【最新研究】注射一回で避妊が可能?猫飼いが気になる研究内容とは
一般的な猫の不妊手術は、全身麻酔のもと、外科的な処置が行われます。そのため、手術をしたほうが良いことは知っているけど、愛猫への負担を考えると手術はしない予定だという方も少なくないでしょう。
しかし、この度、全身麻酔や開腹手術を行わず、注射一回で避妊できる手法が開発されたとする研究が報告されました。
今回は、猫における不妊手術と、一回の注射で不妊効果が得られたことを示した研究内容についてご紹介します。
これまでの不妊手術
これまでは、外科的に生殖器官を摘出することで不妊手術が行われてきました。
開腹手術
全身麻酔をかけた状態で、メスならおへその下あたりを2cmほど開腹し、卵巣のみ、もしくは卵巣と子宮を摘出、オスなら陰嚢を切開して精巣を取り除きます。
手術自体は1~2時間程度で終わるものの、安全性の観点から、1泊か2泊程度の入院をすすめられることが多いです。
腹腔鏡を用いた手術
全身麻酔は使用しますが、開腹することなく、5mmほどの小さな傷が2,3個程度できるのみの手術です。痛みが少なく、場合によっては日帰りも可能です。
しかし、開腹する場合と比べて、手術時間が長くなる可能性や、費用が高くなる傾向があるため、獣医師と事前にしっかり打ち合わせすることが重要です。
手術しないとどうなるの?
一般的に、不妊手術は繁殖の希望がない限りは行った方が良いと言われています。では、不妊手術をしない場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。
意図せずに繁殖してしまう
猫は生後数ヶ月から1年程度で繁殖が可能になります。猫は交尾による刺激により排卵が起こる「交尾排卵動物」で、一度の交尾でほぼ確実に妊娠してしまうため、不妊手術をしないと意図せずに繁殖してしまうことがあります。
完全室内飼いをしている場合であっても、猫が脱走した際に交尾・妊娠してしまうことも考えられます。
生殖器系の病気になる確率が上がる
生殖器系の病気は不妊手術により予防または発生率を下げることができます。しかし、手術を行わなければ以下のような疾患のリスクは回避できません。
- 乳腺腫瘍
- 卵巣疾患
- 子宮疾患
- 精巣腫瘍
- 前立腺疾患
発情時にストレスが溜まる
猫は春から夏にかけて、年に2~3回ほど発情期を迎えます。その際に大きな声で鳴いたり、過度に興奮したりする状態が続きます。
発情期に交尾ができないことは、それ自体がストレスになる場合もあります。
不妊手術のリスク
不妊手術は、メリットもありますがデメリットもあります。手術をする場合は、デメリットもよく考え、獣医師と相談しながら進めていくことが大切です。
麻酔のリスク
現行の不妊手術は全身麻酔下で行われます。猫のうち、約0.1%の確率で麻酔事故が起こっているとされており、注射部の腫れだけで済むものもあれば、アナフィラキシーショックを起こして死亡してしまう場合もあります。
数字だけ見れば可能性は低いものの、手術を受ける際は考えなければいけないリスクでもあります。
肥満のリスク
不妊手術を行うと、ホルモンバランスが変化し、基礎代謝が落ちて肥満になってしまうことがあります。
肥満は多くの病気の原因にもなりますので、手術後専用のキャットフードに変えたり、家の中でも十分に運動ができるような環境を作ってあげる必要があります。
注射を一度打つだけで避妊が可能?
これまで、外科的な手術に代わる効果的な長期避妊法は示されていませんでした。しかし、この度ハーバード大学の生殖生物学者デビット・ペピン氏とシンシナティ動物園の研究チームは、一度の注射によってメス猫の避妊が可能となる手法を開発しました。
研究内容
今回の研究の鍵となるのは抗ミュラー管ホルモン(AMH)というホルモンです。発育過程にある極めて初期の卵胞から分泌されるホルモンのことで、卵胞の発育を抑制する働きがあります。
この研究では、猫のAMHの遺伝子を導入したウイルスをメス猫に注射することで、卵胞の発育を抑制し、妊娠しなくなるかどうかを調べました。
実験方法
9匹の性的に成熟したメス猫のうち、3匹ずつ以下の条件の通りにウイルスを注射しました。
- 高濃度のAMH遺伝子をもったウイルスを注射
- 低濃度のAMH遺伝子をもったウイルスを注射
- 遺伝子を含まないウイルスを注射(対象群)
ヘルスモニタリング
注射後、猫の健康状態を評価しました。
身体検査と血液検査は、治療の2週間前、0日目(注射前)、その後1年目までは3ヶ月ごと、その後は6月ごとに行われました。
交配試験
ウイルスを注射されたメスと繁殖力のあるオスと会わせ、交配試験を行い、交尾を行うか、妊娠するかを調べました。
実験結果
身体検査では、重大で有害な所見は観察されませんでした。
また、エストロゲンの数値が対象群と全く変わらなかったことから、何らかの作用により、正常に近い量を分泌してたことがわかりました。
エストロゲンとは
卵胞ホルモンとも呼ばれ、生殖器官を発育、維持させる働きがある。また、筋肉や骨の発達や、内臓脂肪の抑制にも重要な役割を果たす。
交配試験の結果、AMH遺伝子を注射した6匹のメス猫のうち、オス猫と交尾したのは2匹で、どちらも妊娠することはありませんでした。一方で、対象群の3匹はすべて妊娠し、2〜4匹の子猫を出産しました。
考察
今回の実験結果より、AMH遺伝子を投与された猫は、エストロゲンを中心とするホルモン濃度が対象群とほぼ変わらず、健康への悪影響を伴わずに卵胞の発育が抑制されて、交尾が行われても妊娠しないことがわかりました。
また、メス猫における嚢胞性子宮内膜過形成や子宮蓄膿症を予防できる可能性があることも示唆されました。
一度の注射で避妊ができると何が変わる?
今回の研究が実用化された場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
TNR活動における獣医師の負担が減る
TNR活動とは、猫を捕まえて不妊手術を行い、元いた場所に返す活動のことです。
多くの場合はボランティアの人が猫を捕まえ、手術は獣医師が行いますが、獣医師の負担が懸念されています。注射一本で不妊が可能になれば獣医師の負担が軽減され、効率的に行えるようになるかもしれません。
手術のリスクを回避できる
全身麻酔や開腹による手術は猫の体に負担がかかり、リスクも伴うため、手術を躊躇している飼い主にとっては新たな選択となるかもしれません。
最後に
今回は、注射一回で避妊ができるかもしれないという研究についてご紹介しました。
不妊手術は猫にとって良いこともありますが、手術のリスクも見逃せません。もし、今回の研究が実用化されれば、より負担がかからずに不妊の効果が得られるでしょう。また、野良猫や地域猫を増やさないためにも獣医師の負担が軽くなることを望みます。
現在はまだ実験段階で、これから大規模な試験が行われるそうです。今後、研究が進んでいくことで、犬への応用もできるようになるかもしれません。この機会にぜひ、ペットの不妊手術について考えてみてはいかがでしょうか。
【最新研究】猫は日常生活の中で同居猫の名前を覚えている
猫の飼い主の皆さんは、猫が自身や同居猫の名前を理解していると感じたことはありますか?また、猫はそれらの名前をしっかり聞き分けているのでしょうか。
この度、京都大学や麻布大学などの研究チームは、猫が一緒に住んでいる他の猫やヒトの名前を理解しているのかについて研究結果を発表しました。
この記事では、その研究についてわかりやすく解説していきます。
実験概要
この研究では、猫が同居する猫やヒトの家族の名前を認識しているかについて調査されました。
ヒトの場合、ある言葉を聞くと、そのもの、もしくはそれに近いものを想像します。一方で、ヒト以外の動物でもこのような反応がある程度見られることがわかっています。
今回は、心理学で用いられる「期待違反法」という手法を用い、名前を呼んだ後にモニターに呼んだ名前の猫やヒトの写真もしくは、異なる猫やヒトの写真を表示し、モニターを注視する時間によって、猫が同居猫やヒトの家族を認識しているかについて調べます。
期待違反法
期待とは異なることが起きると、その事象を長く見るという性質を利用し、動物や乳児が何を期待しているのかを調べる心理学的手法。
実験1 猫は同居猫の顔と名前を認識しているか
方法
今回の実験に参加した猫のうち、29匹(オス:17匹、メス:12匹)は猫カフェで飼育されており、ヒトや猫同士が自由に触れ合うことができます。19匹(オス:11匹、メス:8匹)は、家庭で飼育されており少なくとも2匹の他の猫と一緒に暮らしています。
猫をモニターの前に座らせ、同居する猫の名前を呼ぶ声を再生したあと、その名前の猫・もしくは違う猫を表示します。
もし、猫が同居している猫の名前と顔を一致させているのであれば、期待違反法により呼ばれた名前と違う猫が表示された場合に、モニターを注視する時間が増えることが予想されます。
結果
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10261-5より
上のグラフでは、赤いバーが名前と写真が一致した場合、青いバーが一致していない場合を表します。また、左のボックスは猫カフェの猫、右のボックスは家庭で飼育されている猫をそれぞれ表しています。
猫カフェの猫たちは、モニターを注視する時間にほとんど差がなく、猫の名前と顔を理解できていないと考えられます。
一方で、家庭で飼育されている猫では、モニターを注視している時間に有意な差があり、名前が異なる猫の写真が表示されたときの方が見る時間が長いことが示されています。この結果から、猫が同居猫の名前と顔を理解していることがわかりました。
実験2 猫は同居家族の顔と名前を認識しているか
方法
2人以上のヒトの家族が住む26匹(オス:15匹、メス:11匹)の飼い猫を対象とし、そのうちの13匹は2人家族、7匹は3人家族、4匹は4人家族、2匹は5人家族の家で暮らしています。
実験1と同様の方法で、ヒトの名前を呼び、顔写真をモニターに表示し、猫がモニターを見る時間を調査しました。
結果
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10261-5より
上の図では、縦軸に注視した時間、横軸に猫が飼育されている家庭の家族の人数を表し、赤い点は呼ばれた名前と表示された写真が一致した場合、青い点は一致しなかった場合を表しています。
名前と家族の顔写真が一致する場合と一致しない場合で、モニターを注視する時間に有意な差はありませんでした。
しかし、同居する家族の数が多いほど、一致しないときの写真を見る時間が長くなりました。これにより、同居する家族の数が影響することがわかります。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10261-5より
さらに、上の表は、猫と家族が一緒に暮らした時間でグループ化したものです。short(中央値より短い)よりもlong(中央値より長い)の方が、名前と画像が一致したときにはモニターを見る時間が短く、一致しなかった時にモニターを見る時間が長くなっていることがわかります。
これにより、一緒に暮らした時間が長い方が、名前を認識できる可能性がより高いと考えられます。
考察
家庭で飼育されている猫は、同居猫の名前を呼ばれるとその名前の猫の顔を期待しており、同居する他の猫の名前を認識していることがわかりました。
また、同居家族が多く、飼育期間が長いほど、ヒトの家族の名前も一致している可能性が高いことがわかりました。同居する家族が多くなると、必然的に家族間で名前を呼び合う頻度が高くなり、飼育期間が長くなれば名前を聞く機会が増えます。
これにより、猫はヒトとの生活の中で名前を聞き分け、その名前の人物が反応するのを観察し、名前と顔の関連を学習している可能性が示唆されました。
まとめ
今回の実験と結果について、「知ってた」「そんな感じはしてた」と思った方も多いかもしれません。しかし、研究があまり進んでいない猫について、他の猫の名前を認識しているかを科学的に証明した、とても意義のある研究です。
もし、愛猫に自分の名前を覚えてもらいたかったら、同居家族にたくさん名前を呼んでもらえる環境の方が良いでしょう。また、飼い主が猫の名前をたくさん呼ぶことで、猫も猫自身の名前を覚えるようになるかもしれません。
名前を呼んだりスキンシップをとったりして、これまで以上に愛猫との絆を深めてくださいね。
飼い犬と顔や性格が似る理由!実は科学的に証明されていた!?
犬を飼っている方は、飼い犬と顔や性格が似ていると言われたことがあるかもしれません。
あるいは、「あの犬、飼い主とよく似ているな」と思ったことが一度はあるのではないでしょうか。
「飼い主とペットが似る」とはよく聞きますが、実はこの現象、実験によって科学的にも裏付けられているのです。
今回は、飼い犬と飼い主が似るプロセスについて、実験結果とともにご紹介していきます。
飼い主と顔が似るって本当?
犬と人間では顔の作りが違いますから、そっくりというわけにはいきませんが、「どこか顔の雰囲気が似ている気がする」「目のあたりがなんとなく似ている」と感じたことがあるかもしれません。
似ているような雰囲気を受けるペットと飼い主の顔ですが、果たして本当に似ているのでしょうか。
心理学者が行った実験
関西学院大学の心理学者、中島定彦氏が2009年に行った実験は、「飼い主と犬の画像をバラバラに配置し、全くの他人が正しいペアを作ることができるのか?」というものでした。
実験では、飼い主や飼い犬の目元、口を隠した画像を用いて、500名以上の参加者にペアを作ってもらい、顔のどのパーツが特に似ているのかを実験しました。
実験の結果
実験の結果、何も加工をしていない画像でペアを作ったケースでは、最高で80%の精度で正しいペアを作ることができました。
また、目元を隠した画像を用いた場合では正答率は50%程度まで低下しましたが、目元だけを写した画像では約75%の正答率を示したそうです。
このことから、飼い主と犬の顔が似ていることは事実であり、特にその目元に共通の特徴が存在しているとの結論が出されました。
「顔が似てくる」わけではない…?
飼い主と飼い犬は顔が似ているという結論が出ましたが、中島氏はこれを、「単純接触効果」によるものだと推測しました。
単純接触効果とは、ある刺激(図形や味、においなど)に触れれば触れるほど、それを好きになっていく現象のことです。
つまり、飼っているうちに愛犬が飼い主に似てくるのではなくて、人が犬を選ぶ際に、見慣れた自分の顔に似た犬を無意識のうちに選んでいるのではないかと考えたのです。
中島氏のブログサイト
https://sadahikonakajima.cocolog-nifty.com/nakajima/2013/10/test-1.html
飼い主と性格が似るって本当?
顔や表情の他にも、性格が似る場合もあります。
人間と同じように、千差万別な犬の性格ですが、飼い主と飼い犬の性格も、顔と同じように似るという結果がある調査を通して出されたのです。
性格の形成に関わる要素は?
犬の性格形成には、人間と同じように様々な要素が関わっているとされています。
- 生まれ持った性格
- 幼少期の環境
- 成長する過程での経験
- 犬種ごとの性格的特徴
社会心理学者の調査
米ミシガン州立大学の社会心理学者、ウィリアム・J・チョピク氏はこの中でも、「生まれ持った性格」と、「成長する過程での経験」に着目して調査を行いました。
チョピク氏の調査は、1681匹の犬の飼い主たちに、飼い主自身の性格と飼い犬の性格についてアンケートをとり、「飼い主と飼い犬の性格にどのような特徴があるのか」を調べるものでした。
調査結果
調査の結果、飼い主と飼い犬の間には、性格の類似点が存在していることが判明しました。
例えば、外向的で活発な飼い主の犬は元気で活動的、内向的でインドア派な飼い主の犬は臆病で人見知りしやすいなどの傾向がありました。
この他にも、真面目で誠実と自分を評した飼い主の飼う犬は言うことをよく聞く、人当たりがいい飼い主は社交的な犬を飼っているなどの例があり、両者は性格が似ていることが多いとの結論が出されました。
なぜ性格が似るの?
飼い主と飼い犬の性格が似る理由について、チョピク氏は2つの仮説を提唱しています。
1. 性格が合うペットを選んでいるため
飼い主と飼い犬の顔が似ている場合と同じく、飼い主が自身の性格に似ている犬を選んでいるという仮説です。
例えば、静かで落ち着いている犬を好む人もいれば、活発でアクティブな犬を飼いたいと思う飼い主もいます。
このように、飼い主は無意識のうちに自身が好む性格の犬を選択していると考えられます。
2. 生活していく中で似てくる
飼い犬は基本的に、飼い主の生活リズムに適応して生きています。
そのため、飼い主と一緒に生活していく中で、飼い犬の性格は飼い主によく似たものへと変化していくと考えられます
例えば、社交性が高く、頻繁に犬仲間に会いに行く飼い主だと、犬もその経験により社交性が高くなっている可能性があります。
参考論文
William J.Chopik(2019)”Old dog, new tricks: Age differences in dog personality traits, associations with human personality traits, and links to important outcomes”
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092656618301661
生活習慣や仕草も似る?
飼い主と飼い犬の間で似ている点としては、顔や性格だけでなく、生活習慣、仕草などが挙げられるとされています。
群れで生活する犬は、本能的にリーダーの行動を真似する事があると言われています。
つまり、家族として生活する中で、リーダーである飼い主を行動の真似をしたがるのです。
そのため、同じ生活リズム、同じ環境で過ごしているため、習慣や仕草も飼い主と似る傾向があるとされています。
まとめ
今回は、飼い主と飼い犬の顔や表情、性格が似る理由についてご紹介しました。
飼い主と飼い犬が似るという話はよく聞きますが、実際に実験や調査によって裏付けられているとは驚きですね。
飼い主にとって、愛犬は最高のパートナーであることに間違いありません。
家族として長い時間を過ごしている以上、似ているのも当たり前のことかもしれませんね。
【最新研究】犬の飼育経験が思春期の子どもの幸福度を向上させる
「子どもが生まれたら犬を飼いなさい」という言葉を聞いたことはありますか?
犬には人間の心を癒す力があると考えられており、セラピー犬として活躍している犬もたくさんいます。しかし、実際に犬の飼育経験が思春期の児童に対してどのような影響を与えるのかは分かっていませんでした。
今回、東京大学などが実施したプロジェクトと麻布大学との共同研究により、犬を飼うことで思春期の児童の幸福度が向上することが分かりました。子どもが生まれたら犬を飼うのは理に適っていたということでしょう。
この記事では、今回報告された研究について詳しく解説していきます。
研究概要
これまでの研究では、犬と見つめ合うことでオキシトシンが分泌され、ヒトの心身に良い影響を与えることが分かっています。
オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれており、スキンシップなどで幸せを感じたときに分泌されるホルモンです。ストレスの解消や痛みの緩和、ダイエットや美肌など、さまざまな効果が知られています。
しかし、犬の飼育がヒトの健康、特に思春期の子どもたちに対してどのような効果があるかは明らかになっていませんでした。
今回は東京大学・総合研究大学院大学・東京都医学総合研究所の3つの機関が連携して行う研究プロジェクト、「青春期の健康・ 発達コホート研究(TokyoTeen Cohort project,TTC)」に参加している思春期の子どもを対象にアンケートを実施し、10歳と12歳のときの幸福度を調査しました。
調査対象
TTCに参加している3自治体(調布、三鷹、世田谷)在住の10歳の子どもを持つ家庭を無作為に抽出し、3171世帯を調査対象としました。そして2年後の12歳の時点で再びアンケートを実施し、最終的に2584名の子どもを対象に、10歳と12歳の時の幸福度を比較し分析しました。
それぞれの対象者に、家にペットがいるかをたずね、以下の3グループに分類します。
- 犬も猫も飼育していない
- 犬を飼育している
- 猫を飼育している
なお、犬も猫も両方飼育している家庭は、統計的に正しいデータを取れるほど多くなかったため、除外されています(n=9)。
WHOが定義する「健康」とは
今回の研究では、WHO(世界保健機関)が定義しているWell-being(ウェルビーイング)というスコアで幸福度を評価しています。
WHOはWell-beingについて、「健康とは、身体面、精神面、社会面における、すべての well-being(良好性)の状況を指し、単に病気・病弱でない事とは意味しない」とし、身体だけでなく、精神面や社会面も含めた健康を意味しています。
今回のアンケートでは、最近2週間のうち、「明るく、楽しい気分で過ごした」「落ち着いた、リラックスした気分で過ごした」などの項目を6段階で評価しています。
結果
このグラフに描画されている線は、それぞれ以下の結果を示しています。そして、10歳と12歳のときの幸福度を数値化しています。
- 青→犬も猫も飼育していない
- 緑→犬を飼育している
- 赤→猫を飼育している
結果、犬と猫の飼育経験は、思春期の子どもに対し、それぞれ異なった影響を与えることが分かりました。
犬を飼育している家庭
犬も猫も飼育していない家庭と犬を飼育している家庭を比べたところ、犬を飼育している家庭では幸福度がほとんど低下しないという結果が出ました。
一般的にヒトの幸福度は思春期から35歳くらいまでは徐々に低下していく傾向があるため、犬の飼育は思春期の子供の幸福度に好影響を与えていることが分かります。
猫を飼育している家庭
一方で、犬も猫も飼育していない家庭と、猫を飼育している家庭を比較したところ、幸福度の低下が見られました。
犬を飼育している場合は散歩により身体活動時間が7〜8%増加することから、子どもの肥満防止の効果が幸福度にもつながっていると考えられるのに対し、猫を飼っていても基本的には外へ散歩に行くことはありません。これにより、子どもの身体活動時間に差が出てきます。
また、妊婦にも影響を与えるトキソプラズマは猫に寄生することが多いということも、幸福度を低下させた要因と考えられています。
トキソプラズマが人間に与える影響
トキソプラズマは人間にも感染する感染症です。人間に感染したとしても、妊婦が感染しなければ、風邪のような症状が出る程度とされています。しかし、一部の研究では、感染者は統合失調症を発症しやすくなると指摘されていたり、交通事故に遭う確率が2倍以上高まるとも言われています。
なお、今回の結果からは、あくまで「犬の飼育経験がある家庭と比べると幸福度が低下する」ということが分かっただけで、決して「猫を飼育すると不幸になる」というわけではありませんので注意しましょう。
さらに、猫は犬に比べて研究が進んでいないのも事実です。今後は、猫の飼育がヒトにどのような影響が与えるか調査が進んでいくでしょう。
犬の存在
今回の研究結果から、犬の飼育経験が心身の健康をもたらすことが分かりました。
これにより、思春期の子どもに見られる、不登校やいじめ、拒食症などの問題に対して、犬が介在することで何かしら良い影響をもたらす可能性も見いだされました。
今後は、具体的に犬の飼育のどのような経験が人間の心身に影響を与えるのか、明らかにされていくことでしょう。
よい影響を与え合える関係性に
私たちは愛するペットに、精神的な健康や日々の生活の中の楽しさなど、たくさんのことを与えてもらっています。
私たち人間がペットの世話をしていると思っているかもしれませんが、実は私たちの方がペットに精神的なお世話をしてもらっているのかもしれません。
そんなペットに対し、私たち人間は何を与えられているでしょうか?この機会にそんなことを考えてみるのも良いかもしれません。お互いがお互いに良い影響を与えつつ、素敵な関係性を築いていきたいですね。
本当に去勢や不妊手術する必要あるの?メリデメと時期や費用は?
ペットを迎えて、比較的早い段階で手術の判断を迫られることがあります。それは去勢や不妊手術です。してもしなくても、それぞれにメリットやデメリットがあります。そのため、ペットの将来をよく考えて選択したのであれば、どちらも正解だと思います。ただ、もし何も考えずに放置しているのであれば、すぐにペットのことを考えて欲しいことであることに変わりはありません。
去勢や不妊手術のメリット
去勢や不妊手術は、野良犬や野良猫が増えることがないように行うことが一般的でしたが、現在では病気を予防したり問題行動を抑制できるということで行う飼い主さんも増えてきました。
病気を予防できる
オスの場合は、前立腺肥大や睾丸腫瘍になる可能性を抑えることができます。これは完全に無くすことができるわけではなく、確率を下げることができるに留まります。
メスの場合は、子宮蓄膿症、卵巣腫瘍を予防することができます。どれも死に直結する危険性がある病気です。これらは、子宮自体を取ってしまうのですから、その病気になりようがなくなります。また、乳癌の発症率も下げることができます。
問題行動を抑制できる
オスの場合、男性ホルモンが減少するため、足をあげてのマーキングや、攻撃的行動が減少します。ただ、マーキングに関しては、一度足をあげてマーキングすることを覚えてしまった犬の場合、それがなくなる可能性は低くなってしまいます。まだマーキングすることを覚えていない幼犬の時に手術することが重要になってきます。
メスの場合は、ヒートがなくなることが挙げられます。問題行動ではなく、単なる生理現象ですが、おむつをする手間があったり、それを掻きむしってしまったり。家が汚れてしまうため、ヒートが起こることを嫌がる飼い主さんもいるので、そういった方にはメリットになります。
不幸な命が生まれない
猫を飼っている場合、飼い主が思ってもいないところで妊娠してくるかもしれません。また、どこかに家族を作ってしまうかもしれません。その時、あなたは全ての責任を背負って、全て飼うことができますか?知らないところで作ってきた家族がその後どうなるか考えてみてください。
犬の場合も同様です。先日の東日本大震災や熊本の大地震の際、置き去りにされた犬や猫、逃げてしまった犬や猫は、その後野良犬や野良猫になり、家族を増やしてしまいました。この子達が伸び伸びと行きていける世界なら別ですが、現代の世の中では捕らえられ、殺されてしまうのです。
去勢や不妊手術のデメリット
最近ではペットショップや動物病院等でも手術を勧められることが多くなり、メリットについては、色々なところで取り上げられていますが、デメリットについてはあまり知られていないのではないでしょうか。当然ながら、メリットもありますが、デメリットもあるのです。
全身麻酔のリスク
去勢手術にしても、不妊手術にしても、どちらも全身麻酔を必要とします。昔に比べて、現代では比較的安全になったとは言え、大手術であることには変わりありません。麻酔から目が覚めない等、失敗するリスクもゼロではありません。
ホルモンバランスが崩れる
オスの場合、太りやすくなると言われています。手術後は、食事にも気をつけるほうが良いでしょう。全部が全部ではないと思いますが、メスの場合は、ホルモンバランスが崩れて、毛並みが悪くなったということも聞きます。
逆に病気になる
最近の研究で、去勢や不妊手術を行うことで、膀胱炎と尿失禁のリスクが上がることが指摘されています。また、犬種や時期にもよりますが、股関節形成不全、音恐怖症になるとも言われています。骨肉腫、血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫の発症率が3倍以上という研究結果もあります。
邦題:早期の犬の避妊・去勢による健康上の弊害と利点
邦題:関連する関節障害、癌および尿失禁
去勢や不妊手術させる場合の時期と費用
自治体によっては、補助金が出る場合もあるため、獣医さんや市役所に問い合わせてみてください。補助金が出るタイミングも様々なため、必ず確認してから動物病院に行くようにしましょう。
- 去勢手術: 15000円〜25000円程度
- 不妊手術: 20000円〜30000円程度
手術の時期については、早いほうが良いとされていますが、上記論文にある通り、犬種によっては1歳を過ぎてからの方がいい場合もあります。
- オスの場合: 生後6か月前後
- メスの場合: 生後5~7ヶ月の間が一番良いとされている
余談:子供を作るということ
雑種であれば、あまり考えなくても良いかもしれませんが、現代の犬は長い年月をかけ、人間に作り出された生き物です。繁殖に適した犬、そうでない犬がいます。これを素人が行うと、疾患をかかえて生まれてきてしまったり、性格的な問題のある犬が生まれてしまうこともあります。悪徳ブリーダーはこういったことを考えず、量産することを選択しますが、真っ当なブリーダーはそれを考えて交配しています。
もし、自分のペットの子供が欲しいと考えている場合は、ブリーディングについてもよく調べて勉強すべきです。それが出来ない場合は、信頼できるブリーダーさんと繋がりを持ち、サポートを求めるべきです。そして、どんな状態の子が生まれてきたとしても、最後まで責任を持って育てる覚悟を持ってください。人間の赤ちゃんと同様、人間の選択で命を作り出す以上、途中で止めることはできないのです。
時期が限られるのでよく考えたい
有識者の間では、犬や猫を飼った場合は去勢・不妊手術させるべきという意見が大半です。ペット先進国の欧米でも、それが一般的となっています。ただ、最近の研究ではデメリットについても指摘されるようになってきました。また、悲しい事に、飼い主によく説明せずに手術させようとする専門家がいるのも事実です。
どちらの選択も間違いではありません。だからこそ、私たち飼い主が正しい知識を身につけて、誰に何と言われようと考えを貫き通せるように、きちんと考えておくことが大事だと思います。
あなたのペットはどうでしょう?どちらの選択をしても、それは正解だと思います。しかしながら、何も考えずに放置しているのであれば、その選択は間違っています。愛するペットと向き合い、将来をよく考えて決めてあげて欲しいと思います。この記事がそのきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。