【獣医師監修】手足が短いマンチカンの好発疾患と予防法

マンチカンは猫の中でも短足が特徴の猫種です。
それゆえに走り回る姿などがかわいらしく、日本でも人気を誇っています。
ペットショップなどで見かけることも多いでしょう。

マンチカンという猫種を飼う上で、特に気をつけたい病気があるのをご存知でしょうか。
今回はマンチカンの好発疾患についてまとめました。現在、マンチカンを飼っている人や、飼おうと思っている人はぜひ参考にしてください。

マンチカンの名前の由来と歴史

猫,猫種,マンチカン,好発疾患,症状,対策,
「マンチカン」には「小さい子供」「小人」という意味があり、『オズの魔法使い』に登場する、短い足で小柄な体つきが特徴の種族の名前に由来するそうです。

もともと、短足の猫は突然変異種として古くから確認されていましたが、1983年にアメリカのルイジアナ州で短足の猫が発見されたことをきっかけに、遺伝子検査などの研究が進められました。

その後、ブリーダーにより繁殖が行われました。交配を肯定する人と、遺伝子疾患を心配する人の間で論争が巻き起こりましたが、足の短い猫がさまざまな場所で見つかり、近親交配のリスクが低下したことから、1995年にアメリカでマンチカンが新種として認定されました。

マンチカンの好発疾患


猫,猫種,マンチカン,好発疾患,症状,対策,
マンチカンには、遺伝的な背景や解剖学的特徴から発生しやすい疾患がいくつかあります。
特にアメリカンショートヘアやスコティッシュフォールドが掛け合わさっている子は、これらの猫種に特徴的な遺伝性疾患が見られるかもしれません。


どんな病気があり、どんなサインを発するのかを知ることで、病気の早期発見・早期治療に繋がります。
病気について理解を深め、異変に気付いたら、すぐに動物病院を受診しましょう。

多発性嚢胞腎


【症状】
・多飲多尿
・尿色が薄い
・嘔吐
・食欲不振などの腎不全症状

【原因】
遺伝的な要素が大きい
【備考】
腎臓に多数の嚢胞が形成され、腎機能不全を引き起こす。両親の既往歴の確認は重要で、本疾患に罹患した猫は繁殖させるべきではない。



肥大型心筋症


【症状】
・呼吸速迫
・呼吸困難
・開口呼吸
・嘔吐
・突然ニャーニャー鳴く
・後肢麻痺
・後肢冷感

【原因】
アメリカンショートヘアの血筋では遺伝性に伝播することが知られている。

【備考】
肥大型心筋症では心臓内で血栓が形成されやすくなる。形成された血栓が大腿動脈に閉塞し、動脈塞栓症を引き起こすことが多い。

骨軟骨異形成症

【症状】
骨の成長が不十分で身体が大きくなりにくい。
【原因】
マンチカンの短足は常染色体優性遺伝の軟骨異形成による。見た目を追求するあまり、病気になりやすくなることもある
【備考】
人間では「小人症」とも呼ばれる。軟骨異形成によって変形性関節症が発症しやすくなる。

変形性関節症


【症状】
・四肢の痛み
・跛行(歩くときに足を引きずる)
【原因】
関節に存在する軟骨が骨になり、動かすときに痛みを生じる。
【備考】
スコティッシュフォールドの血筋は要注意。定期的に関節(特に肘関節)のレントゲンでチェックしていく。

毛球症

【症状】
・嘔吐
・便秘
・食欲不振
・腹痛などの消化器症状
【原因】
グルーミングによって口から摂取された被毛が、腸に閉塞することによる。
【備考】
長毛の子は定期的なブラッシングで余分な被毛を除去してあげる必要がある。毛玉をコントロールするフードやサプリメントを利用する方法も。

椎間板ヘルニア


【症状】
・首から腰への痛みや違和感
・ふらつき
・歩行困難
・排尿障害(尿失禁や排尿困難)

【原因】
背骨の間にある椎間板が脊髄を圧迫し、刺激することによる。
【備考】
普段の生活から歩き方や排尿の様子を観察し、異常があればすぐに動物病院へ。


マンチカンの飼育環境

猫,猫種,マンチカン,好発疾患,症状,対策,

ご紹介した疾患はマンチカンだからといって必ずかかるものではなく、
普段の生活習慣を意識することで、発症のリスクを低減させることが可能です。


では、どんなことに注意すべきなのか、4つのポイントを順番に見ていきましょう。



1.太らせないための食事管理


短い手足のマンチカンは、常に膝や肘などの関節への負担が大きくなります。
そのため、体重が増加するとさらに関節への負担が増し、関節炎などのリスクが高まります。


運動量を増やすことで体重の維持を目指すのではなく、食事管理をしっかり行い、関節軟骨に優しい生活を心がけましょう。

2.適度な運動


摂取するカロリーを制限することによって体重の増加は抑えられますが、全く運動しないのではストレスが溜まってしまいます。


激しく運動をさせる必要はありませんが、キャットタワーを設置するなど、日常的に体を動かせる環境を用意してあげるといいでしょう。



3.交配に注意


マンチカンは、手足が短くなるように品種改良された猫種です。


ある形質(見た目)同士の掛け合わせは、死産のリスクを高めることが知られていますが、短足の遺伝子もその一つです。
つまり、短足の親同士の交配では、死産リスクが高いということです。


よって短足のマンチカンでは、短足マンチカン×長足マンチカン、あるいは短足マンチカン×雑種猫で交配をさせる必要があります。
マンチカンの多頭飼いをしている方は注意しましょう。
また、短足のマンチカンが産まれてくる割合は2〜3割程度と言われています。

4.被毛のお手入れ


中には毛の長いマンチカンもいます。長毛の子は、被毛のお手入れをしないと簡単に毛玉が形成され、皮膚病に繋がる恐れがあります。
また、グルーミング(毛づくろい)によって大量の毛を口にすることで、毛球症のリスクも上がります。




病気のリスクを減らし、美しい被毛を維持するために、定期的にブラッシングをしてあげましょう。

まとめ

猫,猫種,マンチカン,好発疾患,症状,対策,
マンチカンは見た目にも非常にかわいらしい猫種であることは間違いありません。しかし、その一方でかかりやすい病気も多く、一緒に暮らす上では覚悟しなければならないことも少なくありません。

大切な家族の一員として病気に関する知識をしっかり身につけ、たくさんの愛情を注いであげてください。

【獣医師監修】スコティッシュフォールドに多い疾患とその対策

スコティッシュフォールドは、垂れた耳とぷっくり丸い顔が特徴の猫種です。

日本でも人気が高く、スコティッシュフォールドを飼育する方や、飼育したいと考える方が増えています。
そこで今回は、スコティッシュフォールドに起こりやすい病気と、注意したい飼育環境についてまとめました。

スコティッシュフォールドの歴史や性格

スコティッシュフォールド,猫,折れ耳,病気,疾患,対策

歴史

Scottish(スコットランドの)fold(折りたたむ)」という名前の通り、スコットランドが原産の猫で、1960年代に耳の折れた猫をベースに交配を繰り返して生まれた猫種です。

「折りたたまれた耳」が特徴の猫種ですが、実は、不完全な折れ耳、または立ち耳のスコティッシュフォールドもいます

スコティッシュフォールドは、進化の過程で折れ耳を獲得したのではなく、突然変異で生まれた折れ耳の猫を人為的に交配したものであるため、必ずしも折れ耳の遺伝子が発現するとは限りません

立ち耳のスコティッシュフォールドを、最近では「スコティッシュストレート」と呼ぶこともあるようです。

性格

スコティッシュフォールドは、おだやかで人懐っこい性格をしているため、「猫と一緒に遊びたい」「甘えてほしい」と思っている方にはおすすめの猫種です。
また、運動量も比較的少ないため、おとなしめの猫を飼いたい方にも最適です。

スコティッシュフォールドの好発疾患

スコティッシュフォールド,猫,折れ耳,病気,疾患,対策

スコティッシュフォールドには、注意しなければならない疾患が存在します。特に注意したいのは骨軟骨異形成症で、これはスコティッシュフォールドの垂れ耳にも関係しています。

健康診断の時に何を注意すればよいのか、考えながら読んでいただければと思います。

骨軟骨異形成症

【症状】
足を引きずる様子。
【原因】
スコティッシュフォールドに特徴的な遺伝性疾患。
【備考】
中手骨や中足骨(いずれも指の骨)などの骨格変形が特徴。有効な治療法はなく、対症療法のみ。
折れ耳同士で繁殖させると発症しやすいため、最近では折れ耳のスコティッシュフォールド同士の交配は原則禁止とされる。

多発性嚢胞腎

【症状】
多飲多尿、頻尿、無尿、嘔吐、下痢、食欲不振など。
【原因】
遺伝的に起こる疾患で、腎臓にたくさんの袋(嚢胞)が形成されることで腎機能障害を引き起こす。
【備考】
若いうちから腎不全症状が見られる場合もあるので、定期的に血液検査や画像検査で腎臓のチェックを。

肥大型心筋症

【症状】
呼吸速拍、胸水、腹水、疲れやすい、元気消失、食欲不振、嘔吐など。
【原因】
アメリカンショートヘアの血が混じってる場合には、家族性発生が報告されている。
【備考】
心臓内で血栓が形成されやすく、動脈(特に大腿動脈)に塞栓することが多い。
その場合、後肢の麻痺と突然の痛みを生じる。

外耳炎

【症状】
耳の痒み、臭い、汚れなど。
【原因】
耳道の環境悪化によって、細菌や真菌などの微生物が異常増殖することによる。
【備考】
スコティッシュフォールドの垂れ耳は耳道内環境が悪化しやすい。特に耳が硬い子は要注意。

尿石症

【症状】
膀胱炎症状(頻尿、血尿など)、腹痛など。
【原因】
食事のミネラルバランスの異常、避妊や去勢によるホルモンバランスの乱れなど。
【備考】
肥満傾向の子は、膀胱内の結石が尿道に閉塞することも多く、この場合は緊急疾患として取り扱う。
速やかに閉塞を解除しないと急性腎不全となり、命に関わる。

日頃から気をつけたいポイント

スコティッシュフォールド,猫,折れ耳,病気,疾患,対策
以上の好発疾患を踏まえて、スコティッシュフォールドと一緒に暮らす上で、飼い主さんが日頃から気をつけてあげたいことを解説します。

痛みのサインを逃さない

スコティッシュフォールドの好発疾患に「骨軟骨異形成症」がありますが、これは外見を観察するだけではわかりません。
日々の歩き方、ジャンプの頻度、動く頻度などをチェックし、異常にいち早く気づいてあげることが必要です。

「スコ座り」には要注意

また、スコティッシュフォールドは「スコ座り」と呼ばれる独特のポーズをすることがあります。両後肢を前に投げ出したおじさんのような体勢で、SNSでも人気のポーズです(#スコ座り)。

しかしこれは、関節にかかる負担を軽減するための姿勢で、関節疾患や肥満の子によく見られます
「可愛いから写真を撮る」ではなく、一度動物病院でしっかり検査をしてもらうのが良いでしょう。

定期検診でレントゲンを

症状が見られなくても病気が進行していたり、痛みを我慢して表に出さないこともあります。
スコティッシュフォールドは特に、半年に1回程度の画像検査をおすすめします。

レントゲン画像上で関節に異常が見られた場合には、できるだけ運動をさせない、室内の段差をなくすなどの対応が必要です。

耳掃除

垂れ耳で、耳の軟骨が硬い傾向にあるスコティッシュフォールドは、定期的に耳のお手入れが必要です。

その際、綿棒を使ってガシガシ掃除をすると、耳の粘膜を傷つけてしまうため、柔らかいコットンを軽く湿らせ、優しく拭ってあげるくらいがちょうどいいです。

耳掃除を嫌がる猫も多いので、無理をせず、定期的に動物病院でケアを依頼することも考えてみてください。

尿のチェック

猫は、腎臓病が非常に多い動物です。

毎日の排泄で、尿の量が変化していないか、あるいは尿の色に変化はないかをしっかりと確認しましょう。
肉眼ではわからないこともあるので、特に7歳以上のシニア期の子は定期的に尿検査をすることが推奨されます。

まとめ

スコティッシュフォールド,猫,折れ耳,病気,疾患,対策

特徴的な遺伝性疾患があるスコティッシュフォールドですが、だからといって寿命が短いわけではありません。愛情をしっかり注ぎ、病気を早期に発見することができれば、十分に長生きできます。

あらかじめかかりやすい病気を知っておき、少しでも異常を感じたらすぐに動物病院に連れて行きましょう。そして、もし病気になったとしても、その病気とうまく付き合う方法を考えていきましょう。