【獣医師監修】鼻腔や喉の異常?犬のいびきで考えられる疾患とは

皆さんは「いびき」という言葉から何を連想しますか。おそらくポジティブなイメージは無いのではないでしょうか。

ヒトではいびきに関連して睡眠時無呼吸症候群などが問題として挙げられていますが、犬ではどうでしょう。愛犬がある日、急にいびきをかくようになったとき、あなたはどうしますか。

今回は犬のいびきで考えられる疾患について解説します。

犬のいびきの原因

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いぬのいびきの原因は、主に鼻腔の異常と咽喉頭の異常が考えられます。

鼻腔の異常による疾病

  • 鼻腔狭窄
  • 鼻炎
  • 副鼻腔炎
  • 鼻腔内腫瘍
  • 鼻腔内異物

咽喉頭の異常による疾病

  • 軟口蓋過長症
  • 口蓋裂
  • 喉頭虚脱
  • 腫瘍(喉頭、甲状腺など)

それぞれの疾患について詳しく見ていきましょう。

鼻腔の異常

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体温調節などでパンティング(浅く早い口呼吸)をすることもありますが、安静時には多くの犬は鼻で呼吸を行います。鼻からの空気の通り道、すなわち鼻腔に異常がある場合、そこを空気が通るときに音が鳴ります

いびきは「睡眠時の音」を指しますが、起きているときにもガフガフと呼吸をすることもあるかもしれません。また、鼻汁やくしゃみなど他の症状が現れていることも多いです。鼻腔は呼吸に関連しているため、異常が見られた場合には愛犬は少なからず息苦しさを感じているかもしれません。

まずは鼻腔の異常について見ていきましょう。

鼻腔狭窄

【症状】
睡眠時や活動時のグーグーという呼吸音、パンティング、興奮時のチアノーゼなど。
【原因】
短頭種では先天的に起こりやすい。他には感染症やアレルギーにより鼻腔内が狭くなることがある。
【備考】
夏には体温調節がうまくいかず、熱中症になりやすいので注意が必要。

鼻炎

【症状】
鼻汁、くしゃみなど。
【原因】
微生物(細菌、ウイルス、真菌など)の感染、アレルギー(ハウスダスト、花粉)など。
【備考】
アトピー性皮膚炎を患っている犬でも鼻炎症状が見られることがある。鼻の炎症による粘膜の肥厚や分泌物によって鼻腔が狭くなることで睡眠時にいびきが生じることがある。

副鼻腔炎

【症状】
くしゃみ、鼻汁、鼻を気にする動作、鼻づまり、いびき、結膜炎、流涙など。
【原因】
感染やアレルギーによる慢性的な鼻炎からの波及、鼻周囲の外傷、腫瘍などが原因となる。また奥歯(第3,4前臼歯)の歯周病の悪化による炎症の波及も原因となり得る。
【備考】
鼻炎の段階でしっかりと治療を行うことが予防となる。

鼻腔内腫瘍

【症状】
くしゃみ、鼻汁、鼻出血、流涙、瞬膜突出などが初期に見られる。進行すると顔面の変形、眼球突出、呼吸困難、貧血、感染などの重篤な症状が発現する。腫瘍による鼻腔の狭窄によっていびきが生じることがある。
【原因】
腺癌、扁平上皮癌などの上皮性悪性腫瘍が多く、他にも軟骨肉腫、骨肉腫、線維肉腫、悪性黒色腫も見られる。
【備考】
長頭種で中~大型犬の発生が半数以上を占め、短頭種での発生は少ない。

鼻腔内異物

【症状】
突然発症するくしゃみ、鼻汁、鼻出血、いびきなど。放置すると睡眠障害や睡眠時無呼吸により元気消失や食欲不振が見られることがある。
【原因】
草、植物の種などが多い。外鼻腔から混入することもあれば、口に入れたものが鼻咽頭側に逆流して鼻腔内に異物が混入することも多い。
【備考】
小さな異物ならばくしゃみで排出されることも多い。

咽喉頭の異常

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咽頭および喉頭は「のど」のことです。鼻や口から吸い込まれた空気はのどを通って肺に向かいますが、やはりこれらの部位に異常があると空気が通るときに音が鳴ります。特に軟口蓋過長症は臨床の現場でもよく遭遇する先天性疾患です。

睡眠時だけでなく、起床時にも呼吸に影響を及ぼすこともあります。興奮時に空気の取り込みがうまくいかないと、失神やチアノーゼといった危険な状態に陥ることもあるため注意が必要です。

軟口蓋過長症(なんこうがいかちょうしょう)

【症状】
呼吸困難、異常呼吸音、いびきなど。
【原因】
軟口蓋(喉の上側にある柔らかい部分)が通常より長くなることで呼吸が妨げられる。多くは先天性で、短頭種(パグ、シーズー、ペキニーズ、フレンチブルドッグ)に多い。
【備考】
加齢によって症状が現れることも多く、肥満防止が予防に繋がるとの報告もある。

口蓋裂

【症状】
咳、くしゃみ、いびき、鼻汁、食事や飲水中にむせる、鼻から水や食事が逆流するなど。
【原因】
先天的な原因は生まれつき口蓋(口の上の部分)に穴が開いている。後天的な原因は歯周病、外傷、腫瘍などが原因となる。多くは先天性の遺伝性疾患であり、好発犬種はフレンチブルドッグ、ペキニーズなどの短頭種と言われている。
【備考】
発育不良や日常生活での支障が起きやすく、特に誤嚥性肺炎には注意が必要。

喉頭虚脱

【症状】
いびき、鼻を鳴らすような呼吸音、苦しそうな呼吸、開口呼吸など。悪化するとチアノーゼや呼吸困難が見られることもある。
【原因】
外鼻腔狭窄や軟口蓋過長症といった短頭種気道症候群の終末像として見られることが多い。他にも外傷による喉頭軟骨の損傷によっても生じる。
【備考】
外鼻腔狭窄や軟口蓋過長症を早期に治療することによって発症を防ぐことが可能。

腫瘍(喉頭、甲状腺など)

【症状】
鳴き声の変化、いびき、呼吸困難、運動不耐性(疲れやすい)など。悪化するとチアノーゼ、起立不能など。
【原因】
扁平上皮癌、リンパ腫、形質細胞腫などが喉頭に原発性に発生することがある。また、甲状腺腫瘍などの転移が喉頭に現れることもある。しかし、これらの発生は稀で、リンパ腫や甲状腺腫瘍など、喉周りに発生した腫瘍が呼吸を妨げることが多い。
【備考】
喉の中に異常がなくても、喉の周りに異常があることでいびきなどの呼吸異常が発現していることもある。

まとめ

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ヒトでは睡眠外来が一般的になりつつあり、いびきも問題として採り上げられるようになりました。犬でもやはりいびきは注意したい症状なのですが、問題だと感じる飼い主は少ないように思います。

もし、少しでも気になることがあれば、気軽に動物病院までご相談ください。

【獣医師監修】もしかして治療が必要?犬のくしゃみで考えられる疾患

愛犬がくしゃみをしているのを見たことがありますか?おそらくほとんどの方が見たことがあると思いますが、大抵のくしゃみは単発で終わります。

しかし、一日に何度もくしゃみをしているのを見れば、「おや?」と思いますよね。春先では「犬にも花粉症はあるのか」などの質問はよくいただきます。

今回は犬のくしゃみで考えられる疾患について解説します。

鼻腔の異常

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まず、くしゃみの原因として考えるのは鼻腔の異常でしょう。人間でも、アレルギーや風邪によってくしゃみが出ることはよくあります。

年齢やワクチン接種歴などによって考えられる原因は多少異なりますが、犬のくしゃみの原因になる鼻腔異常は以下のようなものがあります。

鼻炎

【症状】
鼻汁、くしゃみなど。
【原因】
細菌、ウイルス、真菌などの感染、アレルギー性(ハウスダスト、花粉など)による。
【備考】
アレルギー性鼻炎が疑われる場合、掃除機や空気清浄機の使用、フローリングでの飼育などによって症状が軽減されることがある。

犬伝染性喉頭気管炎(ケンネルコフ)

【症状】
咳、鼻汁、くしゃみ、えずきなど。進行すると元気消失、食欲低下も見られる。
【原因】
犬アデノウイルスⅡ型、犬パラインフルエンザウイルス、ボルデテラ菌などの微生物の感染による。
【備考】
細菌性肺炎が合併症としては多く、この場合は命に関わることもある。ウイルスについては混合ワクチンで予防が可能。

鼻腔内腫瘍

【症状】
一般的に多い初期症状はくしゃみ、片側性の鼻汁排泄、鼻出血、流涙、瞬膜突出など。進行すると顔面の変形、呼吸困難などが見られる。
【原因】
扁平上皮癌、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、腺癌、悪性黒色腫などが見られる。
【備考】
長頭種や都会犬に多発傾向があると言われている。

鼻腔内異物

【症状】
突然のくしゃみ、鼻汁、鼻出血、いびきなど。重症例では睡眠呼吸障害、睡眠時無呼吸発作を認め元気消失や食欲低下が見られることもある。
【原因】
植物の種、草などが多い。異物は外鼻腔から混入することもあるが、口に入れたものが鼻咽頭側に逆流して鼻腔内に混入する例も多い。
【備考】
症状は劇的で、見逃されると睡眠に影響することもあるため注意が必要。

口腔内疾患

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意外かもしれませんが、くしゃみを主訴に来院する犬で多いのは口腔疾患です。主に歯周病によるものが多いのですが、3歳以上の犬の80%以上が何らかの歯周病を患っていると言われています。

歯周病の原因となる歯垢と歯石の除去には全身麻酔が必要なので、できれば日頃のオーラルケアで予防したいところです。

歯周病

【症状】
口の痛み、口臭、くしゃみ、鼻汁、眼の下の腫れや膿汁排出など。
【原因】
歯石の沈着および歯石の周りでの細菌の増殖によって歯周組織に炎症が起こる。
【備考】
犬の唾液はヒトのものよりややアルカリ性で、歯垢が歯石に変化するのが早い(2〜3日と言われている)。よって歯みがきは毎日行うことが重要。

病気ではないくしゃみの原因

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くしゃみの原因は病気によるものだけではありません。生活環境が変わったなど、何かきっかけがある場合もあります。

いずれも鼻を刺激するようなものですが、人間には気付かないレベルの刺激も犬のくしゃみの原因となり得ます。愛犬がくしゃみを連発するときは、思い当たる節がないか確認してみてください。

また、病気によるくしゃみとの違いとして、鼻汁や鼻出血を伴っているか、何日も続くかなどのポイントにも注目しましょう。

芳香剤

お香、香水、アロマディフューザーなどを自宅で使用している方もいるかと思います。

犬の嗅覚はヒトの100万倍と言われており、我々にとってはわずかな香りでも、愛犬にとっては強すぎる可能性もあります。室内のニオイが気になる場合は、窓を開けて換気をするなど愛犬への配慮が必要です。

香辛料

特にキッチン周りでは、胡椒や各種スパイスなどの香辛料のニオイが残っていることがあります。胡椒でくしゃみをするとは古典的ですが、芳香剤と同様、犬にとっては強いニオイ刺激となることでしょう。

愛犬がくしゃみを連発しているときは、料理で何か香辛料を使用しなかったか確認してみてもいいかもしれません。

殺虫剤

害虫などに対処するために殺虫剤を室内で使用する機会もあると思います。殺虫剤の成分は節足動物にしか効果がないため、通常の使用方法で愛犬に中毒症状が現れることは少ないでしょう。

しかし、殺虫剤のニオイに反応してくしゃみが見られることがあります。換気扇を回す、空気清浄機を使用するなどの配慮は必要かもしれません。

まとめ

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犬のくしゃみは、治療が必要なのかの判断が微妙なものも多くあります。動物病院を受診するか悩む方も多いのではないでしょうか。

くしゃみ以外に鼻汁や咳、口臭などの症状が見られる場合には受診をおすすめします。そうでなくても、異常かどうかの判断がつきにくいようなときにはお気軽に動物病院に相談してください。