人は感動したときやうれしいことがあったときなどに、うれし涙を流すこともあるでしょう。家族や友人と久しぶりに再会し、涙を流した経験がある方もいるかもしれません。
人間では当たり前のように感じる「うれし涙を流す」という行為ですが、このたび発表された研究により、犬も飼い主と長時間離れ離れになったあとに再会すると、涙を流す可能性があることがわかりました。
「犬が涙を流すとはどういうこと?」と疑問に思う方も多いかもしれません。この記事では、「犬が飼い主と再会した際の犬の変化」を調査した論文の内容を簡単にお伝えします。
この記事の目次
涙の役割とは
涙は上まぶたの裏側にある涙腺から分泌され、まばたきをすることで目の表面に広がります。
涙には以下の役割があります。
- 目の乾燥を防ぐ
- 目に酸素や栄養を供給する
- 感染を防ぐ
- 目の表面の傷を治す
- 目の表面をなめらかにする
涙の分泌量は「オキシトシン」というホルモンに関係しています。オキシトシンは「幸せホルモン」や「愛情ホルモン」とも呼ばれており、人同士や動物とのスキンシップによって分泌が増えることもわかっています。
実験と結果①飼い主と長時間における分離後の涙液量の差
Increase of tear volume in dogs after reunion with owners is mediated by oxytocinより
飼い主と一緒にいるときと、5時間以上離れてから再会したときの犬の涙液量を調査した結果、再会した時の方が涙の分泌量が平均15.9%増加したことがわかりました。
また、飼い主以外でも同様の実験を行ったところ、再会後の涙液量に変化がないことから、犬は飼い主と特別な絆を築いていることがわかります。
実験と結果②オキシトシン分泌量と涙液量の関係
Increase of tear volume in dogs after reunion with owners is mediated by oxytocinより
オキシトシンが涙液量に関係があることを調べるため、オキシトシンを犬に点眼しました。すると、オキシトシンの点眼前に比べて涙液量が増加することがわかりました。
これにより、飼い主との分離後に再会することで、オキシトシンの分泌量が増加し、涙液量が増加した可能性が考えられます。
実験と結果③イヌが目を潤ませることによる人間への作用
Increase of tear volume in dogs after reunion with owners is mediated by oxytocinより
犬が目を潤ませることで、人にどのような作用があるのかを調査した実験です。人工の涙を点眼する前のイヌと点眼したあとのイヌを撮影し、その写真を人間が見るとどのような印象を受けるのか比較を行いました。
その結果、涙を点眼して目を潤ませた写真の方が、人は良い印象を受けることがわかりました。
考察
今回の実験により、
- 飼い主との分離再会後に涙液量が増加した
- オキシトシンを点眼した犬は涙液量が増加したことから、オキシトシンが涙液量に関連がある
ことがわかりました。つまり、犬は飼い主との再会によりオキシトシンが分泌され、涙液量が増加したことが示唆されたということです。
また、人は目を潤ませた犬に対して良い印象を受けることから、犬が人に選ばれるようになるというある意味の「生き残り戦略」を取っているのではないかと考えられます。
かつて、ウルウルした目のチワワが出ているCMをきっかけにチワワの人気が爆発的に上がりました。このチワワが人気になったのも、潤んだ目によって守ってあげたいという人間の本能に訴えるものだったのかもしれませんね。
長時間のお留守番が多い場合は見直しを
再会の際に犬が涙を流しているという実感がない方もいると思いますが、お出かけから帰ってきた時に、愛犬が玄関で熱烈に帰宅を歓迎してくれるということもあるでしょう。
今回の実験により、飼い主と5時間離れただけでも、目を潤ませるほどの情動の変化があったことがわかりました。人にとって「たった5時間」であっても、飼い主とのコミュニケーションが大好きな犬にとっては「5時間も放置された」と考えているかもしれません。
もちろん、犬によっては人との密なコミュニケーションを好まない子もいますが、愛犬の様子をよく観察しながらストレスのない環境を整えてあげてください。
まとめ
これまでの研究により、動物は目を保護したり痛みのために涙を流すことはわかっていましたが、犬は飼い主との再会によって涙を流すことがわかりました。人にとって大したことのない時間であっても、犬にとっては長時間飼い主と会えずに寂しい思いをしているのかもしれません。
もし、仕事などで長時間家を空けざるをえないという場合は、一緒にいられるときにたくさん甘えさせてあげてくださいね。そして、可能であれば寂しい思いをさせない工夫をしてあげてください。