に似ている犬を選んでいるという仮説です。
例えば、静かで落ち着いている犬を好む人もいれば、活発でアクティブな犬を飼いたいと思う飼い主もいます。
このように、飼い主は無意識のうちに自身が好む性格の犬を選択していると考えられます。
2. 生活していく中で似てくる
飼い犬は基本的に、飼い主の生活リズムに適応して生きています。
そのため、飼い主と一緒に生活していく中で、飼い犬の性格は飼い主によく似たものへと変化していくと考えられます
例えば、社交性が高く、頻繁に犬仲間に会いに行く飼い主だと、犬もその経験により社交性が高くなっている可能性があります。
参考論文
William J.Chopik(2019)”Old dog, new tricks: Age differences in dog personality traits, associations with human personality traits, and links to important outcomes”
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092656618301661
生活習慣や仕草も似る?
飼い主と飼い犬の間で似ている点としては、顔や性格だけでなく、生活習慣、仕草などが挙げられるとされています。
群れで生活する犬は、本能的にリーダーの行動を真似する事があると言われています。
つまり、家族として生活する中で、リーダーである飼い主を行動の真似をしたがるのです。
そのため、同じ生活リズム、同じ環境で過ごしているため、習慣や仕草も飼い主と似る傾向があるとされています。
まとめ
今回は、飼い主と飼い犬の顔や表情、性格が似る理由についてご紹介しました。
飼い主と飼い犬が似るという話はよく聞きますが、実際に実験や調査によって裏付けられているとは驚きですね。
飼い主にとって、愛犬は最高のパートナーであることに間違いありません。
家族として長い時間を過ごしている以上、似ているのも当たり前のことかもしれませんね。
【雑学】意外と面白い!ペットに関わるノーベル賞・イグノーベル賞
突然ですが、犬の寿命を10年伸ばしたと言われるのはどこの国の研究者か知っていますか?正解は、ノーベル賞も受賞した日本の研究者なのです。
ノーベル賞がすごい賞だということは知っているけど、難しそうだし自分には関係ないと敬遠しがちな方も多いのではないでしょうか。
今回はそんな方にも興味を持っていただけるよう、ペットに関わる研究を厳選してご紹介します!今では当たり前のようなことでも、偉大な研究者の努力により救われた命もたくさんありました。
ノーベル賞
ノーベル賞はアルフレッド・ノーベルの遺言により1901年から始まった賞で、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学の6部門で顕著な功績を残した人物に贈られます。
毎年10月に受賞者が決定し、ノーベルの命日である12月10日に授賞式が行われます。受賞者には、賞金約1億円、賞状、メダルが贈られます。
ノーベル賞①「パブロフの犬」で古典的条件づけを提唱
1904年 ノーベル医学生理学賞 イワン・パブロフ
ソ連の生理学者イワン・パブロフは犬の唾液腺の研究をしており、飼育員の足音で犬が唾液を分泌していることを発見し、条件反射の研究を始めました。
餌を見だだけで唾液を出す犬に、ブザー音を聞かせてから餌を与えるようにすると、犬はブザーの音を聞いただけでも唾液を分泌するようになりました。
「パブロフの犬」という言葉を聞いたことはありますか?これは古典的条件付けと呼ばれる”学習”のひとつです。もともと動物には「反射」という無意識に特定の刺激に対して反応する性質を持ちます。パブロフはこの反射を訓練して身につけることができることを発見したのです。
ノーベル賞②刷り込みを研究し、動物行動学の基礎を築いた
1973年 ノーベル医学生理学賞 コンラート・ローレンツ
オーストリアの動物行動学者のコンラート・ローレンツは鳥類の「刷り込み」を研究しました。
「刷り込み」といえばアヒルやヒヨコなどの鳥類を想像するかもしれませんが、犬や猫でも起こると主張する科学者もいます。生後13週齢頃までは「社会化期」と呼ばれ、この時期は子犬の健全な成長にとって非常に重要な期間とされています。この期間に刷り込みが起こり、さまざまな学習をしていることも考えられます。
ちなみに、ローレンツはハイイロガンという鳥のヒナに母親と間違えられた経験があり、彼を親だと思い込んだヒナはその後も追い続け、一緒に寝たり、庭で散歩したり、池に入って泳ぎを覚えたりしたそうです。
同年に受賞した2人の動物行動学者
ローレンツと同じ年に受賞したカール・フォン・フリッシュはミツバチの8の字ダンスの意味を解読、ニコ・ティンバーゲンはイトヨという魚の縄張り行動の研究と、動物行動学に大きな功績を残しました。
ノーベル賞③犬の寿命を10年伸ばした日本人研究者
2015年 ノーベル医学生理学賞 大村智
大村智教授が1979年に発見した「イベルメクチン」が、犬の寿命を伸ばすのに大きく貢献しています。
イベルメクチンなんて聞いたことがないという方がほとんどだと思いますが、「フィラリアの薬」と聞けば犬の飼い主さんはピンとくるでしょう。
1980年の犬の平均寿命は3歳程度で、死亡原因の上位をフィラリア症が占めていました。しかし、フィラリア予防薬の定期的な投与によりフィラリア症で亡くなる犬が激減し、最近では13歳〜14歳と犬の寿命がおよそ10年伸びています。
また、フィラリアによく似たヒトの疾患にも効果があり、多くのヒトと動物の命を救ってきました。さらに、現在は新型コロナウイルスの治療薬候補として治験が実施されています。
イグノーベル賞
イグノーベル賞は1991年にアメリカの雑誌編集長マーク・エイブラハムズにより創設された、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して贈られる賞です。なんと、2020年現在、日本人が14年連続で受賞しています。
ノーベル賞では扱わないような分野にも着目し、興味深いが脚光が当たらない研究業績を広め賞賛することを目的としています。また、時には皮肉を込めて贈られることもあります。
なお、ノーベル賞とは異なり賞金はなく(もしくはほぼ価値のない賞金)、賞状もモノクロインクで印刷された白いコピー用紙に審査員のサインが書かれたものが渡されます。
イグノーベル賞①犬の翻訳機「バウリンガル」の発明
2002年 イグノーベル平和賞 佐藤慶太ら
タカラ(現・タカラトミー)から販売され大ヒットした「バウリンガル」は、犬の鳴き声をリアルタイムに6つの感情(自己表現、楽しい、悲しい、要求、威嚇、フラストレーション)で分析する犬とのコミュニケーションツールです。名前くらいは聞いたことのある人も多いのではないでしょうか?
「動物と会話できたらいいな」という社長の夢から始まった企画で、愛犬家向けのコミュニケーションツールとして約200通りの「面白い犬語」にまとめられています。
イグノーベル賞②犬が用を足す時は南北方向に体を向ける?
2014年 イグノーベル生物学賞 ヴラスティミル・ハルトら
愛犬がトイレをする前に、その場でぐるぐる回転するのを見たことはありますか?ウシやシカなどの哺乳類には磁気を感じる能力が備わっており、この犬の行動が磁場と関係しているのではないかと考えた研究者がいました。
2年間で犬種37種70匹のうんち1893回分とおしっこ5582回分のデータを集めた結果、磁場が強いほど犬は南北の軸に体を沿わせて用を足す傾向が強くなることがわかりました。また、磁場の強弱に関係なく東西に体を向けて用を足すのを明らかに避ける様子も見られました。
なお、今回の調査では、犬が用を足すときに南北に向けるということははっきり分かりましたが、犬が意図的にやっているのか、無意識なのかは分からないそうです。いずれにせよ、愛犬が用を足す時に、少し意識してみると面白いかもしれませんね。
イグノーベル賞③猫は固体かつ液体の両方になれるのか?
2017年 物理学賞 マーク・アントワン・ファルダン
ファルダンは『猫の流動学について』という論文の中で、液体とは「体積は一定であるものの形は容器に合わせて変化するもの」と定義したならば、グラスや瓶に入り込んだり、箱の形状に合わせて広がったりできる猫は液体の特性を持っていると主張しました。そして物理学的に分析した結果、子猫より老猫の方が流動性が高いことが判明しました。
確かにSNSなどでは意外な場所にハマっている猫の写真を見かけることがありますが、あれは液化した猫の姿だったのでしょうか…?
番外編:絵本界のノーベル賞を受賞した『僕は犬や』
“絵本界のノーベル賞”と言われる「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」。『長くつ下のピッピ』などの童話で知られるスウェーデンを代表する作家の名が冠されており、児童文学や青少年向けの文学作品に授与される賞です。
2020年に受賞したのがペク・ヒナさんの『ぼくは犬や』という絵本。前作の『あめだま』に登場する「グズリ」という名の犬の視点で、人間家族との生活や絆を描いた、心温まるストーリーです。
翻訳を担当した長谷川義史さんが、グズリの気持ちが大阪弁で表現しています。犬を飼っている人にとっては思わずクスッと笑ってしまうこと間違いなしです!
まとめ
毎年発表されるノーベル賞やイグノーベル賞。あまりなじみのない人には少し難しい話題かもしれませんが、ペットに関する研究だけを取り上げてみると意外と興味深いものも多かったのではないでしょうか。
特に大村智教授が発見したイベルメクチンにより、多くの犬やヒトの命を救われたばかりか、今なお世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの治療薬となる可能性もあり、日本人として誇らしく感じます。
多くの人にとってノーベル賞やイグノーベル賞は他人ごとと思うかもしれません。しかし、これらの研究は意外にも身近な物事に関連することばかりなのです。せっかくの機会に、少し興味を持って調べてみると新たな発見があるかもしれませんね。
【最新研究】犬の飼育経験が思春期の子どもの幸福度を向上させる
「子どもが生まれたら犬を飼いなさい」という言葉を聞いたことはありますか?
犬には人間の心を癒す力があると考えられており、セラピー犬として活躍している犬もたくさんいます。しかし、実際に犬の飼育経験が思春期の児童に対してどのような影響を与えるのかは分かっていませんでした。
今回、東京大学などが実施したプロジェクトと麻布大学との共同研究により、犬を飼うことで思春期の児童の幸福度が向上することが分かりました。子どもが生まれたら犬を飼うのは理に適っていたということでしょう。
この記事では、今回報告された研究について詳しく解説していきます。
研究概要
これまでの研究では、犬と見つめ合うことでオキシトシンが分泌され、ヒトの心身に良い影響を与えることが分かっています。
オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれており、スキンシップなどで幸せを感じたときに分泌されるホルモンです。ストレスの解消や痛みの緩和、ダイエットや美肌など、さまざまな効果が知られています。
しかし、犬の飼育がヒトの健康、特に思春期の子どもたちに対してどのような効果があるかは明らかになっていませんでした。
今回は東京大学・総合研究大学院大学・東京都医学総合研究所の3つの機関が連携して行う研究プロジェクト、「青春期の健康・ 発達コホート研究(TokyoTeen Cohort project,TTC)」に参加している思春期の子どもを対象にアンケートを実施し、10歳と12歳のときの幸福度を調査しました。
調査対象
TTCに参加している3自治体(調布、三鷹、世田谷)在住の10歳の子どもを持つ家庭を無作為に抽出し、3171世帯を調査対象としました。そして2年後の12歳の時点で再びアンケートを実施し、最終的に2584名の子どもを対象に、10歳と12歳の時の幸福度を比較し分析しました。
それぞれの対象者に、家にペットがいるかをたずね、以下の3グループに分類します。
- 犬も猫も飼育していない
- 犬を飼育している
- 猫を飼育している
なお、犬も猫も両方飼育している家庭は、統計的に正しいデータを取れるほど多くなかったため、除外されています(n=9)。
WHOが定義する「健康」とは
今回の研究では、WHO(世界保健機関)が定義しているWell-being(ウェルビーイング)というスコアで幸福度を評価しています。
WHOはWell-beingについて、「健康とは、身体面、精神面、社会面における、すべての well-being(良好性)の状況を指し、単に病気・病弱でない事とは意味しない」とし、身体だけでなく、精神面や社会面も含めた健康を意味しています。
今回のアンケートでは、最近2週間のうち、「明るく、楽しい気分で過ごした」「落ち着いた、リラックスした気分で過ごした」などの項目を6段階で評価しています。
結果
このグラフに描画されている線は、それぞれ以下の結果を示しています。そして、10歳と12歳のときの幸福度を数値化しています。
- 青→犬も猫も飼育していない
- 緑→犬を飼育している
- 赤→猫を飼育している
結果、犬と猫の飼育経験は、思春期の子どもに対し、それぞれ異なった影響を与えることが分かりました。
犬を飼育している家庭
犬も猫も飼育していない家庭と犬を飼育している家庭を比べたところ、犬を飼育している家庭では幸福度がほとんど低下しないという結果が出ました。
一般的にヒトの幸福度は思春期から35歳くらいまでは徐々に低下していく傾向があるため、犬の飼育は思春期の子供の幸福度に好影響を与えていることが分かります。
猫を飼育している家庭
一方で、犬も猫も飼育していない家庭と、猫を飼育している家庭を比較したところ、幸福度の低下が見られました。
犬を飼育している場合は散歩により身体活動時間が7〜8%増加することから、子どもの肥満防止の効果が幸福度にもつながっていると考えられるのに対し、猫を飼っていても基本的には外へ散歩に行くことはありません。これにより、子どもの身体活動時間に差が出てきます。
また、妊婦にも影響を与えるトキソプラズマは猫に寄生することが多いということも、幸福度を低下させた要因と考えられています。
トキソプラズマが人間に与える影響
トキソプラズマは人間にも感染する感染症です。人間に感染したとしても、妊婦が感染しなければ、風邪のような症状が出る程度とされています。しかし、一部の研究では、感染者は統合失調症を発症しやすくなると指摘されていたり、交通事故に遭う確率が2倍以上高まるとも言われています。
なお、今回の結果からは、あくまで「犬の飼育経験がある家庭と比べると幸福度が低下する」ということが分かっただけで、決して「猫を飼育すると不幸になる」というわけではありませんので注意しましょう。
さらに、猫は犬に比べて研究が進んでいないのも事実です。今後は、猫の飼育がヒトにどのような影響が与えるか調査が進んでいくでしょう。
犬の存在
今回の研究結果から、犬の飼育経験が心身の健康をもたらすことが分かりました。
これにより、思春期の子どもに見られる、不登校やいじめ、拒食症などの問題に対して、犬が介在することで何かしら良い影響をもたらす可能性も見いだされました。
今後は、具体的に犬の飼育のどのような経験が人間の心身に影響を与えるのか、明らかにされていくことでしょう。
よい影響を与え合える関係性に
私たちは愛するペットに、精神的な健康や日々の生活の中の楽しさなど、たくさんのことを与えてもらっています。
私たち人間がペットの世話をしていると思っているかもしれませんが、実は私たちの方がペットに精神的なお世話をしてもらっているのかもしれません。
そんなペットに対し、私たち人間は何を与えられているでしょうか?この機会にそんなことを考えてみるのも良いかもしれません。お互いがお互いに良い影響を与えつつ、素敵な関係性を築いていきたいですね。
尻尾(しっぽ)を振るのは嬉しい時とは限らない?最新研究に見る犬の気持ち
犬が尻尾(しっぽ)を振っている時、あなたなら、どう思うでしょうか?
きっと、ほとんどの人は「犬は嬉しいんだ!自分が来て喜んでいるんだ!」と思うでしょう。でも、尻尾をフリフリしながら、同時に唸り声をあげることもあります。そんな時、「どうしたんだろう?」と思って、不用意に近づいては危険です。場合によっては咬まれてしまうこともあります。
今回は、尻尾を振る時の犬の感情について、最新研究の結果も踏まえながら見ていきたいと思います。
尻尾を振る時の感情って?
ずばり、犬が尻尾を振る時は、興奮しているときです。興奮と一言に言っても、喜びの感情を表していることもあれば、怒りや警戒の感情を表していることもあります。これは真逆の感情ですが、人間から見ると同じようなボディランゲージであっても、微妙な動きの違いで感情を表しているので、私たちにはとてもわかりにくいのです。
- 犬が尻尾を振るのは興奮している時
- 喜びも警戒も尻尾を振って表現する
尻尾の振り幅でもわかる
犬が尻尾を振る時、ユラユラとゆっくり降っている時と、尻尾がどこかに飛んでいってしまいそうな勢いでブンブンと振り回している時があります。この尻尾の振り幅やその速度からも、犬の感情を読み取ることができます。
ゆっくり振る時
尻尾をユラユラとゆったり振る様子は、リラックスしている時に多く見られます。犬の名前を呼ぶと、ユラユラと尻尾を振りながら近づいてくることはないでしょうか?こんな時は、「なに?どうしたの?」という感じで近づいてきているのでしょう。
また、逆に警戒している時にも尻尾をゆっくり振ります。じっと相手の様子を伺っていると言えます。そのような時は、何かあったときに、すぐに身動きが取れるように、身体の重心を落としていることがあります。このような時は、不用意に近づいていったり、物を取り上げたり、そういう行動は控えたほうが良いでしょう。
大きく振り回している時
大きく尻尾を振り回しているのは、興奮がMAXになっていて、とてもテンションが上がっている時に見られます。例えば、ずっと留守番をしていたところに、飼い主であるあなたが帰ってくると、はち切れんばかりに尻尾を振り回して、こちらへやってくるのではないでしょうか?もう、嬉しくて仕方がない様子です。
尻尾の振り幅で犬の興奮状態がわかるということは、大きく振り回している時は、悪い意味での興奮がMAXに達して攻撃行動へ移ろうとしている場合も同じです。
尻尾の動きだけでは見分けられない
このように、犬の尻尾を見ることで、興奮状態がどの程度なのかを見分けることはできますが、それだけでは嬉しくて興奮しているのか、怒りや警戒で興奮しているのかを見分けることはとても難しいのです。
- 尻尾の振り幅でテンションの度合いがわかる
- 嬉しい時も警戒している時もその度合いがわかる
尻尾振る方向で感情がわかる?
イタリアの獣医師と研究者から成る研究チームは、2007年に犬は嬉しいときには尻尾を右方向によく振り、緊張しているときには左方向に尻尾を振るという研究結果を発表しました。
また、同じ研究チームが、2014年に他の犬の尻尾の振りの向きを認識し、犬はそれに反応するという研究結果も発表しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982207009499
(2007 A.Quaranta M.Siniscalchi G.Vallortigara)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982213011433
(2013 M.Siniscalchi R.Lusito G.Vallortigara A.Quaranta)
どういうことか?
この実験は「飼い主」、「他人」、「猫」、「他の犬」の4パターンを見せて行われました。また、その時の犬の感情を知るために、心拍数を計測して行われており、それを見て警戒したり怯えたりする状態にあるのか、またはリラックスした状態にあるのかを判断する材料としています。
この実験の結果、飼い主の時は右に尻尾を振ることが多く心拍数は安定。逆に、他の犬を見せた場合は左に尻尾を振ることが多く、心拍数は高くなったそうです。つまり、右に尻尾を振っている時はリラックス状態であり、左に尻尾を振っている時は鼓動が早く、警戒しているということになります。
どうして?
犬が嬉しいと感じている時は、脳の左側が活性化して、右側に尻尾を振り、不安やストレスを感じたときは脳の右側が活性化し、左側に尻尾を振るそうです。これにより、脳の活性化領域と行動に関連性があるのではないかと研究チームは考えているようです。
最新研究まとめ
犬同士のコミュニケーションは、ボディランゲージで行われていると昔から言われてきました。この研究結果は、この昔からの言い伝えを証明するもので、尻尾の動きも犬同士が会話する手段として利用されていることがわかります。
確かに、唸り声も他の犬に伝播することが知られています。犬が威嚇する唸り声を録音し、それを他の犬に聞かせると怯えたりするのです。尻尾の動きもこれと同様で、犬同士は様々な手段を使って、犬同士のコミュニケーションを成立させているのですね。
とは言え、テンションMAXの状態では、犬は尻尾をブンブンと360度振り回したりするため、それが右に振られているのか左に振られているのか人間が見分けるのは難しい気もします(笑)
- 右に尻尾を振る時は嬉しい時
- 左に尻尾を振る時は悪い意味で興奮している時
- 尻尾の動きは、犬同士がコミュニケーションを取る手段に使われている
目や口元の動きも合わせて観察
最近の研究により、尻尾の動きだけでも、ある程度は犬がどのような感情にあるのかを理解できるようになりました。しかし、相当な数の犬を見て、そして実際に触れ合わないと、これだけの情報から、犬の感情を自然と読み取ることができるようになるのは難しいのではないでしょうか。
そこで、オススメの方法は、目や口元の動きも合わせて観察する方法です。
別の記事で詳細をお伝えしたいと思いますが、犬は、嫌なことから逃げようとしている時や周囲の状況を警戒している時は、「白目」の部分を見せてきます。また、犬の口元の動きから、警戒していることを読み取ることもできます。警戒心がMAXの状態では、歯を見せて、「うー」と唸ります。
このように、尻尾の動きをつぶさに観察し、そして他の表情も合わせて読み取ることで、犬の気持ちを理解することは可能なのです。