【獣医師監修】実は怖い!猫の鼻汁や鼻血は危険な病気のサインかも
みなさんは、「鼻腔(びくう)異常」という言葉を聞いたことがありますか?
鼻腔異常とは、鼻汁や鼻出血など、鼻に関する異常のことです。
例えば、愛猫に鼻汁や鼻出血が見られた時、飼い主のみなさんはそれが重大な鼻疾患の可能性であることを見抜けるでしょうか。
今回は、猫の鼻腔異常について、獣医師が詳しく解説していきます。
そもそも「鼻腔異常」とは?
鼻腔異常は、「形態異常」と「機能異常」に分けられます。
- 形態異常:炎症などによる鼻の変形。鼻梁(鼻筋)の変形、鼻平面の変形、鼻腔内の変形など。
- 機能異常:嗅覚異常、鼻平面の乾燥、分泌物(鼻汁など)など。
鼻腔異常は早期発見が困難
鼻腔異常を早期に発見するのは難しいです。
例えば、鼻梁(びりょう、鼻筋)の変形は非常にゆっくり起こるために気付きにくいです。
また、鼻出血や鼻汁、くしゃみが出ていても、それが重い病気の兆候だとは認識しづらいかもしれません。
普段の様子をしっかりと確認し、少しでも鼻に異常があると感じたら、動物病院の受診を検討してみてください。
猫の鼻腔異常で受診した際、動物病院で聞かれること
鼻腔異常の診断には、全身麻酔をしてCT検査をすることもあります。
そのため、猫になるべく負担をかけないためにも、問診による疾患の推定が重要です。
猫の鼻腔異常で受診する前に、次のようなポイントをチェックしておきましょう。
- いつから:急性か慢性か
- 飼育環境:同居猫の有無、外に出るか、周囲環境の変化など
- ワクチン接種歴:猫ウイルス性上部気道炎の可能性
- 既往歴:先天性口蓋裂、歯周病の有無など
- 鼻汁の性状:色(透明、黄色など)、粘度(漿液性、粘調性など)
- 鼻出血の有無
猫の鼻腔異常で考えられる疾患
鼻汁などが見られる原因は、単純な鼻炎から腫瘍性疾患まで様々です。ひとつずつ見ていきましょう。
鼻炎
細菌やウイルスなどの微生物や、アレルギーによって、鼻腔内に炎症が起こっている状態です。
くしゃみも同時に見られ、細菌の二次感染が起こっている場合には鼻汁の色が青っぽくなります。
真菌感染症
アスペルギルスやクリプトコッカスといった、真菌(カビの仲間)の感染による鼻炎です。
猫での発生は比較的少ないとされていますが、感染した時の症状は激しく、鼻出血を伴うことも多くあります。
特に、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)に感染している猫は、免疫力が低下しているため、真菌に感染しやすい傾向にあります。
鼻腔内腫瘍
鼻腔内に腫瘍が発生することで、鼻粘膜の炎症や腫瘍からの出血が見られます。
また、腫瘍が大きくなるにつれて顔の骨を溶かし、顔面の変形が見られることもあります。
鼻腔内腫瘍自体の発生率はそれほど高くありませんが、発生した時の悪性率は非常に高く、早期に発見することが重要です。
しかし、症状が鼻汁程度の軽い場合には、重篤さに気付くことが遅れることも多いです。
鼻腔内異物
植物の種などの異物が鼻の中に存在している状態です。
通常はくしゃみによって異物は排除されますが、鼻腔の隙間に入ったりするとなかなか出てこなくなります。
結果として、鼻粘膜が炎症を起こし、鼻汁が排出されるようになります。
抗菌薬や抗アレルギー薬の治療に反応しない鼻炎が認められた場合には、鼻腔内異物の存在を疑います。
猫ウイルス性上部気道炎
猫ヘルペスウイルスⅠ型や猫カリシウイルスによる感染症です。
定期的なワクチン接種によって予防が可能ですが、免疫力の弱い子猫は感染しやすい傾向があります。
また、猫ヘルペスウイルスⅠ型は一度感染すると、体内に潜伏感染するため、成猫になってもストレスなどによって症状が現れることもあります。
主な症状は鼻汁と結膜炎、眼脂(目ヤニ)で、特に子猫はこれらの症状によって衰弱することもあります。
口蓋裂(こうがいれつ)
口蓋裂は、口腔内の上顎部分(硬口蓋)と鼻腔が繋がっている状態です。
生まれつき硬口蓋に穴が開いている場合もあれば、外傷によって後天的に口腔と鼻腔が繋がる場合もあります。
口蓋裂による鼻腔異常の特徴は、主に食事後に食べ物が鼻腔から出てくることです。
また、食べ物が気管を通って肺に入ることで誤嚥性肺炎を引き起こすこともあるため、注意が必要です。
歯肉炎
現在、3歳齢以上の猫における歯周病の罹患率は80%以上と言われています。
歯茎に炎症が起きている状態を「歯肉炎」と言いますが、歯肉炎が進行することで鼻腔にも炎症が波及し、鼻汁の症状が現れることがあります。
歯周病の予防には、歯磨きの習慣が非常に重要です。
猫の鼻腔異常で注意すること
猫の鼻腔異常は早期発見が特に重要です。
人間にとって鼻汁や鼻出血はありふれた症状かもしれませんが、猫も同様とは限りません。症状や病態が進行する前に、治療を行うことが大切です。
異常を見極めるには日々の観察が重要
猫は、健康なときでも鼻が濡れています。
それが鼻汁の増加によるものかどうかの判断は、日常の観察が物を言います。健康な時ほど、健康状態の把握をしてあげてください。
まとめ
猫の鼻腔異常は、嘔吐などと比較しても症状として地味なことが多いです。しかし、だからと言って放置するのではなく、危機感を持てるかどうかが大切です。
愛猫の健康は、飼い主の皆さんが守っていきましょう。
【獣医師監修】猫の呼吸がいつもと違う!呼吸困難を起こす病気とは?
猫を飼っているみなさんは、猫が苦しそうに呼吸をする様子を見たことがある、あるいは、これから見ることがあるかもしれません。
生物にとって呼吸は、生命維持に直結します。呼吸が苦しいと、例え死に至らないとしても、生活の質(QOL)が著しく低下してしまいます。
猫での呼吸困難は意外と遭遇することが多い臨床徴候です。
自宅で苦しそうな愛猫を見た時に、慌てないようにしておきましょう。
今回は、猫の呼吸困難について、獣医師が詳しく解説します。
そもそも呼吸困難とは
「呼吸困難」と聞くと、おそらく窒息を想像する方が多いでしょう。
しかし臨床的に呼吸困難とは、息苦しい状態、呼吸がしにくい状態を指します。
普段よりも呼吸が荒い、胸を上下させて呼吸をしているのは立派な呼吸困難です。
猫の開口呼吸は要注意
猫の場合、口を開けて呼吸をしていたら、それは異常です。
猫は犬とは異なり、パンティング(口を開けて「ハッハッ」と呼吸する様子)による体温調節を行いません。
強い興奮などの思い当たる節がない限り、すぐに動物病院を受診した方がいいでしょう。
また、その際に舌の色を確認してみてください。酸素が足りていない時には、舌は青くなっています。
猫の呼吸困難で受診した際に動物病院で聞かれること
呼吸と生命活動は密接に関係しているため、異常があるならできる限り速やかにそれを除去する必要があります。
検査も行いますが、動物に無理なストレスや負担をかけないためにも、問診は重要となります。
また、呼吸困難に陥っている猫を前にして、ゆっくり近況を聴取している時間はないかもしれません。
予め何を説明すべきかを把握しておきましょう。
- いつから: 急に起こったのか、起こりやすい時間帯、週にどのくらいの頻度かなど
- 呼吸数: 安静時における1分間の呼吸数
- 開口呼吸の有無
呼吸数は、リラックスした状態のものを測定します。
15秒間に何回胸が上下するかを数え、4倍して1分間の呼吸数を算出します。
ただし、急に呼吸が荒くなったり、開口呼吸が起きたら、呼吸数測定の前にすぐに動物病院を受診してください。
考えられる疾患
これから紹介する疾患は、いずれも怖いものばかりです。
愛猫に呼吸困難が起きた時に、これらの疾患のことを考える余裕はないかもしれません。
しかし、飼い主さんが前もって病気の知識を有しているかいないかで、対応に差が生まれるかもしれません。
鼻腔内腫瘍
鼻から入った空気の通り道である鼻腔に腫瘍が発生すると、空気の通過が障害されます。
肺での酸素交換ではなく、物理的に呼吸がしにくくなるパターンです。
一般的に鼻腔内腫瘍による呼吸困難は、腫瘍がある程度大きくならないと認められません。
その前に鼻汁や鼻出血などが見られることが多いため、特に中高齢の猫では見逃さないようにしたいですね。
鼻咽頭ポリープ
特に若齢の猫で、鼻咽頭にポリープができることがあります。
このポリープの位置や大きさによっては咳や呼吸困難、いびき、くしゃみなどが症状として見られます。
また、鼻咽頭は耳道にも繋がっているため、内耳炎や中耳炎が波及することもあります。
気管の管外性圧迫
甲状腺やなどの気管に近い臓器に腫瘍が発生した場合、腫瘍が大きくなるにつれて気管を圧迫します。
腫瘍の大きさによって症状が現れます。
気管内異物、食道内異物
何かを飲み込んだ時にそれが気管内に入り込んでしまう、または食道にへばりついてしまうことがあります。
すると、猫は急いで飲み込んだものを吐き出そうとするため、呼吸がおかしくなります。
何回かの咳や嘔吐の仕草で異物が出てくればよいのですが、中々出てこないこともあります。
異物が大きく、気道が完全に閉塞していると非常に危険です。
また、異物が小さくても食道内異物の場合には、異物の慢性的な刺激のために食道壁が大きなダメージを受けます。
食道壁の細胞は、受けた損傷が回復しにくいため、異物は速やかに取り除かなくてはなりません。
猫喘息
猫でよく見られる、慢性的な気管支炎症状を呈する疾患です。
気道への慢性的な刺激は気道を肥厚させ、さらに気管支の筋肉を収縮させて空気の通り道を狭くします。
また、痰などの粘液性分泌物の産生によっても、空気は通過しにくくなります。
咳の症状が付帯することが多いため、そこに気付いて早期治療を行うことが大切です。
肺腫瘍
肺の原発腫瘍、または他臓器からの転移によって肺に腫瘍ができると咳や呼吸困難が見られるようになります。
酸素などのガス交換を行うため、肺は血管が多い臓器です。
そのため、肺は他の臓器からの腫瘍が血流に乗って転移しやすいと言われています。
肺炎
ウイルスや細菌などの微生物やアレルギー、誤嚥などによって肺に炎症が起きている状態です。
ヒトでも、風邪から肺炎に罹ると危険だというように、猫でも肺炎は危険です。
大抵は、肺炎が診断されると入院での治療が必要になります。
胸水症
うっ血性心不全、低蛋白血症、胸腔内の腫瘍病変などによって胸腔内に液体が貯留している状態です。
液体によって肺は圧迫を受け、膨らみにくくなります。
その結果、呼吸が妨げられ、呼吸数の増加や咳の症状が見られるようになります。
猫伝染性腹膜炎(FIP)
猫コロナウイルスによって引き起こされる感染症で、治療法は確立されていません。
胸水や腹水の貯留が症状として見られる場合があり、その時は呼吸が荒くなります。
また他にも発熱、嘔吐、下痢、黄疸、ぶどう膜炎などが確認できます。
ワクチンもないため、他の猫との接触を避けることが一番の予防となります。
横隔膜ヘルニア
胸腔と腹腔を隔てている横隔膜に穴が開き、腹腔内臓器(肝臓や腸管など)が胸腔に移動することがあります。
横隔膜の穴は、生まれつき開いている場合もあれば、事故などの外傷で後天的に開く場合もあります。
移動してきた腹腔内臓器に肺が圧迫され、呼吸困難を引き起こすことがあります。
猫の呼吸困難は早めの受診が大事
猫の呼吸困難はほとんどが緊急の処置を必要とします。
動物病院に付いた段階で開口呼吸が見られた場合には、すぐに酸素を吸入させます。
苦しい時間を長引かせないためにも、開口呼吸および呼吸困難を見つけた場合には、速やかに動物病院に連れていきましょう。
まとめ
呼吸器の異常が主ですが、その中でも猫に呼吸困難を引き起こす原因は多くあります。
特に基礎疾患を持っている子では、日頃から健康の観察をしていきましょう。
愛猫に突然呼吸困難が現れたら、パニックになってしまうかもしれません。前もって猫の呼吸困難に関する知識をもっておくことで、いざという時に適切な対応ができるようにしましょう。