犬は全身を毛で覆われており、犬種によっては生理的な範囲内で毛が抜け替わります。
生きる上である程度の抜け毛は仕方ありません。しかし、皮膚の赤みを伴っていたり、ある一部分だけが脱毛しているのは皮膚や毛包などに異常があるサインかもしれません。
今回は犬の脱毛で考えられる疾患について、獣医師が詳しく解説します。
この記事の目次
犬の脱毛の原因
犬の毛が抜ける原因は、主に内分泌疾患と遺伝によるものが考えられます。
内分泌疾患
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
- 甲状腺機能低下症
- 性ホルモン関連性皮膚症(性ホルモン失調)
遺伝性
- 脱毛症X
- 虚血性皮膚障害
- 淡色被毛脱毛症(カラーダイリューション脱毛)
- 黒色被毛形成異常
- パターン脱毛症
それぞれ、何が原因でどのような症状があるのか、詳しくみていきましょう。
内分泌疾患
副腎や甲状腺のようなホルモンを分泌する組織に異常が起こると、脱毛が見られることがあります。
また、これらの内分泌疾患は脱毛だけでなく、全身症状を呈することも少なくありません。放置することによって、どんどん体調が悪くなることも考えられます。まずは、内分泌疾患について見ていきましょう。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
【症状】
多飲多尿、薄い皮膚、脱毛、色素沈着(皮膚が黒っぽくなる)、石灰化(硬い石のようなものが皮膚に沈着する)、腹部膨満、呼吸促迫など。
【原因】
脳の下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモンの過剰や、副腎腫瘍による副腎ホルモン(コルチゾール)の過剰分泌による。
【備考】
適切な治療により予後は良好とされる。7~12歳齢の老齢犬では一般的な内分泌障害であるため、これらの年齢に差し掛かったら定期的な健康診断が必要である。
甲状腺機能低下症
【症状】
皮膚症状(脱毛、被毛の光沢消失、角化異常、外耳炎など)、元気消失、低体温、体重増加など。
【原因】
免疫介在性のリンパ球性甲状腺炎、突発性甲状腺委縮が多いとされる。また甲状腺腫瘍も原因となりうる。
【備考】
治療には甲状腺ホルモンの投与が行われる。
性ホルモン関連性皮膚症(性ホルモン失調)
【症状】
会陰部、外陰部周囲、体幹部、頚部に対称性に生じる脱毛。
【原因】
メスでは卵巣腫瘍、オスでは精巣腫瘍(セルトリ細胞腫、ライディヒ細胞腫、セミノーマ)に関連して見られる。
【備考】
性ホルモンのうち、エストラジオールが増加する症例では非再生性貧血に注意が必要。治療は避妊手術および去勢手術によって行う。また、細菌の二次感染に関係のない痒み症状が現れる場合があるが、特にメスでは発情周期とともに増悪する。
遺伝性
脱毛が見られる疾患には、遺伝による影響が大きいものもあります。好発犬種では、発生に注意が必要ですが、それ以外の犬種も発症しないわけではありません。
脱毛症X
【症状】
体幹部の脱毛。尾、お尻周り、頚部から始まり、経過とともに頭部や四肢を除く全身に拡がる。
【原因】
病態や原因については明らかになっていない。
【備考】
ポメラニアンに多く見られ、一般に1~2歳で発症する。命に関わることはない。
虚血性皮膚障害
【症状】
鼻、眼瞼、口唇などに紅斑、丘疹、水疱などを認め、やがて潰瘍化して痂皮、脱毛を呈する。また、咀嚼障害や嚥下障害、まれに巨大食道症に伴う誤嚥性肺炎を起こすこともある。
【原因】
コリーやシェットランド・シープドッグの家族性(遺伝性)疾患として知られている。
【備考】
通常は6ヵ月未満で初発し、加齢とともに症状は軽快することが多い。一方で有効な治療法は確立されていない。
淡色被毛脱毛症(カラーダイリューション脱毛)
【症状】
淡い毛色(グレーなど)の犬にみられる脱毛。
【原因】
メラニン色素が不均等に毛に分布されることによって毛がちぎれやすくなる遺伝性疾患。
【備考】
毛が抜けるのではなく、毛がちぎれることによって局所的に被毛が薄くなっているように見える。
黒色被毛形成異常
【症状】
黒色の被毛にみられる脱毛。
【原因】
毛根部でメラニン色素を毛に送り込む機能に異常が発生する遺伝性疾患。
【備考】
メラニン色素が過剰な部分は毛がちぎれやすくなる。生後1ヵ月齢になると徐々に脱毛が始まる。
パターン脱毛症
【症状】
耳、首、鼻先、胸部、腹部、内股、尾などの左右対称性脱毛。年齢とともに脱毛は進行する。
【原因】
遺伝性疾患である可能性が高いが、正確なメカニズムは解明されていない。
【備考】
犬種によって発症年齢と発生部位に特徴がある。ヨークシャー・テリアでは6ヵ月~3歳に鼻、耳介外側全体、四肢、尾に発生。ダックスフント、チワワ、トイプードル、イタリアン・グレーハウンド、ミニチュア・ピンシャーでは6ヵ月~9ヵ月に耳介外側全体のみ、あるいは複数の箇所に発生する場合がある。
まとめ
愛犬に脱毛が見られても、大げさに考えない方もいるかもしれません。しかし、内分泌疾患などの病気を放置すれば、治療による効果が低下する可能性があります。
また、今回は紹介しませんでしたが、痒みを伴う皮膚疾患においても脱毛が起こる場合があります。何か気になることがあれば気軽に動物病院に相談してください。