副腎皮質機能低下症は「アジソン病」とも呼ばれ、犬においてしばしば認められる疾患です。
基本的にはゆっくりと進行し、「何となく調子が悪そう」くらいの症状を呈しますが、突如急変する可能性もあるため、実は怖い病気の一つです。
今回は、見逃してはいけない犬の副腎皮質機能低下症について解説します。
この記事の目次
副腎皮質機能低下症とは
副腎皮質機能低下症は、副腎皮質より分泌されるステロイドホルモンが不足することによって起こります。
特発性(自己免疫の機序)、感染症、転移性腫瘍、副腎皮質機能亢進症の治療薬などにより副腎皮質が破壊されることが原因となり、ホルモンの分泌能が90%以上障害されると症状が発現します。
犬では特発性の副腎萎縮によるものが多いと言われています。
好発犬種
欧米ではグレート・デーン、ロットワイラー、スタンダード・プードルが好発犬種とされていますが、日本国内での好発犬種の報告はありません。
また、若年~壮年のオスでの発生が多いという報告もあります。
症状
ステロイドホルモンの欠乏により様々な症状を呈します。しかし、他の疾患でも同じような症状が見られるため、症状だけで副腎皮質機能低下症を鑑別することはできません。
また、これらの症状はストレス環境(留守番、ペットホテルなど)で悪化する傾向があります。
- 虚弱
- 体重減少
- 食欲不振
- 嘔吐/吐出
- 下痢
- 血便
- 多飲多尿
- 徐脈
- 振戦(震え)
- 低体温
- 痙攣
副腎皮質機能低下症において最も気を付けたいのは、副腎クリーゼ(アジソンクリーゼ)と呼ばれる病態です。これは、低血圧、顕著な高カリウム血症、低血糖のいずれかを満たす状態のことを指し、強いストレスにさらされた時などに発症する可能性があります。
副腎クリーゼの主な症状は、虚脱、失神、痙攣などで、早期に治療を行わないと命に関わることもあります。
診断
副腎皮質機能低下症の診断は、主に血液検査によって行います。
血液検査
電解質測定が重要で、ほとんどの症例で低ナトリウム血症と高カリウム血症のいずれか、または両方が見られます。
一方で、電解質が正常値である非定型アジソン病も存在するため、電解質の値が問題ないからと言って副腎皮質機能低下症が否定されるわけではありません。
また、低ナトリウム血症や高カリウム血症が見られる疾患は他にもあり(糖尿病や腎不全など)、血液検査の際にはこれらの疾患がないかもチェックします。
ACTH刺激試験
副腎皮質機能低下症の確定診断にはACTH刺激試験が用いられます。これは血清中のコルチゾール値(ステロイドホルモン)を、何もしていない状態と、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を投与した後に測定する検査です。
ACTH投与後60分で再び採血を行うため、時間のかかる検査ではあります。
画像検査
超音波検査にて、萎縮した副腎を確認できることがあります。
また、嘔吐や下痢といった症状を示す他の疾患との鑑別を行います。
治療
重度の副腎不全(副腎クリーゼ、アジソンクリーゼ)の場合と、維持治療に分けられます。
特に副腎クリーゼの場合は迅速な対応が求められ、これを脱することができるかどうかが予後を大きく左右します。
副腎クリーゼの場合
輸液による循環改善と、ホルモン補充療法を行います。
低血圧および高カリウム血症は十分な輸液で、低血糖はステロイドホルモンの投与によって改善させます。それでも低血糖が補正されない場合には、輸液にブドウ糖を添加します。
維持治療
症状が落ち着いている場合は維持療法を行っていきます。具体的には酢酸フルドロコルチゾンやグルココルチコイドを経口投与していきますが、投与量は症状や血液検査の値をモニターしながら決定します。
ストレスのかかる環境に置かなければならない時には、薬剤の投与量を増やさなければならないこともあります。
また、この内服や定期的な検診は生涯続くものであることにも注意が必要です。
予後
特発性の副腎萎縮の場合、適切な内科管理が行われていれば予後は良く、寿命を全うできることがほとんどです。
予防
副腎皮質機能低下症の予防法は残念ながらありません。しかし、ステロイド薬の過剰投与による医原性の副腎皮質機能低下症は別です。別の疾患で処方されたステロイド薬が手元にあるからといって、獣医師の指示なしに服用を続けると副腎の機能が弱ってしまいます。
また、副腎皮質機能低下症の治療中に投薬を中止してしまうと再発する可能性があります。薬剤の服用については獣医師の指示をしっかり守るようにしましょう。
まとめ
ホルモンは体内の恒常性を維持し、生命活動に重要な役割を果たしています。そのホルモンを分泌する器官の疾患(内分泌疾患)では、いつ重篤な状態に陥るかわかりません。
愛犬の急激な体調の変化には、慌てずに対処していきたいですね。
早期発見・早期治療のためにも愛犬の体調に変化があった場合には、遠慮なくかかりつけの動物病院までご相談ください。