クローンとは「遺伝的に同一である個体や細胞やその集合体」のことで、クローン技術を用いることで、ほとんど同じ遺伝的特徴を持った生物を人工的に作り出すことができます。
1996年、世界初の哺乳類クローンである羊の「ドリー」が誕生しました。羊のドリー誕生から20年以上が経った今、クローン技術をペットに適用するビジネスが世界各地で広まっています。
ヒトのクローニングについては反対意見が多く、いくつかの国では法律で禁止されている一方、ペットのクローニングは明確な規制がなく、賛成意見も複数存在します。
クローンペットがビジネスとして広まりを見せている今、私たちはペットのクローニングについても真剣に考えなくてはなりません。
この記事の目次
世界に広がるクローンペットの実態
中国の企業「Sinogene」
中国北京の企業である「Sinogene」は、2019年第1四半期時点ですでに20匹のクローン犬を生み出しており、さらに20匹の予約が入っていると明かしました。
中国ではペット産業が急成長を見せており、ペットを飼っている人は推定7800万人、市場規模は165億ドルにもなると言われています。
Sinogeneは、今後5年以内に年間500匹の犬をクローニングできるまでに成長したいと意気込んでいます。また、Sinogeneでは世界で初めて猫のクローニングにも成功しており、世界中から注目が集まっています。
日本のクローン技術の実態
ヒトのクローンは規制されている
農林水産省によると、人クローン胚を人、または動物の胎内に移植することは 「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律(平成12年12月6日法律第146号)」によって禁止されています。
動物のクローンは禁止されていない
動物のクローン個体の作製に関しては、「畜産、科学研究、希少種の保護等において、大きな意義を有する一方で人間の倫理の問題等に直接触れるものではないことから、情報公開を進めつつ適宜推進する」(平成9年ライフサイエンスに関する研究開発基本計画)という基本方針が出されています。
社会からの批判は根強くありそうですが、動物のクローニングに関しては法的に禁止されているわけではありません。今後、クローンペットを扱う企業が出てくる可能性は否定できません。
クローンペット賛成派の意見
能力の高い働く犬を作り出せる
警察犬や災害救助犬など、強い嗅覚や運動神経を要する犬へのクローン技術の活用が期待されています。
もちろん、クローン技術では犬の訓練等の経験までコピーすることはできないので、クローン犬であっても訓練は必要です。しかし、遺伝的な身体能力の高さはコピーできるので、能力の高い犬を探し出す手間が省けます。
愛するペットは何にも変えられない
愛するペットが死んでしまった悲しみは計り知れません。実際にペットのクローン技術を望んでいる人たちは、愛するペットと姿形がそっくりなペットを再び作り出すことで悲しみを少しでも癒したいと考えています。
クローンペット反対派の意見
他に救いを求めている命があるのに…
世界中には、飼い主を必要としている動物がたくさんいます。シェルターで暮らしている動物もいれば、飼い主が見つからなくて殺処分されてしまう動物もたくさんいます。
クローンペット反対派の中には、高いお金を払ってペットの「コピー」を新しく作り出すくらいなら、救いを求めている他の動物を世話してほしいという意見があります。
自然の摂理に反する
自然の摂理に従えば、動物の命は一度きり。死んでしまえば生き返ることはありません。
もちろんクローンペットは、経験が違えば元のペットと完全に同じペットにはなりません。しかし、全く同じ遺伝子をもった動物を人工的に作り出すことは、自然の摂理に反するのではないかと考える人も多いでしょう。
クローニングが失敗する可能性もある
いくら技術が発達していると言っても、必ずクローニングが成功する保証はありません。依頼主が望む通りのクローンペットができなかったり、何らかの障害を伴って生まれた場合、そうしたクローンペットはどうなるのでしょうか。
人間によって作り出されたあげく、うまくいかなければ殺されたり、不幸な運命をたどることになるかもしれません。
母犬への負担
クローンペットを生み出すにはまず、ドナー犬の卵子から、DNAが収納されている核を除去します。そして、クローンする元の犬の細胞から核を取り出し、卵子の中に配置します。この卵子が胚となったら、代理母の子宮の中に移します。
これらの過程において、ドナー犬や代理母にかかる負担を懸念する声が上がっています。人の手によって卵子を無理やり取り出されたり移植されたりし、強制的に子供を産まされる犬のことを考えると、人間の自分勝手が許されるべきではない、という意見です。
野生化して生態系を壊す可能性
同じ遺伝子をもつ動物を人工的に作り出すのは自然の摂理に反するのではないかという意見をご紹介しましたが、クローンペットが捨てられたり、逃げ出したりして野生化すれば、自然界の生態系を壊すのではないか、という懸念もあります。
犬猫の場合ももちろんですが、今後もしも、クローンペット市場の拡大により、爬虫類や鳥類、魚類など、他の動物のクローンが作られるようになれば、生態系への影響がますます危険視されるでしょう。
これは遺伝子に関わる技術発展において必ず登場する議論ですが、クローン技術が生態系に与える影響は完全には予測できず、取り返しのつかない事態になる可能性もあります。
まとめ
マンガの世界の話のようですが、既に世界ではクローン技術を用いた「クローンペット」ビジネスが広まりつつあります。
愛するペットが死んでしまっても姿形が同じペットが再び手に入るとあって、高いお金を払ってクローンペットを注文する飼い主も少しずつ増えています。
ペットのクローニングはヒトのクローニングに比べて規制が弱く、技術とお金さえあれば生み出せてしまうのが現状です。クローンペットに関しては反対の意見も多く、ビジネスの広まりに伴い今後さらに激しい議論が展開することでしょう。
この機会にペットのクローンについて一度考えてもいいかもしれませんね。もし愛犬や愛猫が亡くなってしまったとき、あなたはクローンがほしいと思うでしょうか?