【獣医師監修】子犬の歩様異常で考えられる病気とは?
愛犬の歩き方が、何となくいつもと違うと思ったことはありますか?明らかにおかしな歩き方をしている場合もあれば、毎日観察していないと気付かないレベルの違和感まで、歩様異常の状態は様々です。
散歩の時はもちろん、家の中で一緒にいる時など、愛犬の歩き方を見る機会は多いと思いますが、もし、歩き方の異常に気付いた場合はどうすればいいのでしょうか。
歩様異常の原因となる疾患は、年齢によって若干変わるため、今回は子犬の歩様異常について解説します。
子犬で見られる歩様異常の原因
子犬の歩様異常は痛みや麻痺などが主な原因で、場所によって考えられる病気も異なります。
前肢の歩様異常で考えられる病気
- 橈骨・尺骨の成長板早期閉鎖
- 環軸椎不安定症
- 肘異形成
後肢の歩様異常で考えられる病気
- 大腿骨頭壊死症
- 膝蓋骨脱臼
- 椎体奇形
- 股関節形成異常
前肢と後肢のどちらでも見られる病気
- 汎骨炎(はんこつえん)
- 外傷(骨折、脱臼など)
それぞれどんな病気なのか見ていきましょう。
前肢の歩様異常
肩関節や肘関節に何らかの異常があると、前肢の歩様異常が見られます。
特に若い年齢だと、先天的な関節の形成異常が見られることがあります。また、首の異常でも前肢に影響が出る場合もあります。
橈骨・尺骨の成長板早期閉鎖
【症状】
前肢の跛行(足を引きずる)、挙上(ケンケンする)など。
【原因】
前腕(肘と手首の間)は橈骨と尺骨で構成されるが、外傷などが原因でどちらかの骨の成長が途中で止まると、二本の骨の間に長さの差が生まれ、関節が不安定になる。
【備考】
治療には早期の外科手術が必要となる。放置することでさらに骨の長さの差が出てくることがある。
環軸椎不安定症
【症状】
頚部痛、頚部の知覚過敏とそれに伴う元気消失や活動性低下、四肢の麻痺など。
【原因】
環椎(第一頚椎)と軸椎(第二頚椎)の関節の先天的な形成異常による。
【備考】
小型犬に好発する傾向にある。
肘異形成
【症状】
跛行(足を引きずる)を主訴とし、肘関節に疼痛を有する。
【原因】
肘関節を構成するいくつかの要素(肘突起癒合不全、尺骨内側鉤状突起分離、上腕骨顆内側面の離断性骨軟骨症)が複合的に関与している。これらは遺伝性や軟骨の成長に起因していると考えられている。
【備考】
大型犬に比較的多く見られる。
後肢の歩様異常
後肢の歩様異常も、やはり関節(股関節や膝関節)の異常が考えられます。
後肢はジャンプするときに力が入る部位であるため、子犬では痛めやすくなります。動物病院に来院する患者も、前肢よりも後肢の歩様異常を主訴に来られる方が多いです。
大腿骨頭壊死症
【症状】
数カ月~1歳までの時期の跛行(足を引きずる)。これは徐々に進行する傾向にある。
【原因】
骨端への血液供給が制限されることにより、大腿骨の成長板に梗塞をきたすと考えられている。
【備考】
小型犬に多く発生し、遺伝性も報告されている。
膝蓋骨脱臼
【症状】
後肢の跛行(足を引きずる)、挙上(足を地面に着けない)など。
【原因】
生まれつき膝蓋骨が嵌まっている大腿骨の溝が浅い、膝蓋骨に付着している筋肉の左右バランス不均衡、階段から落ちるなどの外傷などが原因となる。
【備考】
小型犬で非常によく見られる。膝蓋骨の脱臼を長期間繰り返していると、関節炎や靱帯断裂を続発することもある。
椎体奇形
【症状】
軽度では脊椎痛(背中の痛み)、重度では麻痺、歩様異常、排尿障害など。
【原因】
先天的な椎骨の発育異常や融合不全。
【備考】
フレンチブルドッグ、パグ、マルチーズ、ヨークシャーテリア、シーズーなどの犬種で多い。
股関節形成異常
【症状】
股関節の緩みによる疼痛、運動機能不全など。
【原因】
先天的あるいは成長期の複数の因子により発現する。
【備考】
5~10カ月の大型若齢犬で症状が見られることが多い。大型犬の場合は子犬の時期に股関節形成異常の兆候がないかをX線検査で確認しておく。また関節の緩みは加齢とともに変形性関節症を併発する。
前肢と後肢のどちらにも見られることがある歩様異常
関節ではなく骨そのものに異常がある場合は、前肢にも後肢にも歩様異常が見られることがあります。
その代表例が骨折でしょう。特に小型犬は骨も細く、骨折が多く見られます。
汎骨炎(はんこつえん)
【症状】
患肢の跛行、挙上など。元気消失、発熱、食欲低下が見られることもある。
【原因】
原因は不明だが、栄養、代謝、アレルギー、内分泌、遺伝的な要素が関わっていると考えられている。
【備考】
中型~大型犬に多い骨の炎症のこと。高タンパクや過剰なカルシウムが関与しているという報告もあるため、フードには注意したい。
外傷(骨折、脱臼など)
【症状】
激しい痛み、患肢の跛行や挙上、触ろうとすると怒るなど。
【原因】
階段・ソファ・イスなどから足を踏み外す、抱っこから飛び降りる、ドアに挟むなど、日常生活の中に危険が潜んでいる。
【備考】
人間にとっては何でもない段差でも、子犬にとっては大きい段差になることが多い。
まとめ
犬は言葉で痛みや違和感を伝えることができません。そのため、毎日の観察が愛犬の異常を察知する上で非常に重要で、子犬の時期でも、それは同じです。
もし何か気になることがあれば、気軽に動物病院まで相談してください。
【獣医師監修】ベンガルの好発疾患と飼い方のポイント
ベンガルは、野性味のある模様が特徴的な猫種です。
ペットショップなどでも人気がありますが、実際に見ると「うわ、きれい」と思わず言ってしまうほどです。
しかし、ベンガルには、その性格や遺伝的背景からいくつか好発疾患が存在します。
今回の記事では、ベンガルがかかりやすい病気や日常生活で気をつけたいポイントについて、獣医師が詳しく解説します。
ベンガルの基本情報
歴史
ベンガルは、イエネコとヤマネコの交配によって誕生しました。
1970〜80年代にかけ、カリフォルニア大学では猫の白血病を研究するため、「アジアン・レオパード・キャット」というヤマネコと、イエネコの交配を行っていました。この時生まれた子猫はブリーダーに手渡され、そのインディアン・マウなどと交配し、ベンガルの基礎が築かれました。
1985年に初めてキャットショーに出場すると、ベンガルの美しさは多くの愛猫家たちから大絶賛され、一躍人気となりました。
その後、ブリーダーたちが次々と、アビシニアン、アメリカン・ショートヘア、エジプシャン・マウ、シャムなどと品種の交配を行い、現在のベンガルに至ります。
身体的特徴
ヤマネコの血が入ったベンガルは、野生的でがっしりとした筋肉質の体が特徴的で、中型〜やや大きめの短毛種です。
つり目気味のアーモンド形の目を、「マスカラ」と呼ばれるアイラインがふちどっています。
被毛の模様は、「ロゼット」と呼ばれる豹柄以外にも、タビーやマーブルがあります。
性格
見た目が野生的ですが、性格は温厚で飼い主によく懐きます。
また、運動量が多くハンティング遊びも大好きで、猫としては珍しく水遊びも好むようです。
ベンガルの好発疾患
ベンガルには好発する遺伝疾患と、性格や性質ゆえに注意したい病気があります。
好発疾患を知っておくことで、日常生活の中で愛猫を見る目が何かしら変わるかもしれません。
ピルビン酸キナーゼ欠損症
【症状】
貧血、疲れやすい、頻脈、頻呼吸など。
【原因】
ピルビン酸キナーゼという酵素が遺伝的に欠損することで溶血性貧血が起こる。
【備考】
遺伝性疾患であるため、素因がある子は繁殖させるべきではない。
骨折
【症状】
患肢の疼痛、挙上(地面に足を着けない)、動かせないなど。
【原因】
外からの大きな衝撃、高所からの落下、交通事故など。
【備考】
外飼いの子はケンカや事故に遭う可能性があるので、帰って来たら健康状態を確認する。室内飼いでも棚などからの着地失敗などでけがをすることもあるので油断は禁物
ベンガル網膜症(進行性網膜萎縮)
【症状】
初期症状として夜盲、進行すると視覚障害、失明。
【原因】
遺伝的な背景が報告されている。
【備考】
常染色体劣性遺伝で伝達されるため、遺伝子変異のある子は繁殖に供するべきではない。
特発性膀胱炎
【症状】
頻尿、血尿、トイレに行くが排尿しない、排尿痛、腹痛など。
【原因】
原因は不明だが、ストレスが関与していると考えられている。細菌、結石、腫瘍などの他の膀胱炎の原因となるものが検査で検出されないことによって診断される。
【備考】
性格や環境によっては再発を繰り返すことも多い。
肥大型心筋症
【症状】
運動不耐性(疲れやすい)、胸水や腹水貯留、呼吸困難、嘔吐、食欲不振など。
血栓塞栓症を随伴した場合は、塞栓部位によって様々な症状が見られる。
特に多いのは「腹大動脈遠位端」で、両後肢の不全麻痺または完全麻痺。
【原因】
心筋が厚くなることによって心臓が膨らみにくくなり、循環障害を呈する。
【備考】
血栓塞栓症は速やかに治療を行う必要がある。
ベンガルに適した飼育環境
一般的に猫と生活する上で注意する点の他に、ベンガルという猫種だからこそもっと注目すべきところがあります。
性格がその子によって異なるように、愛猫に合った生活環境を考えてみてください。
1. 適度にストレスを発散させる
ベンガルは、ストレスを溜め込みやすい猫種です。
そのため、ストレスが原因で起こると言われている神経障害や特発性膀胱炎などの疾患を発症しやすい傾向がみられます。
毎日短時間でもいいのでしっかり遊んであげる、猫が安心できる居場所を作るなどの対策が必要でしょう。
2. 十分な運動量の確保
ストレス発散のために最も効果的なのは、運動です。肥満予防のためにも運動はとても重要です。
室内での生活ではどうしても運動不足に陥りやすいため、運動しやすい環境を整えてあげる必要があります。
例えば、キャットタワーなどで、上下の動きができるような工夫が望ましいです。
3. ストレスの原因を取り除く
溜まったストレスを発散させるだけでなく、ストレスの原因そのものを除去する努力も必要でしょう。
しかし、猫にとってどんなものがストレスの元になっているのかを正確に知ることは難しいです。
人間にとっては些細なことでも、猫にとっては大きな問題であることも少なくありません。愛猫の行動などを注意深く観察し、ストレスの原因を探ってみてください。
以下に、猫がよく遭遇するストレス源の例を挙げます。
- 生活音:掃除機、洗濯機、外の工事、犬の鳴き声など。
- トイレ:清潔でない、設置場所が気に入らない、狭いなど。
- 居場所:隠れる場所、落ち着ける場所がない。
4. ケガに注意
ベンガルは好奇心旺盛で活発な性格の子が多く、棚などの高いところにもよく登ります。
通常、猫はある程度高い場所からも安全に着地することができます。
しかし、滑り落ちたり、家具の隙間に足を挟んだりした場合はケガをしてしまうこともあります。
実際に、「外出先から帰ってきたら、愛猫が棚の間に挟まっていて手を骨折していた」という事例もありました。
猫が登れる場所は広く確保し、家具の隙間を無くすなどの対応が必要です。
5. 異物誤飲にも注意
好奇心旺盛なベンガルでは、異物の誤飲にも注意してください。
特に、ひも状のものは、猫としても遊ぶのに楽しく、うっかり飲み込んでしまうことがあります。
留守にする際などには、あらゆるものを愛猫の手の届かない場所にしまうのがいいでしょう。
その代わりに、留守中は愛猫が退屈しないように、飲み込むリスクの低いおもちゃや、運動できるスペースを用意してあげましょう。
まとめ
ベンガルは本当に美しい猫種で、一目惚れしてしまう方も多いと思います。
猫を家に迎え入れる前に病気などについてもしっかりと考えていただき、予防に努めることで、猫の健康を守ってあげましょう。
【獣医師監修】イタリアン・グレーハウンドの好発疾患と予防
イタリアン・グレーハウンドはシルバーの短毛がきれいな小型犬種です。
小顔で手足も細く、守ってあげたくなるような魅力があります。
そんなイタリアン・グレーハウンドですが、身体の構造や体質によっていくつか、かかりやすい病気が存在します。
今回の記事では、イタリアン・グレーハウンドの好発疾患と、それを踏まえた理想的な飼育環境について獣医師が詳しく解説します。
イタリアン・グレーハウンドの基本情報
歴史
イタリアン・グレーハウンドの祖先は、古代エジプトのファラオの宮廷で飼われていた小型のグレーハウンドだと考えられています。
その後、ギリシャを渡ったグレーハウンドは、紀元前5世紀頃にイタリアにたどり着いたと言われています。
ルネッサンス時代には、貴族の宮廷内で人気が高まったイタリアン・グレーハウンドは、イタリア国内外の絵画にも多く描かれました。
身体的特徴
小型犬に分類され、標準サイズは体高約32~38cm、体重は3〜5kgとされています。
手足が細く、首を伸ばして頭を上げて歩くその姿は、まるで小鹿が跳ねているように見えます。耳の横に垂れる形が標準とされますが、立ち耳の子もいるようです。
被毛は短毛です。毛色は、レッド、グレー、クリーム、ホワイト、ブラックなど様々で、白のマーキングが入ります。
性格
イタリアン・グレーハウンドは、穏やかで優しい性格ですが、繊細でストレスをためやすい面があります。嫌なことをされると、攻撃をせずに、距離を置くような行動をとります。
スタミナがあり、運動が好きですが、日本の厳しい暑さや寒さには弱いので注意が必要です。
イタリアン・グレーハウンドの好発疾患
イタリアン・グレーハウンドは細い手足ゆえの骨折や、皮膚の疾患が多い犬種です。
どんな病気にかかりやすいか、その病気がどんな症状を呈するのかを理解することで、迅速な対応ができるようになるかもしれません。
全てのイタリアングレーハウンドが以下のような病気になるわけではありませんが、わずかな徴候も見逃さないようにしましょう。
骨折
【症状】
患肢の痛みや腫れ、挙上(足が地面に着けない)
【原因】
外からの強い衝撃、ドアに挟まれる、高い所からの落下、自転車や自動車との事故など。
【備考】
骨折は病気ではなくケガであり、予防が可能。ケガをさせないような環境整備や、事故には十分注意すべき。
カラーダイリューション脱毛
【症状】
脱毛、丘疹、落屑など。
【原因】
遺伝性で、4〜18カ月齢で好発する。毛におけるメラニンの分布が不均等になることで被毛が弱くなり、ちぎれてしまう。
物理的刺激の多い部位に発生しやすい。
【備考】
痒みはないため、日常生活に支障は全くない。一方で、遺伝性疾患なので、発症犬は繁殖させるべきではない。
アトピー性皮膚炎
【症状】
強い痒み、外耳炎、脱毛、皮膚の色素沈着(皮膚が黒っぽくなる)など。
【原因】
機序は完全には解明されていないが、環境抗原(ハウスダスト、花粉、カビ)に対するアレルギー反応の獲得、およびそれに対する過剰な反応が皮膚に起こることによると考えられている。
【備考】
ヒトと異なるのは、犬の場合加齢とともに症状が悪化することである。早期に適切な治療を行うことが重要である。
アレルギー性皮膚炎
【症状】
痒みを伴う炎症性皮膚炎、外耳炎、皮疹、脱毛など。
【原因】
食餌に含まれるタンパクや、ノミに刺されたことによるアレルギー反応。
【備考】
食物アレルギーは眼および口の周囲、外耳道、四肢端、背部に、ノミアレルギーは尾根部、尾部、大腿部、鼠径部に認められることが多い。
膿皮症
【症状】
表皮小環(細菌感染部を中心に、同心円状にカサブタが広がる)、発赤、膿疱など。毛包炎の場合には痒みを伴う。
【原因】
表皮常在菌の感染による。通常はこれら細菌の感染は起こらないが、環境や栄養状態、その他の感染症、内分泌疾患、アレルギーなどに続発することが多い。
【備考】
広範囲に感染が起きている場合には抗菌薬が処方される。しかし、最近では耐性菌も多く、処方した抗菌薬が現在感染している細菌に有効かどうかをあらかじめ検査(感受性試験)することもある。
イタリアン・グレーハウンドに最適な飼育環境
では、イタリアン・グレーハウンドと一緒に生活していく上でどんなことに注意すればよいのでしょうか。
イタリアン・グレーハウンドという犬種に特徴的な性格や好発疾患に基づいて、最適な飼育環境を紹介していきます。
1. 段差には注意して
イタリアン・グレーハウンドは骨が細く、骨折をしやすい犬種です。
人間にとっては何でもないような小さな段差でも、勢いよく躓いたり、飛び降りたりすることでケガをする可能性があります。イスやソファなどには、飛び乗れないようにするか、犬用の階段をつけるなどの工夫が必要です。
2. 寒さ対策はしっかりと
被毛が短いイタリアングレーハウンドは、寒さに非常に弱いです。日本の冬は皆さんも寒いですよね。
室内では暖房などを使用する、散歩では服を着せてあげるなど防寒対策をしっかりと行いましょう。
一方で、湿気がこもりすぎると皮膚病のリスクとなるため、適度な温度と湿度を調整してあげましょう。
3. 皮膚の状態は観察を
皮膚炎や脱毛など、皮膚の異常を見逃してはいけません。被毛が短いので、皮膚の状態は直接観察しやすいはずです。
ブラッシングなどの際に、次のようなチェックをしましょう。
- 皮膚に赤みがないか
- 痒みがないか
- フケが多くないか
- 脱毛がないか
皮膚病は直接命に関わることは少ないですが、痒みなどによるストレスは計り知れないものがあります。異常にいち早く気付き、適切な処置を受けさせてあげることが重要です。
4. しつけをしっかり
イタリアングレーハウンドは、元々は猟犬として活躍していた犬種です。
そのため、「マテ」などのしつけがしっかりとできていないと、動くものを突然追いかけてしまうことがあります。
思わぬ事故を防止するためにも、子犬の時からしっかりとしつけましょう。
まとめ
イタリアン・グレーハウンドは日本でもファンの多い犬種です。実際に動物病院でもよく見ます。
愛犬を大事にするためにも、病気のこともしっかりと理解し、病気の予防や早期発見ができるような飼育環境を整えてあげてください。
ロシアンブルーでも病気にかかる!リスクを減らす飼い方のポイント
グレーのきれいな毛並みとエメラルドグリーンの瞳が特徴の、ロシアンブルー。
筆者の動物病院にも連れて来られることが多い猫種で、きちんと手入れがされているロシアンブルーは、「カッコイイ」、「上品」という印象が強いです。
そんなロシアンブルーですが、猫種特有のかかりやすい病気はあるのでしょうか?
今回は、ロシアンブルーの好発疾患と、飼育環境の注意点を、獣医師が詳しく解説します。
ロシアンブルーの好発疾患?
猫には、その品種によって遺伝的にかかりやすい病気があります。それは、人間がその猫種を作出する際に近親交配を続けたことによります。
しかし、ロシアンブルーには、猫種で特徴的な遺伝性疾患が存在しません。その意味で、ロシアンブルーは非常に優秀な猫種だと言えます。
ロシアンブルーは病気に強い?
ロシアンブルーには遺伝的に発生しやすい疾患はありませんが、生き物である以上、病気にならないというわけではありません。
他の猫種と比較して特別に免疫力が強いわけでもなければ、内臓が際立って丈夫なわけでもないのです。
他の猫達と同様に、病気の基礎知識を理解しておくことで、早期発見・早期治療につなげましょう。
ロシアンブルーの飼い主さんが知っておきたい病気
慢性膵炎(すいえん)
【症状】
元気消失、食欲不振、間欠的な嘔吐、体重減少など。
時に下痢、脱水、黄疸などが見られることも。
【原因】
急性膵炎の反復、または膵臓が長期にわたり糖尿病や他の疾患の影響を受け続けることによる。
【備考】
猫の膵炎は、胆管炎、胆管肝炎、肝リピドーシス、炎症性腸疾患との併発が多い。
また、トキソプラズマ感染症やヘルペスウイルス感染症によっても膵炎が誘発される。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、体重減少、削痩、嘔吐、脱水、下痢、便秘、低体温など。
【原因】
猫は元々インスリンの分泌が少なく、アミノ酸からグルコースを作り出す代謝系が活発。
肥満、ストレス、感染症など、血糖値が上昇する因子、血糖値を下げられない因子が関わると糖尿病になりやすい。
【備考】
猫では糖尿病による神経障害が起こることが知られており、末期には腎不全が発症する。
慢性腎不全
【症状】
多飲多尿、尿色が薄くなる、食欲減少、体重減少、嘔吐、下痢、口内炎など。
【原因】
慢性的に加えられた腎臓への負担(傷害)を修復する過程で線維化が進行することで発症する。
【備考】
慢性腎不全は貧血や尿毒症を引き起こす。
骨折
【症状】
患肢の痛み、挙上など。
【原因】
外からの物理的な衝撃。
【備考】
家具の隙間に足を挟む、ドアに尻尾を挟むなどには注意。
甲状腺機能亢進症
【症状】
体重減少、脱毛、多食、嘔吐、多飲多尿、活動の亢進、攻撃性の増加など。
【原因】
ホルモン分泌能を有した甲状腺の片側性または両側性の過形成または腺腫。
【備考】
甲状腺癌によるものは全体の1~2%と少ない。
ロシアンブルーを飼う際のポイント
生き物ですから、気をつけていても病気が発生してしまうのは仕方のないことです。
しかし、病気によっては、日常生活を見直すことで発生のリスクを低下させられるものもあります。
1. 尿量の把握
ロシアンブルーに限らず、猫で最も注意したいのが腎臓病です。
猫は、人間や他の動物と比較して濃い尿を排泄します。
その濃い尿を作るために、腎臓には大きな負担がかかっている状態で、腎臓に対するケアを怠ると、加齢とともに腎臓病の症状が現れます。
腎臓の異変は外見では分かりませんが、尿量が増えた、尿が薄くなった、水をたくさん飲むようになったなどは、腎臓病のサインかもしれません。
毎日の排泄物を処理する際に、少しだけ気をつけてみてください。
2. 飲水量の把握
愛猫が一日にどのくらいの量の水を飲むのかは、腎臓病や甲状腺機能亢進症を発見する上で非常に重要です。
しかし、蒸発や、水飲み皿をひっくり返すなどによって正確な飲水量を計測するのは本当に難しいことです。
それでも、皿にどのくらい水を入れて、何時にどのくらい減っていたかを記録していくことによって、飲水量の増減のおおよその判断はつくと思います。
毎日の記録は大変ですが、できる範囲で構いませんので、日常の健康チェックを行いましょう。メモリ付きの容器を使うと便利です。
3. 若い頃の運動量は多め
ロシアンブルーは筋肉質で、他の猫種と比べると少しだけ必要な運動量が多い猫種です。
特に若いうちは、運動不足によるストレスから病気になることもあるため、注意が必要です。
遊んであげる時間を作る、猫が一人でも遊べる工夫をする、キャットタワーを設置するなど、考えてあげましょう。
もちろんその際に、小さなオモチャを飲み込んでしまう、高いところから落ちてケガをするなどがないように気をつけてあげましょう。
4. 定期的な健康診断を
例え病気を疑うような明らかな症状がなくても、安心ではありません。
猫は本能的に、自分が弱っている姿を隠す傾向にあります。つまり、食欲不振などの症状が現れた時には、すでに病気は進行してしまっていることが多いのです。
そこで、若いうちは1年に1度、シニア(7歳以上)では半年に1度の健康診断をオススメします。
「何もないから病院には行かない」のではなく、「何かあるかもしれないから行く」という意識を持てば、病気の早期発見に繋がります。
ただし、動物病院が極度に嫌いな子もいますので、その子の性格に合わせた健康管理プログラムを獣医師と相談することが重要です。
まとめ
ロシアンブルーは、性格の穏やかな子が多く、猫種特有の好発疾患もないため、飼いやすい猫種です。
大切な家族の一員であるという意識を忘れずに、病気にしない生活や、万が一病気になってしまった時にすぐに適切な対処ができる心構えを持っておきましょう。