ペットを取り巻く最も重要な社会問題のひとつとして、捨てられたり売れ残ってしまったりしたペットたちの殺処分が挙げられます。
最近では、東京都が「ペット殺処分ゼロ」を掲げ、目標となっていた2019年度よりも1年はやく達成されたというニュースがありました。ただ、殺処分がゼロになったら、それで終わりなのでしょうか?
今回は殺処分ゼロを目指す日本について、ペット先進国と呼ばれるドイツと比較しながら整理していきます。今後みなさんが新しく家族を迎え入れる時の参考にして頂ければ幸いです。
この記事の目次
ペット先進国のドイツでは?
はじめに、ペット先進国と言われるドイツで、殺処分を減らすためにどのような取り組みが行われているのかを見ていきましょう。
ドイツでは各地の動物保護協会(民間団体)が運営する「ティアハイム」が動物保護や里親への譲渡を行なっています。全国に500ヶ所以上あり、ティアハイムから動物を譲渡するには飼育環境等の審査を受けなければなりません。
ペット「殺処分ゼロ」の国と呼ばれるドイツ
ドイツ動物保護連盟はティアハイムの運営方針において、基本的に殺処分をしてはならないと定めています。そのため、ペットの殺処分ゼロという言葉をたまに耳にするのでしょう。
しかし、これはティアハイムの話であり、ドイツという国のレベルで殺処分が行われていないということを示してはいません。
ドイツの「犬命令」
ドイツのティアハイムの話は有名ですが、ドイツでは殺処分を抑制するため、さらなる取り組みをしています。
それが2001年に施行された「動物保護ー犬に関する命令」です。動物保護の観点から、犬の飼い主等が守らなくてはならない飼育方法を以下(抜粋)のように具体的に規定しています。
- 屋外での十分な運動、飼育者との十分な接触(第2条)
- 生後8週齢以下の子犬を母犬から引き離すことを禁止(第2条)
- 商業的に繁殖する者は、犬10頭及びその子犬につき管理者1名を配置(第3条)
- 生後12か月以下の犬を繋ぎ飼いすることを禁止(第7条)
犬命令はペットショップにも適用されているため、ペットショップはこれらを厳守しなければなりません。これらを厳守することは多大なコストがかかるため、どうしても一頭あたりの売買価格が高くなってしまいます。一頭あたりの価格が高くなれば、ペットショップでは売れにくくなるため、ペットショップでの販売は抑制されます。
さらに、犬の飼い主には「犬税」を払う義務もあります。飼い主に課税することにより、犬を安易な気持ちで飼うことを防げるため、殺処分の抑制になると考えられているのです。
ティアハイムでも殺処分するケースはある
ドイツのティアハイムでは殺処分をなしとする一方で、治る見込みがない病気や怪我で動物が苦しんでいる場合、動物福祉の観点から安楽死による殺処分は必要であるとしています。
そのため「殺処分をしてはならない」と言っても、ゼロではないのです。「殺処分はいかなる場合もしてはいけない」と考えるか、「動物が苦しんでいるのなら、むしろ安楽死をさせてあげるべき」と考えるかは、宗教的、倫理的な観点からも意見が分かれるところでしょう。
「狩猟動物保護」の目的で野良犬・野良猫を殺してもよい
さらに、ドイツ連邦狩猟法では狩猟動物保護の目的で野良犬・野良猫の駆除が認められており、狩猟者は合法的に野良犬や野良猫を殺すことができます。
つまり、本来ティアハイムに入れるはずであった野良犬・野良猫、捨て犬・捨て猫が駆除の対象となっています。ドイツ全体での駆除頭数は年間推計で、猫が40万頭、犬が6万5000頭にまで達すると指摘する動物保護団体もあります。
日本の殺処分の実態は
続いて、日本における殺処分数を見ていきましょう。
表向きは減ってきている殺処分
環境省の発表では2008年度に27万6000匹だった殺処分数は、2017年度には4万3000匹に激減しています。
動物愛護センターの職員さんの尽力はもちろんのこと、日々、動物保護団体や個人のボランティアなど引き取り先となる里親を探している方々がいるため、統計上は殺処分数が減ってきています。
東京都でも2019年に殺処分数はゼロになっています。
日本はペットショップからの購入が主流
総務省・経済産業省「経済センサス‐活動調査」を見ると、2016年時点で5000件以上のペットとペット用品の小売業を展開する事業所が日本にあるとされています。さらに、2012年と比較すると増加率は6%以上にも及び、その事業所数は年々増加しています。
また、一般社団法人ペットフード協会が毎年行っている全国犬猫飼育実態調査によれば、2016年時点で保護団体からの入手を検討した人が20%に満たないのに対し、知らなかった、検討しなかったと答えた人が80%以上存在しています。これは、まだ多くの方が犬や猫を迎える際にペットショップを利用していることを示しています。
なお、この数字は最新の2019年時点でもさほど変化はありません。
一般社団法人ペットフード協会 全国犬猫飼育実態調査
https://petfood.or.jp/data/index.html
売れ残ったペットたちの行く末
動物保護団体をはじめとするボランティアの尽力により、確実に殺処分される数は減少してきています。しかし、ペットを購入する側の選択はさほど変化していないため、ペットショップに多くの犬や猫などのペットが並ぶ光景は今後も減ることはないでしょう。
また、殺処分ゼロが注目され、法律が強化されたことにより、ペットショップから動物愛護センターへの持ち込みができなくなりました。これにより、「引き取り屋」と言われる別のビジネスが生まれ、劣悪な環境下で飼育され、そのまま亡くなるという生き地獄のような世界も生まれています。
殺処分ゼロという数字の観点から見ると、日本もドイツもまだゼロではありません。そして、抱えている問題点こそ違えど、両国とも様々な課題を抱えており、それが非常に難しいことを物語っています。
目指すべきゴールは殺処分ゼロだけではない
日本では、一部の都道府県で殺処分ゼロを達成することができましたが、それだけで必ずしもペットの権利を守れているとは言えません。人間も動物も、「生かされていればそれだけで幸せ」ということではないのです。
ペットの幸せを守る上で、殺処分ゼロ以外に、私たちが考えなくてはならないことはどのようなことなのでしょうか。
ペットの虐待ゼロ
飼い主がペットを殴る、ごはんを十分に与えないなど、ペットへの虐待は大きな社会問題となっています。
自分から他の人に訴えることのできないペットにとって、飼い主からの虐待はとても辛いものでしょう。また、それは保護された後も永遠に消えない心の傷となります。
ペットの権利を本当の意味で守るためには、飼い主ひとりひとりが、飼い主の役目は「ペットを生かしてあげること」ではなく、「ペットが幸せに生きられるようにしてあげること」という自覚をもたなければならないでしょう。
ペットが過ごしやすい環境
保護された犬や猫は、どのような環境で暮らしているのでしょうか。陽の当たらない狭いケージの中で一日を過ごす、というペットも、中にはいるでしょう。
ヨーロッパ最大級の保護施設「ティアハイム・ベルリン」は、東京ドーム4個分の広さがあり、それぞれの動物に合った環境で保護されています。
ペットの権利を守るには、ペットが生きる環境も整えなければなりません。引き取り屋に引き取られ、単に生かされているだけの犬や猫がいるという現実は、殺処分がゼロになっても、まだ多くの問題が残っているということを表しています。
私たちにできることは何か?
今回は、ペット先進国と呼ばれるドイツの殺処分の実情と日本の違いについて比較してみました。
宗教的にも文化的にも異なる国同士の比較のため、単純に比較することはできません。しかしながら、どちらの国も現在の状況を変えなければならないという思いは共通しています。
また、ドイツのティアハイムにしても日本の動物保護団体にしても、どちらも民間の団体です。日本もドイツも民間の力で状況を改善してきています。そして、国を動かし、新しい法律を作ることで、より良い制度を作り上げているのです。
その中で、私たち飼い主にできることは何でしょうか?
まずは愛情持って育て、終生飼養を行うこと。そして、新しく不幸な命を作らないこと。この2つに尽きるのではないでしょうか。