捨て犬から「働く犬」として大活躍!転身を遂げた4頭の犬たち
悲しい現実ですが、現在でも人間に捨てられる犬たちは数多く存在します。
その中には、人間から勝手に「不要」とされたにもかかわらず、出会った人によって才能を見出され、「働く犬」として多大な活躍した犬たちがいました。
今回は、そんな捨て犬から働く犬へ転身を遂げた犬たちをご紹介していきます。
才能を開化させた小さな警察犬「アンズ」
元飼い主から不要と判断され、茨城県の動物指導センターに持ち込まれた、トイ・プードルの「アンズ」。当時はまだ3ヶ月の子犬にもかかわらず、殺処分の対象でした。
その場に居合わせた、警察犬訓練士の鈴木博房さんはクレートの中で震える子犬を見て、いたたまれなくなり引き取ることに。
シェパードたちの警察犬の訓練に一緒に連れていき、様子を見ていたアンズが「自分もやりたい!」と言うように吠えてアピールをしたため、鈴木さんが冗談半分でやらせてみたところ、意外にも警察犬として優れた才能を持つことが判明しました。
当時、茨城県で認められていた警察犬の犬種は、大型犬の7犬種のみ。しかし、鈴木さんはアンズの警察犬訓練を続け、2015年に茨城県が小型犬の警察犬を認めることを決定。その年の10月アンズは見事に警察犬試験に合格し、茨城県警初の小型犬の警察犬になりました。
その後、事件解決の功績から4回も表彰を受けるほどの実績を残しています。
優しい性格を活かしたセラピードッグ「チロリ」
1992年、捨て犬だった「チロリ」は殺処分寸前のところを音楽家の大木トオルさんに保護されました。アメリカで音楽活動をしていた大木さんは現地でセラピードッグの存在を知り、日本でも普及させるためアメリカのセラピードッグを連れて帰国していました。チロリは、そのセラピードッグたちと共に暮らすことになったのです。
そんな生活の中、一頭の犬が癌を患ってしまいました。チロリは、その犬の腫瘍を舐めたり、歩調を合わせて歩いたりと、病気の犬に寄り添うような行動を見せました。
そんなチロリの姿を見て、大木さんはセラピードッグの才能があるかもしれないと考えるようになったそうです。
しかし、訓練を始めてからチロリが杖を極度に怖がることがわかってきました。棒状の物で叩かれて、痛い思いをした経験があったのかもしれません。そんなチロリに大木さんは寄り添い、杖への恐怖心を一緒に克服していきました。
ひたむきに訓練に取り組んだチロリは、日本初のセラピードッグに。多くの病院や福祉施設を訪問し、たくさんの患者さんの気力や笑顔を引き出してくれました。
人懐こい性格から聴導犬に「コータ」
1994年、多摩川の河川敷に出産直後の母犬と兄弟犬と共に、ダンボールに入れられ捨てられていた「コータ」。
捨てられているのを見つけ保護した方、里親探しに尽力した動物保護団体の方、動物愛護イベントに居合わせたドッグトレーナーなど、犬を愛する人々の「なんとか生かしてあげたい」という思いから、犬の訓練所の「オールドッグセンター」へ辿り着きます。
訓練所の所長から聴導犬の才能を見出され、担当トレーナーの水越みゆきさんと共にトレーニングに励み、雑種犬初、日本で10頭目の聴導犬となりました。所長の訓練士としてのカンと、とても人懐こく、珍しいくらい性格の良い犬だったことが聴導犬になる決め手になったそうです。
聴導犬となった後、聴覚障害を持つ方がコータの飼い主になることが決まっていましたが、急病を患い、犬を飼えなくなってしまいました。
その後、当時はまだ聴導犬の存在が世の中では認知されていなかったため、デモンストレーションを通じて聴導犬への理解と普及活動のために活躍しました。
人への恐怖を克服した災害救助犬「夢之丞」
生後約3ヶ月程で野良犬として保護され、広島の愛護センターにいた「夢之丞(ゆめのすけ)」。
このままでは、2日後に殺処分されると聞いた、NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」のスタッフの大西純子さんは、夢之丞を保護し「ピースウィンズ・ジャパン」の活動の一つである、災害救助犬の訓練を受けさせることを決意しました。
しかし、愛護センターの職員によると、夢之丞は人間を見ると異常におびえる性格の犬で、ペットとして飼うのが難しいため殺処分の対象になっていたそうです。実際に引き取ってからも、スタッフになかなか懐かず、1年がかりでやっと散歩が出来るようになった程でした。
そんな中、いざ訓練となると元野良犬ならではの嗅覚の鋭さを発揮するようになっていきます。
そして、4年後の2014年に初出動の機会を迎えます。普段は人がたくさんいる場所を怖がっていたのに、災害の現場では救助隊員が大勢いる中でも臆することなく、泥だらけになりながら被災者を必死で探し回っている、夢之丞の姿がありました。
その後、数々の現場での懸命な活動ぶりが評価され、2015年に日本動物愛護協会から「功労動物賞」を贈られる程の災害救助犬に成長したのでした。
最後に
今回は捨て犬から「働く犬」になり、大活躍をした犬たちをご紹介しましたが、捨て犬でも飼い犬でも、全ての犬がその子にしかない才能を必ず持っています。人間がその才能を見いだせているかどうかによって、その子の一生は変わってくるのではないかと感じました。
そして、特別な才能があり「働く犬」として活躍出来る犬も素晴らしいですが、特別なことが出来なくても家にいてくれて飼い主を癒やしてくれる普通の家庭犬も、代わりのない、とても尊く大切な存在だと思います。
犬はわたし達人間に多くの幸せを与えてくれる存在です。わたし達も犬から恩恵を受けるだけでなく、より多くの犬たちが幸せになれるように考えていく必要があるのではないでしょうか。
災害現場で大活躍!災害救助犬の歴史や仕事、向いている犬とは?
2021年7月3日に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流災害の現場で、行方不明者の捜索に奮闘した災害救助犬たちが注目されました。活躍した災害救助犬は、自衛隊や複数のNPO法人に所属する犬たちです。
そんな災害救助犬ですが、一体いつ頃から活躍をしているのでしょうか?また、警察犬との違いや、向いている犬の特徴にはどのようなものがあるのでしょうか?
今回の記事では、災害救助犬について詳しくご紹介していきます。
災害救助犬の歴史
災害救助犬は、スイスのアルプス山脈の修道院で飼育していたセント・バーナードの祖先を、雪山の遭難者たちの捜索のために訓練したことが始まりだと言われています。
その後、ヨーロッパを中心に、主に牧羊犬が災害救助犬として活躍するようになりました。
日本では、1990年にジャパン・ケネル・クラブ(JKC)が災害救助犬の計画を始め、1995年の阪神淡路大震災の際には8頭の犬が活躍しています。
現在ではジャパン・ケネル・クラブを含めた4団体を中心に、消防庁や自治体と連携をとりながら災害救助犬の育成や派遣を行っています。
災害救助犬の仕事
1. 山の災害時に、雪や土砂の下敷きになった人を救助
熱海の土砂災害のように、山の中や山間地域における雪崩や土砂崩れによって、雪や土砂の中に埋もれてしまった人を見つけ出す仕事です。
災害救助犬は、大気に浮遊する僅かな人間の臭いを嗅ぎ別けて埋もれている人を探します。雪や土砂の隙間から臭いを感知することは簡単ではありませんが、人間が土砂を掻き分けて探すよりは、犬の方が素早く見つけ出せる可能性が高いのです。
2. 地震発生時に、瓦礫の下敷きになった人を救助
大地震が発生した際、建物が倒壊したり津波で流されたりして、重たい瓦礫や土砂の下敷きになった人を見つけ出す仕事です。
下敷きになった人を探す点は土砂災害発生時と同じですが、大地震の方がより広範囲を捜索することが多いです。
3. 山の遭難者を救助
災害救助犬は、災害時だけでなく、山で遭難してしまった人の捜索にも出動することがあります。
スイスの災害救助犬も、雪山での遭難者の捜索訓練が始まりでしたね。
4. 海や川で溺れている人を助ける水難救助犬
災害救助犬とは別に考えられることも多いですが、水辺の事故などで派遣されるのが「水難救助犬」です。
水難救助犬は、海や川などで溺れている人に浮き輪を届け、陸まで連れて帰る仕事をします。犬種としては、泳ぎの得意なニューファンドランドやラブラドール・レトリーバーが多いです。
警察犬との違い
警察犬も人などを探す仕事をする犬ですが、災害救助犬とは何が違うのでしょうか?
臭いの辿り方が違う
警察犬は、特定の人物の持ち物の臭いを元に、地面の臭いを嗅ぎながら追跡します。そのため、持ち物などの原臭と、足跡の臭いの両方がないと臭いを辿ることができません。
一方、災害救助犬は、特定の人ではなく、倒れている人などの特徴を嗅ぎ分けて探し出します。臭いの嗅ぎ方も、地面の足跡を辿るのではなく、空気中に漂う人の体臭、呼気などの浮遊臭を追うのです。
発見した後の動きが違う
警察犬は、犯人を発見した後、場合によっては腕を噛んで捕らえる手伝いをしたりしますが、災害救助犬は人を噛むことはしません。
災害救助犬の場合は、土砂に埋もれている人などを発見したら、大声で吠えたりその場を引っ掻いたりして、ハンドラーに知らせるところまでが仕事です。
どんな犬が災害救助犬になれるの?
災害救助犬の中には、普段は一般の人の愛犬として普通に飼われている犬もいます。
地道な訓練を受けて、試験に合格すれば一般の飼い犬でも災害救助犬になれるのです。
ただし、飼い主が災害救助犬にしたいと思っても、犬に適性がなかったり、訓練がうまくいかなければ、もちろん出動はできません。
向いている犬種
災害救助犬には、特に犬種の制限はありません。ただし、狩猟本能のある犬や牧羊犬などが向いていると考えられています。
日本では、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、シェパード、ボーダー・コリーなどの大型犬が多いですが、ダックスフンド、ウェルシュ・コーギーなどの小〜中型犬や、柴犬、甲斐犬などの日本犬も災害救助犬として活躍しています。
向いている性格
いくら犬種が適していても、病弱な犬ややる気のない犬はもちろん不向きです。
NPO法人災害救助犬ネットワークによると、次のような性格の犬が向いているとされます。
- 人や他の動物に対して、攻撃性がないこと。
- 臭覚が優れ、動作が機敏であること。
- 捜索に対して強い意欲があること
- 集中力と忍耐力があること。
- 体力があり持続力があること。
- 突然の物音や出来事に恐がらないこと。
- 高い所や暗い所をこわがらないこと。
まとめ
今回は、災害救助犬について、その歴史や仕事内容、向いている犬の特徴などをご紹介しました。
日頃から私たち人間の心を癒してくれる犬たちですが、有事には優れた嗅覚をフル活用して、命を救おうとしてくれています。
そんな災害救助犬に感謝しつつ、やはりできることなら土砂災害などに巻き込まれる前に、早めの避難を心がけたいものですね。