皆さんの「利き手」は左右のどちらでしょうか。ほとんどの人間には利き手があり、世界の約90%は右利き、約10%は左利きだとされています。
動物の「利き手(足)」については、近年まで利き手があるのは人間だけだと考えられていましたが、最新の研究で多くの哺乳類に利き手(足)があると判明しています。
それでは、犬の場合はどうなのでしょうか。今回は犬の「利き足」について解説していきます。
この記事の目次
犬の利き足の実験
犬の「利き足」については、イギリス・リンカーン大学の研究チームが1万7901頭の犬を対象にした実験で明らかにしています。
その実験では、犬の前足が入る程度の幅の容器を使い、その中にエサを置きます。犬は前足を使って容器の中のエサを取ろうとしますが、その中で「1.ほとんど右の前足を使う(右利き)」、「2.ほとんど左の前足を使う(左利き)」、「3.どちらを使ったのか判別が難しい(両利き)」の3つのどれに当てはまるのかを調査しました。
その結果、全体の74%の犬が左右どちらかの利き足を持っていることが判明し、そのうち右利きは58.3%、左利きは41.7%でした。やや右利きが多いものの、人間ほどの大きな差は出ませんでした。
なぜ右利きのほうが多いのかという点については、「エサを食べるなどの日常的な動作の指示は左脳が担当する。脊椎動物は左脳が右半身を制御するため、右前足を使っていると考えられる。」としています。
利き足には性差がある!?
犬の利き足には性差があることもわかっています。先述した研究チームの調査では、次のような結果になりました。
性別 | 右利き | 左利き |
---|---|---|
オス | 56.1% | 43.9% |
メス | 60.7% | 39.3% |
全体 | 58.3% | 41.7% |
性差による違いは猫も同様で、オスの方が左利きは多いとされています。人間でも同じで日本人の場合、左利きは男性が3.6%、女性は2.7%で、男性の方が多い結果となっています。
オスの方が左利きの割合が多い理由については定かではありませんが、性ホルモンが利き手に影響を与えている可能性があると考えられています。
利き足と性格は関係する!?
英クイーンズ大学ベルファスト校准教授のデボラ・ウェルズ氏の論文では、利き足と性格に関連があるとしています。例としては次のような特徴があげられます。
- 両利きの犬は左右どちらかが利き足の犬より攻撃性が高い傾向にある
- 利き足がはっきりしない犬は、録音された雷や花火の音に強く反応する
- 左利きの犬は右利きよりも状況によりストレスを示しやすい
また、犬も人間と同じで右半身をつかさどる「左脳」はポジティブな感情を担っており、左半身をつかさどる「右脳」は恐怖や不安などのネガティブな感情に関係しています。そのため、何か課題をこなす時に左足を使う犬は、右足を使う犬よりネガティブな感情を抱いている可能性があります。
ただ、犬の性格を利き足だけで判断するのは難しいのだそうです。他の性格テストやしっぽの振り方など併せて考えることで、その犬への理解が深まるとウェルズ氏は語っています。
利き足は空間認識にも影響する!?
イタリア・バリ大学獣医学部の研究チームにより、空間処理の優位性と利き足との関係が明らかになりました。
15×8=120区画の仕切りがある特殊な容器におやつを入れ、中央から右側と左側のどちらが優先的に選ばれるかを調べました。
(参照:Relationship between visuospatial attention and paw preference in dogs | Scientific Reports)
空間処理の優位性は、中央より右側のおやつをたくさん食べたときは「右の視野が優先」、逆に中央より左側のおやつをたくさん食べたときは「左の視野が優先」と定義しています。
その結果、次のような事実が判明しました。
- 「右利き」の犬は右の視野を優先的に処理する
- 「左利き」の犬は左の視野を優先的に処理する
- 両利きの犬は視野の処理に優先順位がない
この研究結果は犬のトレーニングにも応用できる可能性があります。例えば、指で犬に指示を出す「ハンドシグナル」を出す時、その犬が見やすい位置に出すことで上手くトレーニングができるかもしれません。また、犬を飼い主の横に歩かせる「ヒール(ツケ)」を教える際も、右側にするか左側にするかの判断材料になるでしょう。
犬の利き足を調べる方法
最初にご紹介した実験では、犬の前足が入る程度の幅の容器にエサを入れ、取り出す様子から犬の利き足を調べていましたが、その他の犬の利き足の調べ方をご紹介します。一つの方法での判別は難しいので、複数を試して判断します。
「お手」で調べる
一番簡単なやり方は「お手」をさせて頻繁に差し出す足がどちらなのかチェックする方法です。「お手」のような反復練習で覚える動作の場合、犬が差し出す足は「利き足」であることが多いと言われています。
「コングテスト」で調べる
有名な犬用玩具の「コング」におやつを詰め、コングが動かないように固定するのに利用した足を利き足として調べる方法です。有名なテストですが、両足で押さえてしまうことも多いようです。
最初に踏み出す足を観察する
人間と同じ様に、犬も利き足から歩き出す傾向があります。「マテ」をさせておき「オイデ」と呼んだ時に、どちらの足を先に動かすかを見ると判断しやすくなるでしょう。動画で撮影するとよりわかりやすくなります。
まとめ
今回は犬の利き足についてご紹介しました。ご自身の愛犬の利き足がどちらなのか、気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、犬の利き足は人間の利き手ほど判りやすいものではありません。いろいろなテストをしたり、様々な場面を観察したりしていると、だんだんわかってくる場合が多くあります。
地道な方法ではありますが、観察を続けることで愛犬の新たな一面が発見できるかもしれませんので、試してみてはいかがでしょうか。