みなさんは、「猫白血病ウイルス感染症」という猫の感染症をご存知ですか?
「白血病」と聞くと、ヒトの場合は抗がん剤の治療を行うようなイメージがありますが、猫白血病ウイルス感染症は、ヒトの白血病とは全く異なります。新しく猫を飼うときなどに、この病気について獣医師から少し説明を受けた方もいると思います。
本記事では、猫白血病ウイルス感染症について、獣医師が詳しく解説していきます。
この記事の目次
猫白血病ウイルス感染症って何?
猫白血病ウイルス感染症は、レトロウイルス科である「猫白血病ウイルス(FeLV)」によって引き起こされる感染症です。
感染猫は世界中で一般的に認められており、日本でも外猫や、ストレスのかかる過密環境下では多く見られます。
また、食欲不振や元気消失などの非特異症状から、免疫不全やリンパ腫の発生など、厄介な病態を引き起こします。
感染力も強く、毛づくろいや食器の共有によって容易に感染が成立します。
猫白血病ウイルス感染症の症状
一般的には食欲不振、元気消失、沈鬱などの非特異的な症状が見られます。
問題となるのは、以下の病態が発現した時です。
リンパ腫
FeLVは、ウイルスの遺伝子型によっては、猫にリンパ腫を起こすことが知られています。
特にFeLV陽性の若齢猫は、胸腺などに縦隔型リンパ腫の発生が多く、腫瘍で圧迫されて呼吸困難になることがあります。
また、腎臓にリンパ腫が発生した場合には腎腫大や尿毒症が、眼にリンパ腫が発生した場合には眼瞼痙攣や縮瞳、眼球混濁が見られます。
免疫不全症
すべての猫に認められるわけではありませんが、猫白血病ウイルス感染症ではしばしば免疫不全症があらわれることがあり、これによって難治性の口内炎が発生します。
また、細菌の二次感染も起こることから、経過の観察にも注意が必要です。
猫白血病ウイルス(FeLV)の感染経路
FeLVの感染は接触感染し、唾液や鼻汁が媒体と考えられています。
他にも、経胎盤感染や経乳感染、交尾によっても感染します。
しかし、ウイルスに感染するかどうかは、猫の年齢、免疫状態、ウイルスの亜型、株、ウイルス量によります。
一般的に、新生子ではウイルスに曝露された場合、80~100%の確率で持続感染が成立し、生涯にわたりウイルスを排出し続けます。
一方、生後3ヵ月を超えると持続感染成立は25%に減少し、1歳齢になると持続感染は成立しなくなります。
猫白血病ウイルス感染症の診断
動物病院では、血液中のFeLV抗原を検出する簡易キットを使用します。
この簡易キットでは、猫免疫不全ウイルスの診断にも用いられ、同時に検査できます。しかし、感染初期(4~6週間)ではウイルス抗原が検出されないので、注意が必要です。
持続感染の有無
簡易キットを用いた検査で陽性と判定されたら、1ヵ月後に再検査を行い、陰転した場合にはさらにもう1ヵ月後に検査を行います。そして、そこでも陰性と判定されたら感染は終結したと考えます。
一方、最初の陽性から4ヵ月後も陽性ならば持続感染と診断します。
猫白血病ウイルス感染症の治療
ウイルスを直接排除する治療法はないため、個々の疾患に対する「特異的治療法」あるいは、「対症療法」が行われます。
輸液療法
食欲不振に対して、栄養や水分の補給のために静脈点滴を行います。
もちろん、栄養はなるべく口から摂取することが望ましいので、食欲が改善してくれば輸液はストップします。
抗菌薬
免疫不全症に対しては、長期間の抗菌薬の投与が必要です。
細菌による二次感染や敗血症は命を落とす原因となりうるために、抗菌薬治療は重要です。
化学療法
リンパ腫を始めとする腫瘍発生症例に対しては、抗がん剤を用いた化学療法を行います。
FeLVに感染していてもいなくても、腫瘍に対する治療成績に差はないと言われています。
輸血
骨髄が浸蝕されることによって、貧血が起こる場合があります。
この貧血は鉄剤や造血剤などには無反応であることが多いため、状態の改善のためには輸血が必要です。
猫白血病ウイルス感染症の予後
猫白血病ウイルス感染症の予後は悪く、感染から4年以内に死亡すると言われています。
また、リンパ腫についてもFeLV陰性症例と比較しても予後不良という報告があります。
猫白血病ウイルス感染症の予防
猫が健康的な生活を送るためには、FeLVに感染しないことが重要です。とても危険な病気ですから、予防法はしっかりと確認しておきましょう。
感染猫との接触を防ぐ
確実に予防するためには、完全室内飼育が最も良い方法です。FeLVは猫の体外では非常に不安定なため、感染猫との接触がなければ完全な予防が可能です。
多頭飼育の場合、FeLV陽性猫とFeLV陰性猫は隔離し、飲水や食事用の食器は完全に分けましょう。
ワクチンはあるが100%ではない
FeLVに対するワクチンもありますが、確実に感染を予防できるわけではありません。
逆に、室内飼育によって感染の恐れがない猫には、むやみに接種する必要はありません。
ワクチン接種後肉腫に注意
猫白血病ウイルス感染症ワクチンでは、1,000~10,000頭に1頭の割合で注射部位に線維肉腫が発生することが報告されています。
このことからも、ワクチンは全ての猫に必須ではなく、家の外に出ることのある猫にのみ接種することが推奨されます。
まとめ
猫白血病ウイルス感染症は、猫の健康を著しく脅かす怖い感染症です。
大事な愛猫の健康を守るため、できるだけ感染を防げるような生活環境を整備してあげましょう。
欧米諸国では、ワクチンの導入と隔離・検査の徹底により、FeLV感染は減少傾向にあります。日本でも飼い主の皆様の意識によって、感染が減少することを期待しています。