愛犬の便がゆるいという経験をしたことがありますか?おそらく、犬を飼っている多くの方が「はい」と答えるでしょう。
便がゆるい状態は、少し柔らかいくらいの軟便から、完全に水のような下痢の状態まで、程度は様々です。何日も軟便下痢が続くと心配ですよね。
今回は、犬の下痢について、考えられる病気を獣医師が詳しく解説します。
この記事の目次
下痢の理由は様々
下痢は犬にとっても珍しい症状ではなく、その原因は様々です。
病気の中でも色々な可能性が考えられますし、病気ではない場合もあります。
今回の記事では、下痢の原因を以下の4つに分けて考えます。
- 腸の疾患
- 腸以外の内臓疾患
- 内分泌疾患
- 病気でない下痢
下痢の理由①腸の疾患
下痢を起こしている時にまず疑うのは、腸の異常です。
腸の疾患は糞便検査で診断できるものもあれば、内視鏡検査を行わないと確定診断できないものまで様々です。
来院の際には便を持参して頂けると診断がスムーズかもしれません。
細菌性腸炎
【症状】
発熱、下痢、脱水、腹痛など。原因となる細菌によって血様下痢や大腸性下痢を呈する。
【原因】
サルモネラ、カンピロバクター、クロストリジウム、大腸菌などの細菌。
【備考】
これらの細菌はヒトにも感染する可能性があるので、下痢便の取り扱いには注意したい。トイレ掃除の後は石鹸でしっかりと手を洗うこと。
ウイルス性腸炎
【症状】
原因となるウイルスによって様々だが、元気消失、食欲低下、嘔吐、下痢などが見られる。パルボウイルス感染症では血様下痢、犬ジステンパーでは呼吸器症状や神経症状も見られる。
【原因】
犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルス、犬コロナウイルスなど。
【備考】
上記ウイルスに対してはワクチンが存在する。子犬ではウイルス感染が致命的となることも多いため、しっかりとワクチン接種を行うことが推奨される。
寄生虫性腸炎
【症状】
元気消失、食欲減退、下痢、削痩など。回虫類の感染では肺炎を、犬鉤虫や犬鞭虫の感染では血便を呈することがある。
【原因】
犬回虫、犬小回虫、犬鉤虫、糞線虫、犬鞭虫といった線虫や、ジアルジア、マンソン裂頭条虫などの感染による。
【備考】
寄生虫によってはヒトに感染するものもあるため、糞便の扱いには注意が必要。
炎症性腸疾患
【症状】
慢性的な嘔吐、下痢、体重減少、食欲不振、腹鳴、腹痛など。
【原因】
小腸や大腸の粘膜に炎症細胞が浸潤することで引き起こされるが、その原因は不明。
【備考】
確定診断には腸の内視鏡下生検が必要であり、時間がかかることもある。
リンパ管拡張症(蛋白漏出性腸炎)
【症状】
下痢、軟便、腹水、体重減少、胸水とそれに伴う呼吸困難など。
【原因】
リンパ管が通過障害を起こし、腸管腔内に蛋白質などが大量に漏出した結果、下痢や腹水などの症状が現れる。原因としてはリンパ管閉塞、リンパ腫、心外膜炎などが考えられているが、ほとんどは特発性(原因不明)となっている。
【備考】
血液検査、画像検査、生検などの検査を組み合わせて診断を行う。
下痢の理由②腸以外の内臓疾患
もちろん腸の疾患以外でも下痢が見られることも多くあります。
これらの疾患では下痢以外の症状も呈することが多いため、愛犬の体調を説明できるように把握しておきましょう。
膵炎
【症状】
突然の激しい嘔吐、嘔吐、腹痛、下痢、黒色便、元気消失など。
【原因】
膵臓からの消化酵素の活性異常によって自己組織を消化することで強い炎症が起こる。誘発因子としては、高脂肪食の多給、膵臓の損傷、血管系の障害による膵臓の虚血などが挙げられる。
【備考】
膵炎が進行し重度になると、十二指腸や肝臓に合併症を引き起こし問題となる。また、全身性炎症反応症候群(SIRS)や播種性血管内凝固(DIC)も起こりやすく、危険である。
膵外分泌不全
【症状】
大量の正常便、軟便、水様便、激しい食欲亢進と体重減少が見られる。
【原因】
遺伝的、または成犬になってから膵腺房細胞の萎縮によって発生すると考えられている。
【備考】
膵臓からの消化酵素が不足することで消化吸収不良の症状が現れる。
下痢の理由③内分泌疾患
ホルモンのバランス異常による疾患でも下痢が見られることがあります。
これらも下痢以外の症状が見られることが多くあるので、日頃の体調チェックはしっかりと行ってくださいね。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)
【症状】
体重減少、食欲不振、嘔吐、下痢、多飲多尿、徐脈、低体温、震え、痙攣など。
【原因】
副腎から分泌されるホルモンの減少による。犬では特発性の副腎萎縮によるものがほとんどである。
【備考】
重度の副腎不全はアジソンクリーゼと呼ばれ、速やかに循環改善及びホルモン補充療法を行う必要がある。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、多食、体重減少、肥満、嘔吐、下痢、脱水、感染症、白内障など。
【原因】
犬ではインスリンの分泌低下によるものが多いと言われている。発症素因としては加齢、肥満、環境などが挙げられる。
【備考】
メスはオスと比較して2〜3倍発症が多いとされており、これは発情関連糖尿病によるものと考えられる。発情後の血糖値測定や早期の避妊手術によって発症リスクの低下や早期発見を目指す。
下痢の理由④病気ではない下痢
下痢の中には、病気ではない一時的なものもあります。
しかし、病気かそうでないかを見た目で判断することは困難です。
調子がおかしいなと感じたら動物病院の受診をオススメします。
消化不良
【原因】
食べ過ぎ、早食い、ゴミあさりなど。
【備考】
一時的な下痢で、全身状態は悪くない。下痢のみを主訴とする。
乳糖不耐性下痢
【原因】
牛乳の給与。
【備考】
乳頭分解不全による下痢で、摂食中止で良化する。
ストレス
【原因】
引っ越しなどによる環境の変化、留守番が長いなど、様々。
【備考】
犬が落ち着ける環境を整え、犬と適切にコミュニケーションをとることが重要。
まとめ
下痢を放置すると脱水や電解質異常(ミネラルバランスの異常)が起こる可能性があります。
愛犬自身にとっても下痢が続くことは不快なはずです。
体調不良を察知したら速やかに動物病院までご相談ください。