【獣医師監修】脳の疾患も?犬が震えている場合に考えられる疾患
愛犬がプルプルと震えている場合、あなたは何が原因だと考えますか?寒さなどの生理的なものが原因かもしれませんが、一方で何か身体の不調を訴えるサインである可能性もあります。
では、犬に震えが見られる時にはどんな異常が考えられるのでしょうか。
今回は犬の震えで考えられる疾患について解説します。
犬が震える原因
犬が震えている原因はいくつか考えられます。
脳疾患
- 小脳障害
- 脳炎(髄膜脳炎)
痛みによるもの
- 椎間板ヘルニア(頚部/胸腰部)
- 膵炎
- 骨関節炎
- 外傷(骨折/脱臼)
その他
- 発熱
- 腎不全/肝不全
それぞれどんな病気なのか詳しくみていきましょう。
脳疾患
脳に何らかの異常があると震えが起こることがあります。手や足が小刻みに震えている時には注意が必要です。また、脳疾患では意識障害を伴う全身性発作が見られることも珍しくなく、震えは発作の前兆である可能性もあります。
さらに、この全身性発作が続くと、脳へ重大なダメージを与えかねません。震え以外にも何か脳疾患を疑う徴候がないか、しっかりと確認しておきましょう。
小脳障害
【症状】
起立時の足の間隔が広い、行動時の揺れ、歩行時の足の上げ方や曲げ方が大きい、頭部の震え(企図振戦:きとしんせん)
【原因】
外傷、梗塞、脳炎、突発性、毒物など。
【備考】
企図振戦は、自分から何か動作を起こした時に生じる震えのこと。食べる、飲む、嗅ぐといった動作を行おうとすると著しく発現する。
脳炎(髄膜脳炎)
【症状】
てんかん発作、意識レベルの低下、斜頚、旋回、震え、視覚障害など。
【原因】
感染性(ウイルス、細菌、真菌、寄生虫)と非感染性(壊死性髄膜脳炎/パグ脳炎、肉芽腫性髄膜脳炎など)に分けられる。
【備考】
犬の脳炎は非感染性のものがほとんど。炎症が起こっている部位によって症状は様々となる。
痛みによるもの
犬は痛い時にも震えることがあります。痛みには神経痛、腹痛、関節痛など様々なものがあります。愛犬がうずくまって震えている場合、強い痛みが起こっている可能性があります。
また、痛みの箇所は触ることで判断しますが、自宅では行う必要はありません。愛犬との信頼関係が損なわれるだけでなく、飼い主であるあなたがケガをするかもしれないからです。
痛みが疑われる場合には、直ちに動物病院を受診することをオススメします。
椎間板ヘルニア(頚部/胸腰部)
【症状】
跛行(足を引きずる)、背部痛、頚部痛、歩きたがらない、首を上に向けたがらない、四肢麻痺、排尿困難など。
【原因】
背骨の間にある椎間板が突出し、脊髄を圧迫することによる。加齢や遺伝(ダックスフント、コーギー、ビーグルなど)が要因となる。
【備考】
特に頚部椎間板ヘルニアは、無理に首を動かそうとすると突然死することもあるため、安静にして動物病院を受診する。
膵炎
【症状】
頻回の嘔吐、食欲不振、腹痛、下痢、発熱など。
【原因】
はっきりした原因はわかっていないが、生ゴミの誤食、高脂血症、肥満、脂肪を多く含む食事などが危険因子となる。また、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や糖尿病、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患を持つ犬も膵炎発症の危険性が高まる。
【備考】
膵炎に特異的な症状はなく、他の消化器疾患とよく似た症状を呈するため、ただの胃腸炎だろうと自己診断するのは危険。
骨関節炎
【症状】
跛行(足を引きずる)、元気消失、動きたがらないなど。
【原因】
肥満、外傷、加齢などが要因となる。また膝蓋骨脱臼、免疫介在性関節炎(関節リウマチ、多発性関節炎)なども関節炎を引き起こす。
【備考】
慢性的な関節炎となると症状として震えが現れることがある。特に小型犬では膝蓋骨脱臼が多いので注意が必要。
外傷(骨折/脱臼)
【症状】
部位によって異なるが、跛行、歩行困難、起立困難、震えなど。
【原因】
高い所からの飛び降り、ドアに挟む(尻尾が多い)、溝にはまるなど。
【備考】
トイプードルは前肢の骨折が多いと言われている。ケガをした瞬間を目撃していれば判断は容易かもしれないが、留守中のケガなどは歩き方などを見て判断する必要がある。
他にも
脳の異常や痛みを伴う疾患以外にも、震えが見られることがあります。以下に示すような病態は、いずれも元気消失や食欲低下などの全身症状を伴うことが多いです。
放置することで病態が悪化する可能性もあるため、やはり早めの動物病院受診がオススメです。
発熱
【症状】
39~40℃以上の体温で発熱と見なす。原因によって症状は様々だが、元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢などが見られることが多い。
【原因】
感染(子宮蓄膿症、犬ジステンパーウイルス感染症、犬パルボウイルス感染症など)、歯周病、リンパ腫、突発性多発性関節炎、熱中症など。
【備考】
犬の体温は直腸で計るが、体表面を触っていつもより熱い気がするなら発熱の可能性がある。
腎不全/肝不全
【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、脱水、痙攣などの神経症状、貧血、黄疸など。
【原因】
腎不全は腎炎(感染、自己免疫疾患など)や腎血流量の低下、肝不全は急性肝炎、慢性肝炎、中毒、薬剤などによって起こる。
【備考】
痙攣の他、てんかん発作の前兆として震えが見られることがある。これら神経症状は肝臓や腎臓で解毒/排泄されるべき毒素が体内を循環することによって脳へ障害を与えるために起こる。
まとめ
明らかに寒い環境にいる場合や強いストレスがかかっている場合を除き、愛犬が震えている時には体調不良を疑うべきです。しかし一方で、このような生理的な震えと病的な震えを正確に見分けることはなかなか困難です。
冬場には服を着せることや暖房を利用すること、普段の生活の場ではストレスを極力なくすなど、生理的な震えが発生しないような環境を作ることも大切でしょう。
何か気になることがあれば、気軽に動物病院までご相談してください。
【状況別】犬が震えるのはなぜ?考えられる5つの原因と対策
愛犬が震えている時、その震えの原因がわからないと心配になりますよね。
寒いのかもしれませんし、怖がっているのかもしれません。慢性的に震えが起こる場合は、病気の可能性も考えられます。
犬が震える理由はいろいろありますが、どれもあまり良いものではありません。状況や犬の様子から原因を的確に見極めることで、犬のストレス軽減や病気の早期発見に繋げられます。
今回の記事では、犬の震えの主な原因と、状況別の見極め方、それぞれの原因への対策をご紹介します。
犬の震えの原因①寒さ
シベリアン・ハスキーや秋田犬など、寒い地域が原産の犬種は比較的寒さに強いですが、逆に暖かい地域が原産で短毛の犬種のほか、小型犬や子犬、老犬も寒さに弱いとされています。
比較的寒さに弱い犬種の例
トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、パピヨン、ブル・テリア、ミニチュア・ピンシャー、パグ、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア
人間は暖かい服を着れば快適に過ごせますが、寒さに弱い犬には辛いかもしれません。
室温が20度を下回っていたり、寒い時間帯に散歩に行って震えている場合は、寒さが原因の震えである可能性が高いです。
対策
震えの原因が寒さだと考えられる場合は、次のような対策をしてみましょう。
- 冬場の室温は20度前後、湿度は40~60%を目安に保つ
- 日の当たるところに毛布などをおいて日向ぼっこをさせてあげる
- 散歩はできるだけ暖かい時間に、日当たりの良い道を選ぶ
- 散歩の際は暖かい服を着せる
犬の震えの原因②ストレス、恐怖心
初めての場所や、知らない人の多い場所に行くと、不安や恐怖から震えてしまうことがあります。
特に、社会化がうまくできていなくて、普段から知らない人や犬に吠えやすい犬や、工事やドライヤーの音などを怖がる犬は、恐怖が原因の震えを起こしやすいと考えられます。
また、例えば過去に動物病院で嫌な思いをしたことがあると、動物病院に来ただけでストレスで震えてしまうなど、過去の経験が震えに結びつくこともあります。
対策
ストレスや恐怖が原因の震えはなかなか対策が難しいですが、できるだけ犬が怖がったり不安になったりしない環境を作ることが重要です。
また、根本的な解決には、成犬になってからでもきちんと社会化をしてあげることが必要です。家に遊びに来た友達におやつをあげてもらうことで知らない人に慣れさせたり、家の中で工事音などさまざまな音の動画を流してみるなどの訓練をしてみましょう。
犬の震えの原因③トイレの我慢
犬は、尿意や便意を催しているときに震えることがあります。
外でしかトイレをしない犬は、散歩に行く時間がずれるとトイレを我慢しなければならなくなってしまう可能性があります。
逆に、普段家の中でしかトイレをしない犬は、長時間の外出の際にトイレができなくて困ることもあります。
対策
外でしかトイレをしない犬の場合
家の中でもトイレができるようにトレーニングしておくと良いです。これは震えだけでなく、実は散歩のマナーの点からも求められていることです。
大雨の日に無理に散歩に連れていかなくて済みますし、病気や高齢で歩行困難になった時のことを考えても、やはり室内でトイレができることのメリットは大きいと言えます。室内でしかトイレをしない犬の場合
自宅以外の場所でもトイレシーツを敷けばトイレができるようにしておくと良いでしょう。
新しいトイレシーツではなく、一度おしっこをしたトイレシーツを親戚の家や車の中などに敷いてみることで、トイレだと認識しやすくなります。
犬の震えの原因④怪我や病気の痛みに耐えている
犬は、怪我やヘルニアなどの病気によって起こる痛みに耐えるために震えることもあります。
震えが一時的なものでなく慢性的に続く場合や、ほかにも気になる症状がある場合は、病気や怪我の可能性を疑いましょう。
身体を触ってみて、痛がるかどうかを確認してみることもおすすめです。
対策
怪我や病気が原因で震えている場合は、少しでも早く動物病院へ連れて行くことが最も重要です。
「もう少し様子を見てからでいいや」と後回しにしていると、どんどん症状が悪化していってしまいます。犬は痛みがあっても、本能的にそれを隠して普段通り振る舞いがちです。震えは痛みに耐えていることがわかる重要なサインのひとつなので、見逃さないようにしましょう。
犬の震えの原因⑤病気や中毒の症状
痛みがあるだけでなく、神経症状として体が勝手に震えてしまうこともあります。
中枢神経系(脳や脊髄)の異常や、中毒物質の摂取によって、自分の意志とは無関係に筋収縮が起こってしまうことがあります。
また、肝疾患やインスリノーマなどによって、血液中のグルコース濃度が低下すること(低血糖)でも震えが引き起こされます。
対策
こちらも、異変に気付いたらすぐに動物病院に連れて行くことが重要です。
その際、次のポイントを整理しておくと診察がスムーズに進みます。
・経過:止まっている時と動いている時の震えの違い、特定の動作時に起こるかなど
・予防歴:寄生虫、ウイルス疾患(犬ジステンパーなど)の可能性
・家族歴:遺伝性の可能性、犬種による好発疾患の推定など
・食事:栄養性、中毒性の可能性
・既往歴:代謝性、他臓器の疾患の可能性
まとめ
愛犬が震えていると、不安になってしまいますよね。
寒さやストレスが原因の場合は、犬が過ごしやすい環境を整えることが大切ですし、病気が原因の場合は速やかに動物病院へ連れて行くことが重要です。トイレの我慢も犬にとって負担になりますから、適切なトイレトレーニングを始めることをおすすめします。
状況に応じて犬が震えている原因を判断して、適切な対策をしてあげましょう。