犬やヒトに寄生し、病害を及ぼす寄生虫に「鉤虫(こうちゅう)」がいます。犬鉤虫症は様々な種類のフィラリア予防薬によって予防できる寄生虫疾患ですが、感染するとどのような症状が現れるか知っていますか?
本記事では犬鉤虫とは何なのか、さらに犬鉤虫による病害や治療法などについて詳しく解説していきます。
この記事の目次
犬鉤虫(こうちゅう)って何?
犬鉤虫は、犬の小腸に寄生する8〜20mm程の細長い線虫です。同じく犬の小腸に寄生する犬回虫(4〜18cm)と比較くしてもかなり小さい寄生虫です。
「鉤」という字のごとく鋭い歯牙を持っているのが特徴で、この歯牙で小腸壁に咬みつき血便や下痢を引き起こします。
また、犬鉤虫の幼虫による感染症は犬だけでなくヒトに現れることがあり、人獣共通感染症として知られています。
犬鉤虫の感染経路と生活環
犬鉤虫の感染経路は経皮、経口、経胎盤、経乳と様々です。それぞれについて見ていきましょう。
犬鉤虫の感染経路①経皮感染
犬において最も一般的な感染経路が経皮感染です。
「経皮」は「皮膚から」という意味で、犬鉤虫の幼虫が皮膚から侵入することを意味します。侵入した幼虫は血流に乗って肝臓、心臓、肺に達した後、気管を遡って咽頭、食道、胃を通過して小腸にたどり着きます。
そして幼虫は、小腸で成虫となり虫卵を産出します。糞便中の虫卵には感染能はなく、虫卵から孵化してある程度成長した幼虫が次の宿主に感染します。
犬鉤虫の感染経路②経口感染
外界に存在している幼虫を口にすることによって感染します。
また、ネズミやゴキブリの体内にも犬鉤虫の幼虫が感染していることがあり、それらを口にすることでも犬に感染します。
犬鉤虫の感染経路③経胎盤感染および経乳感染
経皮感染した幼虫は血液循環に乗ってやがて小腸に到達しますが、抵抗性のある動物では全身循環に入らずに体内の各組織に滞留します。
幼虫が組織に留まっている状態で妊娠すると、胎盤や乳汁を介して新生子に移行します。
犬鉤虫症の症状
犬鉤虫症の症状は病型によって3つに分類されます。
犬鉤虫症の症状①甚急型
生後間もない子犬に見られます。
移行期幼虫による肺出血や肺炎によって、命に関わることもあります。
犬鉤虫症の症状②急性型
重度感染を受けた子犬に見られ、食欲不振、下痢、粘血便、貧血、呼吸困難が認められます。
出血部位が消化管上部(十二指腸や空腸)の場合には、黒いタール様便が見られることもあります。
犬鉤虫症の症状③慢性型
少数寄生の際には、症状が見られないこともあります。
症状が無くても便中には少数の虫卵が排出されますので、他の動物への感染源となります。
ヒトの鉤虫症
経皮感染した幼虫が皮膚の下を動き回る「皮膚爬行症(クリーピングディジーズ)」が見られます。
ヒトは犬鉤虫の固有宿主ではありませんので、体内に犬鉤虫の幼虫が侵入しても成虫になることは少ないと言われています。それでも稀に成虫になった場合には、腹痛、下痢、下血などが起きると報告されています。また、幼虫の経口感染の例もあり、世界で9件以上報告されています。
犬鉤虫症の診断
犬鉤虫の診断は、糞便中の虫卵を検出することによって行います。
愛犬が下痢を起こしている場合には、病院へ便を持参していくといいでしょう。糞便検査によって、他の寄生虫との複合感染を起こしていないかも確認できます。
犬鉤虫症の治療
犬鉤虫に対する根本的な治療と、各症状に対する補助療法を併用します。
根本治療
フィラリア症の駆虫にも用いられるミルベマイシンなどの各種駆虫薬を投与します。
一度の投薬では駆虫しきれないこともあるので、糞便検査をしながら間隔を空けて複数回投与することが一般的です。
補助療法
下痢による水分や電解質を補正するために輸液療法が行われます。
また、鉤虫症では成虫の吸血によって貧血が起こります。貧血が重度の場合には輸血などの治療を行うこともあります。
犬鉤虫症の予防
犬同士の感染蔓延を防止すると同時に、ヒトへの感染を防止するためにも犬鉤虫症の予防が重要です。
定期的な駆虫薬の投与
各製薬会社で販売されているフィラリア予防薬の中には、犬鉤虫の予防にも有効なものもあり、1ヵ月に1回の定期的な投与によって、確実な予防が可能です。
全てのフィラリア予防薬が犬鉤虫に対して有効という訳ではないので、現在愛犬が服用している予防薬が何に有効なのかを把握しておきましょう。不明な場合は、かかりつけの動物病院で確認してみましょう。
清潔な環境の維持
糞便を頻繁に、かつ迅速に除去することが予防に繋がります。
また犬鉤虫は虫卵が感染源ではなく、孵化した幼虫が感染源になります。そのため、幼虫が発育しにくくなるように乾燥状態を保つことも有効です。
さらに飼育施設によっては、床をコンクリート化することで感染予防を行っている場所もあります。
まとめ
犬鉤虫症は、他の線虫症(回虫、鞭虫など)と同様にしっかりと予防すべき寄生虫疾患です。
本記事を読んで頂いたことによって、愛犬の健康を脅かす犬鉤虫を始めとする寄生虫の予防への意識が高まることを期待しています。