近代まで一般家庭で犬を飼うことが難しかった中国。犬の文化も独特で、西洋の犬種との交配をあまりしてこなかったため、見た目も個性的な犬たちが多く、強く印象に残ります。
今回は、そんな中国、チベット原産の犬たちやその歴史、文化などをご紹介していきます。
カッコ内は2022年におけるジャパン・ケネル・クラブ(JKC)の登録頭数と順位を表します。
この記事の目次
中国原産の犬
中国原産の犬種については歴史的な資料が乏しく、はっきりとわかっていないことが多いのですが、一見しただけでもとても独特な外見をしている犬が多いという特徴があります。
ここからは、そんな中国原産の犬種をご紹介していきます。
パグ(12位、5,274頭)
日本でも人気のあるパグは、鼻ぺちゃでシワシワの顔、大きな瞳と愛嬌のある顔が特徴的です。チベットに紀元前からいたとされ、チベタン・スパニエルやペキニーズなどの交配によって小型化したと伝えられています。
その後、仏教を通じて中国に入り、パグを飼うことで「魔よけになる」として宮廷で大切に飼われていました。17世紀頃オランダに渡ったことでヨーロッパに広がり、貴族や上流階級の愛玩犬として大変な人気犬種になりました。
ペキニーズ(19位、3,132頭)
首周りの豊かな被毛が特徴で、小型ですが、まるで獅子のような貫録のある堂々とした姿をしています。
「神聖な獅子犬」とされ、宮廷のみで飼育されており、庶民が飼うことは許されていませんでした。仮に、ペキニーズを盗もうとした人間がいた場合、死罪に処せられたと言われる程です。
西太后にも寵愛されており、彼女の葬儀の際には棺の先導役を「モータン」という名のペキニーズが担いました。
チャイニーズ・クレステッド・ドッグ(50位、177頭)
チャイニーズ・クレステッド・ドッグには「ヘアレス」と「パウダー・パフ」の2種類のタイプがいます。ヘアレスは頭部と足の先、しっぽなど体の一部分にだけに毛が生えており、パウダー・パフは全身が毛で覆われています。
非常にユニークな犬種ですが、その歴史はよくわかっていません。アフリカ産の無毛の犬と似ていることから、その血を引いているのではないかとする説があります。
チャウ・チャウ(51位、161頭)
紀元前から飼育されている、歴史のある土着犬のチャウ・チャウ。古くから猟犬、番犬、そり犬、荷車の牽引犬、牧畜犬、護衛犬など様々な仕事をこなし、犬肉食や毛皮のためにも使われてきました。
チャウ・チャウが西洋に広まったのは19世紀頃で、ロンドンの動物園では「中国の野生の犬」として展示されました。愛犬家で知られたヴィクトリア女王が迎えたことで、家庭犬としての改良が行われるようになりました。
シャー・ペイ(91位、25頭)
チャウ・チャウと同様に独特な青黒い舌を持つシャー・ペイは、チャウ・チャウと同じ起源を持つと考えられています。
特徴的な深いシワは、闘犬として活動する際に、咬まれても深手を負わないように改良されたと言われています。
ちなみに、中国語の「シャー・ペイ(沙皮)」には、砂のような(ざらざらした)皮という意味があります。
チベット原産の犬
チベット原産の犬種はチベット仏教と密接な関係があり、寺院でとても大切に飼われていた犬が多いという特徴があります。
ここからは、そんなチベット原産の犬たちをご紹介していきます。
シー・ズー(10位、7,686頭)
日本でも人気のあるシー・ズーは、ラサ・アプソとペキニーズを交配して作られた犬種だと言われています。一部はヨーロッパに渡ったものの、ペキニーズと同様にほとんどが中国の宮廷で飼育され、「神聖な獅子犬」として大切にされていました。
1930年代に本格的にヨーロッパに渡ったシー・ズーですが、現地ではよく似た犬種のラサ・アプソと混同され「アプソ(Apsos)」として明確に区別されない時代もありました。
そこで、鼻ぺちゃで脚が短い犬を「シーズー」、口も脚もやや長い犬を「ラサ・アプソ」と犬種として区別するように繁殖されて、現在のスタイルに至ったと言われています。
ラサ・アプソ(95位、19頭)
ラサ・アプソの起源は、チベット仏教の寺院で飼育されていた犬だと考えられています。チベットでは「人が亡くなった後に魂が宿る犬」と言われており、僧侶たちによって長く庇護を受けてきました。そのため、数世紀に渡って高僧や貴族が独占し、門外不出の犬として扱われてきました。
特別な犬として中国の宮廷へ雄犬が送られたことがあり、この犬がシー・ズーやペキニーズの祖先になったと考えられています。
チベタン・スパニエル(98位、17頭)
チベットに古くからいた犬種で、数百年もの間チベット仏教の寺院で大切に飼育され、歴代のダライ・ラマにも寵愛されていました。犬種名に「スパニエル」と入っていますが、猟犬のスパニエルのような活動はしていません。そのため、英語圏では「ティビー(Tibbie)」の愛称で親しまれています。
チベタン・テリア(104位、14頭)
チベタン・テリア(Heisstudying, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
全身が長い被毛に覆われ、体高が40cm程度、体重が8~14㎏の中型犬です。
チベタン・テリアはチベット仏教の寺院で「幸福を招く守護犬」として神聖化され、厳重に管理されてきました。そのため、手放すと幸せも逃げると信じられており、売買されることがなく、幸福をもたらす贈り物として大切に扱われてきた歴史があります。海外に知られるようになったのは1920年頃で、ここ100年程のことです。
名前に「テリア」と付いていますが、テリア種とは血縁関係がなく、容姿がテリアに近かったためこう呼ばれています。
チベタン・マスティフ(2022年は登録0頭)
チベタン・マスティフ(Pets Adviser from Brooklyn, USA, CC BY 2.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
体重が64~82kgと超大型犬のチベタン・マスティフ。中でも被毛の長いタイプは「大獅子頭型」と呼ばれ、まるでライオンのような姿をしています。
ヒマラヤ山脈付近の遊牧民家畜を守ったり、軍用犬として活躍してきました。一説にはチベタン・マスティフが、すべてのマスティフ系犬種の基礎になったとも言われています。
近年では、中国人の富裕層のステータスシンボルとされ、2億円という衝撃の価格で落札されたこともありましたが、飼育が難しく、捨てられて野生化し深刻な問題になったり、一部地域では法律によって一般家庭での飼育が禁止されています。
政治の影響で絶滅しかけた犬種も
1950年代に共産主義革命が起こると、「犬の飼育は非常に贅沢なこと」とみなされるようになり、多くの飼い犬が処分されてしまいました。
「シャー・ペイ」、「シー・ズー」、「チベタン・マスティフ」などは、絶滅寸前まで追い込まれましたが、それ以前に欧米に渡っていた犬たちを繁殖させることで、危機を脱したという歴史があります。
また、多くの犬の命と共に、歴史的な記録も処分されてしまい、中国やチベット原産の犬たちの起源や犬種の歴史の多くが謎に包まれています。
宮廷や寺院で大切にされる
「パグ」、「ペキニーズ」、「シー・ズー」は中国の宮廷で、「ラサ・アプソ」、「チベタン・スパニエル」、「チベタン・テリア」などはチベットの寺院で寵愛されてきた歴史があります。
そして、ただ可愛がられたというより、神聖な存在として大切に扱われていた点は、非常に独特な文化で興味深く感じられるのではないでしょうか。
また、宮廷や寺院のみで伝統的に飼育されていて、近代まで海外に出ていない犬種が多いのも特徴的です。
最後に
非常に独特な外見の犬種や犬の文化を持つ中国。
昔から犬の肉を食べる文化もありましたが、現代では「犬はパートナーや家族」という意識や、動物保護団体の活躍など、犬との付き合い方も変化しつつあります。
一般市民と犬との歴史が浅い国でもあるので、動物福祉の面でどう変わっていくのか、注目していきたい国の一つですね。