【獣医師監修】イタリアン・グレーハウンドの好発疾患と予防
イタリアン・グレーハウンドはシルバーの短毛がきれいな小型犬種です。
小顔で手足も細く、守ってあげたくなるような魅力があります。
そんなイタリアン・グレーハウンドですが、身体の構造や体質によっていくつか、かかりやすい病気が存在します。
今回の記事では、イタリアン・グレーハウンドの好発疾患と、それを踏まえた理想的な飼育環境について獣医師が詳しく解説します。
イタリアン・グレーハウンドの基本情報
歴史
イタリアン・グレーハウンドの祖先は、古代エジプトのファラオの宮廷で飼われていた小型のグレーハウンドだと考えられています。
その後、ギリシャを渡ったグレーハウンドは、紀元前5世紀頃にイタリアにたどり着いたと言われています。
ルネッサンス時代には、貴族の宮廷内で人気が高まったイタリアン・グレーハウンドは、イタリア国内外の絵画にも多く描かれました。
身体的特徴
小型犬に分類され、標準サイズは体高約32~38cm、体重は3〜5kgとされています。
手足が細く、首を伸ばして頭を上げて歩くその姿は、まるで小鹿が跳ねているように見えます。耳の横に垂れる形が標準とされますが、立ち耳の子もいるようです。
被毛は短毛です。毛色は、レッド、グレー、クリーム、ホワイト、ブラックなど様々で、白のマーキングが入ります。
性格
イタリアン・グレーハウンドは、穏やかで優しい性格ですが、繊細でストレスをためやすい面があります。嫌なことをされると、攻撃をせずに、距離を置くような行動をとります。
スタミナがあり、運動が好きですが、日本の厳しい暑さや寒さには弱いので注意が必要です。
イタリアン・グレーハウンドの好発疾患
イタリアン・グレーハウンドは細い手足ゆえの骨折や、皮膚の疾患が多い犬種です。
どんな病気にかかりやすいか、その病気がどんな症状を呈するのかを理解することで、迅速な対応ができるようになるかもしれません。
全てのイタリアングレーハウンドが以下のような病気になるわけではありませんが、わずかな徴候も見逃さないようにしましょう。
骨折
【症状】
患肢の痛みや腫れ、挙上(足が地面に着けない)
【原因】
外からの強い衝撃、ドアに挟まれる、高い所からの落下、自転車や自動車との事故など。
【備考】
骨折は病気ではなくケガであり、予防が可能。ケガをさせないような環境整備や、事故には十分注意すべき。
カラーダイリューション脱毛
【症状】
脱毛、丘疹、落屑など。
【原因】
遺伝性で、4〜18カ月齢で好発する。毛におけるメラニンの分布が不均等になることで被毛が弱くなり、ちぎれてしまう。
物理的刺激の多い部位に発生しやすい。
【備考】
痒みはないため、日常生活に支障は全くない。一方で、遺伝性疾患なので、発症犬は繁殖させるべきではない。
アトピー性皮膚炎
【症状】
強い痒み、外耳炎、脱毛、皮膚の色素沈着(皮膚が黒っぽくなる)など。
【原因】
機序は完全には解明されていないが、環境抗原(ハウスダスト、花粉、カビ)に対するアレルギー反応の獲得、およびそれに対する過剰な反応が皮膚に起こることによると考えられている。
【備考】
ヒトと異なるのは、犬の場合加齢とともに症状が悪化することである。早期に適切な治療を行うことが重要である。
アレルギー性皮膚炎
【症状】
痒みを伴う炎症性皮膚炎、外耳炎、皮疹、脱毛など。
【原因】
食餌に含まれるタンパクや、ノミに刺されたことによるアレルギー反応。
【備考】
食物アレルギーは眼および口の周囲、外耳道、四肢端、背部に、ノミアレルギーは尾根部、尾部、大腿部、鼠径部に認められることが多い。
膿皮症
【症状】
表皮小環(細菌感染部を中心に、同心円状にカサブタが広がる)、発赤、膿疱など。毛包炎の場合には痒みを伴う。
【原因】
表皮常在菌の感染による。通常はこれら細菌の感染は起こらないが、環境や栄養状態、その他の感染症、内分泌疾患、アレルギーなどに続発することが多い。
【備考】
広範囲に感染が起きている場合には抗菌薬が処方される。しかし、最近では耐性菌も多く、処方した抗菌薬が現在感染している細菌に有効かどうかをあらかじめ検査(感受性試験)することもある。
イタリアン・グレーハウンドに最適な飼育環境
では、イタリアン・グレーハウンドと一緒に生活していく上でどんなことに注意すればよいのでしょうか。
イタリアン・グレーハウンドという犬種に特徴的な性格や好発疾患に基づいて、最適な飼育環境を紹介していきます。
1. 段差には注意して
イタリアン・グレーハウンドは骨が細く、骨折をしやすい犬種です。
人間にとっては何でもないような小さな段差でも、勢いよく躓いたり、飛び降りたりすることでケガをする可能性があります。イスやソファなどには、飛び乗れないようにするか、犬用の階段をつけるなどの工夫が必要です。
2. 寒さ対策はしっかりと
被毛が短いイタリアングレーハウンドは、寒さに非常に弱いです。日本の冬は皆さんも寒いですよね。
室内では暖房などを使用する、散歩では服を着せてあげるなど防寒対策をしっかりと行いましょう。
一方で、湿気がこもりすぎると皮膚病のリスクとなるため、適度な温度と湿度を調整してあげましょう。
3. 皮膚の状態は観察を
皮膚炎や脱毛など、皮膚の異常を見逃してはいけません。被毛が短いので、皮膚の状態は直接観察しやすいはずです。
ブラッシングなどの際に、次のようなチェックをしましょう。
- 皮膚に赤みがないか
- 痒みがないか
- フケが多くないか
- 脱毛がないか
皮膚病は直接命に関わることは少ないですが、痒みなどによるストレスは計り知れないものがあります。異常にいち早く気付き、適切な処置を受けさせてあげることが重要です。
4. しつけをしっかり
イタリアングレーハウンドは、元々は猟犬として活躍していた犬種です。
そのため、「マテ」などのしつけがしっかりとできていないと、動くものを突然追いかけてしまうことがあります。
思わぬ事故を防止するためにも、子犬の時からしっかりとしつけましょう。
まとめ
イタリアン・グレーハウンドは日本でもファンの多い犬種です。実際に動物病院でもよく見ます。
愛犬を大事にするためにも、病気のこともしっかりと理解し、病気の予防や早期発見ができるような飼育環境を整えてあげてください。
【獣医師監修】湿疹や脱毛など、猫の皮膚異常で考えられる9つの疾患
今回のテーマは、愛猫の毛が抜ける、皮膚が赤くなるなど、猫の皮膚に関する様々なトラブルについてです。
猫の皮膚トラブルは、一時的なものなら問題ありませんが、それが何日も続き、どんどん広がっていく場合は注意が必要です。皮膚の痒みや違和感は、猫にとっても大きなストレスになります。
猫の皮膚に何が起きているのかを、獣医師と一緒に詳しく勉強していきましょう。
そもそも皮膚異常とは
皮膚が赤くなっている、痒みがあるなど、皮膚全般の異常のことです。外観に異常が見られるため、一緒に生活していて見つけやすい異常でもあります。
猫で見られる皮膚異常の一例を紹介します。
- 紅斑:赤い斑で、皮膚に盛り上がりは見られない。毛細血管の充血によって起こる。
- 脱毛:猫は全身が毛で覆われているため、全身のどこでも起こり得る。
- フケ:表皮のターンオーバーの短縮、あるいは角質の剥脱阻害が考えられる。
- カサブタ:びらんや潰瘍の上に滲出物や扁平上皮が固まって形成される。
猫の皮膚異常で受診した際に聞かれること
猫の皮膚疾患は、受診時の皮膚の状態だけでは情報が不十分です。
次のような点を飼い主さんが事前に把握しておくと、診断がスムーズに進みます。
- 初発年齢:幼齢時に発生するもの、老齢で発生するものがある
- 季節性:夏場や冬場で症状に変化はあるか
- 初発部位:最初はどこから始まったのか
- 痒みの程度:強い痒みがあるか、本人が気にしている様子はあるか
- 投薬歴:過去の治療歴、投与した薬剤の反応性
- 経過:病変の拡大、いつ頃からかなど
猫の皮膚疾患で考えられる疾患9つ
皮膚疾患は命に関わることは少ないですが、痒みがあると非常にストレスです。
そのストレスによって別の病気にかかることもあるため、早めに原因を取り除き、楽にしてあげましょう。
①膿皮症(のうひしょう)
【症状】
・皮膚小環:カサブタを伴うやや隆起した発赤が、細菌感染部位から円形に広がる。背中に見られることが多い。
・深在性膿皮症:細菌感染が皮膚の深部に及んだ状態。赤く腫れ、痛みを伴う。【原因】
細菌が表皮や毛包に入って感染。皮膚にはバリア機能があるが、環境の悪化や栄養不良、他の感染症やアレルギーなどによってバリアが弱まると発症する。
②ノミアレルギー性皮膚炎
【症状】
痒みを伴う皮疹。【原因】
ノミに対するアレルギー反応。
ノミの寄生数には関係なく、一匹でもノミがいればノミアレルギー性皮膚炎を発症する可能性がある。【備考】
ノミアレルギーによって好酸球性肉芽腫などが悪化することもある。
③食物アレルギー
【症状】
痒み、脱毛、全身性粟粒(ぞくりゅう)性皮膚炎。
特に首から上(頭部、頸部、耳介)によく見られる。【原因】
食物抗原に対するアレルギー反応。
犬と異なり、猫では食物アレルギーがどのように起こるのか解明されていない。
④皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
【症状】
・脱毛(初期段階)。
・多量の鱗屑(りんせつ:皮が剥けてカサカサした状態)を伴う脱毛性紅斑。
・細菌の二次感染で痒みが見られることも。【原因】
皮膚糸状菌という真菌(カビの一種)による感染症。【備考】
皮膚糸状菌症はヒトにも感染することが知られており、猫はヒトへの重要な感染源として問題視されている。多頭飼育の場合は感染が蔓延する恐れがあり、早期に感染猫を隔離するのが大事。
落ちた皮膚や被毛が感染源となるため、環境の浄化も重要。
⑤舐性皮膚炎(しせいひふえん)
【症状】
脱毛、違和感。【原因】
ストレスや退屈などによって猫は自分の体を舐めるが、ザラザラの舌で舐め続けると皮膚が炎症を起こす。【備考】
元々そこに何らかの皮膚異常があったから舐めているのか、舐めた結果皮膚異常が生じているのかの判断は困難。
⑥肥満細胞腫
【症状】
悪性腫瘍が、特に頭部や頸部に発生することが多い。
小さい上に、本人が気にすることも少ないため、発見が遅れることも多い。【備考】
外科切除では広範囲の切除が望ましいとされているが、猫の肥満細胞腫では局所での攻撃性は低く、術後の予後は良好。
一方で、転移している場合の予後は悪いとされ、特に多発性(複数か所に病変が存在)の場合は要注意。
⑦扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)
【症状】
白い猫に発生しやすい癌で、好発部位は鼻、耳介、眼瞼、口唇。
病変部は潰瘍化して出血しやすく、顔面の変形も見られることがあるため非常に痛々しく見える。【備考】
転移速度は遅い。
⑧脂肪種
【症状】
脂肪細胞の増殖による良性腫瘍で、触るとプヨプヨしている。【備考】
単独で悪さをすることはあまりないが、発生部位と大きさによっては歩行や飲食に支障を来たすことも。
⑨表皮嚢胞(ひょうひのうほう)
【症状】
表皮にしこりができる。
表皮の角質・脂肪が皮膚内に溜まったもので、腫瘍ではない。【原因】
皮下に嚢胞(袋)ができ、そこに古くなった角質などが溜まることで腫瘤となる。【備考】
腫瘍ではないので転移することはない。
しかし、大きくなりすぎると自壊の恐れもあるため、手術によって切除する必要がある。
猫の皮膚異常は早めの受診を!
皮膚病変の診断や治療には時間がかかるものもあります。
細菌培養検査では2〜3日、アレルギー検査では1週間程、食物アレルギーの原因を調べるための除去食試験では数ヵ月かかることもあります。
痒みなどのストレスを早く取り除いてあげるためにも、早めに動物病院を受診しましょう。
まとめ
猫の皮膚異常の相談は意外と多いものです。皮膚疾患は原因がなかなか特定できないことも意外と多く、獣医師の頭をしばしば悩ませます。
愛猫の皮膚トラブルを見つけた場合は、気軽にご相談ください。一緒に愛猫の悩みを解決していきましょう。