【獣医師監修】ヒトへの寄生が危険!エキノコックス症の恐怖とは?

2024.07.30
【獣医師監修】ヒトへの寄生が危険!エキノコックス症の恐怖とは?

多包条虫(たほうじょうちゅう)は、もともとイヌ科動物や猫に寄生しますが、ヒトにも大変重大な病害を及ぼす寄生虫です。エキノコックスという別名で、日本で感染者が出た場合には全国ニュースにもなりますが、一体なぜ、そんなに大騒ぎされる病気なのでしょうか?

本記事では、犬の多包条虫症、およびヒトのエキノコックス症について、獣医師が詳しく解説します。正確に理解し、しっかりと予防につなげて頂ければと思います。

この記事の目次

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多包条虫症・エキノコックス症って何?

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多包条虫とは

多包条虫は、体長1.2~3.7ミリの小さな寄生虫で、犬、キツネ、オオカミ、猫の小腸に寄生して多包条虫症を引き起こしますが、その前にヒトを中間宿主に取り、包虫症(エキノコックス症)を引き起こします。

一般的に寄生虫は、終宿主(多包条虫の場合は犬やキツネなど)よりも中間宿主(多包条虫の場合はヒト)の方が感染した時に重篤な症状を示します。これは、寄生虫にとって終宿主が終の住家となるの対し中間宿主は仮宿であり、早く出ていくために宿主の身体を壊すからです。

エキノコックス症とは

エキノコックス症とは、ヒトなどの中間宿主の肝臓や脳に、「包虫」と呼ばれる袋(嚢腫)を形成し、重篤な病害を引き起こす寄生虫病です。分類学上、Echinococcus(エキノコックス)属の条虫によって引き起こされます。

ヒトに寄生するのは多包条虫の他に、単包条虫(山羊、羊、牛、豚、馬などに寄生)とフォーゲル条虫が知られています。日本では、多包条虫と単包条虫が分布していて、特に多包条虫の感染が北海道を中心に重要な問題とされています。

また、感染症法では「4類感染症全数把握疾患」に分類され、発生した場合には全例を報告することが義務付けられている疾病でもあります。

感染症全数把握疾患とは?
感染症の発生状況を把握・分析し、情報提供することにより、感染症の発生およびまん延を防止するために感染症発生動向調査が行われます。その中でも、発生数が希少、あるいは周囲への感染拡大防止を図ることが必要な疾患として定義されているものが、全数把握対象疾患です。

多包条虫の感染経路と生活環

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多包条虫の虫卵は、犬やキツネの糞便中に排出されます。

その虫卵が中間宿主である野ネズミやヒトなどに摂取されると、小腸内で幼虫が孵化します。
幼虫は小腸壁に侵入し、リンパ流や血流に乗って肺や肝臓に運ばれ、包虫嚢と呼ばれる袋状の構造物を形成して定着・増殖します。

包虫嚢が形成されている中間宿主の内臓を、終宿主である犬やキツネが摂取することで、多包条虫の生活環が完了します。

多包条虫症・エキノコックス症の症状

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多包条虫症の症状

犬やキツネの場合、少数寄生例ではほとんど症状を示さず、軽度の下痢が見られる程度です。
ただし、症状がない場合でも、虫卵は糞便中に大量に排出されるので、そこから感染が広がることが問題です。

ヒトのエキノコックス症の症状

犬よりももっと大きな問題となるのは、ヒトを含めた中間宿主動物が感染した場合です。

好発寄生部位は肝臓で、次いで肺、脳となり、それぞれに障害を与えます。
特徴となるのが長い潜伏期間で、大人で10~15年、小児で約5年もの間、自覚症状がありません。その間、多包条虫の幼虫は各臓器を蝕んでいきます。

肝臓寄生の場合は腹部膨満、腹痛、黄疸、肝機能障害、腹水貯留が見られ、他にも、肺寄生では咳や呼吸困難が、脳寄生では意識障害や痙攣発作などが認められます。

また、包虫嚢が破れて中身が腹腔や胸腔に出ると、強いアナフィラキシー(全身的なアレルギー反応)を引き起こします。病害は重く、治療を行わない場合、90%以上が命を落とすと言われています。

多包条虫症・エキノコックス症の診断

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多包条虫症の診断

多包条虫症は、糞便中の虫卵を検出することで診断できます。
また、最近では、糞便中の虫体由来分泌抗原を検出する方法も実用化されています。

ヒトのエキノコックス症の診断

腹部や胸部のX線検査、超音波検査、CT検査やMRI検査にて包虫嚢の確認をします。また、臨床所見や血液検査で肝機能障害の程度を確認します。

さらに、流行地域での居住歴やキツネなどとの接触歴も診断の助けとなることがあります。
しかし、初期病変の検出は非常に困難と言われており、診断がついた頃にはかなり病状が進行していることが多いです。

多包条虫症・エキノコックス症の治療

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多包条虫症の治療

多包条虫症は、プラジカンテルという駆虫薬の投与によって治療が可能です。

その治療効果はほぼ100%と言われています。

ヒトのエキノコックス症の治療

犬の多包条虫症と同じような駆虫薬の投与では治療できないことがあります。
確実な治療は病変部を外科的に切除することですが、患部が大きすぎたり、脳への寄生の場合には切除が困難です。

切除できない場合の死亡率は5年で70%、10年で94%に達するという報告もあります。

多包条虫症・エキノコックス症の予防

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多包条虫症の予防

多包条虫症を予防するには、犬に、中間宿主であるネズミとの接触をさせないことが大切です。

散歩中などにネズミをくわえさせない、流行地では放し飼いにしないなどの行動が重要です。
飼い犬に多包条虫症の予防を行うことは、ヒトのエキノコックス症を予防することにもつながり、公衆衛生上、大変有意義です。

また、最近では予防薬が販売されており、フィラリア症の予防と一緒に行うことが可能です。流行地域で犬を飼っている場合は、検討すべきでしょう。

ヒトのエキノコックス症の予防

ヒトの場合、同じ中間宿主であるネズミからの感染はありません。人間から人間への感染もありません。

感染源である多包条虫の虫卵が口に入らないように、外出後は手をよく洗ったり、山菜や野山の果実を摂って食べるときは、よく洗うかしっかり加熱をしてから食べたりと、衛生管理にはくれぐれも気を付けましょう。

特に、北海道では多包条虫の汚染が深刻で、野生のキツネに触らない、触った後はよく手を洗うことが呼びかけられています。北海道出身の方にとっては、小さいことからよく耳にしているかもしれません。

まとめ

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動物に関わる私たちのような人々にとって、エキノコックス症発生のニュースは非常に関心のあるトピックスです。

一方、一般の方にそのことを話すと、ニュースを知らなかったり、そもそもエキノコックス症について知らなかったりと、温度差を感じることが多々あります。

エキノコックス症は非常に怖い寄生虫疾患ですから、もっと多くの方にこの寄生虫疾患を知っていただき、発生状況にも興味を持って頂ければと思います。

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