犬好きのみなさんは、犬に見つめられると「かわいい!」「愛おしい!」と感じますよね。
実は犬の眼差しは、進化の過程で人間の好みに合わせて発展したことをご存じですか?
また、犬と人間が見つめ合うと双方で「幸せホルモン」であるオキシトシンの濃度が高まることも実証されています。
今回は、人間との生活の中で長い時間をかけて培われた犬の「愛され目力」について、さまざまな実験・研究結果を元にご紹介します。
この記事の目次
オオカミにはない犬の目の周りの筋肉
イギリス・ポーツマス大学の研究者たちは、イギリスのシェルターに保護されている犬27匹と、動物園で飼われているハイイロオオカミ9匹の比較実験を行いました。
愛され目力を作り出す筋肉
犬とオオカミの顔の筋肉組織を比較したところ、両者の筋肉組織は似通っていますが、目の周りの筋肉だけは犬の方が発達していることがわかりました。
その筋肉とは、眉の内側を上に引き上げる筋肉で、目を大きく見せたり、悲しげな子犬のような表情を作り出すことができます。
人間との交流でその力を発揮する
同研究は、人間との交流の際、人間を見つめて眉頭をあげるという行動を頻繁に行うのは、犬だけであることも解明しました。
なお、犬は犬でもオオカミに近いシベリアンハスキーには眉の筋肉の発達は見られなかったということです。
また、シェルターに保護されている犬の中でも、とくに眉の筋肉を使って人間を悲しげに見つめる犬ほど、引き取り手がより早く見つかることもわかりました。
犬の愛され目力は人間との生活で発達した
長い歴史を持つ犬と人間の関係
オオカミが家畜として人間に飼われるようになった過程には諸説あり、昔から多くの研究者がその歴史を探ってきました。
オオカミが家畜化して犬になったのは、今から約3万〜1万5000年前と言われています。はっきりとした時代や進化の経緯、具体的な場所等は未だに謎に包まれていますが、人間と犬が長きにわたって生活を共にしてきたことは確かです。
人間好みに発達した犬の愛され目力
ポーツマス大学の研究チームは、人間が長い歴史の中で好ましいと感じる犬、かわいいと感じる犬を選別して飼ってきた結果、ほぼ全ての犬が愛らしい表情を作れるようになったと考えています。
つまり、人間がオオカミを家畜化して一緒に生活することがなければ、この表情筋は発達しなかったと言っても過言ではありません。
犬の愛され目力が人間の好みに沿って発達してきたことを考えると、私たち人間が犬たちを「なんてかわいいんだろう」と愛おしくなるのも納得です。
「愛おしさ」を作り出すオキシトシン
犬の愛おしい目の表情が人間との生活によって形成されたことがわかりましたが、実は人間が犬と見つめ合ったり触れ合ったりすることで生まれる「愛おしさ」を生物学的に裏付ける研究がいくつか報告されています。
麻布大学の菊水教授(2015年)は、人間と犬が見つめ合ったり触れ合ったりすると、双方でオキシトシンの濃度が高まることを実証しました。
オキシトシンは母子の絆を強くする
オキシトシンは多様な脊椎動物種が分泌するホルモンで、メスが妊娠出産する際に濃度が高くなり、養育行動の活性化に貢献するとされています。
マウスの母子を用いたある実験では、母子の間でオキシトシン神経系の刺激を介した「ポジティブ・ループ」が形成されることがわかりました。
ポジティブ・ループとは、「妊娠出産で母親のオキシトシン神経系が活性化→母親の養育活動の促進→養育を受けた子どものオキシトシン神経系が活性化→子どものアタッチメント行動(泣く、甘える)の促進→母親のオキシトシン神経系をさらに活性化・・・」というループのことを言い、母子間の生物学的な絆をさらに強くします。
オキシトシンは人間と犬の絆も強くする
その後の実験で、犬と人間の間にもマウスの母子のようなポジティブ・ループが存在することが発見されました。
犬が人間を見つめる行為は、マウスの実験で言うところの、子どもが母親にとる「アタッチメント行動」にあたります。犬に見つめられた人間は、オキシトシン神経系の活性化により、犬を撫でる、話しかけるなどの「養育活動」を行います。養育活動により犬のアドレナリンが活性化し、さらにアタッチメント行動をとり・・・といったような具合です。
オオカミと人間の間には視線とポジティブ・ループの関係が見られなかったことからも、犬が人間との長い関係の中で、人間との絆を築くスキルを身につけたことは想像に難くありません。絆を強化するポジティブ・ループによって、犬と人間の信頼関係・協力関係はより強いものになっていったのでしょう。
犬好きでない場合はその効果も薄い
ここまでで、人間と犬が見つめ合ったときに生まれる「愛おしさ」は、ホルモンレベルで説明できることがわかりました。これは全ての人間に共通することなのでしょうか?
なんと、犬好きでない人と犬が見つめ合ってもオキシトシン神経系は刺激されず、オキシトシン濃度はほとんど上昇しないそうです。
オキシトシンのさらなる効果
オキシトシンは、「幸せホルモン」や「思いやりホルモン」と呼ばれることもあり、高濃度化することで養育活動やアタッチメント行動の促進以外にもさまざまなメリットがあると言われています。
例えば、ストレス解消、感染症予防、学習意欲の向上、心臓の機能を上げる、社交的になるなどがオキシトシンの効果です。
犬好きの人が犬と見つめ合うだけでこんなにいいことがたくさんあるなんて、とても素晴らしいと思いませんか?これにより、人間は精神的、肉体的にもポジティブな影響を与えられ、より充実した生活ができることが科学的にも証明されているのです。
犬の愛され力は進化の証
犬は人間との長い歴史の過程で、さまざまな進化を遂げてきたことがわかりました。
目の周りの筋肉の発達により、犬は人間に「かわいい」と思わせるような眼差しを作れるようになりました。
また、犬と人間が見つめ合うことで双方のオキシトシン神経系が活性化し、ポジティブ・ループによって絆を築けるようになりました。
犬の愛され力は、人間好みに進化した眼差しと、「幸せホルモン」オキシトシンによるものだったんですね。これからも人間と犬が、お互いの幸せを作れるような関係であり続けられますように。