「犬は飼い主に似る」ということわざがありますが、それを自覚していたり、人から指摘された経験のある方もいるかもしれません。実は、このことわざは、科学的にも研究で裏付けられています。
今回は、飼い犬と飼い主が似る理由について、さまざまな研究の結果を交えながら解説していきます。
この記事の目次
飼い主と顔が似るって本当?
犬と人間では顔の作りが違いますから、そっくりというわけにはいきません。しかし、犬とその飼い主を見て「どこか顔の雰囲気が似ている気がする」「目のあたりがなんとなく似ている」と感じたことがあるかもしれません。
このように、雰囲気が似ていると感じることの多い、犬と飼い主の顔ですが、果たして本当に似ているのでしょうか。
関西学院大学の研究
2009年、関西学院大学の中島定彦教授らの研究グループは「犬と飼い主の顔が似ていること」を実証しました。この研究では、次の2つの実験が行われました。
- 実験1:70人の参加者に犬と飼い主の写真を見せ、犬と飼い主を正しく組み合わせてもらう。
- 実験2:186人の参加者に、犬と正しい飼い主をペアにした写真20組「セットA」と、正しくない飼い主とペアにした写真20組「セットB」を用意し、どちらが「正しい組み合わせ」かを判断してもらう。
実験の結果
実験1では、偶然水準である50%を有意に上回る正答率が得られました。
また、実験2では、62%(115人)が正しい組み合わせである「セットA」を選びました。さらに、別の参加者にセットAとセットBのどちらが「飼い主と似ているか」を判断させたところ、66%(124人)がセットAを選択しました。
「顔が似てくる」わけではない…?
この結果を受けて、中島教授は、飼い主と犬の顔が似ている理由は未解明だとしながらも、見慣れたものに好感を抱く「単純接触効果」が関与しているのではないかと分析しています。
これにより、普段よく見ている自分の顔とよく似た犬を飼い犬として選んでいる可能性が示唆されました。
「犬と飼い主の顔が似ている」ことを実証―中島教授の論文が英国の学術誌に掲載 | 関西学院大学
https://www.kwansei.ac.jp/news/detail/news_20090511_003037.html
決め手は「目」?
その後も研究を続けた中島教授は、2013年に犬と飼い主が「顔」の中でも「目」が似ていることを明らかにしました。
今後の研究が進むことで、犬と飼い主が似ていると判断される際に、目のどんな特徴が重要なのかが解明されれば、なぜ犬と飼い主が似ているのかが、より明確になるかもしれません。
犬と飼い主は目が似ていることを発見~英国の学術誌Anthrozoösに掲載~ | 関西学院大学
https://www.kwansei.ac.jp/news/detail/press_20131023_008374.html
飼い主と性格が似るって本当?
犬の性格も人間と同じく千差万別ですが、顔と同じように飼い主と飼い犬の性格も似るということが調査で明らかになっています。
社会心理学者の研究
米ミシガン州立大学の社会心理学者、ウィリアム・J・チョピク氏は、犬の性格に関する研究を行い、飼い主と飼い犬の性格に関する調査を実施しました。この研究では、1681頭の犬の飼い主に対し、犬の行動や性格に関するアンケートが実施されました。
調査結果
調査の結果、飼い主と飼い犬の性格に類似点が見られることが判明しました。
チョピク氏は、この性格の類似性について、いくつかの説を提唱しています。ここでは、その中から2つの説を紹介します。
1.性格が合う犬を選んでいる
飼い主と飼い犬の顔が似ている場合と同様に、飼い主は自分の性格やライフスタイルに合った犬を選ぶ傾向があります。これは、友人やパートナーを選ぶ際に、自分に合った性格の人を選ぶのと同じです。
例えば、外向的な飼い主は活発な犬を、落ち着いた性格の飼い主は穏やかな犬を選ぶことが多いと考えられます。
2.生活していく中で似てくる
飼い主と犬が共に過ごす時間や、共有する活動が互いの性格に影響を与えることがあります。
例えば、外向的な飼い主が犬を頻繁に社交的な場に連れて行くと、犬も人に対して社交的になることが考えられます。このように、飼い主と犬が過ごす環境や活動が、性格を似せる要因になる可能性があります。
参考論文
William J.Chopik(2019)”Old dog, new tricks: Age differences in dog personality traits, associations with human personality traits, and links to important outcomes”
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092656618301661
飼い主としぐさも似てくる?
犬が人間の行動を真似できることは、広く知られています。実際、ドッグトレーニングの分野では、人間の行動を犬が観察し、それを通じて新しい行動を習得する「社会的学習」を用いたトレーニング方法が使われています。
ご褒美がなくても人間を真似る
ドッグトレーニングでは、基本的に褒めたりおやつを使ったりして、人間の行動を犬に教えます。しかし、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究では、子犬がご褒美をもらえなくても、人間の行動を模倣することが明らかになりました。
動物の子供は通常、親や群れの年長者を真似て学習しますが、その真似はエサの取り方など、メリットに基づいた行動が中心です。しかし、子犬の場合、メリットがなくても飼い主(親)を真似る性質があるようです。
参考論文
Spontaneous action matching in dog puppies, kittens and wolf pups
https://www.nature.com/articles/s41598-023-28959-5
実際に犬を飼っている人々からは、家でのんびりする様子やあくびのタイミングなど、自分の行動が愛犬と似ていると感じたり、家族に指摘されたりすることがよくあると聞きます。
もしかしたら飼い犬は普段から一緒にいることの多い飼い主のしぐさを無意識に真似しているのかもしれませんね。
まとめ
今回は、飼い主と飼い犬の顔や表情、性格が似る理由についてご紹介しました。飼い主と飼い犬が似るという話はよく聞きますが、実際に実験や調査によって裏付けられているとは驚きですね。
飼い主にとって、愛犬は最高のパートナーであることに間違いありません。家族として長い時間を過ごしている以上、似ているのも当たり前のことかもしれませんね。