猫鉤虫は、猫の小腸に寄生して消化器症状を呈する寄生虫で、ヒトへの感染例もあることから、人獣共通感染症として知られています。
しかし、猫鉤虫は小さくて目に留まりにくいため、猫鉤虫がどんな寄生虫なのか知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、予防したい寄生虫疾患の一つである猫鉤虫症について、獣医師が詳しく解説していきます。
この記事の目次
猫鉤虫(こうちゅう)とは
猫鉤虫は成虫が10~15mm程度の小さな寄生虫です。宿主の小腸に咬みつくための歯牙がついていることから、「鉤虫」という名前が付けられています。
虫卵は非常に小さいため、肉眼で確認することはできません。
猫鉤虫の感染経路と生活環
感染は、感染幼虫の経皮感染および経口感染によるものが一般的です。
経皮感染の場合、土壌中や湿った環境中に存在する感染幼虫が、皮膚に咬みついて体内に侵入します。母猫からの経乳感染も報告されており、生まれたばかりの子猫でも猫鉤虫に感染している可能性があります。
経乳感染の場合には、猫鉤虫の幼虫が口腔粘膜に咬みつき、血流に乗って気管型移行を行います。
気管型移行って何?
気管型移行とは、皮膚や母乳を介して宿主体内に侵入した感染幼虫が、血流に乗って肝臓、心臓、肺の順に移動することです。
肺に達した後は気管を上り、咽頭、食道、胃を経て小腸に戻って成虫になります。猫鉤虫の成虫は小腸内で産卵し、糞便とともに虫卵が排出されます。
猫鉤虫症の症状
少数感染では無症状で経過することが知られています。
しかし、多数感染では、主に子猫に食欲不振、体重減少、粘血便、貧血が見られます。
また、体内を移行する幼虫によって、肺炎や肺出血が引き起こされることがあり、場合によっては命に関わります。
ヒトにも感染する?
猫鉤虫の感染幼虫がヒトの体内に侵入しても、成虫まで発育することは基本的にありません。しかし、皮膚から侵入した感染幼虫が皮下を這って歩くと、激しい痒みや不快感を引き起こします。
感染リスクのある地域で、素手で土を掘ることや裸足で歩くことが感染に繋がります。
また、ヒトにおける猫鉤虫幼虫爬行症の治療では、皮下を這い回る幼虫を直接摘出します(想像するだけで恐ろしいですね)。
猫鉤虫症の診断
猫鉤虫症は、糞便検査によって、猫鉤虫の虫卵を検出して診断します。
顕微鏡で観察することで他の寄生虫卵との鑑別は可能ですが、さらに正確に調べるには、虫卵を培養して孵化した幼虫の形態から鑑別診断を行います。
小腸の出血によって血便が見られるため、それに気づいて動物病院を受診される方が多いように思います。
猫鉤虫症の治療
原因となる猫鉤虫の駆虫には、「ベンツイミダゾール」などの抗線虫薬を投与します。
また、犬糸状虫の予防にも用いられている「イベルメクチン」や「ミルベマイシン」を投与することもありますが、犬の犬鉤虫症に比べると反応は悪いといわれています。
駆虫薬投与後、期間を空けて再度糞便検査を行い、虫卵が排出していないことを確認します。
また、母猫からの経乳感染を起こしていることもあるため、生後6週齢以降の子猫には糞便検査の結果に関わらず駆虫薬を投与することが望ましいとされています。
対症療法
貧血が重度の場合には止血剤の投与や輸血を行います。
また、子猫の重症例では栄養や水分補給を目的として輸液を行うこともあります。
猫鉤虫症の予防
環境整備
屋内飼育の場合は、根気強く駆虫と環境整備を行います。
猫鉤虫症の感染源は幼虫であり、便とともに排出されたばかりの虫卵を感染源とする回虫などと比較すると、環境整備は容易といえます。
具体的な予防策としては、感染猫の便を迅速に除去し、虫卵が孵化するまで長い時間放置することを避けます。
また、感染幼虫の発育に必要な温暖湿潤な環境をなくすため、床をコンクリートにするなどの対策を取る施設もあります。
他の寄生虫と一緒に予防
屋外での生活サイクルを持つ猫はもちろん、室内飼いの猫もできるだけ、予防薬を用いて猫鉤虫の予防を行いましょう。
既に定期駆虫としてノミやマダニ、犬糸状虫などの感染を予防する薬剤を投与している方も多いと思います。
使用しているものによっては猫鉤虫も同時に予防できる薬剤もあるため、一度かかりつけの獣医さんに確認しておくといいでしょう。
冬季でも定期駆虫を
春や夏に比べて、冬はノミやマダニが少ない季節だといわれています。猫鉤虫の発育にも15℃以上の環境が必要なため、屋外では幼虫は発育できません。
しかし、服や靴に付着した虫卵を外環境から室内に持ち込んでしまった場合には、冬季でも猫鉤虫症の発生はありえます。
季節に関わらず、一年を通して予防薬の投与を続けた方が安心です。
まとめ
猫回虫などと比較して、猫鉤虫はあまりメジャーな寄生虫ではないと感じる方もいるかもしれません。
しかし、感染経路が豊富なことや、ヒトにも感染する可能性があることから、決して無視はできない寄生虫疾患です。
他の寄生虫疾患と同様、定期的な駆虫を徹底し、愛猫の健康を守っていきましょう。